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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

とてもかくても 15 (R-18・エロス系)

Posted by 碧井 漪 on   0 

この真っ赤なピンヒールには何かのチカラが宿っているのかしら?


いいえ、特に意味なんて持たせたくないから、深く考えてはだめよ。


カツッ・・・


志歩理は社内のエレベーターの到着を待ち切れずに、

選んだ階段を階下に向かって一歩踏み出した後、慌てて視線を逸らしたが、

どこを見てよいか迷っていた為、足元が覚束なくなっていた。



視線を逸らした理由は、二階と一階の間の踊り場で、

すっかり暗くなった外の色を投下しているデザインガラスに向かって志歩理の立てたヒール音に立ち止まり、

志歩理を振り返って見上げた、泰道の姿を確認してしまったからだった。


「お疲れさまです。」


そう言った泰道は、志歩理に向かって微笑んだように見え、

それにどきっと動揺してしまった志歩理のピンヒールの踵が階段の滑り止めに引っ掛かった。


こんな作り話みたいな事って、本当にあるのねと思った志歩理の体は、

階段の上に浮き上がって、

踊り場にめがけて落ちて行く。


あっという間の瞬間なのにスローモーションに見える。


“タキサイキア現象”っていったかしら・・・脳の海馬による記憶をする力が働くせいらしいけれど・・・


泰道の驚いた顔が見えた時、

ドサッ、志歩理の体は踊り場に落ちた。


い、たた・・!


志歩理は激突する瞬間に閉じていた目をゆっくり開けた。


思ったよりは痛くなかった、と、立ち上がろうと手を付いた志歩理は、右の手のひらに感じたぐにゅっという感触に目を瞠った。


「ててっ・・・」


志歩理の体と踊り場の床の間を遮っていたのは、

ポヨポヨしたお腹を持つ泰道の体だった。


志歩理の右の腰骨は丁度泰道の股間の上に乗っている。


「あっ・・・あなた、何をしてるのよ!」


恥ずかしそうに言葉を詰まらせた志歩理は、前の床に両手を伸ばしながら転がるようにして泰道の体の上から退いた。


本当はそうじゃないでしょう?と思いながらも、


激しく打ち付ける心臓を隠すように拳を胸の前に置いている志歩理は、そんな風に言うだけで精一杯だった。


「無事?・・・ですか?」仰向けに倒れたまま、首だけを起こし、

自分の腹の上から退いた志歩理の姿を見ようとする泰道。


「ええ、何とか・・・それよりも、あなた、起きられる?」


腕組みをして、顔を逸らした志歩理は、今日は珍しく膝下長めのシルエットが綺麗なタイトスカート、そしてベージュのストッキングを穿いて毅然と立って居る姿が泰道に見えた。


床の上の足元は靴を履いていなかった。


確か真っ赤なハイヒール、志歩理によく似合っている踵の高くてはっきりしたカラーの、

彼女の気高さを表したような靴がすっ飛んで・・・

「あっ、あった!」

突然、泰道がそう叫んでばっと上半身を起こすと、志歩理の後ろに向かって這って行って両手に何かをしっかりと掴んだ。


そして、志歩理の前に四つん這いの姿勢のままバックで戻ると、

「はい、社長、どうぞ。」

と志歩理の前に赤のピンヒールを両方揃えて履きやすいように置いた。


乱れた前髪が顔にかかりながらも、跪いたままの姿勢で、にこにこした顔を上げる泰道の姿に、志歩理は思わずどきんと胸を高鳴らせた。


咄嗟に私を下敷きになってまでも助けたヤス。


王子さまには似ても似つかないのに、

中年太りで額に脂汗まで浮かべて、

普通の会社の一営業で頭も顔も良い方ではないし、

お金も持ってない35の冴えない男。


なのに・・・王子さま気取らないでよ。


どきんどきん、

志歩理は黙ったまま、震える足先からピンヒールの中に両方の踵を納め終えると、

はっ、と志歩理は短く息を吐いた。


それでも、まだドキドキが収まらない。


一歩動かしたら、ふらりとよろけてしまいそうで、その場に釘付けられたように動けずにいる志歩理を心配した泰道は、

「社長、どこか痛むんですか?いてっ!」

急に立ち上がって、悲鳴を上げた後、腰に右手を当てた。


「あなたの方が大変そうよ?助け・・・」なくても良かったのに、とは続けられず、志歩理は口を噤んだ。


「俺は、この通り男だし、ポヨポヨですから平気です。」


変な理由を述べながら人差し指でお腹をつついて、少し顰めた眉のまま、笑うヤス。


志歩理は手を差し伸べそうになっていた。


ありがとうと言って、腰を押さえていない左手を握ろうと思った時、

志歩理の目に入った泰道の薬指に嵌められた銀色のリングがそれを止めた。


馬鹿ね、私、

ヤスはもう、私と仕事以外で関わってはならない人なのに。


行き場の無くなった右手を、志歩理は床に落としたバッグの方向へ慌てて伸ばした。

「今日はもう終わりなんでしょう?お疲れ様でした。」

志歩理は掴んだバッグを前に抱えて、顔を合わせないようにして、

玄関までの残りの階段を今度は気を付けながら、だけど急いで下りた。


「お、お疲れ様でした・・・」


泰道は、落ちて来た志歩理を助ける時に放り投げた自分の鞄を、デザインガラス窓の前から拾った。


外がやけに明るい。


ああ、そうか、今日あたりは満月だったかな。


月明かりの帯が延びる踊り場の床の上に、

小さな影を作り出している白く四角いプラスチックケースが見えた。


あれ?俺のか?


いや、今日は買ってない。


それにこのケースデザインは今月から刷新された。


落ちているのは古いタイプのものだ。


・・・志歩理の?


こんなタブレット、食べそうにないのに。


いや、待てよ?確か以前俺の食べかけを渡して、それで気に入ったのかな?


泰道は、パタパタとズボンに付いた埃をはたくと、

「これ、返そう・・・」しっかりと鞄の取っ手を握り締め、

泰道はすでに会社の玄関を出ている志歩理を追って、階段を駆け下りた。




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