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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

暁と星 41 モヤモヤ

Posted by 碧井 漪 on  

暁と星41
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創作家の自分記録  



明日は、星良が三年間通った高校の卒業式。


アルバイトが出来るというだけではなく、学費がかからないからという大きな理由から選んだ公立高校。


特に思い入れなどないと思っていた。


勉強とアルバイト、家事までこなしていた忙しい高校生活の間中ずっと、星良は早く卒業して働いて、今より楽な暮らしをしたい、とそれだけを考えていた。


専門学校や大学に進学する同級生達を羨ましいとも考えないようにしていた。


けれど今、星良は一か月前まで知らなかった世界を知り、ゆったりと送れずに終わりを迎えようとしている高校生活を手離す事が急に寂しくなった。


星良は修学旅行にも行けなかった。学費はかからないとはいえ、修学旅行の費用は別だった。往復の飛行機代、宿泊・体験学習費、その他旅行に必要な物を揃えるとなると10万円にも及ぶ。


母には修学旅行の話を伏せ、旅行当日は学校で補習授業を受けた。

あの時は、クラスメイト達と旅行に行きたいとも思わなかったから良かったけれど、今は、それで何か、自分の知らない何かを知る事が出来たのだとしたら、行くべきだったとも思う。


ただ、あの時修学旅行に行きたいと思っていたとしても、旅費が工面出来なかったから、どちらにしても旅行には行けなかったでしょうけれど。


星良が知りたいと思った事は、同じ年の女の子達が、どんな恋をしているのかという事だった。修学旅行の夜にしたという『好きな人の話』。


教室に居ると、耳の端で捉える女の子達の恋の話。


今まで興味のなかったそれを、今の星良は沢山聞きたいと思っていた。


誰にも相談出来ない私の恋の話。


今日で終わってしまうこの気持ちを、誰かに話して、それで終わらせてしまえたらと星良は思った。


しかし、クラスの女の子達とは、ゆっくり話をした事もない。


それに、旺治郎と励の事も知らない。


突然、星良から恋の相談をされても、困るだけだろう。


旺治郎と励さんを知っている人───お屋敷で働く人か、並川さん。


それから・・・星良は「あっ!」と気が付いた。





朝と同じ場所で星良の帰りを待っていた車に乗り込んだ星良は、しばらくしてから、

「あの、旺治郎?私、先程から急に歯が痛み出したのですが。」と走る車の中で言った。


「歯、ですか?」


「ええ。」


星良は嘘を吐いた。虫歯の治療は終わっていて、痛みはない。


リューに会って、話したいが為の嘘だった。


ハンドルを握り、車を走らせたまま旺治郎は星良に訊ねた。


「どちらか、かかりつけの歯科医院はございますか?」


「リューさんの歯医者さんです。」


「リューさん?・・・並川さんのお知り合いの初音さまですか?」


「そうです。」


「詳しい場所をご存知でしたら、教えて下さい。」


「はい。」


星良は旺治郎に道案内し、車はリューの歯科医院に辿り着いた。


ガランとした駐車場に車を停め、車から降りた星良と旺治郎は歯科医院の入口に立った。


診療時間 午前9時~12時 午後15時~19時


休診中と書かれた札が掲示された歯科医院の入口の扉は、施錠されていた。


旺治郎は時刻を確認した。


12時20分を過ぎた所だった。


「いかが致しますか?一度戻り、午後、再び参りますか?」


星良を振り返り、心配そうな表情で訊ねる旺治郎に、申し訳ないと思った星良は、


「いいえ、痛みはもう治まりましたから、大丈夫です。」と、車へ戻ろうとした。


「明日、卒業式の最中に痛み出したら困るでしょう?夜には───」


そこで旺治郎は口を噤んだ。


明日の夜、蔵持家に呼ばれているが、まだ励から連絡がない事を心配しているのだろうと星良は思った。


私の縁談が調わないと旺治郎は困るから。


暁良ちゃんの許へ、一日も早く戻る為に。


分かってる。旺治郎は私みたいなお荷物のお世話なんて早く終わらせたいと願っている事も。だから一生懸命良くしてくれる事も。


私、甘えてた。


自分の事ばかり考えて。旺治郎の事を苦しまずに忘れるにはどうしたらいいかなんて、そんな事ばかり。


私が苦しくたって、旺治郎にも、励さんにも、並川さんにも、ましてリューさんにも、全然関係ない事だった。


甘え過ぎだわ。


私には時間がない。そう思えば、すぐに忘れるしかない事だった。


明日死ぬ、そう考えたら、今、ここに居る旺治郎を好きな気持ちをどうやって忘れようかと悩まなくていい。


忘れなくてもいい。あと少しで死んじゃうんだから、この苦しさは続かない。


ガチャッ、キイッ。


歯科医院の玄関扉が開く音がして、星良と旺治郎はハッと顔を上げた。


きゃっきゃっと談笑しながら出て来たのは、歯科医院のピンク色の制服に紺色のカーディガンを羽織った若い二人の女性だった。


二人は制服姿の星良と旺治郎に気付いた。


「何か御用ですか?」と髪の短い女性に訊ねられた旺治郎は、

「初音さまはいらっしゃいますか?」と訊ね返した。


「初音さま、って・・・」長い髪を後ろで纏めている女性は口に手を当て、笑いを堪えたように見える。


「先生なら中に居ますよ。お知り合いですか?」


「はい。」


「今、呼びますね。」


短髪の女性は、少し開けた扉の隙間に顔を入れると、「センセー!お客さまでぇす!先生の好きなイケメンさんですよー!」と叫んだ。


そして、旺治郎の方へ向き直った女性は、「多分すぐ来ると思います。」と言うと、隣に立ち、頬を染めて何か言いたげな長い髪の女性を促し、大通りの方へ歩いて行った。


星良は、歯科医院の扉の前で、中をじっと見据えて待つ旺治郎の横顔をちらちらと見た。


“イケメン”だって・・・


確かに、整った顔立ちをしている。古い丸眼鏡を外したら、モデルも出来そうな旺治郎。


鼻筋もスッと通って、鼻ぺちゃな私とは大違い。


暁良ちゃんはどんな顔をしているのだろう。私より美人だと諦めがつく。


また暁良と比べてしまった星良が溜め息を堪えた瞬間、キイッ、歯科医院の扉が開いて、初音が顔を出した。


「あら、旺ちゃんだったの。星良ちゃんも。」


「並川さんだと思われましたか?」


「思ってないわよ。だって、あの人はイケメンじゃないもの。あ、勿論、旺ちゃんはイケメンよー?」


初音の口調は、実年齢29歳、年相応の女性のものであったが、中学生にしか見えない容姿と合わせると、かなり違和感がある。


「私お昼まだなのよ。駅の方のお店に行って一緒に食べない?」


「実はですね、初音さま。星良さまは、先程から歯が痛くなってしまわれたそうなので、休憩中という事は重々承知していますが、どうにか診て頂く事は出来ないでしょうか?」


「歯が痛い?星良ちゃんが?」


初音は星良を見た。


星良は申し訳なさそうに俯いた。


「あらあら、かわいい旺ちゃんの頼みなら断れないわねぇ。いいわよ。その代わり、旺ちゃんにはおつかい頼んでもいいかしら?」


「はい。」


初音は旺治郎に駅地下の店のサンドイッチ三人分と紅茶、そしてケーキを買って来るよう頼んだ。


星良は休憩中の歯科医院に中へ通された。


当然だが、誰も居ない。


「どうぞ、座って。」初音は、裏のスタッフルームに星良を通し、背凭れのある椅子を勧めた。


通されたのが診察室ではない事で、星良が嘘を吐いた事を初音はお見通しである事が分かった。


「ごめんなさい、リューさん。」


「あら、何?いきなり。」


「歯が痛いというのは嘘です。」


「分かるわよ。一応歯科医ですから、と言うよりこの場合、一応星良ちゃんより年上の女ですから、と言った方がいいかしら?話って、旺ちゃんの事?でしょ?」


「はい・・・」


星良は明日、卒業式の後、励の実家へ行き、婚約者としてお披露目される事を初音に話した。


「ふうん、それで?」


「あの、私、どうしたらいいのか分からなくなって・・・」


「どうしたらいいも何もないじゃない。励くんと婚約を決めたのは星良ちゃん自身でしょ?私から言う事は何もないわ。」


星良は初音に突き放されたと感じた。


今日のリューさんは冷たい。


だけど確かにそう。婚約は私が決めた事。


旺治郎の事を好きなまま、励さんと婚約して結婚する。


それがいい事なのか、悪い事なのか、分からないとしても、私以外の人には関係ない事。


リューさんに相談して、何て言って欲しかったのか、私にも分からない。


ただ、モヤモヤしている。そして焦っているのは確か。


あと少しで、旺治郎と離れてしまう事に。


時は止められない。


私は旺治郎と離れ、励さんと結婚する事になる。


認めたくなかっただけなんだわ。


どちらを?


両方かもしれない。


沈み込んだ星良を見兼ねた初音は、

「旺ちゃんにきちんと”好き”と伝えたの?」と星良に訊ねた。


星良は黙って首を振った。


「言っちゃえばいいのよ。どうせ旺ちゃんはお屋敷から居なくなるんでしょう?振られたって、気まずくならないじゃない。バイバーイって見送るだけ。」


「そう、ですね・・・でも、言わなくても、もう分かってますから。」


「分かってるって何が?」


「旺治郎の好きな人は暁良ちゃんです。」


「あー、暁良ちゃんね。うんうん。」


「ご存知ですか?どんな人ですか?」


「そうねぇ。かわいいけど、不器用な子かな。」


「かわいいけど、不器用・・・?」


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碧井 漪

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