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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

馮離 A面 20

Posted by 碧井 漪 on  

馮離20
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イラスト(イラストレーション、挿絵)


一人でシャワーを浴びた後、ベッドルームへ移動して着替えた。


よし、やろう。


ベッドルーム兼執筆部屋にしたのは、今日から。


パチッ。


ノートパソコンのスイッチを入れた。


しかし、さっきと同様、何も浮かんで来ない。


俺は、白い画面をぼんやりと見つめていた。


そして、何を書いたら賢さんは喜ぶだろう・・・そんな事を考えていた。


書きたいものはない。だったら、賢さんの読みたいものを書いたらいい。


本当はそれじゃだめだとは思うけれど、今の俺の頭の中はからっぽで、雑巾みたいに絞っても、一文も捻り出せそうにないと思えるから。


ふーっ・・・賢さんの好きな話ってどんなジャンルだろう?


ミステリー?SF?まさかホラー?


いやいや、時代小説とか?


恋愛は読まなそうだし・・・ノンフィクションとか自伝とかなら読みそう。


俺はエッセイは書いた事がないし、時代小説は向かない。


だめだ・・・俺の書ける小説のジャンルは限られている。


長編を書くとなれば、入念な下調べも必要だし、


パッと書いて、はいどうぞ、という訳には行かない。


すぐに書いて見せたいなら短編だ。


・・・・・・


だめだ。浮かぶのは、設定も落ちも今一つのもの。


頭の中から書き出すに値しない。


ふーっ・・・書けない時は読もう。


誰かの書いた文章を読んで、俺の頭の中で凝り固まった文章を解きほぐそう。


とはいえ、最近は本を買っていない。


そうだ。賢さんなら何か本を持っているかもしれない。


賢一が自室に籠っている時、本を読んでいる事が多いのを朝臣は知っていた。


密かに介護の本を読んでいたのも知っている。


だから、俺を抱きかかえて車椅子に移乗させるのも卒なくこなせたんだ。


賢さんは努力家だと思う。


人の為、自分の為になる事を、陰でコツコツ積み重ね、それを使う日までひけらかさない。


コンコン。


「はい。」


「朝臣、まだ起きてるのか。」


「うん。まだもう少し。」


「眠れないのか?」


「そうじゃなくて・・・書きたいんだ。」


何が”書きたいんだ”だ。


調子良い事言って、何も浮かばないのを隠したいだけだろ。


俺の心の中で、俺を非難する俺の声が響いた。


賢さんは持っていたトレーを机の上、パソコンの横にコトンと置いた。


「そうか。無理するなよ。これ、チョコレートとホットミルク。じゃあ、俺は先に休むから。」


「うん。おやすみなさい。」


「おやすみ。」


賢さんはベッドルームを出て行った。


俺はベッドを振り返った。


ゆうべはここで眠り、今朝、ここで目覚めたのに、今夜は別々か───


誰かと一緒に眠るのは、考えていたより苦痛ではなかった。


賢さんは寝相も悪くなかったようだし、いびきも聞こえなかった。


眠ってしまえば、広いベッドだし、特に不快な事もない。


俺みたいに下肢が不自由な場合、寧ろ、誰かが傍に居てくれた方が本当は良いのだろうとも考える。


すると、賢さんは、一人で物置のような部屋で眠るより、俺と一緒にこのベッドで眠った方が良いのではないかと思う。


しかし、それは賢さんが俺と眠ってもいいと思ってくれた場合であって、今のように賢さんが先に寝て、俺が起きているといった場合、嫌だろう。


灯かりも点いている上、カタカタカタカタ、キーボードを叩く音もする。


神経質な人ではなさそうだけど、好んで誰かと一緒に寝たがるタイプでもなさそうだ。


ゆうべは、疲れて眠ってしまっただけ。別に俺と一緒に寝たかった訳じゃない。


賢さんは、恋人の兄。友人でも家族でもない、ただの・・・


ただの、何だろう?


ただの・・・同居人。


俺に小説を書かせる為に会社まで辞めた人。


俺の事を、今俺の知り得る人の中で誰より心配してくれる人。


多分、母親より主治医より、亡くなった聖子よりも、俺を心配し、支えてくれる人だ。


期待されたからといって、簡単に書けるものではないけれど、応えるには、やはり小説を書かないとならない。


よし、と気合を入れ直し、朝臣はチョコレートを齧(かじ)って、ホットミルクをごくりと飲むと、パソコン画面に向かい、両手をキーボー
ドに乗せた。


カタ、カタカタカタカタ、カタッ。


書いても書いてもページ数が足りない。


早く早くと、打った側から画面がスクロールして白くなって行く。


俺の文字を打つスピードでは追い付かない。


「まだか?朝臣。早く完成させて読ませてくれよ」


隣で賢さんがせっつく。


分かってる。分かってるけど、手を動かせば動かすだけ打った文字は消え、頭の中に浮かんでいる話の内容も真っ白になって行くんだ。


俺はどうしたらいい?


教えてよ、賢さん。


賢さんを見ると、賢さんは荷物を纏めていた。


「賢さん、どこ行くの?」


「期待した俺が間違ってたよ。もっと早くこうすべきだった。朝臣、お前はもう小説なんか書かなくていい。このまま、書けないままでも誰もお前を責めたりしない。だから、もういいんだよ。書かなくていい。早く眠れ。」


「嫌だ。まだ眠くない。書けるよ、俺は書ける。だから待って。俺を置いて行かないで───」


「ほら、ベッドで眠れよ朝臣。もう無理するな。それじゃあ、俺は行くよ」


有無を言わせず賢さんは俺を抱きかかえ、ベッドに寝かせると、鞄を持ってベッドルームを出て行った。


「待って。俺、書くから、ちゃんと書いて賢さんに読んで貰うから、だからもう少し待って───」



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碧井 漪

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