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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

暁と星 39 この世で一番醜い感情

Posted by 碧井 漪 on  

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「せ・・・」


息を呑んだ旺治郎は、その場に立ち尽くした。


「執事、いい所なんだから、邪魔するな。」


ベッドの上で、励は星良の体を押さえ付けたまま、部屋に入って来た旺治郎を見ようともせず答えた。


「何をなさっているのですか。」


「何って、そんな事一々説明しなくても分かるだろ。」


「分かりません。」


励に反論した旺治郎はベッドに歩み寄ると、星良の上を覆う励の肩を後ろから掴んで、星良から引き離した。


「何するんだよ、執事!婚約したんだからいいだろ?」

「なりません。ご結婚前にこのような事は。」


「どうせ結婚するんだからいいじゃないか。」


「まだ、されていません。」


「やきもち?それなら聞いてやってもいいけど。」


「蔵持さま。今すぐ星良さまのお部屋からお立ち去り下さい。」


「何、それ。出て行くのは旺治郎、お前の方だろ?お前は執事、俺は星良の婚約者、どっちが星良の部屋に居ていいか分かるよな?」


励が旺治郎の胸倉を掴んだ。


「励さん、やめて!旺治郎も。」


「おや、星良はこいつの味方?」


ベッドの上の星良は黙って首を横に振った。


「俺の味方なら、今すぐ、この邪魔な執事を屋敷から追い出してよ。そうじゃなければ、俺、婚約破棄するよ?」


「励さん・・・それは───」


「わたくしは、蔵持さまと星良さまのご縁談が調い次第、このお屋敷を出て行きます。ですから、それまではこの様なお振舞いをなさらないよう・・・」


「やだね。」


「蔵持さま。」


「お前、邪魔なんだよ。星良の心だけじゃなく、体まで奪おうとするなんてさ。」


「励さ・・・」


「星良、俺が気付かないとでも思ってんの?星良がこいつを見る目、恋してるってバレバレ。こいつだって星良の事───」「蔵持さま。離して下さい。」


旺治郎は励に掴まれていた手を振り払った。


「いい目するじゃねーか。喧嘩なら受けて立つぜ。」


「駄目、駄目です。」


「星良、はっきりさせて。どっちの味方?俺とこいつ、どっちかがこの屋敷を出て行かなけりゃならない。星良は、どっちに残って欲しい?」


そんなの決まってる。


私が選ばなくてはならないのは、励さん。


このお屋敷を出て行くのは旺治郎。


星良はベッドから立ち上がった。


「出て行くのは・・・」


励と旺治郎、二人は星良の答えを待った。


「二人共、です。この部屋から出て行って下さい。」


タタタ、バタン、カチャリ。


星良は後ろにあるバスルームへ入ると、ドアを閉め、鍵を掛けた。


「上手くはぐらかしたな、星良。」


「行きましょう、蔵持さま。」


「旺治郎、お前、今までどこ行ってたんだよ。」


「・・・・・・」


「答えられない所か。」


「私用ですので。」


「質問を変える。星良の事、どう思ってる?」


「大切なお嬢さまと思ってお仕えしております。」


「本当にその答えでいいんだな?星良の事、女として見てないって事でいいんだな?」


「はい。」


「聞いてたか、星良。こいつは星良の事、どうとも思ってないそうだ。」


「蔵持さま、行きましょう。」


旺治郎は励を部屋の外に促した。


星良はバスルームで、二人の声を聞いていた。


分かってる、分かってた。


旺治郎は、私の事なんて好きじゃないって。


あの雨の夜、あれは聞き間違い。


旺治郎が、私と暁良ちゃんを間違えただけ。


従姉妹だから似ているのかなぁ?


でも変ね。暁良ちゃんは美人だと思ってたのに、私みたいなブスと間違えるなんて・・・


星良はバスルームの鏡に映った自分の顔を見て、あははと笑った。


涙と鼻水でぐちゃぐちゃ。ほっぺも赤くなって、本当に酷い顔。


こんなんじゃ、好きになって貰える訳がないよ・・・


星良は膝を抱えて泣いた。







コンコン、ガチャッ。


10時を過ぎて、部屋に入って来たのは並川だった。


星良はベッドの中、調子が悪いと頭から布団を被って、朝食も口にしていなかった。


「往診でーす。星良ちゃん、具合悪いんだって?お稽古に出られない位、お熱が高いのかな?」


勉強、マナー、お料理、お裁縫、お花、ピアノ、ダンスと、毎日午前午後、日替わりで来る講師達。


今日の午前は勉強の日だった。


宿題は終わっている。ただ・・・


バサッ。並川が星良の被っている布団を剥いだ。


「おや、これは・・・”恋患い”ですな。何で?オウジが帰って来たっていうのに、何が不満?」


星良の泣き腫らした目に、並川は、こんな事だろうと持っていた濡れたタオルを押し当てて言った。


「違います。そんな事ではありません。」


「そんな事って、どんな事?」


星良の口から何を言わせたいのか、並川はそう訊ねた。


「何でもありません。」


「何でもないなら、お稽古サボらないでよ。みんな心配するでしょう?」


確かにその通りだ。


旺治郎に失恋して、泣いて、拗ねて、迷惑を掛けているのは自分だと、星良は反省した。


「ごめんなさい。」


「おや、素直。オウジにもその位素直に言えばいいのに。」


「何をですか?」


「何をって、思っている事、そのままぶつけないと、この病気は治らないんだなぁ。」


「病気?」


「さっきも言ったでしょ?”恋患い”って。」


「そういうのではありません。」


「じゃあ、どういうの?オウジがこの屋敷に居ない間、オウジの帰りを待って、ずっと眠れずに、毎夜オウジの部屋に忍び込んでた星良ちゃん?」


並川に全部知られていた事が恥ずかしくなった星良は、赤らめた顔を下に向けた。


「だからさ、何度も行ってるじゃん。あのクスリ、使うんだよ。あれはね、その人の一番したい事をさせるクスリなの。抑制されている理性を解放するクスリ。使えば、旺治郎が思っている事が分かるよ。」


「でも、あのクスリを使うと、苦しそうになるの。だから・・・」


「使わなければ、オウジはこの屋敷から居なくなるだけ。」


「使ったとしても、居なくなる事は決まっているでしょう?」


「実験が成功すれば、金になる。そうしたら、この家が救える。星良ちゃんが婿を貰わなくてもね。」


「え・・・?」


「晴れて自由の身になれる。そうしたら、オウジと二人で好きな所へ行けばいい。」


「二人って、暁良ちゃんは?」


「だーかーらー、奪えって言ってんの。オウジの理性をぶっ飛ばして、星良ちゃんがオウジに抱かれれば、オウジだって責任取るしかなくなるでしょう?」


「なっ・・・!そんな事、しません!」


「綺麗事言ってる内は、いつまでも”愛”を語れないよ?人を愛する力ってね、この世で一番醜いんだ。みんな綺麗なものみたいに言うけれど、そんな事ないんだよ?”愛”が”美しい”ものだなんて信じている人は、本当の愛を知らない人なんだ。」


並川の言葉に、星良の背中が冷たくなった。


ぞおっとした。


“愛”について語った並川さんの目・・・怖かった。


どうして並川さんは”愛”が”美しくない”なんて言うの?


そう思う何かを経験したの?


分からないけど、怖い。


本当に”愛”が”美しくない”と言うのなら、私はその気持ちを知っているから。


あの時感じた怖い気持ち。


旺治郎と一緒にいたいという気持ち、そして暁良ちゃんがいなければ・・・という気持ち。


あれを”愛”と呼ぶのなら、私は、こんな気持ちを抱く人を嫌いになる。


私は、私が嫌いになる。


人を”愛”する事は、本当は”素晴らしくない”事なの?


教えて、旺治郎。


あなたはどんな風に人を”愛”するのか。


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碧井 漪

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