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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

暁と星 60 劇薬

Posted by 碧井 漪 on  

暁と星60
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星良が目を醒ますと、部屋の中はオレンジ色に染まっていた。


パサッ、パサッ・・・


紙を捲る音がして、辺りを見ると、机に向かう並川の背中が見えた。


並川さんか・・・良かった。


星良は暁良が部屋に居ない事にホッとした。


白衣を着た並川は、スーツを着ていた時より頬はこけ、髪もぼさぼさで艶が無かったが、それでも星良にはこちらの方が良く思えた。


初音に言われた、『星良ちゃんの為に』という言葉を信じる事が出来たからだ。


だけどどうしても、その言葉を暁良に当て嵌める事が出来なかった。










暁良は並川に言われ、星良を騙していた。婿を取った星良に賓海家を継がせて、自分はお屋敷から去ろうとしていた。


私を裏切り続けていたのに、どうして・・・私と結婚して、まだお屋敷に居るの?


お金の為?でも、それは違う気もする。


私の為?だけど・・・そう思う事が出来ない。


星良は自分の腕に繋がれた点滴バッグを見上げた。


この点滴が何の薬なのかもわからない。でも今は、並川さんの事を疑ってはいない。


ここに居る並川さんは別人のよう。それに、今は疑ってもどうしようもない。私は一人で起き上がる事さえ出来ないのだから。


ずっと眠り続けていたというあの謎のクスリの正体・・・あれを飲んだ後、息が苦しくなって、このまま死ぬんだと思った。


そして、こうも思った。


これでいい・・・これで私も彼も自由になれる、そう思ってホッとした。


それなのに、結果はこれ。


自由になるどころか、死に損なった私は体の自由を失い、彼も私のせいで責任を感じ、自由を失った。


出逢うべきではなかった相手。苦しめる事しか出来ないのだったら、どうして出逢ってしまったのだろう。


全ては私のせい。いとこだという彼を好きになってしまったせい。


でも彼は、私を好きではない。あの時も今も、この先も。


私がこうなった責任を感じて、結婚しただけ・・・だから、私は一日も早く彼と別れて、彼を自由にしなければ───


「星良ちゃん、起きた?具合どう?」


突然声が降って来て、ハッとした星良は、並川に手首を掴まれていた。


「あ・・・」


「脈は大丈夫だね。熱もない。何か食べたい物ある?・・・と言っても、まだ制限付きの食事だけど。」


星良は枕の上で横に頭を動かした。


並川はそれを見て、

「まだ食べたくないか。まあ、大丈夫。口から食事を摂らなくても大丈夫な状態になってたからね。」と星良に告げた。


どういう事か分からない星良に、並川は「一応説明しておくね。怖がらなくていい。」と前置きをして、

「口から食事が摂れない状態だったから、胃ろうって言って、星良ちゃんのお腹に穴を開けて、管を通したんだ。そこから栄養を直接胃の中に流し込んで、今まで命を繋いでたんだ。」と言った。


自分の体がそんな風になってしまったと衝撃を受けた星良は、ますます、暁良とは一緒に居られないという想いを強めた。


お腹に管が・・・そしてオムツをして、カラダを清めてくれていたのは、リューさんと並川さんと、それから彼・・・


こうして生きている事も恥ずかしいと感じた星良は、薬を飲んだ時より死んでしまいたい衝動に駆られた。


こんな姿を見られて・・・もう、いや・・・・・・


「星良ちゃん?」


涙を零しながら、星良は自分の腕に刺さる点滴針を抜こうとした。


「何してるんだ。やめなさい!」


動かせない体を必死で動かそうとする星良の涙に気付いた並川は、「どうした?言いたい事があるなら聞くよ。」とやさしく言って、星良の手を撫でた。


「・・・し、に・・・た・・・・・・い。」


星良の小さな掠れ声を聞いた並川は、目を見開くと、歯を食い縛り、拳を強く握り締めた。


「・・・どうして?」


星良から視線を逸らした並川は、そう訊いた後、目を閉じた。


「め・・・わ、く・・・」


「め、わく?迷惑?何を言っているんだ星良ちゃん!」


「き、えた・・・い・・・・・・」


「星良ちゃん!そんな事言ったら駄目だ!何の為にオウジが今まで頑張って来たと思ってるんだ!」感情を爆発させた並川は、声を抑えきれなかった。


並川の言葉を聞いた星良は、やはりと思った。


彼は無理して私と結婚し、世話を焼いてくれた。


でもそれは、私も彼もお互い望まない事。


「オウジは星良ちゃんの為にずっと───」その後の並川の言葉は、悲しみの底に落ちた星良の耳には入らなかった。










初音が帰って来るまで、並川は黙って星良に付き添いながら、昔の事を思い出していた。


人の理性を司る薬。


それは脳疾患の画期的な治療薬として、公に研究が進められていた。


しかし、失敗続きで、開発を始めてから数年後、研究チームは解散する事になった。。それでも一人研究を続けたいとする辻村教授に付いて来たのが大学二年の並川裕司と半田満知(はんだまち)だった。


研究費は教授持ちで、日々空き時間に細々と研究を続ける毎日。


町はずれの古い民家を買い取り、そこを研究室とした教授と並川、半田は寝食を共にしながら研究を続けた。


そして大学を卒業した並川は、大学病院で研修医になり、半田はアルバイトをしながら教授の研究を手伝っていた。


ある日、半田の将来を憂えた並川が

「満知、そろそろ研究に見切りを付けたらどうだ?」と疲れた様子の半田に言った。


「あと少しなの。これが成功したら、臨床試験を・・・」


「そう言うが、そんなに簡単に認められると思わない。臨床に持ち込むなんて無理だ。」


「裕司、研修医になってから変わったよね。私、ここで一緒に研究している裕司の方が好きだった。」


「俺だって薬が完成したらって思うけど、でも、現実はこんなポロい研究室なんて呼べないような民家で、ひっそり続ける研究なんて、意味があるのか?」


「あるよ!あるに決まってるでしょう?」


「向きになるなよ。教授だってどうかしてる。こんな、何年も続けたって、完成しない薬。もう諦めた方が───」


「裕司に教授の何が分かるの?研究から逃げ出したくせに!邪魔するなら帰って!二度と来なくていいから!」


「満知・・・俺は・・・!」


寝食を共にした半田の事を並川はただの同期生、それ以上に想っていた。


しかし、半田は研究以外に興味はないようで、並川は半田に研究をやめさせる事を諦めた・・・その矢先、辻村から電話で悪い報せを受けた。


「裕司、大変だ!満知が・・・薬を飲んで、意識が戻らない。」


悪い夢だと思いたかった。


何故、満知が薬を飲んだのか・・・臨床試験はまだ先だと思って居た。それも、満知ではない被験者にと・・・


「教授、どういう事ですか?!満知は何故薬を飲んだんですか!」


並川が研究室に駆け付けると、満知の意識は既になく、ベッドの上で呼吸器に繋がれていた。


「何故・・・!」


「すまない・・・薬は私が飲んでいたんだ。満知には絶対に飲むなと言っていた。しかし、満知は大丈夫だと言って、私の目の前で薬を飲んだ。」


「だから、どうして!」


「この研究を成功させて、私に、家族の元へ戻って欲しいと・・・」


「え?」


「この手紙に、詳しい事が書いてある。すべて私のせいだ。」


並川は、薬を飲む前の満知が書いた手紙を読んだ。


そこには薬を飲んだ教授と満知が性的な関係を持ってしまった事、そして満知が、臨床研究の度にそれを期待するようになってしまった事等々、教授への恋心が記されていた。


しかし教授には家庭があった。ただ長く離れて暮らしている為、現在不仲となってしまっている奥さんと、出来る事なら関係を修復して家に戻って欲しいとも書かれてあった。


複雑な女心。薬を飲んだ時だけ、教授は満知を愛し、薬から醒めれば教授はそれを表に出さない。


満知は薬で操られている教授を愛してしまったのだろう。けれどそれはいけない事だと、早くこの状態から抜け出そうともがいた結果がこれなんだ。


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碧井 漪

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