FC2ブログ

sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

自殺相談所 52 失調

Posted by 碧井 漪 on  

一週間ぶりに見た彼の顔色は決してよいとは言えないものだった。

元々の顔色も詳しく知る仲ではないのだから俺の思い過ごしなのかもしれないが、口を開こうとしない彼の横で気の利いた言葉一つ掛けられず、居た堪れなくなった。

だけどここで逃げ出しては・・・と、考えた俺は少し黙って待った。

すると、彼が口を開いた。

「すみません。今僕、誰とも会いたくない。」

どんどん小さくなる声と丸まった背中。それだけで、先週より落ち込んでいる風に見えてしまう。

何かあったのかな。

でもそれを訊くのは難しくて、

ただ所長の真似をして「そうですか。」とだけ言うと、程無くして彼はベンチからスッと立ち上がった。








一歩二歩と駅の方へ歩く彼の背中が遠ざかるのを見て、少し寂しくなった。

仲良くなった訳ではない。でもこの一週間、彼の事を気にしながら過ごした。

年が近いから?同じく自殺したいと考えた事があるから?

とにかく、彼の事を、この先関わらなくていい人にしたくなかった。

ただ安易に関わるのは危険だという事は承知している。でも、放って置けない。それだけでもない。

何かが気になる人だった。

彼にまた、生きる気力を取り戻して欲しいなんて事を願ってしまうのを止められなかった。

俺は立ち上がった。そして彼の背中に向かって叫んだ。

「また今度、お時間ある時にお話ししましょう!」

来週、またここで同じ時間に会えるとは限らない。それでも、会えたならその時は、彼の今の気持ちを聞きたいと思った。

辛い話でも悲しい話でもいいよ。愚痴だって、死にたいって話だって聞くよ・・・そんな風に思って言った。

自信なんて無い。けれど自信がある無し関係なく、彼の話を聞いて見たかった。

それは多分、俺自身、どうして死にたいという気持ちを変える事が出来たのか、忘れかけて居るからだ。

今は死にたいと思わない。あの時どうして死にたいと思ったのか。それは何となく思い出せる。

だけど、そこから回復したきっかけを、俺はハッキリ思い出せない。

─────俺は一体、どうして死にたくなくなったんだっけ?

それを思い出せば、今後の相談内容に活かせるかも知れない。

死にたくなくなった≠生きたい

そうではない事は、死にたいと考えた事のある人なら分かって居る。

生きたいのではなく、死にたくなくなって生きて居るだけ。

駅歩道橋の方へゆっくり歩を進めた彼が立ち止まった。

1、2、3秒と経った時、

4、5、6秒で俺の足を前に出した。

7、8、9、10の時には、彼の背中に吸い寄せられるように急いで居た。

「タケノウチくん!」

呼び止めたってきっと待ってはくれないだろうと思って居たら、彼は立ち止まってくれた。そして顔を地面に向けたまま振り返った。

「あのさ、もしよければなんだけど、俺、タケノウチくんの話聞きたいなって思ってて・・・」

「すみません。聞いて貰いたい気持ちはありますが、今はすみません。」

顔を上げずに繰り返す彼を見て、何だか自分が酷く彼を困らせるだけの存在になってしまったように感じ、慌てて「俺の方こそごめんなさい。迷惑ならいいんだ。」右の手のひらを開いて前に突き出し、ひらひらと振った。

彼はきっと俺が今どんな顔をして居るかも見て居ない。

俺には完全に興味がないと言った所か。

寂しそうな雰囲気を出して居る彼よりも、俺の方が実は寂しい人間のような気がした。

「迷惑とかじゃなくて、あの───────」

彼が胸の前で握る拳にグッと力を込めたのが分かった。

俺はまた待った。彼の口から今の気持ちが語られるのを。

「実はこの前お会いした後、後悔したんです。あなたに色々話した事。」

"後悔"って何を後悔したのだろう?

「親しくないから大丈夫、そう思って話したけれど、帰り道、帰ってから、この一週間も何だかモヤモヤして苦しかった。」

─────え?彼は、俺に打ち明けて"苦しかった"?

俺は彼のその言葉を受けて、頭の上に大きな岩が落ちて来たかのような衝撃を受けた。


関連記事
碧井 漪

Lorem ipsum dolor sit amet, consectetur adipiscing elit, sed do eiusmod tempor incididunt ut labore et dolore magna aliqua. Ut enim ad minim veniam, quis nostrud exercitation.

該当の記事は見つかりませんでした。