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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

乙女ですって 205 (R-18) 知らなかった事

Posted by 碧井 漪 on  

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恋愛小説(オリジナル)


19時過ぎ、賞味期限の切れたカップラーメンを食べ終えた隆人は、再び舞に電話してみた。


しかし、舞はどうしても電話に出ない。


メールも送ってみたが、返信はなかった。


あと少し待ってみよう。


ソファーに腰掛けながら、隆人はスマートフォンを弄っていた。


電話帳を開き、舞の行き先を知って居そうな人を探すが・・・


舞の友人は知らない。親しくしていた同僚も殆ど辞めたと聞いている。


離婚してから随分経った。舞が今誰と付き合っているのか、そういった事もまるで知らない。

舞が再婚し、再び離婚に至ったはなちゃんの父親の事も何も知らない。


俺は、いくら子どもが出来たからと言って、このまま舞と結婚しても、上手くやって行ける自信なんてない。


舞も同じじゃないだろうかと思う。だから俺に付いて来なかった。一緒に暮らしても、また壊れるんじゃないかって、きっと思って居たんだろう。


離婚して、行く当てが無くなって、仕方なく俺の所へ来て、それであんな事をして、妊娠して・・・俺が異動になって、だけど俺に対して愛情なんかなくて・・・本当は、俺と一緒に暮らしたかったんじゃない。誰でも良かったのかもしれない。俺じゃなくても、頼れるなら誰でも。


そういう風に考えられる舞を、少し羨ましいと思った。


俺も誰でもいいと思えたら楽なのに。


君の事ばかり考えてしまう。


俺を、いつも俺を大切にしてくれた君の事ばかり・・・


でも今の君は違う、俺の事なんて考えていない・・・そう思いたい俺と思いたくない俺がいる。


会わない方がいい。それは分かってる。何度も言い聞かせた。それでも、会いたい。


『二度と、お会いしたくありません』


君の口からその言葉、直接聞きに行こう。


隆人はジャケットを羽織った。


灯かりを消し、玄関で靴を履いた瞬間、

ガチャ、ガチャン!

外から鍵が開けられた。


「舞?」


ガチャッ。


開いたドアの外には、女性が立って居る。


その女性は俺を見るなり「きゃあっ!」と驚いた声を上げた。


「え?誰・・・」


「安藤部・・・安藤さん、帰ってらしたんですか。」


俺の名前を知っている女性、一瞬だけど部長と言い掛けた、という事は、碧易商事の社員か?


でも誰だか分からない。


「あの、君は?」


「あ、私、総務経理課室の木南です。舞とは同期で。」


総務経理課室と言われ、ドキリとした。菜津子が勤務する部署だ。


キナミ・・・木南?聞いた事のある名のような。


「舞は居ないよ。出掛けているみたいだ。連絡も取れなくて。」


「え?安藤さん、ご存知ないんですか?何で・・・それで帰って来たんじゃ・・・」


段々小さな声になった木南の言葉を隆人は聞き取れず、

「舞に何かあった、とか?」少し不安になりつつ訊ねると、

「入院してるんです。」と予想外の事を聞かされ、隆人は戸惑った。


「入院って、舞が?どうして。どこに?」


「産婦人科です。出血しちゃったらしくて、しばらく安静にしないと駄目って事らしくて、一昨日から急に。それで、今私が着替えとか取って来てって頼まれて、鍵預かったんです。」


「はなちゃんは一緒?」


「えっと・・・」木南は言い淀んだ。


心配になった隆人は木南を追求した。


「はなちゃんは?」


「安心して下さい。無事ですから。ちょっとお邪魔しますね。」


木南は隆人の横を擦り抜け、家の中へ入った。


灯かりを点け、ベッドルームへ入ると、クローゼットの中の引き出しから舞の下着や服を、クローゼットの中にあった舞の鞄に詰め始めた。


木南は勝手知ったる様子だった。隆人は舞が何度かこの家に木南を招いていたのかもしれないと考えた。


それより気になるのは、はなちゃんの事だと、隆人は再び木南にはなの居所を訊ねた。


しかし木南は溜め息を一つ吐き、

「面会時間ギリギリですから、急いで。安藤さんも一緒に行きましょう。」とはぐらかした。


「持つよ。」隆人は木南から舞の鞄を預かった。


「ありがとうございます。」


そうして、隆人と木南、二人並んで産婦人科病院へ行く道すがら、木南はゆっくり口を開いた。


「病室で喧嘩になったら困るから言っちゃいますけど、安藤さんは舞が入院してる事、知らされてなかったんですよね?まったく・・・舞も、心配かけたくないって思っちゃったんでしょうね。」少し怒っているような、呆れているような、でも庇っているような言葉を吐いた。


入院している最中に、自宅の鍵を渡し、身の回りの物を取って来てと頼める相手というのは、相当信頼している人という事になる。


隆人は黙って木南の話に耳を傾けた。


「今、はなちゃんは、前の旦那さんに預かって貰ってます。」


「え?」


「未就園の子だったら一緒に入院とかも出来るみたいなんだけど、それ以上の子は駄目みたいで。安藤さんは単身赴任だから頼めないって、舞、仕方なく別れた旦那さんに頼んだらしいんです。まあ、離婚したと言ってもはなちゃんの父親ですから、仮にこっちに安藤さんが居たとしても前の旦那さんの方がはなちゃんの面倒は見れるでしょうから、その点は心配してなかったんですけど・・・よく安藤さんが許したなって、私、驚いてたんです。」


許すも何も、舞が入院した事も、はなちゃんが前の旦那さんに預けられた事も今聞かされた。


「舞、なーんか後ろめたかったのかなぁ。それとも、入院の事知らせて、安藤さんに帰って来て貰うの、悪いと思ってたのかなぁ。それで入院した事、安藤さんに知らせてなかったのかも。責めないであげて下さいね。」


「責めるも何も・・・」


俺が怒ると思ってるのだろうか。責めたって仕方のない事だ。


別に、舞もはなちゃんも無事なら、俺が怒る所じゃない。


「安藤さんって、心が広いんですね。でも、そういうのって無関心とも取れますよ。舞、安藤さんと離婚する前、安藤さんは舞を好きじゃなくなったみたいだ、なんて言ってましたから。」


「好きじゃなくなった?何故?」


「きっと勘違いしたんですよ。そういう穏やかなやさしさが、何だか物足りなくなったみたいな。前の旦那さんはもっとこう見た目弱々しくて、何も言えなさそうだけど、実は自己主張の強い人みたいで、自分の思った事を押し通すタイプみたいです。」


物足りない・・・か。


舞も、志歩理さんも、そして菜津子も、俺の事をそんな風に見ていたのだろうか。


愛されていると思っていたのは錯覚で、実は誰一人、俺を愛してはいなかった。そう考えると、そうなのかもしれないと思えて来た。


菜津子も俺の事は上辺だけ好きだったから、舞が妊娠したと知って、あっさり別れられたというのが本当の所。


菜津子も苦しんでいるなんて、勝手な思い込みだったのか?俺の事を物足りない男だと感じていたのか?


分からない。


とにかく今は、舞の話を聞こうと、隆人は木南と共に舞の入院している病室へ向かった。


【301 伏見舞】


舞の病室は個室だった。


コンコン。


入ると、舞は眠っていた。


ベッドサイドのテーブルの上にあるスマートフォンのランプがチカチカ点滅していた。


多分、俺がさっきかけた着信を知らせるランプだろう。


眠っていたから電話に出なかったのか・・・


舞はベッドの上で点滴を受けてはいるが、思ったより顔色は良く、面会謝絶でもなかったので、今は落ち着いているのかもしれない。


「舞、舞、着替え持って来たよ。」


木南が舞を揺さぶり、起こそうとするのを、隆人が「まだ、寝かせて置いたら」と隆人が止めた。


「そうも行かないでしょ。舞から話させないと。時間もないし。」


「明日、でもいいよ。面会時間、何時から?」


「午後一時からですけど・・・」


「だったらその時にゆっくり・・・とにかく、今日は帰るよ。」


「え、でも、今来たばかりなのに───」


「すみません、後、よろしくお願いします。」


木南に頭を下げた隆人は、逃げるように病室を後にした。


隆人は、舞が入院を黙っていた事もショックだったが、木南に言われた『無関心』『物足りない』と思われている事にも応えていた。


こんな時、俺はどうすべきなのか分からない。


怒ればいいのか?


どうして俺に黙っていたと怒って・・・それでどうなるものでもない。


整理しよう。ええと、舞はひとまず大丈夫、はなちゃんも無事、俺は・・・・・・取り敢えず帰ったらいいのか?


隆人は帰りたくなかったが、行く当てもなく、とぼとぼマンションに戻ってから、やはり舞が目を醒ますまで病室にいるべきだったと後悔した。


俺は、舞に必要とされてない事を知るのが怖かったのかもしれない。


菜津子と別れてまで一緒に暮らした舞に頼りにされていないと分かったら、俺は、舞と再婚しても、このままではまた上手く行かず別れる事になるだろうと思う。


俺と舞が別れたその時、例えば菜津子は誰かの嫁になっていて・・・俺は独りぼっち。


誰からも必要とされず、知り合いもいない街で寂しく死ぬのかな。


そんな孤独な未来しか思い描けなくなり、怖くなる。


この先の事を知りたくない。未来なんて要らない。過去に戻りたい。菜津子と一緒に過ごしたあの一か月が永遠に続いたらいい。


ソファーの上で隆人は、【菜津子 0×0-××××-××××】と表示されたスマートフォンを胸の上で握り締めたまま、眠りに落ちた。


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碧井 漪

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