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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

乙女ですって 225 (R-18) 似た者同士

Posted by 碧井 漪 on   0 


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5月25日の夜。


残業後、会社の外に出た木南は、駅に向かって歩きながら、舞に電話した。


「もしもし、舞?体調どう?順調、そうなの。」


商店街のアーケードが見えて来た。


ちらほら閉まっているシャッター目指して、木南は歩く速度を速めた。


舞の声を聞きながら、辿り着いた一軒の店のシャッター前で、木南は立ち止まった。


「んー、用って言うか、その後、安藤さんと話、付いたのかなって気になって。」


この前も安藤さんの事を訊いてしまったから、何故そんなに気にするのかと舞に怪しまれたら・・・と木南の心臓はどきどき鳴り始めた。


「え?そうなの、そっか・・・ううん、ありがとう。順調ならいいの。また今度、遊びに行くね。うん、それじゃあ・・・」


電話を終えた木南は、ふーっ、と息を吐いた。


辺りを見回すと、飲食店以外、開いている店は、小さなスーパーとドラッグストア位。


今日も遅くなっちゃったから、綱島さんの所へは行けない。


行けたとしても、何も話す事がない。と言うか、しばらく行かない方がいいのかもしれない。


綱島さんの顔を見たら、言わなくてもいい余計な事まで言ってしまいそうで怖い。


『隆ちゃんね、何回か電話したけど繋がらないの。何かあったのかな?』


『安藤さんは、退職されました。会社で借りているアパートも出られて、どこへ行かれたのかは分かりませんが、一応お伝えしておこうと思いまして』


あああ・・・聞かなければ良かった事って、まさにこの事を言うんだわ。


お節介で首突っ込むべき事じゃないのは分かってたわよ、私だって。


だけど乗り掛かった舟って事で、一肌脱いであげたくなっちゃうじゃない?綱島さんみたいな”私はいいんです”系の薄幸見え隠れする人に対しては。


舞みたいに、自分からグイグイ言っちゃうタイプには、何かしてあげようとか考えなくてもその内何とかなっちゃうもんだからさ。現にしあわせ掴んだし。


でも綱島さんはまだ・・・このままだと、生まれて来る子が将来、継父に虐待されるとか、暗いニュースになったら嫌だし。


安藤さんフリー、綱島さんも”まだ”フリー、この状態なら、とっとと安藤さんに事情話して、責任取りなさいよ!って言えば、おさまる所におさまる筈なのに・・・その安藤さんが居なくなったという事実。


私の口からはとても綱島さんに伝えられない。


安藤さんの事は諦め、他の人と結婚すると口では言ってても、その実(じつ)、まだ安藤さんの事を想って居るに違いない、と言うのは長年女をやって来た私の勘。


『安藤さんが、異動先の会社辞めて、どこかに引っ越して、連絡取れません』なんて言っちゃった日には、綱島さん、穏やかで居られなくなっちゃうわ。入院中の妊婦なのに。


だから言いたいけど言わない。


綱島さんの言ってた”縁”がこの世にあるならば、二人の”縁”はなるようにしかならない。


私も人の心配をしている齢じゃなくなった。


“縁”があるなら、私の所にも降りて来て。


木南は天を仰いだ。アーケードの屋根に阻まれ、夜空は見えない。


チッ・・・これだから。


あーあ、私の元にも、イケメンとかお金持ちじゃなくていいから、誰か、物凄く好きになれる男が現れないかなー。


今だったら、10代の頃より積極的に行けると思うのよね。


だって、後がないんだから。


一世一代の恋。私にも舞い降りて来て。


アーケードを抜けた木南は、今度こそと夜空を仰いだ。


星は遠くに一つだけ見えた。







それから一週間。月末月初の繁忙期を乗り越え・・・


6月2日火曜日の昼。


菜津子が切迫早産で入院してから三週間が過ぎた。


木南はあれ以来菜津子の前に顔を出していない。代わりに、メールでやり取りするようになっていた。残業後、木南は菜津子に宛てて、その日一日の出来事について書いていた。菜津子も退屈な入院生活、木南から送られて来るメールを楽しみに待っていた。


「あ、綱島さんからメール。ええっ?良かったー!」


木南は早く報告したいと、外には食事に行かず、社員食堂に向かった。





今日の空は曇り空、昼過ぎから雨の予報だった。


「あー、もう降って来ちゃった。これだから梅雨時期ってキラーイ。」


由佳は窓際から遠く離れた席にも拘わらず、社員食堂の窓に付いた雨粒を真っ先に見つけ、憂鬱そうな声を上げた。


その由佳とテーブルを挟んだ向かいには溪、隣には加集が座っていた。


寄り添う二人はそれぞれ、同じおかずを詰めた弁当箱を広げている。






うー・・・傍(はた)から見てもしあわせいっぱいってカンジ。ダダ漏れ状態。だから私、最近、二人の事を無意識に避けてたのかなぁ。


由佳は、忙しくなってしばらく会えていない真琴の顔を思い浮かべた。


以前より恰好も髪型も洗練され、格段にカッコ良くなってしまった真琴さん。


でも、前の方が良かった。冴えない丸眼鏡に短い尻尾。ヨレヨレのシャツにジャージズボン。靴は履き古したスニーカー。


私にだけ向けられる笑顔、それだけで十分だったのに。


『またギター弾いてよ』なんて、言わなければ良かったのかも、と毎日後悔している。


こんなに会えなくなっちゃうなんて、思っても見なかった。


「由佳、どうかしたの?」


「西尾さん、顔色悪いですよ?」


「別に・・・」カチャン、由佳は、まだ半分も食べていない日替わり定食のトレーの上に箸を置くと、はーっと溜め息を吐いた。


その時、「あー、いたいた。いつもここよね。綱島席。」と由佳の背後を通過した人が、そう言いながら、由佳の隣にトレーを置いた。


顔を上げた由佳に、「ここ、いい?」と訊いたのは、経理の木南だった。


「どうぞ。」


何故この人と一緒にお昼を?と、由佳は訝し気な表情を見せた。


目を逸らした由佳に気付いた木南も、「お邪魔だったかしら?」と一度置いたトレーに再び手を掛けた。


「いえ、そんな事ありません。」


咄嗟に由佳は、トレーを持ち上げようとする木南の左手を押さえた。


「そう?それなら・・・ちょっと報告があって。」椅子に腰を落ち着けた木南がそう言うと、


「何ですか?」と加集が反応した。


「お昼休みになってすぐ、綱島さんからメールが来たの。退院が決まったんですって。」


「え?いつですか?」


「このまま行けば、明日か明後日頃ですって。」


「本当ですか?良かった、菜津子さん・・・」溪は嬉しそうに頬を緩めた。


「あー、綱島さん。そう言えば入院してましたね。長かったですけど、何か病気なんですか?」由佳の問いに、


「病気と言うか・・・」木南が言い澱むと、

「えっ、何々?・・・重い病気?」由佳の声が沈んだ。


「ううん、過労。」


「ああ、過労ですか・・・って、過労でそんなに長く入院します?」


「とにかく、今週中に退院するから。」加集と溪に視線を向けた木南が言うと、

「良かったです。」溪が頷いた。


「なーんか、隠してない?今まで休まなかった綱さんが、過労で一か月近く入院って、もしかして・・・」由佳が声を潜めた。


「もしかしてって、何?」溪が由佳に訊ねると、

「噂では、入院して手術したって。」と由佳は口に右手を添えて答えた。


「あー、ガセですね。手術してないし、もう元気ですよ。」にっこり、木南が不自然な笑みを浮かべて由佳を見た。


「そうなんですか?」まだ信じられないという目で、由佳は木南を見た。


「そうなんです。」にっこりの顔を崩さず返した木南は、「いただきます。」と箸を持ち、定食を食べ始めた。


「ぷっ・・・」二人のやり取りを見ていた加集が吹き出してしまうと、


「ふふっ。」溪も笑った。


「何よ、何で笑ったの?」由佳と木南の声が揃った事で、加集と溪は、お腹を抱えて笑った。


「似てますね。二人。」


加集が言うと、由佳と木南はお互いを、”どこが?”と言う目で見た。


その後で、ふぅーっ息を吐いた由佳は、顔の前で両手を合わせ、


「ねー、加集さん、お願い!今週末、一日だけ溪を貸してくれません?」と切り出した。


「え?溪ちゃんを貸すって・・・」


不自然な笑いを浮かべて訊き返した加集を見て、加集の本音を見抜いた由佳は、

「分かってますよ、駄目なんでしょう?ちょっと話を聞いて貰いたかっただけだからいいです。」ふぅ、と息を吐いた。


「あ、いや、だけど・・・」


「溪も、私なんかの相手するより加集さんといちゃつきたいもんねー。いいよいいよ。言って見ただけ。」


「由佳・・・」


拗ねる由佳に、溪も何と言っていいか分からず困っていると、突然木南が「私がお相手しましょうか?週末暇だし、二人で飲みにでも行く?」と言い出した。


「え?」


驚いた由佳を畳み掛けたのは加集だった。


「いいじゃないですか。木南さんやさしいし、口堅いし、それに西尾さんと似てるから、話合うんじゃないですか?」


ほっとした笑顔で話す加集に聞こえないように、

「あからさまだよね。」木南は由佳にだけ聞こえる声で言うと、

「まあ、溪の事となるとこうなるって分かってましたけどね。」と由佳も返した。


木南と由佳はクスッと笑い、

「それじゃあ週末、金曜でいい?夜、仕事終わったら飲みに行こう。どこがいいか考えといて。西尾さんに任せるから。」


いつの間にか定食を綺麗に平らげていた木南が、トレーを掴んで席を立った。


「分かりました。よろしくお願いします。この二人へのやっかみも含めて。」


「ラジャ。」


振り向いて頷いた木南に向かって、由佳は、ひらひら手を振った。


「由佳、いいの?」


「いいの?って何が?溪も来る?三人で女子会ー。」


隣の加集が溪をじっと見つめた。


「えっ、ううん。ごめんね。私は・・・」


「分かってる。旦那が怖いもんね。」


「旦那って、そんな、まだ・・・」


「いや俺は別に───」


「はいはい。”やさしくて口堅い”木南さんに聞いて貰うから安心して。どうせただの愚痴だから。」


まあ、しあわせハッピー中の溪に聞いて貰っても、って内容だからね。


同じ独身の木南さんの方が話し易いと言えばそうなんだけど、だけどねー、恋の悩みだから、確か30後半の木南さんに話したら、シビアな答えが返って来そう。恋話(コイバナ)好きそうな感じじゃないから、ちょっと不安。


「お茶、おかわり持って来る。」


そう言って、お弁当を食べ終えた加集が席を立った。溪は加集のお弁当箱の半分以下にも拘わらず、まだ食べている。


「女子二人会、ちょっと緊張して来た。」


ぼそりと呟いた由佳は、溪に負けじと、残っている定食を大急ぎで食べた。


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碧井 漪

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