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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

そうそうない 45 2015年10月12日のこと(2)

Posted by 碧井 漪 on  

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「ほら、着替えないと風邪引くよ。」


僕はエアコンを点け、トイレで用を足した後、顔を洗った。


洗面所から出ると、入れ替わりで、服に着替えた美和が入って来た。


居間を覗くと、カーテンは開けられ、布団も片付けられていた。


僕も着替えて、台所に行くと、既に美和がコンロに掛けた鍋の前に立って居た。


何だか気まずさが漂っているようで、僕は何も喋れなかった。


冷蔵庫を開けた。


「元。」


突然振り向いた美和の呼び掛けに、ドキリとした僕は、口を開けても声が出せなかった。

そんな僕に美和が訊いた。


「お味噌汁、豆腐とわかめでいい?油揚げ切らしてる。」


「ああ、うん。何でも・・・」ようやくそれだけ言って、パタン、何も取らずに冷蔵庫を閉めた。


「了解。」


「あのさ、ご飯作るの任せていい?掃除機かけて来る。」


「うん、いいよ。」


掃除機なんて今じゃなくてもいい事だったけど、とにかく台所に居辛かった僕は、理由をつけて美和の傍を逃げ出した。


ガーガー、畳に掃除機をかけながら、仏壇の写真をちらと見る。


わーさんは呆れているかもしれない。


僕は、わーさんの写真もまともに見れなくなって、一生懸命畳の目を目で追った。


美和に、あんな意地悪するんじゃなかった。恥ずかしい。


顔、合わせ辛いな。これってセクハラじゃないか。


僕はそんな気なくても、美和がそうと思ったらセクハラになる。


人肌に触れたいなら、温めたおでんのはんぺんでも触って居れば良かったんだ。


生身の人間に触れるのは、とても難しい事だったと、僕はまた一つ学んで、そして後悔し、反省もしていた。


そう言えば・・・と、僕はゆうべの事も思い出した。


わーさんと間違えて、美和を抱き締めた事。


お詫びを言った舌の根も乾かない内にこれだ。


何をやっているんだ、僕は。


ガーガー、ガーガー、ガーガー・・・


延々と掃除機をかけ続けていた僕に、

「元、ご飯出来たよ。手を洗って来て。」と美和が台所の戸を開けて呼び掛けた。


振り向きたくなくて、僕は聞こえない振りをして掃除機をかける手を止めなかった。


すると美和は、「元、もーと!」と僕の背中を指でつついた。


カチッ。観念した僕は掃除機のスイッチを止めた。


さっきはごめん、そう言おうとした。


でも声が出ない。認めたくなかったのかもしれない。こんな自分。女性に対してセクハラするなんて───


「元!」


ガシッ、僕の胴体を何かが縛った。


それを掴むと温かい。


「え・・・?」


続いてドスッ、背中に何かぶつかる衝撃。


思わず振り向いて、見ると、美和が僕の体にしがみ付いているのが分かった。


何故か僕は、ホッと安堵した。


何故だろう。


ああそうか、セクハラしたのは僕だけではなくなると思ったからだな。


「美和、セクハラ。」


「あ、ごめん・・・!」


「僕こそごめん。さっき、その・・・」


「あったかかったよ。元の手。」


「もうしないから・・・」


「うん。私も、もうしないから───」


美和がそう言った時、僕の胸の奥がひやりと冷たくなった。


美和を幼稚園に送る朝のボディータッチも今後一切無くなる。


嫌だと思っていた筈なのに。喜ばしい事なのに。


何だかとても寂しさを覚えた。


ぼんやり俯く僕の顔を、屈んだ美和が覗き込んでいた。


「な、何?」


「やっぱり取り消し。」


僕の手から掃除機のノズルを払い落とした美和は、そのまま僕の胸に抱き付いた。


えっ?


美和の行動が理解出来ず、頭の中が真っ白になった僕の耳に届いたのは───


「私はやめないから。だってセクハラじゃないもん。家族だから。」


家族?


「家族って、何?何で僕と美和が家族になるの?」


「同じ釜のご飯を食べて、同じ屋根の下で眠ってる。それを家族と言うんじゃないの?」


「何それ。」


「血が繋がってなくても、戸籍が同じじゃなくても、一緒に暮らしてたら家族だと思う。私は元を家族だと思ってる。」


家族───いつからか、僕の家族はわーさんだけだった。


わーさんを、家族を失って、僕は一人になった。


社会的に天涯孤独ではないけれど、気分的にそうだった。


これから先、僕を家族と思う人はいない。


その筈だったのに。


同じく同性愛者の美和もまた、家族と縁を切られてしまったのかもしれない。


僕もだけど、美和も僕に家族の話をしなかった。つまりそうなのだろう。


親兄弟、友人、同僚、カミングアウトしたら社会的に孤立する。


僕はその機会が無かったから敢えてしなかったけれど、美和はしたのかもしれない。それで会社に居辛くなって、こんな田舎に逃げて来たのなら・・・美和の気持ちが分かるのは僕だけって事か。


それで僕を家族と思う事にしたの?


僕は美和を家族と思えないけれど、勝手に思う分には構わない。どうせ当分の間、出て行く気はないのだろうから。


「僕は美和を家族だと思ってないけど、美和が勝手に僕を家族だと思うのは構わない。」


するり、美和は僕の体に巻き付けていた腕を解いた。そして僕の顔を見上げ、

「じゃあ、元は私の弟って事で。」とにやりと不自然に笑って言った。


弟?確かに兄の扱いではないな。まったく・・・


「調子に乗るな。」


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碧井 漪

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