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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

自殺相談所 86 心証

Posted by 碧井 漪 on  

「おう、遼大!」


「えっ?店長・・・・・・」


後ろから俺の肩にぶつかったのは、居酒屋店長の内間木田さんだった。


本名なのか分からないが、ロッカーの名前はそうだった。


相談所所長の田中さんと友人なのか、親しくして居るようだが、二人が一緒に居る所を見たのは、初めて内間木田さんに逢った日ぐらいだったから、よく分からない。


ただ一つ、この人と話す時は所長の時のように堅苦しくならない。


所長は俺が話すのを待って、返す人だ。


この人は、俺が話す前に話し掛けて、俺から話し出すきっかけを作る人だ。



二人の年齢は分からないが、俺よりうんと上のような気もする。


でも、店長の恰好は俺より若い感覚のものばかり。


チャラチャラして居ると言われそうな大人。


ただ、しっかり者だという事は、居酒屋の厨房に居るとよく分かる。


初め、このビルの居酒屋は、チェーン店だと思って居たが、違った。


大手チェーンに似せた看板だが、経営店舗は一店舗のみ、店長が社長だ。


けれど、『社長』とは誰も呼ばない。


『店長』または『ウッチー』など、仲の良い常連さん達から呼ばれて居る。


「昼前だからか?顔が暗いなぁ。」そう言って、店長は小さな欠伸を隠した。


今は午前10時過ぎ。普段は9時過ぎに来るが、今日は遅くなった。


「店長は早いですね。仕込みですか?」


「んあ?ああ、そうか、リョウタ知らないのか。」


「え?」


「実はさー、俺、このビルに住んでる。」


「ええっ?」


「声デカいなー。耳に響く。」


「すみません。でも、ここって確か、所長とお師匠さんも住んでますよね?」


「うん。部屋は違うけどね。」


「そう、なんですか・・・・・・」雑居ビル、住めるのだろうか。


「今日は部屋散らかってるからさー、今度招待するよ。俺が憶えて居れば。」


ははっ、といつものように軽い笑い。雰囲気は和やか。


この人は嫌いじゃない。


しかし、店長に初めて逢った人は、信用出来るか不安に見えるかもしれない。


でも俺は違う。軽い見た目や言動と違って、悪い事はしない人だと、従業員、お客さんとのやり取りを見て来て感じて居る。


所長とは違った話しやすさを持って居る。


この人のように出来たら、優くんも、もっと俺に心を開いて、話しやすいと思えたのかもしれないと気付いた。


人それぞれ、違うからいいんだ。合う人、合わない人が居て、無理に合わせて苦しくなる必要なんてないと思えて来る。


それなのに、社会の中で人は、付き合いたくない人に付き合い、意見を合わせたくない人に合わせ、無理をして、心を病む。


優くんもそうだったのかもしれない。


会社勤めした事のない俺には分からないって言われそうで踏み込めなかったけれど、他人に無理して合わせる事ないよって本当は言いたい。


所長と店長なら、俺より年上だし、優くんにそれを言っても角が立たないだろうし、言い方も俺とは違って押しつけがましくならないだろうと想像出来る。


だったら俺もそうなればいいだけの話なんだけど、今すぐには無理で・・・・・・結局、伝えたい事を伝えられて居なかったなと反省する。


「顔色悪いな。朝メシ食べた?」


「軽く・・・・・・」


「相談所に行く時間、自由だろ?」


「え?まあ・・・・・・」


「じゃあ、店行くぞ。ハラミの残りがあるからさ、作ろうぜシャケ茶漬け。手伝え!」


店長の手のひらで背中をパンと叩かれて、顔を見合わせると、店長は薄い色の入ったサングラスをずらしてニヤッと笑った。


「はい。」そう返事するしかないじゃないか。


昼は静かな居酒屋店内。開店は17時。当然誰も居ない。


厨房の灯かりを点ける。


深夜の閉店後、厨房とホールスタッフ総出で片付けてから帰る為、いつも綺麗な状態から仕事を始める事が出来る。


ここで働くようになってから、俺の生活習慣にも変化があった。


後回しにする癖を無くした。


どんなに忙しくても、疲れて居ても、『後でやろう』を減らしたら、時間にゆとりが出るようになった。


今までの俺の日常に累積した『後で』が無くなった事で、『今』と『後で』の二度考える時間が一度で済み、累積するストレスからも解放されたからだと思う。




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