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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

そうそうない 53 2015年10月13日のこと(3)

Posted by 碧井 漪 on  


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美和がわーさんに甘えるなんて事は、おかしい。無いよ。


だって、美和は生きているわーさんに一度も会った事が無いんだから。


ざあっ・・・全身を廻っている筈の血が、いっぺんに足元に落ちたみたいに感じた。体が冷たい。


そうだ。美和はわーさんに会った事もない。


わーさんには、二度と、会えない。美和も僕も。


その事実を思い出した途端、僕の心は温かさを失った。


ゲームソフトを棚に戻し、ショップから出た僕は、冷たい風を頬に受けながら、真っ暗になった空を仰いだ。


あの星まで行っても、わーさんには会えないんだ。


絶望色した空にこのまま吸い込まれたくなる程の悲しみが僕を包む。


会いたい人に会えないつらさ。


つらいよ。他にもそういう人が沢山居て、僕だけじゃないってそれは知ってる。


でもこのつらさは、どうしても消えないよ。他にどれだけつらい人が居ようとも。


ポケットに手を突っ込んだ。チャリ・・・車のキーに触れた。


はっ!そうだ、美和。


今何時だ?


腕時計をしていない僕は、車に乗り込み、エンジンを掛けた。車の時計は18:09、そろそろ幼稚園に向かおう。


幼稚園に着いたのは18:22だった。


園舎の灯かりは消えている。美和は?と見ると、車の前に黒い影が現れた。


その影はそのまま助手席側に回り込み、ドアに手を掛けた。


ガチャッ。


「元、来てくれてありがと!」


バタン。


乗り込んだ美和の顔を見ると、両側のほっぺたは塗ったみたいに丸く赤くなっていた。おまけに鼻の頭も赤い。まるで酔っ払いメイクを施した芸人のようだ。


指先も悴(かじか)んでいるのか、上手くシートベルトを掴めないでいる。


「何やってんの。」


僕は一旦自分のシートベルトを外し、助手席に乗り出すと、美和のシートベルトを締めた。


「ありがと。ごめんね。手が・・・」


「まさか、外で待ってたの?いつから?」


「あ、うん。少しだけ。」


「何時に終わった?正直に言え。」


「18時頃。今日は、お迎え遅れた人が居なくて。」


主に両親が仕事の園児達を18時まで幼稚園で預かっているらしい事は知っていた。


「早く終わったなら、どうして電話しないの?」


リサイクルショップに寄らずにスーパーから直接ここに来ていたら、美和を外で待たせる事は無かったのに。


「なんか、図々しいから。」


「今更。」


「そうだね、ごめん。」


しおらしい美和を見るのは苦手だ。


この場合、悪いのは美和?それとも僕?


よく分からないけど、「とにかく早く帰ろう。」と僕は車の暖房を強くした。


スーパーで買った食材は保冷トートバッグの中だし、後ろの座席の下にあるから大丈夫だろう。


「ごめ・・・ありがと。」


「うん。」


“ごめんね”ではなく、”ありがとう”と聞いた途端、絶望色の空に吸い込まれたいと考えた気持ちが、霧のようにサッと消えた。


僕は、美和の”ありがとう”を、わーさんにも聞かせたかった。


その晩、お風呂と食事を済ませ、後は寝るだけとなった午後10時過ぎ、


「美和、話がある。」と僕は布団の上に正座した。


「・・・はい。」


同じく、僕の隣に敷いた布団の上に正座して、向かい合った美和は首を竦めた。


「お互い干渉しない生活をするって言ったよね。」


「はい。」


いつもなら”うん”と返事をする美和も、昨日の今日だからなのか、どこか畏まっている。


「僕は無理だ。」


「え・・・」


「だから───」「嫌!出て行きたくないです!何でもするからここに置いて下さい。お願いします!」


美和は膝の前に両手を揃えて、頭を下げた。


「・・・・・・」


「元?」


「ぷっ、くくく・・・!」


僕は笑いを堪え切れなくなった。美和は僕が再び”出て行け!”と言うのだと怯えていたようだが、違うのに。


「何?どうしたの?」


姿勢を正した美和に訊かれ、僕は本題に入った。


「お互い干渉しないのは無理だから、ここで一緒に暮らすなら、遠慮するのやめよう。思った事は我慢せず伝える。希望も不満も隠さず正直に。僕は、美和が言われたら嫌だろうなと思う事も、正直に言うようにする。言わずに溜め込んで、後で発覚したり発覚前に爆発したりしたら嫌だから。勿論、水に流せる事は流す。ただ、今日のは違うと思ったから。」


「今日のは違うって?」


「最初から迎えに行く約束をしてた。だから遠慮なんかせずに、時間が変わったなら変わったで伝える事。場所も然りだ。」


「ごめんなさい。」


「体を冷やして風邪を引かれたら、僕が迷惑だ。」


「はい。」


「干渉しないなんて無理だよ。一緒に暮らすんなら。」


「・・・うん。」頷いた美和は、手で口を押さえて、俯いたまま肩を震わせた。


「泣くな。」


「泣いてません!」


そう言って美和は、両手の甲それぞれで、左右の目を、ぐいっ、ぐいっと力強く拭った。


睫毛に涙が光ってる。やっばり泣いてたんじゃないか。


「それから、嘘も禁止。」


「えーっ?それはちょっと・・・」


「僕に嘘吐く必要ないだろ。」


「例えば、おならしちゃった時とか。」


「はっ?」


「おならした?してないよ・・・的な。」


「二人しかいないんだから、訊くまでもない。最初からバレてる。」


「あちゃー、そっか。元、頭いいもんね。」


「頭の良さとおならは関係ない。二人しかいない部屋で臭くなったら、どちらかの仕業だろ。」


「分からないよ?カメムシだった、とかさ。」


「とにかく、遠慮と嘘は必要ないから。分かった?」


「はーい!」


今度はにっこり笑って返事をした美和。


やっぱり、泣かれるよりは、笑ってくれた方がホッとする。


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碧井 漪

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