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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

馮離 B面 24

Posted by 碧井 漪 on  

馮離24
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そう、今日は俺の誕生日。聖子の命日は昨日だ。


今年は20日の命日ではなく、俺の誕生日21日今日に来て欲しいと言われていた。


それでも、朝臣の体の負担や、仕事の事を考えると、やはり実家に居るよりマンションに戻った方がいい。


「ごめん、母さん。また今度───」「”今度”そう言って、また来ないつもりなんでしょう?」


俺を責め出した母さんにびっくりしたのか、朝臣は「一人で帰れるから」と俺の襟元で囁いた。


「いや・・・」普通の声でそう返した俺に、


「朝臣くん、ソファーの方がいいわね。ごめんなさい。向こうでお茶煎れましょうね。」と母さんが言った。


抱き上げて運んだ朝臣をリビングのソファーに座らせると、

「お兄ちゃん、お茶煎れるの手伝って。」と母さんがキッチンから俺を呼んだ。


「はいはい。」立ったまま返事をした俺の体の陰に隠れるようにして、朝臣が「賢さん、本当に俺一人で帰れるから、夕飯、食べて行った方がいいよ。」と言った。


「それは俺が決める・・・って言うか、俺が単にここから帰りたいだけだ。」


屈んで、朝臣の頭に乗せた手を左右に動かすと、俺の指の間に朝臣の柔らかな髪が纏わり付く。


心細さを隠してはいても、潤んでしまっている朝臣の瞳を俺は見つめながら、心地良い胸の奥の甘い痺れに、ずっとこうして居たくなる・・・が、その気持ちを振り払い、「お茶煎れて来るから」と俺は母さんの待つキッチンへ足を踏み入れた。


シュンシュンと噴くやかんの火を止め、カウンター越しに朝臣をじっと見つめる母さんの視線に寒気を覚えながら、「お茶、どれ?」と、まだ茶葉も選んでいない母さんに訊ねた。


「緑茶?紅茶?コーヒーにする?」


「緑茶でいいよ。」


「それなら、そっちの戸棚。そう、その黒い茶筒。」


母さんはシンク前に立ったまま、動こうとせず、やはり静かにソファーに座っている朝臣の様子を窺っている。


俺は急須と茶筒、茶托と湯呑みを食器棚から取り出し、シンク台の上に並べた。


「ねえ・・・」母が振り向いた気配を感じたが、

「何。」母の顔は見ず、俺はコンロからやかんを持ち上げた。


「お兄ちゃん、うちに戻って来ないの?」コポコポコポ、急須にお湯を注ぐ音が母さんの声を所々遮った。いっそ聞こえない振りをしたかったが、そうした所でもう一度聞かされるのは嫌な内容だったので、多分そう言ったんだと考えて、口を開いた。


「うちに戻るって、ここに?どうして?」


今までもその話はあった。ただその度に、仕事と介助は住み込みじゃないと、という話をして、理解して貰ったつもりでいた。


「怖いのよ。」


「何が?」


「聖子だけじゃなく、お兄ちゃんまで・・・何か、悪い目に遭うんじゃないかって。」


「俺は大丈夫だよ。」


「大丈夫じゃないわ!お兄ちゃんはいつまで朝臣くんの家で暮らすつもり?結婚して、この家に戻って来て。お願い。」


「結婚って・・・」


「前にも言ったでしょう?お父さんの会社の先輩のお嬢さんが結婚相手を探していて、親と同居してもいいんですって。齢はお兄ちゃんより二つ上らしいけれど、年上だって気が合えばいいわよね?」


「俺は、結婚なんて考えてない。第一、誰とでもいいなんて考えで結婚したら、絶対続かないよ。」


「誰とでもいいとは言ってないわ。でもね、お兄ちゃん。あと十年もしたら四十になるのよ?その時、一人だったら惨めじゃない。同級生の、ほら、原田くんだっけ?結婚して、もう子どもが二人も居るってはがきが来てたじゃない。」


「だから?」


「お兄ちゃんもそろそろ結婚して、私達に孫を見せて頂戴。うちで頼りになるのは、もう、お兄ちゃんしか居ないんだから・・・」


聖子が居ないから、俺だけだから、分かっているけれど、今、そういう風に結婚や同居話を持ち出さないで欲しいと思った。


結婚か───


何とも思わない女と夫婦になって、両親と同居して、子ども作って、それで俺の人生が終わるまで生きる。


分かってる、それが両親の望む一般的な息子の生き方だって事は。


聖子の事がなかったら、というより、朝臣の事がなかったら、そう出来たのかもしれない。


だけど、俺は―――無理だよ。もう、愛が何か分かってしまったんだ。


「恨みたくなるわ。聖子だけじゃなく、お兄ちゃんまで・・・」


母がぼそりと呟いた事に、聞こえなかったふりをした。






聖子を殺した加害者の男、それは当然だが、

母の恨みたくなる相手には、今の朝臣も含まれてしまうのだろう。


それが一番嫌だった。


聖子や俺を恨むのはいい。でも朝臣の事は恨まないで欲しい。俺よりも多分、俺達の両親を心配しているのは朝臣だから。


俺が実家に寄り付かなくなったのは朝臣のせいじゃない。俺が好きで朝臣の家で暮らしているだけなんだから。


それを理解して貰うのは、中々難しい事なんだろうか。


しかし、俺の我が儘が朝臣への恨みに代わってしまうのなら、改めなくてはならないのだろう。


「来週の日曜日、お父さんの先輩夫婦とお嬢さんが家に来るのよ。お兄ちゃんも来て、会って頂戴。」


会いたくもない、そうは言えなかった。母の気持ちを考えると、と言うより、朝臣の立場を悪くしてしまうと考えたら。


「分かった。来週の日曜日ね?」


こんな時、怯まずに嫌だと言える人間を、心底羨ましいと思った。


俺は長男だから、いずれ両親の面倒を見る覚悟位あった。


だが、こんな形で見たいとは思っていない。


この先、俺は、俺の生きたい場所では生きられない。


俺の欲しい愛を手離して生きる・・・そんな人生が見えて来て、背筋が寒くなった。


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碧井 漪

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