累とみみ 8
Posted by 碧井 漪 on
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本物の僕って何だ?益々解らなくなった所で、
「今度、累のおうちに遊びに行ってもいい?」と訊かれた。
「え?僕の家?」
「駄目?迷惑?」
「い、いや・・・そうじゃないけど。」
「じゃあ、いいの?」
僕が自宅にみみを招く所を想像してみた。
両親は腰を抜かすかもしれない。励はニヤニヤしそうだ。
侶偉は友達になりたがるかもしれない。
考えたら、みみは侶偉と同い年だ。
「うん、今度。楽しみ。」
僕は、みみが心配になって来た。
ゆうべ知り合ったばかりの僕を、次の日には自宅に招き、またその次には僕の家に来たいと言うのだから、もしこれが僕ではなくて、僕以外の男であったなら危険極まりないと思う。
犯罪に巻き込まれてからでは遅い。
僕はみみの父になったような気持ちでみみに言った。
「僕以外の男をこの家に入れては駄目だ。」
「入れないよ。」
「それから、夜、一人で出歩くのも駄目。」
「えー、どうして?」
「危ないから。」
「大丈夫。河に落っこちたりしないから。」
「そういう危ないじゃなくて・・・」
「累、また河に夜来る?」
「行かない。だからみみも来ちゃ駄目だ。」
「じゃあ、どこに行けば累に会える?」
「どこに、って。」
「累の会社どこ?」
「会社?」
「行ったら迷惑?でも、近くならいい?」
「どうして僕に会いに来たいの?」
「だって、累だけだから。」
「何が。」
「あたしの目を見て、話を聞いてくれる大人は。」
「え・・・?」どきん、と胸が鳴った。
“累だけ”と言われて、変な気分になった。
そのせいなのか、「じゃあ、連絡先教えるから、何かあったら電話して。」と僕は自分の携帯電話の番号をみみに教えた。
「ありがとう。いつ電話していい?」
「いつでもいいよ。出られない時は留守番電話にメッセージ残して。」
「分かった。」
「みみの番号は?」
「あたし?持ってない。お母さんは持ってるけど。」
「携帯電話、持ってないの?じゃあ、家の電話は?」
「ないよ。お母さんの携帯電話だけ。」
「そう、なんだ・・・」
「あっちの橋のちょっと先の所に、公衆電話があるから、そこからかけるよ。」
「夜は駄目だから。」
「じゃあ、累が会社お休みの日しか、電話かけられないの?」
「分かった。土曜日、朝10時、今日の河のベンチで会おう。それならいい?」
「それまで会えないの?」
またどきりとした。僕に会いたいと言う人が居るなんて。しかもそれが年下の女の子だなんて。
「そんなにしょっちゅう会ってたら、飽きてしまうよ。」
「そういうものかなぁ?友達居た事ないから分からないけど。」
友達かぁ・・・そう言われれば僕も会いたいと思う友達は居なかった気がする。
「お・た・の・し・み、だろ?土曜日までの。」
「そっか。分かった。土曜日10時ね。待ってる。」
外まで見送ると言うみみを家の中へ押し戻した僕に、みみはバイバイと手を振った。
「鍵を掛けて、早く寝るんだよ。」
「はーい。累、また転んだりしないようにね。」
外はもう暗くなっていた。
「分かってるよ。おやすみ。」
「おやすみなさい。」
僕が出ると、ガチャ、みみはすぐ玄関扉に鍵を掛けた。
締め出された気分だけど、みみの安全を確かめた僕は、安心して帰途に就いた。
★お知らせ★
「累とみみ」ご愛読ありがとうございます。
現在「そうそうない」「暁と星」「乙女ですって」「縺曖」の執筆に追われ、「累とみみ」その他のシリーズ執筆が止まっていますm(T-T)m
話は出来上がっているのですが、書く時間が取れない為、しばらく休載致します。
mecuruに登録して下さった皆様、長らく更新せず、大変申し訳ございません。「累とみみ」の続きを書けましたら、ブログより先にmecuruにて(限定)公開したいと思います。「そうそうない」は引き続きmecuruにて毎日連載を続けますので、こちらもよろしくお願い申し上げます。
その他のシリーズ、哲・公子・真琴については現在連載中の作品の目途が付き次第、「累とみみ」と共に連載再開致します。
次週は「馮離 B面」更新予定です。
まだまだ寒い日が続きます。皆様、どうぞご自愛下さい。
sazanami
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