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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

そうそうない 46 2015年10月12日のこと(3)

Posted by 碧井 漪 on  

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リアル・恋愛小説


「ごめんごめん。でも、ありがとう。」


「何が?」


「ゆうべも今朝もありがとう。嬉しかった。私ずっとね、誰にもギュッてされる事なかったから。」


「えっ・・・?」黙るから嫌なのかと思ってた。


でも実は、僕が思っていたのと同じ事を美和も思っていた・・・?


「ギュッとされるのって嬉しいね。元もそうでしょ?」


ぎくりとした。抱き締められる事のありがたみを、今になって知った僕。


「そう?」


「そうだよ。子ども達だってギューッとされるの大好きだよ?」


美和は嘘を吐いていた。”誰にもギュッてされる事なかった”だなんて嘘だった。園児達にギュッとされてる事を自分から明かした。


そうか、誰にも抱き締められる事の無くなった僕に同情していたからかもしれない。そんなに寂しそうな顔をしていた?


家族と離れて不安そうな園児達と同じに見えた?


「僕はいいから、子ども達にしてあげればいい。」


「私は良くない。」


「は?」


「私だって寂しい時がある。誰かに甘えたい日もある。無性に抱き締めて欲しくなる瞬間もある。」


「それを僕で埋めようとしてるの?」


「駄目って言わないで。」


すぐに泣き出してしまいそうな美和の目を見せられた僕は、何も言えない代わりに、自分でも説明の付かない行動をした。


また、美和を抱き締めていた。


ぎゅっ・・・温かい。


何故こんな馬鹿な事をまたしたんだろうと思いながら美和の肩を頭を包んでいると、やがて美和の肩が震え出し、洟を啜る音が聞こえた。


何を思い出して泣いているのだろう?好きな人の事かな。志歩理か、そうではない女性。


いつも元気な美和が、寂しかったり甘えたかったり抱き締めて欲しくなる日があるなんて、僕は考えもしなかった。


美和の好きな相手は生きている。僕より寂しくない筈だ、なんて思っていたけれど、会えないのは同じだ。


生きているんだから会いに行ける───でも実際は会いに行けない、という気持ちも分からないではない。


僕だって、家族に会いに行ける。でも実際、会いには行かない。それと同じかもしれない。


次の恋をすればいい、なんて言ってみようかと思ったけど、次の恋という言葉を吐く資格のない僕の言葉では説得力がないから意味ない。


ぐー。美和のお腹が鳴った。


「・・・お腹空いた。」


「え?」


「ご飯食べよう、元。」


「あ、ああ、うん。」


僕は美和から手を離した。


「またしようね。こうしてギュッて、いつでも。元も寂しくなったら言って。ギュッてするから。」


「ないよ、そんな事───」


そう返した僕を、美和は台所の戸を開けながら振り返り、

「じゃあ、私が寂しくなったら、元をギュッてするからね、いいよね?」とわーさんの前で宣言した。


やめて欲しい。わーさんの前で僕が寂しいとかそんな話。


トタトタ、コンロの前へ急ぐ美和、その後ろ、仏壇の前で足を止めた僕は、わーさんを見た。


今日のわーさんは何も言わない。


美和を抱き締めてしまった後ろめたさがあるからかもしれない。


わーさん以外の人を抱き締めたり抱き締められたりする日が来るなんて、まったく予想していなかった。


人生、何が起こるか分からない。


大袈裟のようにも思えるが、そうでもない。


わーさんと共に死んだと思いたかった僕の人生は、まだ続いているらしい。


人と関わる事で、それを思い出した。


美和がこの家に来てから一月半弱。


一人の時より何十倍も何百倍も忙しいと感じる。体も心も。


椅子に腰を下ろすと、


「元、手を洗ってって言ったでしょう?」まるで母親のように口煩い美和。あ、姉だっけ?


「はいはい。」苦笑いしながら立ち上がる。


僕が手を洗う間、美和は冷めたおかずを温め直し、テーブルの上に並べた。


ご飯と豆腐とわかめのお味噌汁、焼き鮭、厚焼き玉子、お漬物、味海苔。


2015年の体育の日、僕に家族が出来た・・・らしい。


報告したら、わーさんはびっくりすると思う。そして”いいな”と笑いそう。


わーさんが悲しまないならいいか。


「いただきます。」


「いただきまーす。あ、元、お醤油、次貸して。」


「はいよ。」


「サンキュー!」


もぐもぐもぐ・・・ごくん。


「食べたらどうする?出掛ける?」


「うーん。その前にアレやっておきたいんだよな。」


「アレって?」






ザッ、ザッ、ザッ。


朝食後、少ししてから僕と美和は縁台の前に小さな折り畳み椅子を置いて座り、作業を始めた。


強くない陽射しの下で、秋風に吹かれながら、目の大きな網に、昨日収穫したひまわりの頭を擦り付けて、その網の下に置いた籠の中に種だけを落としていた。脱穀と言うのか、収穫最後の作業。


一年前の僕は、こうしてひまわりの種を集めながら、死んだら、僕を支配している寂しさは終わるのかと考えていた。


今、僕の中に寂しさはまだ残ってはいるものの、大分(だいぶ)薄れていた。



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碧井 漪

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