先輩の好きにしていいですよ? -女子大生Mの恋愛事情- 62
Posted by 碧井 漪 on
「話、聞こうか?」
麗太朗が夢野の視線に今気付いたかのように、解いた膝の上に組んだ両手を乗せて言った。
────伯父さま譲りの低過ぎない声。声優とかならお仕事出来るのかも・・・なんて、今は麗ちゃんの事じゃなくて、でもどうしよう。話す?話さない?
「いい事言えるか分からないけど、聞くだけ聞くよ。」
────あー、もう麗ちゃんって専攻してないのに、私より心理学勉強してる。
「あのね・・・」
夢野は昨晩の出来事を麗太朗に話した。
────恥ずかしい。こんな事、誰に話しても多分そう。経験前は何ともないと思ってたけど、違うんだ。本当に恥ずかしい。カフェテリアで平気で話してる女の子達と、私違うのかな。
「・・・で、夢ちゃんはどうするつもり?」
麗太朗の反応は他人事と思っているかのように冷静だった。
「どう、するって、どうもこうもないよ。」
────先輩には拒絶されて、私からも”無かった事に”って言っちゃったし、だからゆうべの事は夢とか、無かった事とかにするしかない。
「納得してないって顔してるから。どうするのかなって思っただけ。」
────麗ちゃんはモテるけど、誰とも付き合った事がない。麗ちゃんは誰ともそういう事が出来ない体質だから、経験談は聞けない。なのに、何で相談しちゃったんだろう。麗ちゃんから、私が望む答えを貰えるなんて思ってない。ただ話してスッキリしたかっただけ?分からない。全部分からないから、話しちゃっただけ。こんな時、どうしたらいいのか、本当に・・・・・・
「夢ちゃんのしたいようにするしかないんじゃないの?」
「・・・・・・」
「どうしたいか、言ってみて。」
「分からない。」
「“分からない”って言うのは、迷っている証拠。”成す術がない”の反対の選択肢、言ってみて。」
「そんなの無いよ。」
「無かったら、ここには来ないよ。」
確かにそうだった。悩んで無かったら、今頃一人で家に帰って眠ってる頃だろう。
「選択肢、か・・・」
夢野の願望、それはある。けれど、口に出しても叶わないと諦めていた。
「どうしたいの?夢ちゃん。」
再び麗太朗に問われた夢野は、ゆっくり口を開いた。
「私は────」
それから夢野が自室のベッドに倒れ込んだのは、一時間後の事だった。
あの後、麗太朗が呼んでくれたタクシーに乗り、帰宅した夢野はすぐにシャワーを浴びてルームウエアに着替えた。
幸いな事に、家族は全員出掛けて留守だった。
────どんな顔して会ったらいいか分からなかったから丁度良かった。
ゆうべの事を思い出すと、恥ずかしい夢野は、ボフッと枕に顔を埋めた。
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