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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

そうそうない 316 2016年5月1日のこと(11)

Posted by 碧井 漪 on  

僕は体の横でぎゅっと拳を握り、

「ごめんください!」と廊下の奥に向かって叫んだ。

しかし、返事はない。

「もーっ!ちょっと待ってて。」

痺れを切らしたように言って、美和は靴を脱いで上がると、トタトタトタと少し早足で廊下を進んだ。

これから結婚しようという相手の実家玄関に、ぽつんと一人取り残された僕は成す術も無く、ただ立ち尽くすのみ。

ガサッ、

体の前で握り締める紙袋が音を立てた。

結婚のお許しを貰えるだろうか。

仮に反対され、娘との結婚は認めないと言われた場合、僕はどうする?


お互い成人なのだから、親の許可が無くても結婚は出来る。だからと言って、美和のご両親の許しも無く、婚姻届を提出してしまうのは如何なものか。

そんな状況になったとして、美和が反対されたままでも入籍しようと言ったら、僕は流されてしまうかもしれない。

わーさんとの時は男同士だから結婚出来なかった。

美和との時は齢が離れ過ぎて居るから結婚出来ないかもしれない。

"結婚"────僕には一生出来ないものなのかもしれない。そういう運命なのかもしれない。

そう思ってしまえば、張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れて、なるようになれと考えられるようになった。

トタトタトタ、軽い足音が近付いて来る。

ハッとした僕の前に現れたのは美和だった。

「元、上がって。」

美和は、早く早くと言いたげな手招きを繰り返した。僕は、えっ?と思いながらも

「うん。」と返事をして、脱いだ靴を揃えた。

「こっち。」

廊下を奥へと進む美和に付いて行き、通されたのは南向きの広い和室。

部屋の中央には低い長方形のテーブルがあり、囲むように座布団がテーブルの東側と西側にそれぞれ二枚ずつ敷かれて居た。

「ここ、座って居て。今お茶持って来るから。」

美和に促された席は東側の窓際。

座布団の上に正座した僕は、部屋を出て行く美和の背中を目で追った。

大きな家、広い庭に、よく手入れされた樹木。知らなかった。美和はいい所のお嬢さんだったんだな。

そう言えば以前、あの沢山の田んぼも美和の家のものだって言ってたし、そうだ、本家とも言って居た。

美和は本家の長女─────大丈夫なのだろうか。僕のような者が嫁に来て欲しいと言っても・・・

ドクドクドク、小さくて速くなる鼓動を感じ、手で胸を押さえた。その時、

「お待たせしてすみません。」

美和とは違う声に反応した僕の肩が揺れた。

丸盆を抱えた、僕より上の年代と思しき女性、おそらく美和のお母さんだろう女性が僕の隣で膝を折り、テーブルの上に茶托に載せた湯呑みを置いた。

「ありがとうございます。」

再び襲われる緊張の中、軽くお辞儀をすると、僕を見ながらお母さんはにこりと微笑んだ。

その顔が美和に似て居て、僕は少しほっとした。

その丸盆にで運ばれたお茶は二つだけだった。

僕と、誰の分?

お母さんではなさそう。

僕の前に一つ、もう一つは僕の隣に置かれた。美和のだろうか。

すると、お母さん、そしてお父さんの分のお茶は無い。

もしかするとお父さんは・・・と考えた時、美和が和室に戻って来て、

「駄目、お母さん。」と言って首を横に振った。

何が駄目なんだろう?そう思って見て居ると、

「本当にお父さん、どこに行ったか分からないの?」と美和がお母さんに訊いた。

「さあ・・・分からないのよ。美和がお相手連れて来るって伝えたら、その後、急にふらっと出て行ったみたい。」

「お母さん、気付かなかったの?」

「洗い物して台所に居たから。」

「もー、お父さんの馬鹿!」

美和が悪口を言うのを初めて聞いた。

家族だから言える遠慮のない言葉。

思わずふっと笑いそうになる。

「それ、いつ頃?」

「うーんと、一時間くらい前かしら?」

「携帯電話、持って行ったかなあ?」

「多分お父さん、出ないわよ?」

緊張で固まる僕の前で、普段通りの母娘の会話が繰り広げられて居る。

僕はここに居てもいいのだろうかと居た堪れなくなった時、

「あらあら、ごめんなさい。」とお母さんが僕に向かって言った。

そして「折角、ご挨拶にいらして下さったのに、お父さんがこんな風でごめんなさいね。多分ね、まだ気持ちの整理がついて居ないのよ。」とお母さんは続けた。

「はい。」分かります、と言おうかどうか迷ったけれど言わなかった。娘の居ない僕に父親の気持ちが"分かる"なんて言ってしまっては失礼に当たる。

「よろしければ、お昼ごはん食べて行って下さいね。」

「お昼ごはんって何?」美和がお母さんに訊いた。

「お蕎麦取ろうかしらと思って。」

「あー、あそこの出前?」

「そう。お父さん来ないと思うから、三人前。」

「分かった。お母さん電話する?」

「あなた電話してくれる?」

「いいけど。」と返事をしてから美和は僕に「元、お蕎麦冷たいのでもいい?」と訊いた。

「うん。」と僕は返事をして、美和が和室を出て行くと、

僕の顔をじっと見つめる視線に気が付いた。



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碧井 漪

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