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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

とてもかくても 16 (R-18・エロス系)

Posted by 碧井 漪 on   7 

会社前から路地を曲り、線路沿いを駅前の大通りに向かってカツッ、カツッと、歩いていた志歩理は、立ち止まって、赤いピンヒールを見つめた。


久しぶりに女らしい恰好をしたから、この靴を選んだ。


ピンヒールから延びる影、月明かりに気が付いた。


今夜は明るいわ。


振り仰ぐと、線路の上に、丸い月。


追いかけて来るような見事に大きなそれを振り仰いで止まっていた志歩理の視界の中に、


本当に追いかけて来た泰道が現れた。


走って来る、何故こっちに?


どぎまぎしながら志歩理は冷静さを保とうと、走って来る泰道に気付かなかったふりをして、視線を正面に戻し、一歩二歩と歩き出した。


カッカッカッ・・・耳に届いたリズムは、いつもの自分より焦って刻んでいるとはっきり判る。


「社長!」後ろから私を呼び止めるヤスの声を無視して、私は進む。


「・・・志歩理!」


私はその声にハッとして、足を止めそうになった。


懐かしい、呼ばれなくなった名前、それもヤスの声で。


ダメ!と志歩理が声を振り払うように、ここを渡れば駅という横断歩道に大きく踏み出した時、

「危ない!」と泰道の声が近付き、

ピーッ、ピピーッと劈く音が耳に届くと、

志歩理の目前を掠めた車が猛スピードで駅のロータリーに入って行くのが見えた。


そして、突然後ろに引っ張られていた左手首が痛くて掴まれた部分だけとても熱くて。


ビルの間を通り抜けて来た、寂しさを募らせ人恋しくさせる温度の秋風が、

私の全身を下から絡みつくように撫でて冷やしているその中で、

ぐいと引っ張られた反動で倒れかかった私の背中を、泰道はその胸で受け止めるように、

どん、と私の体がぶつかってもびくともしなかった。


あと少し、泰道が志歩理を後ろに引っ張った手が遅かったら、

志歩理は車にぶつかっていたかもしれない。


「あ・・・」


その恐怖を急に覚えた志歩理は膝がカクカクと震えて、背後に立つ泰道にそのまま背を預ける恰好になっていた。


ふーっ、と息を吐いた後、「そんなに急いでどちらへ?」少し険しく聞こえる泰道の声に、

あなたから離れる為よ、とは言えなかった志歩理は、喉をこくんと鳴らしてから、

「タクシー乗り場よ。疲れたから早く帰りたくて・・・」

預けていた体勢を立て直し、駅前のロータリー内の屋根のあるタクシー乗り場に視線を移して見せた。


「よろしければ、営業車ですけど、家まで送ります。」

泰道がそう言ったのは、タクシーは一台もないのに、

数人並んでいる列を見てしまったからだろう。


“結構よ”とは、

二度も助けられたのに、お礼も言いそびれていた志歩理はとても言える立場ではないと思えた。


「ありがとう・・・ございます。それでは、お願いします。」


急いでいると装ってしまった志歩理は、それ以上偽れずに泰道の言葉に素直に甘える事にした。


「こっちの、会社の側の駐車場まで歩けますか?」


そう訊く泰道は、志歩理の背中を手のひらで包むように支えながら歩いていた。


「あの・・・ちょっと。」


「何ですか?」


「誤解されるわ。離れて。」


「誤解って、あ・・・すみません。これは違うって、木村さんにはちゃんと俺から弁解しておきます。」


さっきは確かに”志歩理”と呼んだのに、

今はもう、社長と取引先社員の関係に戻っている口調で私の心を翻弄させる泰道。


「木村に、何を言うの?」


「志歩、社長とは何もありませんからって・・・」


まさかそれを泰道に言われるとは思わなかった志歩理は、動揺しながら、

「ええ、そうね。だけどどうして、木村なの?」と泰道に訊いた。


私があなたを少しだけ恋しく思ってしまった事に気付かれたから・・・という事はないわよね?


それを私をよく知る木村に確認する、とか、もないわよね?


「木村さんと、付き合っているのでは?」


「・・・は?木村、と付き合っているというのは?」


「社長が木村さんと結婚を前提に・・・。」


「えっ、結婚?・・・いいえ、ないわ。」


私が思ってしまった事に気付かれてはいないようだけど、何を言い出すのだろうと志歩理は驚いていた。


「えっ、あっ・・・そうなんですか?てっきり・・・えと、それじゃあ、社長は今、付き合っている人とかは?」


「いませんけど、いけませんか?」


そう言うと、泰道は志歩理を馬鹿にしたように、にやりと笑った。


「いえ、いけなくなんかないです。」


「だったらどうしてそんな事訊くの?馬鹿にして、笑ってるように見えるけど?」


あ・・・つい、昔みたいなしゃべり方になってしまった。


そうね、それはきっと昔の様に、

まん丸い月に向かって、明るく照らされた夜の道を泰道と並んで歩いているからよ。


でもあの時とは違うのよね。


道路側を歩く泰道の左側を歩いている志歩理には、

月明かりに鈍く光る、泰道の結婚指輪が眩しく感じて涙が出そうだった。


「笑ってましたか?それは、木村さんに嫉妬してたからかな。」


ほら、笑っているじゃない。昔よりふっくらした顔だけど、頬の上に一本作る笑い皺は変わらないのね。


「嫉妬って、何故・・・」


志歩理自身も泰道の奥さんに対して感じてしまった気持ちを口にされて戸惑いながら小さい声を漏らした。


しかしその声は泰道に届いていなかった。


聞こえなくて良かったの、それで・・・大きくは訊けない。


本当は知りたい。ヤスが木村に嫉妬した理由、それは社会人として?それとも男として?


いいえ、後者はないわ、ない・・・だから私も、違うの、嫉妬なんかではない。


だけど、どうしてもう一度、”志歩理”と泰道に呼ばれたいだなんて、何で思ってしまったの?


そうね・・・それはきっと、今あなたが笑っているように見えるからかもしれない。


ヤスが昔みたいに笑いながら私に甘えて、そして"志歩理"と呼ばれたいと私は・・・本当は思っているのね。









会社の側の駐車場で、志歩理は泰道の会社の営業車に乗るか躊躇したが、

ここで突っぱねるのも却っておかしな気がして、

おとなしく、泰道が扉を開いた助手席に乗り込んだ。


まだ”ありがとう”と言っていなかった。


言わなくては・・・


しかし、黙ってエンジンをかける泰道に、話しかけられない志歩理は口を噤んだまま。


車は夜の街を志歩理のマンションに向かって走っている。


私を送った後、泰道は会社に戻って営業車を返し、

電車で家に帰宅する。


「・・・遅くなってごめんなさい。家で、奥さんとお子さんが待っているのに、私のせいで・・・」


「大丈夫です。誰も俺を待ってないですし。」


寂し気にそう呟いた泰道。


私と同じような気持ちで言っていると感じたから”寂し気”なんて・・・家族が居るのだからそんな訳はないのに。


「お子さんはいくつでしたっけ?」


「もうすぐ五歳です。」


「そう、可愛いでしょうね。」


「まぁ・・・」


沈んだように感じられる泰道の声。


え?お子さんの話題はNGだった?


それなら、


「奥様は綺麗な方でお料理もお上手だとか・・・」


確か社内結婚で、噂は聞いていたけれど詳しくは知らず、適当な言葉を並べた志歩理に対して、

「社長程ではありませんよ。」と左にハンドルを切りながら、泰道はミラーではなく、志歩理を見ていると錯覚する視線を送って来た。


何度どきどきするのよ。


人の亭主に対して、しかも年下、昔ちょっと体の関係があっただけっていう男、それだけでしょう?


大人の対応をしないと。


今現在は、取引先の一社員。


ギッ・・・


志歩理のマンションの前に車が停められた。


会社からは歩こうと思えば歩ける距離だから車ならなお早い。


「虎越さん、今日は二度も助けていただきましてありがとうございました。もうこの靴は履かないようにします。」


靴の事は余計だと思ったが、志歩理は自分への戒めの様にそう付け加えていた。


仕事で履くには危ないという事が判ったし、

二度と、あなたに接近しないように・・・この赤い靴を履いたせいかもしれないと、今は少し、そう思っていた。


「どうしてですか?似合ってますよ。ただ、階段を下りる時は気を付けて・・・あっ!」


「どうかしました?」


「階段でこれを落としませんでしたか?」


泰道はスーツの内ポケットから白いプラスチックのタブレットケースを取り出した。


「これ・・・!」


ひやりとした志歩理が一瞬自分のバッグを気にするそぶりを見せたので、


泰道は志歩理のだと思い、


「どうぞ。」と差し出した。


内心ヒヤリとしながら、これが先月泰道に貰った物だと気付かれていないと判断した志歩理は、

「ありがとう、それじゃ・・・」と涼しい顔をして受け取った。


それは恥ずかしさと、そしてもしもこのケースを泰道から貰った物だと勘付かれたら、

何故、あと何個も残っていないタブレットケースを大事に持っているのかと勘繰られてしまうかもしれないと危惧したからだった。


志歩理はシートベルトを外すと、急いで車から降りた。


やだ、どうしよう・・・でも大丈夫。


ヤスは気付いてなかったみたい。


だって、こんなミントタブレットはどこでも買える物だから。









志歩理がマンションに入ったのを見届けた泰道は車を動かした。


会社まで戻り、会社を出た後は駅まで五分少々歩いたのち、ホームで四分待って電車に乗った。


考えている事は、ずっと一つの事だった。


"もしかして、そのミントは俺が渡したものですか?"とは訊けないよな。


思い上がってるよ。


俺を見る視線が、ある訳ないのに、"女としてのもの"のように感じて、

・・・だけど、ないない。


こんなポヨポヨ、木村さんのような男だってないのに、俺なんてもっとない。


志歩理の理想は昔から高い。


金も権力もない俺なんて絶対に一緒に居て貰えない。


志歩理より金持ちだったら、"好きだ"って言ってるだろうな・・・


・・・悔しいな。


何で俺は、

人生の今になってこんな感情を、

持て余す事しか出来ない感情を、

今になってまた味わう事になっているんだろう。


志歩理を想うと嬉しくなる気持ち、だけどそれは今の俺が抱いてはいけない感情。


叶う事もない。


告げる事さえしてはいけない。


イケナイと思うから、

シタクなるのだろうか。


叶わないと思うから、

叶えたくなるのだろうか。


あれが欲しい、

そう駄々をこねていた子どもの頃の記憶の方がまだ救われる。


手に入らないとしても、

"欲しい"と主張出来ただけでもしあわせな事だったんだと、

電車の窓枠に嵌められた闇夜の中を、

まるで寄り添うように追いかけて来るあの月よりも欲しいと言えない、

見つめてはいけない女への気持ちを抑える自信が無くなって来て、

それを認めない為に、

俺は瞬きしないで、罪もない月を睨み続けていた。


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    碧井 漪

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    7 Comments

    says..."管理人のみ閲覧できます"
    このコメントは管理人のみ閲覧できます
    2014.09.23 00:15 | | # [edit]
    碧井 漪&エロnami says..."匿名さま コメントありがとうございます(*^^*)"
    拍手までしていただいていたとはありがとうございますm(_ _)m


    このシリーズはエロで始めました短編のつもりが、志歩理の病気や泰道の結婚生活などなどを書いてしまったら文字数が増えてしまい、短編の看板を外そうかと思っています。


    今夜予約で上げるシーンは、脳内で映像化しない方が良い仕上がりになっていまして、公に披露したい話ではないのですが、

    泰道の気持ちが切な過ぎて、泣きながら書きました。


    この二人には、感情移入しないと書けないので、集中出来るまとまった時間と結構消耗するので体力が必要だったりします。


    しかし、どっちも経験のない立場と感情なので、聞いたり想像してこうかなと、それでもどうしてもこの気持ちがこう向くというのは自然ではない気がするし・・・と、

    "それぞれの気持ちの流れる方向と方法を見定める一人脳内会議"を行っています(^^;)


    この話は、

    エロス・夫婦・元恋人同士・浮気と不倫の境界・心の葛藤・結婚離婚・子宮の病気・家族家庭・愛とお金・愛と欲について

    特に考えて、

    そして匿名さまの教えてくれた"息苦しさ"、

    日々の閉塞感の中から、

    心の中の自由を求める男の姿を純愛を絡めて書きたいと思いました。



    結婚していたら誰かを深く愛してはいけないのか、

    というのを今夜の分で少し書いています。


    心の浮気と体の浮気とどちらが嫌か・・・とか考えながら。


    そして、家庭を築いたしあわせな筈の男の愛と悲哀が書けていたらいいなと思って今の時点での全力で書きましたので今夜のシチュエーションは「えっ?--;」な感じですけれど、

    カット出来ませんでしたのでそのまま、流していただけたらいいなと思いますm(_ _)m


    コメントとても励みになります。何とか投げ出さずにラストまで書き上げたいと思います。

    2014.09.23 05:58 | URL | #- [edit]
    says..."管理人のみ閲覧できます"
    このコメントは管理人のみ閲覧できます
    2014.09.23 15:59 | | # [edit]
    碧井 漪 says..."匿名様 ありがとうございます。"
    わかります、わかります・・・と思います。

    教えて頂いたサイトを拝見して、今すぐにそれが必要な人を何年も前から知っています(身内)。

    ただ、その人は耐える人です。しかしそろそろ限界でしょうか。

    その人をテーマに書いたら結構な長さのドラマでも収まらない・・・(--;)シュウイノモンダイオオスギテ。

    その人が居なければ自分はとっくにこの世に存在していなかったでしょう。

    人として誰からも愛され慕われ嫌な仕事でも嫌と言わず引き受ける縁の下の力持ちはあたりまえだけど控え目・・・そして周囲の者が色々起こした騒動の後片付けに回るという、

    自分だったらとっくに逃げ出していると思うところで生きて行く人は強いなと思います。





    不幸を不幸と思う基準は人によって違いますし、耐える耐えないの度合いも。

    このお話を書いていて、

    ここの登場人物達が求めているのは、

    自分のしあわせというか、

    自然体で穏やかに過ごしていたいという願いなのかなと思えて来ました。


    自分を優先する欲と、相手を思い遣る愛の

    "葛藤"が書けたらいいなと思います。


    しあわせはきっとどこかで待っている、

    そう思っている人は、この道の先のどこかでもまた拾える人だと思います。


    コメントありがとうございます。

    重い(リアル)&軽い(ファンタジー)の両方が書けたらいいな・・・はっ!Σ(@□@;)今夜の分、まだ真っ白なので頑張ります(間に合わなかったらすみません)
    2014.09.24 12:13 | URL | #- [edit]
    碧井 漪 says..."にほんブログ村恋愛小説(純愛)注目記事1位2位3位ありがとうございます。"
    16.17.15話といただきましてありがとうございます。


    夫に不倫された上、不倫相手の女が妊娠して離婚。

    自分には子どもが産めないという負い目からも離婚を受け入れ、

    別れた夫から貰った慰謝料で、大学時代の冴えないゲイの友人(木村)を誘って会社を興します。

    仕事で成功して、離婚前には神様はいない、死のうと思っていた女は、金と欲があれば人生は楽しいという事に気付き、

    年下の男と二人程関係を持ちますが、相手も金を手にすれば、自分と同じく金と欲だけの関係になり、

    志歩理は自分の身分も財力も愛人という噂を撒いて隠し、
    仕事の出来ない新人営業の泰道を騙して躰の関係を持ちます。

    誘われるままに躰の関係を持つ、根は純粋な泰道の事を駄目にしたくないと思うようになった志歩理は、いずれ終わらせなくてはならないけれどまだ踏み切れない、そんな時に妊娠した事に気が付きます。

    子どもが出来ないと思っていたのに、しかし同時に、病気も告げられ、子どもを諦めなくてはならない上に、一生子どもを産めない体になる事も解り、泰道にそれを打ち明けて別れるべきなのだろうけれど、
    まだ打ち明けられない志歩理。

    しかし泰道が妊娠した事に気付いてしまい、志歩理に結婚を申し込みます。

    本当の事を言っても言わなくても、こんな女から泰道は去って行く、行った方が彼のこれからの人生の為。

    出来る事ならもう少し一緒に居たかったけれど、知られてしまってはもうあなたと一緒には居られません(・・・昔話風?--;)


    プロポーズを断り、独りで生きて行く決意をした志歩理は手術を受け、六年後、結婚して一児の父になった泰道と再会します・・・


    あらすじの方が小説より解り易いですねm(_ _)m


    2014.09.24 12:41 | URL | #- [edit]
    says..."管理人のみ閲覧できます"
    このコメントは管理人のみ閲覧できます
    2014.09.25 12:43 | | # [edit]
    碧井 漪 says..."匿名様 ありがとうございます。"
    現実は甘くないので、甘い話を書くのが好きなのでしょうね。

    物語の様にめでたしめでたしで終わるのが理想だと思います。


    皆さまが満たされる日まで、それぞれ頑張れたらいいなと思いますm(_ _)m
    2014.09.25 21:06 | URL | #- [edit]

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