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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

暁と星 40 あなたを忘れる日

Posted by 碧井 漪 on  

暁と星40
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眠れない夜、星良はロイに借りた詩集を読んだ。


恋の詩。


今なら少し解る。この気持ちが。


旺治郎を見る度、感じる事。


これは恋なのだと、私以外の誰かが認めてくれたとしても、この恋は私の胸の中に収めて置くしかないもの。


だから苦しい。


それでも、吐き出して壊してしまう事が出来ない。


2月28日。私は18歳になる。

誕生日翌日の3月1日、高校の卒業式の後、蔵持家の晩餐に呼ばれている。


その席で、私と励さんの婚約が蔵持家の親戚縁者の前で発表されるという。


励さんの事は、少しずつ、好きになっている。


毎日会社に通う真面目な面もある事を知った。


冗談を言って笑わせてくれたり、ちょっとだけと、抱き締めてもくれる。


お兄ちゃんが居たら、こんな感じかもしれない、そう思う。


励さんと居てもどきどきしないから疲れない。


旺治郎とは・・・このお屋敷に戻ったあの日から、目も合わせられない。


言葉も交わせない。


時々、早くこのお屋敷から居なくなってしまえばいいと思ったりもする。


だって、苦しい。


いつまたあなたに会えなくなるのか、その日の事を考えると、胸が張り裂けそうになる。


行かないで、なんて思ってても言えない。


旺治郎は暁良ちゃんの許へ、私は励さんとこのお屋敷で暮らす、それが運命。


並川さんは、あのクスリで運命を変えてしまえばいいと言うけれど、私にそんな勇気はない。


もしもあのクスリで旺治郎のココロを操っても、それは私の欲しい気持ちではないから。


私なんて、旺治郎に好きになって貰える筈がない。断られると分かっていて、告白なんて出来ない・・・


待とう。このまま、旺治郎が私の前から消える日を。


さようなら、と笑って言えるようになろう。






2月27日、星良は励と一緒に朝食を食べている時だった。


先週から卒業式の練習で高校に通学している星良は、今朝も励の車で学校まで送って貰う予定だった。


しかし───


スーツの内ポケットに入れてある励の携帯電話が鳴り出した。


取り出して画面を見た励は「ちょっとごめん。」と席を立ち、食堂を出て、廊下で電話していた。


星良は励の事が気になりながらも、旺治郎がドアの脇に控えて居る為、振り返れずにいた。


もぐもぐもぐ、千切ったバターロールの残りを口に押し込み、旺治郎の淹れた紅茶で流し込む。


なるべく香りを嗅がないように。


旺治郎を意識しないように、こくり、ぬるくなった紅茶を飲み干した星良は「大変だ!」とドアを開け、慌てた様子で食堂に戻って来た励を振り返った。


途端、こちらを真っ直ぐ見つめる旺治郎と視線が合った。


星良はどきりとしながら、慌てる励の方を見る。


「励さん、どうなさったのですか?」


星良の丁寧な言葉使いも大分(だいぶ)板に付いて来た。


「大変だ・・・兄貴が駆け落ちした。」


「え?かけおち?」


かけおちって、何だったかしら・・・と星良が考えていると、


「まずいな・・・まずいよ。」と励が口に手を当て、固まった。


「励さん?」


状況が把握出来ない星良に代わって「蔵持さま、そろそろ御出勤のお時間ですが。」励に声を掛けたのは旺治郎だった。


「ああ、分かってる。でもそれどころじゃ・・・とにかく俺は実家に行かなくてはならなくなった。もしかすると今日は帰って来れないかもしれない。星良、悪いけど学校へは執事に送って貰え。執事、星良に変な事するんじゃねーぞ?」


「励さん、大丈夫ですか?」


「ああ、何とかするから、星良は心配しないで学校に行って来い。明後日、卒業式だろ?仕事抜けてこっそり見に行こうと思ってたけど、もしかすると難しいかもしれない。ごめんな。」


立ち上がった星良の頭をやさしく撫でる励は、やっぱりお兄ちゃんのようだと星良は感じた。


そして励が卒業式に来ようと考えていてくれた事を嬉しいと思った。


「私の事はいいの。それより励さん、気を付けて。」


「ああ、ありがとう。それじゃあ。おい執事、星良の事、頼むな。」


「はい。いってらっしゃいませ。」


「うん。」


励は手を振ると、サッと食堂を後にした。


「お食事はお済みでしょうか?」


「はい。」


「では、学校までお送りいたします。」


「・・・はい。」


星良は旺治郎の運転で学校へ行く事になった。


星良は後部座席から、運転する旺治郎のハンドルを握る手を見ていた。


白い手袋、見た事ある。駅前に停まっているタクシーの運転手さんがしていたのと同じ。


励さんは会社員、旺治郎のお仕事は執事?


いつからなんだろう。


私の縁談が調ったら、お屋敷を去るという事は聞かされている。


という事は、元々はどちらかのお屋敷の執事で、私の縁談を調える為だけに、一時的に並川さんに、このお屋敷に連れて来られた・・・とか?


だとすると、私の前に仕えていたのは暁良ちゃんという事になる。


暁良ちゃんのおうちは、うちと違ってお金持ちだったのかしら・・・そうよね、賓海家・・・でも、どうしてお祖父さまと一緒に暮らしていないのかしら?


うちのパパとママは結婚を反対されて、それで───かけおちしたって・・・


そうだわ、”かけおち”って、周りに結婚を反対されて、それでもと押し切って家出をして結婚してしまう事?で良かったのかしら?


励さんのお兄さんが”かけおち”なさったのか分からないけれど、もしもそうなら、励さんのおうちは今、大騒ぎになっているかもしれない。


「星良さま、大丈夫です。」


「え・・・?」


「蔵持さまのおうちの事は、ご心配なさらずに。」


「はい・・・」


そう返事をしても、やっぱり気になってしまう。


「着きましたよ。帰りも迎えに来ます。こちらでお待ちしています。」


学校の近くで車を停めた旺治郎は、車を降り、後部座席のドアを開けた。


星良が降りやすいようにと手を差し出す。


その手を借りるか迷った星良は、旺治郎の手を握らず車から降りた・・・途端、よろけ、旺治郎の肩に頬をぶつけた。


前のめりになった星良の体を支える旺治郎の吐息が、星良の耳を掠めた。


どき、どきどき・・・


だめ、心臓の音が旺治郎に聞こえてしまう。


鎮まって、お願い。


「お気を付けて。」


旺治郎は、掴んでいた星良の腕をするりと離した。


「ありがとう。」


星良は旺治郎と視線を合わせずそう言うと、正門へ向かって歩き出した。


頬が熱い。胸もどきどき鳴っている。


どうしてあなたにだけ、こんなにもどきどきしてしまうのだろう。


あなたが好きです。


どうしようもなく、好き・・・だけど、それはあと二日で終わる。


今日と、明日で、この胸の痛みともお別れ。


明後日になったら、私はあなたを忘れる。


正門を潜り抜けた星良は、涙を堪え、唇を噛み締めた。





翌日、2月28日は星良の18歳の誕生日。


「グッモーニン、星良ちゃん。お誕生日おめでとう!」


並川が現れたのは、星良が旺治郎と玄関を出る時だった。


ピンクの薔薇とカスミソウの花束。束ねている大きな赤いリボンがヒラヒラと風に揺れる。


「ほら、早く受け取ってよ。」


「あ、ありがとうございます・・・」


一体、どういう風の吹き回しだろう。


いつも以上に、にこにこと機嫌の良い並川を見た星良は、何だか嫌な予感がした。


「何、その顔。どうせ貰うなら、僕よりオウジから貰いたかったわって顔?」


「い、いいえ!」


「だってさ、オウジ。今日も励さんは戻って来られないみたいだから、お誕生日は今夜、オウジに祝って貰ってね。」


「励さんのおうち、大丈夫なのですか?」


卒業式は明日。その後、婚約披露パーティーを蔵持家で行う段取りになっている。


けれど、ゆうべも今朝も励からの連絡はなかった。


「ま、大丈夫でしょう。」


星良も旺治郎も、のほほんとした並川の返事に、却って心配を募らせた。


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碧井 漪

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