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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

乙女ですって 207 (R-18) 一夜

Posted by 碧井 漪 on   2 

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長編小説、ノベルシリーズ


菜津子は、暗くした部屋の窓から夜空を眺めていた。


その手の中には、隆人が買って、取りに来ないトパーズのリングネックレスが握られていた。


菜津子が連絡すると言って、母から預かっているが、まだ隆人に連絡出来ずにいた。


隆人の引っ越し先の住所は、総務に異動した加集に訊いて知っている菜津子は、そのリングを宅配便で送る事も、直接届けに行く事も出来るが、何故か躊躇していた。


これを隆人に送り届けてしまえば、菜津子との縁が完全に切れる───それが分かっているからだった。


ブブブブブ、ブブブブブ・・・机の上に置いた菜津子の携帯電話が振動した。


知らない固定電話の番号だった。


手に取って、「はい」と出ると、

『菜津子さんですか?』知らない男性の声で訊ねられた。

何だろうと思い、「はい・・・」こわごわ返事をすると、

『安藤隆人さんをご存知ですか?』と男性に告げられた。


「はい。」


もしや、隆人の身に何かあったのかと、菜津子は携帯電話を握り締める手に力を籠めた。


『私、SNホテルのバーのバーテンダーをしている者ですが、今、安藤さんはこちらのバーであなたの名前を呼びながら、酔って眠ってしまわれました。スマホの発信履歴を見てかけています。もうすぐ閉店ですので、お迎えに来て頂けないでしょうか?』


SNホテル、それは隆人との想い出があるホテルだった。


どうして隆人さんがSNホテルに・・・この街に隆人が戻って来ている事を知らなかった菜津子は驚いたのと同時に、舞の事を思い浮かべた。


お迎えにという事であれば、私ではなく舞さんの方が───


しかし、菜津子の名を呼んでいたと聞かされた事もあり、そんな状態の隆人を身重の舞に迎えに行かせるのは良くないのではないかと考えた菜津子は、

「すぐに向かいます。」と電話を切った後、商店街の傍にタクシーを呼び、急いで着替えると、玄関からそっと外に出た。


そして家の近くに到着したタクシーに乗り、SNホテルへ向かった。






隆人はSNホテルのバーで酔い潰れていた。


菜津子は突っ伏して眠る隆人の近く、バーカウンター内に立つ男性に声を掛けた。


「先程、こちらのお店からお電話を頂きました、綱島菜津子と申します。あの・・・安藤隆人がお世話になりました。」


「はい、お待ちしていました。当店はもうすぐ閉めさせて頂きますので、恐れ入りますが───」


「はい。」


菜津子は隆人を起こすのを躊躇ったが、このままここにこうして置けないと、

「隆人さん、隆人さん、起きて下さい。」隆人の肩を揺すったが、どうしても起きなかった。


「私共も何度もお声を掛けさせて頂いたのですが、このご様子で。いかがなさいますか?よろしければ、お部屋をご用意致ししますが。」


菜津子は考えた。このまま隆人を舞の待つマンションへ菜津子が連れて行く事は出来ないと。


ならば隆人には、このホテルに泊まって貰うしかない。


それに、こんな時間に一人でバーで潰れるまで飲むという事は、舞と何かあっての事かもしれない。


「お願いします。」菜津子はバーテンダーに頼んだ。


フロントへ連絡したバーテンダーは、受話器を抑えながら菜津子に訊ねた。


「今夜ご用意出来るのが、ダブルルームのみとなっております。それでもよろしいですか?」


「はい。お願いします。」


やがて案内スタッフが二人やって来て、隆人を用意した部屋まで運んでくれた。


「では、ごゆっくりお休み下さい。」


「ありがとうございました。」


廊下に立つ二人のホテルスタッフに深々と頭を下げた菜津子は、部屋のドアを閉めた。


ベッドに寝かされた隆人は、よく眠っている。


隆人さん・・・


久し振りに見た隆人の様子は、少しやつれて、あまりしあわせそうに見えなかった。


菜津子はベッドに腰を下ろし、乱れて額に掛かる隆人の前髪をそっと直した。


どうして私の名前を呼んでいたのですか?


隆人さん、こんな形で再会するなんて───


菜津子の胸はどきどきと高鳴っていた。


最近は穏やかになって来ていた隆人への想いが、再び激しいものになるのが怖くて、早くこの場から立ち去ろうと考えるのに、体が言う事を聞かなかった。


目を開けて下さい。私はここに居ます・・・いいえ、やはりこのまま眠っていて下さい。


菜津子の頬を涙が伝った。


ぽたり、ぽたり、ベッドの上についた手の甲に、滴るしずくを見た菜津子は慌てて涙を拭い、キシッ、マットレスを軋ませ、ベッドから降りた。


その瞬間、菜津子の右手首は、後ろから伸びた隆人の手に捉えられた。


ベッドから、まだ腰を上げていなかった菜津子がゆっくり振り向くと、頬に赤さの残る隆人の顔が見えた。


隆人は目を開けて、菜津子を見ている。


「隆人さん・・・」


「菜津子?この感覚、夢ではなく、本物の君?」


「はい。隆人さんはこのホテルのバーで眠ってしまわれたんです。お店の方から連絡を頂いて、勝手にお部屋に運ばせて頂きました。」


あの日と同じ・・・それを思い出しながら、菜津子と隆人は視線を交えた。


「どうして君に連絡が行ったんだろう?」


「それは、分かりませんけれど・・・」


「とにかく、申し訳なかった。」


「いえ・・・今、お水をお持ちします。」


菜津子は立ち上がろうとした。しかし、隆人は菜津子の腕を離さず、逆に強く引っ張って、菜津子の体をベッドの上に倒した。


「隆人さん!」


「ずっと、君にこうしたかった。離れている間、苦しくて、このまま死にたくないと思った。死ぬ前に、もう一度だけ君を抱きたいと願った。まさか今夜、叶うとは思わなかったけれど・・・」


隆人は仰向けにした菜津子の体の上に跨った。


そして、両手首を押さえ付けた菜津子の首筋に唇を落とした。


「や、めて下さい!隆人さん!このような事、いけません!」


「どうして?俺も君もまだ独身なんだから、いけない事はないよ。」


菜津子は隆人に押さえ付けられている手首を何とか振り解こうと試みたが、ビクとも動かない。


隆人の目は据わっていた。


「安藤さん!」菜津子は大きな声を出した。


一瞬目を丸くした隆人に向かって菜津子は「しっかりして下さい!」と叱咤した。


「菜津子・・・」


「私の事を好きなら、こんな風に抱こうとなさらないで下さい。」


"好きなら"という菜津子の言葉が隆人の胸を衝いた。


「菜津子。」


「今夜の隆人さんは最低です。離して下さい!」


菜津子にキッときつい視線を向けられた隆人は、ようやく我に返ったように、押さえ付けていた菜津子の両手首を解放した。


「ごめん・・・手首、赤くなってしまった。」


「大丈夫です。」


菜津子の上から退いた隆人は、ベッドの上に座り込むと両手で顔を覆った。


「ちょっと、色々あって、気持ちの整理が付かなくなって・・・情けないよ。」


菜津子は黙ってベッドから離れ、冷蔵庫の中から、ミネラルウオーターのボトルを取り出し、それを隆人に差し出した。


「お水です。飲んで下さい。」


隆人は菜津子に言われた通り、受け取ったボトルの水を飲んだ。そしてそのまま、菜津子と視線を合わせる事が出来ずといった風に、項垂れていた。


この部屋にこんな状態の隆人を一人残して立ち去ったら、菜津子はずっとずっと後悔すると思った。


舞に言えない夜になってしまうとしても、今夜だけは、隆人を独りにしたくないと強く感じた。


「私・・・ここに泊まってもよろしいですか?」


「えっ?」隆人は驚いて、顔を上げ、ようやく菜津子と視線を合わせた。


「ただ、お隣で眠るだけですけれど、それでもよろしければ。」


「あ、うん、勿論。君が構わないなら。」


「では、失礼致します。」


菜津子は反対側に回り込むと、布団を捲り、ベッドの中へ入ると、眼鏡を外して枕元に置いた。


隆人はしばらくの間、信じられないという表情を浮かべたまま、ベッドに横たわった菜津子の顔を見ていた。


それに気付いた菜津子は、「隆人さんは眠らないのですか?」と訊いた。


「寝る。」そう言って隆人は掛布団を捲り、ベッドに潜り込んで、菜津子の隣で天井を仰いだ。


「灯かり、少し落とすね。」


ベッドサイドに手を伸ばし、照明を暗くした隆人は、改めて隣に横たわる菜津子の横顔を見つめた。菜津子は静かに天井を見つめていた。


夢みたいだが、夢ではない。菜津子が俺の隣に居る。


ベッドに横たわった俺のこの手を伸ばせば、触れられる程近くに菜津子が居る。


幻影なんかではない、正真正銘本物の菜津子が。


どきどき、どきどき、どきどき・・・隆人の心臓は、酔いが回った時よりも強く速く動いていた。


ああ・・・君といる時だけだ。僕の心がこんなにときめくのは。


君はやはり俺の運命の人。


ただ、こうして同じ時を一緒に過ごしているだけで満たされる。


しあわせだ。俺は。君と一緒なら、いつまでも、どんな事をしてでも生きて居たいという力が湧く。


君がそうではないとしても、俺は、君が傍に居てくれるだけでしあわせなんだ。


「夢でもいい。このまま時が止まればいい。永久に。それが無理なら、今すぐこの場で死にたい。」


「いけません。死なないで下さい。絶対に。」


菜津子は布団の中で手を伸ばし、隆人の手を探り当てた。そして、きゅっと握った。


あたたかい、菜津子の手はいつもあたたかくて、やさしい。


「うん。死なないよ。」


「少し眠って下さい。私も眠ります。」


「うん。」


ようやく落ち着きを取り戻して来た隆人は、そっと目を閉じた。


君の手、君の体温、君のやさしさに包まれて、俺は今、とてもしあわせだ。


菜津子は隆人が眠るまで傍に居た。


「愛しています。あなたがどこに居ても、誰と過ごしても、私はあなたのしあわせを祈っています。でも・・・」


さようなら、と呟きながら、涙を堪えた菜津子は、眠る隆人の唇に唇を重ねた。


今、あなたがその目を開いたら、私は、私の知るすべての事をあなたに打ち明けてしまいそうです。でも・・・


菜津子が隆人に、舞のお腹の中の子の父親は隆人ではないと打ち明け、そして菜津子のお腹の中には隆人の子がいると告げれば、事態は一変してしまうだろう。


隆人はすぐにでも舞と別れ、菜津子と結婚すると言うに違いない。


隆人も菜津子も、そして菜津子のお腹の中の子もしあわせになれる───しかし、菜津子はそれをどうしても隆人に告げる事が出来なかった。


舞と舞のお腹の中の子がどうなってしまうか分からなかったからだった。


隆人が舞のお腹の中の子が自分の子ではないと知ってしまった事をまだ知らない菜津子は、どうしてもその事実を自分の口から隆人に告げる事が出来なかった。


これでいいと思わなければなりません。ただ、心配なのは───


『死ぬ前にもう一度』


菜津子は隆人が”死”を考える程、追い詰められていた事を知って、大きなショックを受けていた。


私があなたをよくない方向へ導いてしまったのかもしれません。はっきりお別れを告げられなかった事、リングネックレスを見つけた時にすぐ連絡しなかった事。


あなたが苦しんでいる間、ずっと私は何も出来ませんでした。


今も私は、あなたの心を慰める事も、あなたに愛していますと伝える事も、何一つ出来ない無力な人間です。


この世界から消えるべきなのは私です。


この子が居なければ、私はそうしていたかもしれません。


あなたから授かった大切な命。


今とこの先、私の生きる意味は、これだけで十分です。


「さようなら。」やっとあなたに言えました。


さようなら、愛してるの代わりに、あなたに告げられる言葉。


溢れる涙を拭った菜津子は、隆人を残し、夜明け前に部屋を出た。





「ん・・・?あれ、ここは。」


朝になって目醒めた隆人は、手の中にある物を握っている事に気付いた。


「これは、トパーズのリングネックレス。俺が君に贈ろうとしたネックレスだ・・・まさか、菜津子!」


急いでベッドから起き出した隆人はバスルームを覗いた。しかし菜津子は、部屋のどこにも居なかった。


「菜津子、これが君の答えなのか?」


力なくベッドに腰を下ろした隆人は、ランプの点滅するスマートフォンの下に、折り畳まれた小さな紙を見つけてそっと開いた。


【あなたはしあわせになれます。私はそう信じています。】


隆人はメモを残して、またしても菜津子が自分を置いて帰ってしまった事に酷く傷付き、落ち込んだ。


【しあわせ】って何なんだ?いつもこうして一人、惨めに取り残される事か?


もう、誰も信じられない。


舞も、菜津子も、自分自身も───


俺は、誰からも必要とされなくなった人間なんだ。


もう、何も期待してはならない。願いは叶わない。どんなに頑張ったって、俺は【しあわせ】にはなれない。


失意のまま隆人は、その日の内に異動先の街へと一人、帰って行った。


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碧井 漪

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2 Comments

says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2017.10.01 18:06 | | # [edit]
sazanami says..."Kさま ありがとうございます。"
二人の運命はどうなっているのか・・・考えていた展開にならなくなって来て、書きながら「えっ?!Σ( ̄□ ̄;)」と、なってしまった今日この頃。

キャラクター達に委ねて書いてしまうからかもしれません。

隆人が、しあわせになろうと思った時、進む方向が変わる気がします。それはまだもうしばらく先かもしれませんので、頑張って書いて辿り着きたいと思いますm(__)m

ありがとうございます\(^^)/

2017.10.03 07:14 | URL | #- [edit]

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