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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

乙女ですって 206 (R-18) すべてを失った男

Posted by 碧井 漪 on   4 

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翌日、隆人は舞の入院する病院近くの洋菓子店でプリンとシュークリームを三個ずつ買った。そして病院前の花屋でミニブーケを買って病院の面会受付に行くと、丁度午後一時半だった。


面会者名簿に名前を記入すると、首から提げるカードホルダーを手渡された。


【面会者 015】


三階の病室に行く前、ちらりと見える新生児室。


ガラス張りの部屋の中には小さなベッドが並べられ、生まれて間もない赤ちゃんが並べられていた。


小さいなあ・・・隆人は階段で足を止め、しばし見とれた。


顔をくしゃくしゃにして泣き声を上げる赤ちゃんは、小さな体にも拘わらず、大人より生命力に満ち溢れていて、何だかキラキラと眩しかった。


舞と俺の子もあんななのかな。


そういえばまだ予定日も聞いてなかった。

そろそろ確定する頃じゃないのか?


後で担当医に訊いてみよう。出産予定日はいつですか、と。


その時は仕事を休んで、こっちに戻って来た方がいいだろう。


それと、今回の退院。


連休中はこっちに居るつもりだが、連休後の退院となるなら、その日まで数日会社を休もう。


あっちに行っても、仕事という仕事はない。あったとしても、俺じゃなくても出来る仕事ばかりだ。


隆人は三階の舞の病室前に立った。


昨日、木南さんに言われた事は一旦忘れて、舞の事は責めずに、舞の考えを受け入れよう。


今は、生まれて来る赤ちゃんの為にも、舞が心を穏やかに保てるように───


「何で来たのよ。今日は絶対に来ないでって言ったでしょう?ゆうべ電話したじゃない。」


病室の中から漏れる舞の剣幕に驚いた隆人は、思わずドアをノックする手を止めた。


え?『ゆうべ電話』?


隆人は慌てて上着のポケットから取り出したスマートフォンを操作し、着信履歴を確かめた。誰からの着信もない。


「はながママに会いたいって聞かないから。それに、いい機会だから、俺も彼と話した方がいいと思って。」病室の中から男性の声がした。


「彼と話すって何を?」


舞は一段とヒステリックな声で、病室内に居る男性、おそらく前の旦那さんで、はなちゃんのパパと思われる人に向かって訊いた。


「お腹の子の事。その子は俺の子だ。再婚しても戸籍上、俺の子となる。」


「だから何?あなたが産むなって言った子よ?もう関係ないじゃない。」


「彼、安藤さんだっけ?知ってるの?俺の子だって知った上で舞と結婚してもいいって?」


「あ、当たり前じゃない。あなたと違うのよ。彼はやさしいから、この子を殺すなんて絶対言ったりしないわ!」


な・・・に・・・?


『俺の子』って、舞のお腹の中の子は、前の旦那さんの子なのか?


え・・・それはどういう───


隆人の頭の中で、今までの事がぐるぐると渦になり、眩暈を起こしそうになった。


あの晩、確かに俺は舞に襲われてセックスしてしまった。


けれど、その時すでに舞は妊娠していて、今、舞のお腹にいる子と俺は全く関係がないと言うのか?


どういう事だ?


舞が妊娠したから、俺は菜津子と別れる事になったのに、舞が俺の子を妊娠したと言うのは嘘で、菜津子と別れた事は無駄だったと言うのか?


「安藤さんは、生まれて来るその子の事、大切にしてくれるんだろうな?」


「決まってるでしょ。はなを預かって貰ってる事は感謝してるけど、もし、彼に会っても絶対に余計な事は言わないでよね。今月中に彼との婚姻届出すんだから。分かった?」


「舞・・・そんな事やめて、もう一度、俺とやり直さないか?」


「何言ってんの?この子の事、殺そうとしたくせに。」


「あの時は悪かった。余裕が無くて、今もだけど、でも舞とはなが居なくなって気付いたんだ。俺は苦しくても、一人じゃなかったから頑張って来れたんだって。今は正直張り合いがない。同じ苦労でも、家族が居るのと居ないのでは全然違うって事、知らなかったんだ。」


「今更・・・遅いわよ。戻った所で、またお金の事で喧嘩して別れるのがオチよ。私はあなたの所には戻らない。はなとこの子の為にも彼と再婚してあのマンションで暮らすのが一番いいの。」


「舞・・・」


「帰ってよ!早く!彼が来る前に。下で、はなも待ってるんでしょう?」


「分かったよ。」


ハッとした隆人は、咄嗟に向かいの病室の見舞客を装い、背を向けた。


カラカラカラ、ドアを開いて出て来たのは、痩せこけてひょろりとし、頭も薄く、目がしょぼくれて表情もパッとしない猫背の男だった。


あれがはなちゃんの父親か・・・怖そうなタイプではない。どちらかと言うと幸薄そうな人に見える。


とぼとぼ歩く男の後を付いて行くと、一階にある待ち合いのキッズスペースに辿り着いた。


「はな、帰ろうか。」


「パパ!」


積み木で遊んでいたはなちゃんは、男が声をかけるとパアッと表情を明るくさせ、駆け寄った。


後ろのベンチに腰を下ろしていた木南さんも立ち上がり、「どうでした?」と男に訊いた。


「うん・・・まあ、断られたね。」


「そうですか。」


「仕方ないよ。舞は言い出したら聞かないから。」


「でも、今回の事、私もゆうべ聞いて、友達やめようかと思いました。」


「そんな事言わないでやって。元々は俺が悪いんだから。」


「けど、このままだと、みんなしあわせになれない気がします。はなちゃんも赤ちゃんも、舞自身も。」


隆人は壁の陰に隠れて二人の会話に聞き耳を立てていた。


「どうしてこんな風になっちゃったんだろうな。」


隆人は、男が溜め息と共に吐き出した言葉に共感した。


病院の玄関ではなと男を見送った木南の背後に立った隆人は「木南さん。」と声をかけた。


「ひゃっ!」


大きく肩を揺らし、おそるおそる振り返った木南は、隆人の姿を見て、さっと顔を青くした。


「あ・・・安藤さん。いついらしたんですか?」


「今だよ。あのさ、悪いけど急用を思い出したから、これとこれ、舞に渡しておいて。」


隆人は木南にミニブーケとシュークリームの入った箱を手渡した。


「え、ええ、はい。」


「それじゃあ。」隆人は、首から取った面会者の札を、受付に返却した。


「あのっ・・・安藤さん!」


何か言いたげだった木南を振り返る事なく病院を出た隆人は、はなと手を繋いで歩く男の後をこっそりつけた。


はなを連れた男はバスに乗り、終点に近い停留所で降りると、公営住宅団地へと入って行った。


古い団地だ。ここに住んでいるのかな。


「あっ、パパ!あのすべりだいしてもいい?」


「いいよ。ちょっとだけな。」


「うん!」


団地の敷地内にある小さな公園に、その親子は入って行った。


ベンチに事を下ろした男に近付いた隆人は、「あのう、はなちゃんのパパですか?」と声を掛けた。


男はビクリとして、隆人を見上げた。そしてすぐ、腰を浮かせ、滑り台の上で手を振るはなへ視線を向けた。


「怪しい者ではありません。安藤と言います。以前、伏見舞と結婚していた者です。」と名乗ると、

「あ、ああ・・・あなたが安藤さん。」と男は肩の力を抜き、浮かせた腰を再びベンチに下ろした。


「隣、いいですか?」


「どうぞ・・・・・・あの、どうしてここに?」


「すみません。病院からつけて来ました。」


「全然気が付きませんでした。」


「実は、病室であなたと舞の話を聞いてしまい、それで・・・」


「そうでしたか。」


男は動じる様子もなく、視線を地面に落としたまま「それで、安藤さんはどうします?舞と再婚しますか?」淡々と言った。


「わ・・・かりません。」


突然聞かされた話。まだ本当かどうか、舞にも確かめていない。


けれど、多分本当だろう話。


舞のお腹の中の子は、この人の子で、この人と血が繋がっている。俺ではない。


それなのに、舞は全然関係ない俺に嘘を吐いたまま、再婚しようと言っている。


仮に俺が騙されたまま舞と再婚した場合、この人とはなちゃん、そしてお腹の中の子は引き離される。実の親子がバラバラになり、関係ない赤の他人の俺と家族になる。


それは何だか違う気がして来た。


この、俺より寂しそうに見える男を、何だか放って置けない。


「俺が言うのも何ですけど、舞とはなと、これから生まれる子の事、よろしくお願いします。」


男は両腿の上に手を乗せて、隆人に頭を下げた。


「い、いやいやいや、そんな、諦めてどうするんですか。」


「え?」


「舞と、はなちゃんと、生まれる赤ちゃんは、あなたの家族でしょう?あなたがしっかりしなくてどうするんですか。あなたがしあわせにするんです!」


「そうは言っても・・・さっき舞にも言われましたけど、金が無いんです。出産費用も工面出来なくて・・・」


「出産費用は僕が出します。他にも必要ならいくらか都合しますから、あなたは、舞とはなちゃんと赤ちゃんを守らなくては駄目だ。」


「安藤さん・・・あなた、いい人ですね。やさし過ぎる。」


隆人は、男の『やさし過ぎる』という言葉に慰められるどころか、却って心を抉られた。


やさしい───それが徒(あだ)になるなんて。








夜の街を、隆人は当てもなく彷徨い歩いた。


何もかも無くした気分だ。


仕事も、家も、家族も、愛も全部。


はなちゃんのパパが寂しそうに見えただって?


俺の方が寂しいよ。だって、家族が居ない。一人も。


彼の方がしあわせだ。はなちゃんと舞と、これから生まれて来る子と四人で暮らす事になるのだろうから。


こんな俺は、情けなくて、みっともない。


君に会いたいけれど、今の俺の姿は見せたくない。


どこへ行こうか。


誰からも必要とされなくなった俺は、どこへ行ったらいいのだろう。


誰か、教えてくれないか。


俺は、俺は、このまま独りで死んで行った方がいいのかな・・・・・・


孤独だけは捨てる程あるのに・・・それがあっても、誰の愛も得られない。


ああ、叶うなら、あの星になって、菜津子をずっと見守って居たい・・・・・・

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碧井 漪

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4 Comments

says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2017.09.24 15:46 | | # [edit]
sazanami says..."Kさま ありがとうございます。"
そうですよね。星って晴れた夜にしか見えませんよね。


隆人が本当に星になって見守ったら、菜津子が泣いていても慰められず、歯痒い思いをするのではないかと思います。


ラストまであともう少し・・・φ(?-?;)?このまま二人は別々の道を歩むのか、どうか・・・



そして【お詫び】です。携帯版テンプレートのメニュー表示がおかしくなっている(らしい?)事に気付きました。こちらでは特に弄ってはいませんので、FC2ブログの仕様だと思います。(ソースを見ましたがどこが悪いのか分かりませんでしたm(_ _)m)
リンクなど使えなくなっていましたら、PC版でご利用下さい。申し訳ございません。
2017.09.25 20:52 | URL | #- [edit]
says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2017.09.26 21:09 | | # [edit]
sazanami says..."Kさま ありがとうございます。"
モヤモヤ・・・どうなるのか、自分も知りたいです・・・φ(^^;)コノサキヒドイテンカイニナルノデ、気モ、手モ進ミマセン…(T▽T;)レンサイキュウシスルホド"アレ"ナテンカイニナルヨテイデシタノデm(__)mイマカラオワビヲ…

他の展開を考えられたらそっちに逃げたい位ですが・・・コメントを糧にまだまだ頑張れそうですm(*^^*)mアリガトウゴザイマス。
2017.09.27 21:02 | URL | #- [edit]

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