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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

そうそうない 47 2015年10月12日のこと(4)

Posted by 碧井 漪 on  


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「ねー、元。こっち終わったよ。まだそっち残ってる?」


「ああ。でも後これだけだから、僕がやるよ。ゴミも纏めておく。」


「じゃあ私、お茶煎れるね。」


「うん。」


立ち上がった美和は、軍手を外し、縁台に置いた。

そして作業着代わりのジャージに付いた枯草の屑をパタパタ叩いて、玄関から家の中に入った。


畑の上空にある太陽を見上げると、作業を始めた頃、東に近かった太陽は、南にあった。


お昼前に始めた、種取り作業も、もう後少しで終わる。


一人で作業した昨年より早く終わったのは言うまでもないが、わーさんと二人で作業した一昨年よりも早かったと感じた。


僕は種の入った小さな袋と、枯草の入った大きな袋を持って、家の裏に回った。


大きな袋はゴミの日に出そう。


小さな袋だけを持って勝手口から中へ入ると、美和がお茶を煎れていた。


「お疲れさま。」


「うん。」


長靴を脱いで、玄関に運んだ。


また台所に戻り、手を洗って、椅子に腰を下ろした。


「どっこいしょ。」


昨日の疲れと今日の疲れが、腰にずしんと一気に来たのを感じた。


「いてて。」


「どうしたの?元。」


「疲れがドッと腰に来た。齢だからなー。」


「まだ45でしょ。加藤先生に笑われるよ。」


「確かに。でもあの人は特別だよ。」


僕より年上だけど、すごく元気な加藤先生。


「買い物明日にして、今日は冷蔵庫にある物適当に食べて、お風呂沸かして、早く寝よう?」


「僕はいいけど、美和、買い物あったんじゃないの?」


「ううん。」


「肉食べたいなーとか思ってたんじゃない?」


「それは思うけど、明日のお楽しみにする。明日の晩御飯、お肉にして。」


「了解。」


「あ、やっぱりいいよ。帰ってから私が作るから。いつも元に作って貰って悪いもん。」


「今朝は美和が作っただろ。」


「でも・・・」


「じゃあ、明日の夕飯の片付けをやって貰うから。」


「了解。」


「真似するなよ。」


「へへへ。」


僕はホッと息を吐いた。


「あー疲れた。」


そう言って、テーブルの上に突っ伏した。


疲れたけど、心地良い疲れだった。


やり切ったと満足した疲れ。


美和、ありがとう。心の中で呟いた。


わーさんの居なくなった空間を埋めてくれてありがとう。


僕の中の寂しさは完全には無くならないけれど、空っぽではなくなった所に安心が生まれた。


美和で良かった。この家に来てくれたのが。


今のは僕の気持ち?それとも、わーさんの気持ち?


どちらのものとも取れない不思議な気持ちを感じながら、僕は目を閉じた。


「は・・・はくしょん!」


ずずっ、と洟を啜りながら、ぼんやりしている目を擦った僕は、どうやらテーブルに突っ伏して眠ってしまった事を理解した。


肩に重みを感じて、見ると、僕の背中に美和のフリースパーカーが掛かっていた。


それから、テーブルの上に置かれているお茶の入った湯呑みを握ると、冷たかった。


今何時だ?と見回すが、生憎、台所には時計を置いていない。


水切り籠の中には、美和の湯呑みが一つ伏せてある。


空腹に気付いた。そうだ、お昼をまだ食べていなかった。美和もまだ食べていないらしいと、朝の通り片付いていた台所の状態から察した。


どこへ行った?美和。


戸を開けた。居間にも箪笥の部屋にもトイレにもお風呂場にも居なかった。玄関に美和の靴はある。


鍵も開いているから、出掛けていない?


時刻は午後三時手前。


僕は勝手口を見た。さっき脱いだ長靴がある。靴底に付いた泥が乾いて剥がれていた。


勝手口にいつも置いてあるサンダルが無かった。


美和は家の裏手に居るのかと、僕は長靴を履いて勝手口から外に出た。


家の裏には何もない。正確に言うと、駐車場とわーさんのお墓があるだけ。今の時間帯は日陰で寒い。


車を停めてある向こうの一角にわーさんのお墓がある。わーさんだけではなく、他の人のお墓もあるけれど。


その向こうには細い道路がある。集落の中に住む人が時々山の方へ抜けるのに使う道。だから車は殆ど通らない。舗装されているのが不思議な程。


カサ、カサ・・・風で積もった落ち葉を踏み分け、僕は探していた背中に近付いた。


しゃがみ込んで手を合わせている、静かに丸めた背中。


すぐ終わって振り向くのかと30秒程待って居たけれど、僕が後ろに立って居るのに一向に気付かない為、


「そんな薄着で風邪引くよ。」と風に吹かれて寒くなったせいもあり、声を掛けた。


しゃがんだまま振り向いた美和は、


「元!起きたの?」と驚いた顔をした。


「ああ。」


起きなかったらここに居ないだろという尤もなツッコミはせず、「何でお墓に居るの?」と訊ねた。


「オレンジの菊が咲いてて、綺麗だったから。」


僕は、わーさんの仏壇とお墓には花を絶やさなかった。


わーさんがそうして欲しいと言ったんじゃない。僕の気を落ち着かせる為に。


一昨日活けた赤紫の菊に加え、美和は薄いオレンジ色の菊を挿していた。


「綺麗だね。」花だけを指してそう言ったのではない。


お墓の周りに自然と積もってしまう枯葉が無くなっている事に気付いたからそう言った。


美和が掃除してくれたんだ。ありがとう。


「何を話してたの?」


毎日仏壇にも長く手を合わせているのに、今度はお墓で、僕の居ない所で、わーさんに一体何を報告しているのかと気になった。


それとも、わーさんを神様か何かと思って、願い事でもしているのだろうか。


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碧井 漪

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