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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

とてもかくても 18 (R-18・エロス系)

Posted by 碧井 漪 on   0 

「お疲れ様でしたー!」


「お疲れ様です。」


「虎越さん、あのね、ここに登録してみない?」


虎越美那はパート先で同僚の鷲目仁美にスマートフォンのブラウザ画面を見せられた。


「ここって。」


美那もその名を知る会社の運営している、短期から長期の派遣の仕事登録サイトだった。


「そう。うちの子の同級生のお母さんがね、登録して半年位派遣で勤めたら、正社員になれたらしいの。あ、勿論、会社によるらしいんだけど、それでもここより条件もいいしさ、私も登録しようと思って。」


「え・・・じゃあ、もし派遣の仕事が決まったら、ここは辞めるの?」


「まぁね。下も居ない今の内に仕事見つけて、二人目が出来たらさぁ、育休とか取れる会社に入ってた方が手当とか貰えるし、再就職を探すより効率もいいでしょ?だから焦ってるの。いつ妊娠するかなんて分からないじゃない?」


小学一年生の女の子の母である鷲目さんも、二人目が中々授からないのーと、年も鷲目さんが二つ上で、


私とはメールもする、二人目不妊仲間だねと、今、結構何でも話せる人だった。


「ね、ね、虎越さんは、どう?」


「どうって、どっちの事?」


仕事の方?それとも子どもの方?


「まだ妊娠してなかったら、登録してみない?」


両方か・・・


「うーん、そうねぇ・・・考えてみるね、ありがとう。」


「仕事決めるなら、急いだ方がいいかもよ?いつ妊娠するか分からないから。」


そう言って鷲目さんはせかせかと「夕飯の買い物して行くからお先に!」とロッカールームから出て行った。


鷲目さんの家は家より大きい。ご実家所有の土地に上物を建てた費用だけって言ってたから、家よりも広くてローン借り入れ金額は少ない。


そんなに一生懸命働かなくても十分ぽいけど、娘さんにバレエとピアノを習わせているから頑張っているのよね。


あ、二人目に向けて貯蓄をしたいとも言ってた。


二人目はないと思う、というかナイ、とはっきり言うのも、どうして?とか絶対訊かれるし、言えないな・・・


正社員かぁ。結婚前は私も正社員だったのよね。


今のパートに不満があるとしたら、時給かな。


だから時間も、扶養範囲内で働かないと損するってセーブしてる悪循環。


いざとなったら幼稚園の息子を家から近い実家に預けて土日フルで働いても、うちの両親もいいって言ってくれてるし。


考えてる。マイホームローンを繰り上げた方が得だし。


繰り上げないとしても、将来の為にもう少し貯蓄を増やしたい。


それに、二人目は諦めたというか、出来なかったしもういいかなって思う。


娘も欲しかったけど、息子は可愛いし、一人でも大変なのに二人なんて無理よね。


30過ぎて気力も体力も衰えて来たって感じるし、


まぁ一番の理由は、夫とそういう事したくないっていうのが一番かな。


元々セックスは、挿れられてもナカではイけないし、好きな方ではなかった。


一人でスる方が断然いいし、あの人と夜に二人っ切りで向き合う時点でもう無理。


最近じゃ触られたくないし、あの人の入った後のお風呂とか絶対入りたくない。


洗濯も別。夫のだけ二~三日に一回にしてる。


本当は寝室も分けたいけど、そこまでするのもなぁと思って一緒。


だけど息子が一人の子ども部屋で寝るようになったらどうしようとか、


今から想像すると怖い。


自分でも何でこんなに生理的に旦那を受け付けない体になっちゃったのかなって思うけど、

それって脳の変化かなとか考えた。


女として妻としての自分より、

母としての自分の方に重心を置いている気はしてる。


旦那に構うより、子どもとの時間の方が好きだし大切にしたい。


泰道の事は嫌いじゃないけど、好き・・・うーん、好きっていうのかな?


最近はどうしてこの人と結婚しちゃったんだろうとか思う。


旦那として父親としてもいい人、だけど男としての魅力は・・・これといって特に感じない。


次男で、彼の遠方の実家もお義兄さんが継いでいるから条件的には良かったし、

私もあの時は30までに結婚して子どもを産みたかったから、

泰道は優しかったし、今より痩せてたし・・・なのに。


今、最も許せないのは、あのたるんだお腹。


腹筋を割れ!とまでは言わないけれど、何とかならないの?


外回りの営業だから、健康と節約の為のお弁当も持たせられないし、

コンビニで菓子パンとか、牛丼とか、あと缶コーヒーばっかり買うからすぐお金も無くなるし、健康に悪いのよ!って言ったけど、「営業だから仕方ないんだ」ばっかりで。


サービス残業ばっかりで給料も業績も頭打ちの会社なんだから、今の内に転職とか考えたらいいのに。


はーぁ、

私、何であの人と焦って結婚決めちゃったんだろう。


もう少し好条件の相手を探してから結婚すれば良かった・・・


今更だけど、お金がないって、ちょっと不幸かも。









夕暮れが過ぎて、完全に陽が落ちて、通りに街灯の灯かりが点ると、

カシャ、カシャ、という音が終業時刻前の社長室に響いた。


体の中の寂しさが強くなると振ってしまうタブレットケースは残りが一つ。

もう振っては駄目。


あの人とキスしたらこの味になる・・・


孤独から逃れられて寂しさを埋められる慰めを欲しがってる自分が嫌。


彼は既婚で昔ちょっと躰の関係のあっただけっていう中年太りの冴えない男、

しっかりと分かっているわ。


だけど、奪われる方の気持ちを知っているから奪う方には絶対にならないとは、

言い切れない時もあるかもと思うように、気弱になった今は激しく溢れて来る感情に身を任せて流されてしまいたくなっている・・・


やめよう、他の男を見よう。


他の男って、どんな?


何でもいいのよ、私がヤスを忘れられれば。


誰かにこの会社を託して、どこか遠くへ行ってしまおうかしら。


でも実際行く当てはないし、病院の検診はどうするの?

ふーっ、簡単じゃないわね、大人って嫌ね。


自分では根を張っていないどこへでも行ける自由を有しているつもりでも、

実際に行動に移そうとすれば、何かが脚を捉えていて、

見えない枷を外そうと、もがく事さえ慎重になって、

その間に時が過ぎて熱が冷めて、諦めという枷の正体に気付く。


仕方がないわ、ここでぐずぐずしていよう。


そうすれば、やがて薄れる。


忘れようとしないで、自然にしよう。


駄目と思うから欲しくなるの。


私が欲しがっていいのはキスじゃない、

最後の一粒のミントの味だけ。


志歩理は空になったタブレットケースとバッグを持って社長室を出た。






ええと、これと同じパッケージのミントは・・・


志歩理は自宅に帰る前に、会社から一番近いコンビニエンスストアに立ち寄っていた。


どこにもないわ。


同じ商品名の物があるけれど、デザインが違う。


これでいいのかしら?従業員に訊く?でも、と志歩理が振り返ってレジを見ると、とても混雑していて訊ける雰囲気ではなかった。


同じメーカーだから、多分似た味よ、これでいいわ。


一つ手に取って列の後ろに並ぶと、

ふーっと息を吐いた志歩理は足元を見た。


今日は黒のローヒール。黒のパンツスーツには、歩きやすいこれと決めている。


あれから赤のピンヒールは履いていない。


あれを履いたら偶然ヤスに逢ってしまう、かもしれない。


今、我が社に来る取引先の正式な営業担当者は泰道ではない。


この前はイレギュラーで、きっともう偶然にも逢わないわ。


不思議ね、別れてから六年逢っていなかったのに、今になってこんな想いをするなんて。


ふふっ、よりによって、外見も中身も木村のような男ならまだしも、あんな・・・


「社長?」


え?


「お買い物ですか?今日はもう終わりなんですか?」


志歩理が声の方を向くと、手に同じタブレットを持ったスーツ姿の泰道が立って居た。


「虎越さん、は?仕事でこちらに?」


泰道の会社の担当者は確か今日は来ない日で、来る日だとしてもこの遅い時間に来る事はない。


「仕事は終わりました。プライベートです。今日は社長に逢いに来ました。」


「・・・え?」


泰道は志歩理の手の中のタブレットに気付いて、

「それ、貸して下さい。」

と茫然としている志歩理から受け取ると、二つ重ねてレジカウンターの上に載せて、会計を済ませた。








「お話って何かしら?」

不機嫌を装った志歩理は、泰道と二人切りの社長室の応接ソファーに、

どかっと座り、脚を組んだ。


「訊きに来ました。先日社長がバッグから落としたタブレットって、俺が渡したものですか?」


あの、階段から落ちてしまった日に泰道に拾われたタブレットの事に気付かれた?


ギクリとしながら志歩理は否定した。


「え、いいえ、違うわ。私が買った物よ。」


「いつ買ったんですか?」


「半月前だったかしら。」


「どこで?」


「駅前のドラッグストアよ。」


「本当に半月前で間違いないですか?」


「何故そんな事を訊くの?」


「それ、先月からデザインが一新されたんです。今月には古いデザインの物はどこへ行っても見かけませんでした。」


「・・・!違うの、あれは・・・!」


カアッと赤くなった顔の志歩理を見た泰道は、ソファーから立ち上がった

志歩理に向かって歩み寄り、腕を伸ばした。



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