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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

乙女ですって 204 (R-18) 二度と会わない方がいい

Posted by 碧井 漪 on   2 

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5月2日土曜日、世間はゴールデンウイークと呼ばれる大型連休真っ只中。


俺は一月半振りに、住み慣れた街の駅のホームへ降り立った。


ここは引っ越し先よりも都会で、空気も悪く、人も多くて騒がしく落ち着かないが、俺は思いっ切り息を吸い、吐き出した。


すうっ、ふうーっ。


落ち着く、安心する。何故なのだろう。


今まではさして感じなかったこの匂い、何と言うのかな、決して綺麗でも美味くもないけれど、この感じ、とても恋しかった。


君の暮らす街。


会えなくても、近くに君がいる、そう思うだけで心が満たされて行く。

いや、いかんいかん。君の事はもう諦めたんだ。


俺はこれからマンションへ帰り、身重の舞とはなちゃんと、この休日を過ごして、家族らしくなろうと決めてこの街に戻って来たんじゃないか。


隆人は、午後二時を回って、人のまばらな駅の改札を通り抜けた。


ふと、左手に提げている紙袋の中身に目を遣った隆人は、聊(いささ)か不安になった。


時間が無かったので、土産にと地元駅前のスーパーで黒糖皮に包まれたこしあん饅頭12個入を買って来たが、よく考えたら、はなちゃんはこういうの苦手かもしれない。


しまったな・・・ケーキとかプリンとかシュークリームの方が喜んだかもしれない。


隆人は駅隣のデパートの地下へ足を運んだ。


うわ・・・何だ今日は。どの店も並んでいる。


地下一階の食品売り場は、沢山の人でごった返していた。


今日に限ってこんな・・・連休だからか?


お年寄りから小さな子どもまで、とにかく賑わっている。


これじゃあ、売り場の通路を進むのもままならない。


隆人は地下での買い物を諦め、地上に戻った。


はあ、と息を吐き出した隆人が、ちらと向けた視線の先は商店街。


確か洋菓子店があったと思う。


行ってみるか。いや、しかし菜津子に会ってしまったらどうしたら・・・


隆人は洋菓子店へ向かって歩きながら、菜津子と偶然出くわした場合を想像していた。


『おや、つ、綱島さんじゃないか・・・こんな所で会うなんて奇遇だね』


何だか変な言い方だ。彼女の家の傍なんだから、こんな所も奇遇もおかしい。


やり直しだ。


『綱島さん、お久し振り』


『安藤さん、こんにちは』


んん?堅いな。


『隆人さん、お久し振りです』


うん、君には、名字より名前で呼ばれたい。いいぞ。


『元気だった?』


『はい、隆人さんもお元気そうで何よりです』


『君もケーキを買いに来たの?』


『はい』


『良かったらこれ、地元で買った土産物なんだけど・・・』


『いえ、そんな、頂けません』


『考えたら、はなちゃんはお饅頭とか食べなそうだから、貰ってくれると助かるんだ』


『舞さんがいらっしゃるではないですか。私などより舞さんに差し上げて下さい』


『菜津子・・・』


『名前で呼ばないで下さい。あなたは私より舞さんを選んだのですから・・・金輪際、私の前に現れないで下さい』


『そんな・・・』


『二度とお会いしない事を願っています。さようなら』


菜津子───


うわあああ・・・!


足を止め、両手で頭を抱えた隆人は、行き交う人達の視線を感じ、ハッと我に返った。


丁度、左斜め前に洋菓子店の看板が見えた。


ここだ。


早く買って帰ろう。


菜津子に偶然出会って、以前のような甘い展開になる事を期待していたのなら、それは間違いだ。


ある訳ない。


俺が菜津子の実家の店に残して行ったあのリングネックレスの事も、気付いたのか気付いていないのか分からないが、菜津子から何の連絡もないという事は・・・もう、俺と連絡は取りたくないという事だ。


洋菓子店の前に立った隆人は、店のドアに貼られた貼り紙を見て肩を落とした。


【誠に勝手ながら、5/2~5/4まで休業いたします。またのご来店、お待ちしております】


がくっ、とぼとぼとぼ・・・


溜め息を吐き、商店街を行く隆人と擦れ違った女性が足を止めた。


振り返り、隆人の背中に向かって「部長!」と声をかけた。


しかし、隆人は気付かなかった。


女性の隣に並んでいた男も振り向き、遠ざかる隆人の後ろ姿を見て驚いたが、すぐさま、

「部長・・・安藤さん!」と大きな声で呼びかけながら、隆人の後を追いかけた。


「ん?今の声・・・」


隆人は聞き憶えのある男の声に立ち止まり、振り向いた。


駆け寄って来るのは「加集・・・」だった。


「どうしたんですか?そのバッグ、もしかして今、帰って来た所ですか?」


加集は、隆人が右手に提げている鞄と左手の土産物の紙袋に気付いて、隆人に訊ねた。


「あ、ああ・・・」帰って来た、と言われると変な感じだが、嫌ではなかった。


加集の後ろから近付いて来る溪に、隆人は軽くお辞儀をした。


加集の隣に並んだ溪は、「お久し振りです。お元気でしたか?」と隆人に挨拶した。


「お二人も、お元気そうで何よりです。」


隆人は、もうすぐ結婚する予定のしあわせそうな二人の顔を見て、目を細めた。


「結婚式、まだ式場が決まらなくて、決まったら招待状送ってもよろしいですか?」


加集の”結婚式”、”招待状”という言葉に、隆人は先日の志歩理の電話を思い出した。


『六月の日曜日に彼と結婚式を挙げる事にしたの。隆人さん、招待状を送りたいから、ご住所を教えて。あ、それから、菜津子さんにも送っても構わないかしら?是非、お二人に参列して頂きたいわ』


参列するのは構わなかったが、菜津子と一緒というのは考えられなかったので、志歩理さんには悪いが断った。


結婚相手の彼も、元カレの俺が参列するのは。あまりいい気がしないのではないかという考えもあった。


菜津子を呼べないなら尚更だ。


俺は志歩理さんに菜津子と別れた事を打ち明ける事になった。


そして、会社を異動になり、引っ越した事も話した。今はこの街にいない、と。


志歩理さんは残念がっていた。彼女は、やり手なのに、嫌味な所がなく素敵な女性だ。だから、社員達も彼女を信頼して頑張っているから、会社の業績も良い。


「安藤さん?」


「あ、ああ、悪い。ぼんやりしてしまった。」


「疲れてるんじゃないですか?どうですか?今の会社は。」


「ははっ、実は何もする事がなくて疲れる位なんだ。」


「・・・そうですか。」


「結婚式、招待してくれるなら行くよ。」


加集には世話になったから、行かないとな。


「本当ですか?是非!決まったらすぐお知らせします。」


「うん。」


加集とこんな風に話せるなんて。


菜津子を取り合った事もあるのに、俺も加集も今は別の相手と結婚する事になっているなんて、何だか不思議だ。


「加集さん・・・」今、しあわせ?と訊きたかったが、訊かなくても判る顔をしているから、声にしなかった。


「いや、何でもない。」


何を察したのか、加集は

「菜津子さん、お店にいますよ。今行けば、会えますよ。」と言った。


菜津子が店にいる・・・今行けば会える。


だけど俺には菜津子に会う理由もないし、菜津子が元気なら、しあわせなら何も───そうか、俺は加集と綿雪さん、志歩理さんと彼、そして俺と舞とはなちゃんのしあわせより、何より一番、菜津子がしあわせかどうか、知りたかっただけなんだと分かった。


会いたくない訳じゃない。


俺とただ会っても、菜津子はしあわせにならないから、会えないんだ。


隆人は首を振った。


そして、

「おしあわせに。」と微笑んだ後、加集と溪に背を向け、歩き出した。


俺は、君に会いたい、もう一度会いたいと思っていた。


でも、もう一度会って、もう一度別れる自信がない、臆病者だ。


二度と、君を泣かせたくない。


例えばもう一度、君を抱けたとして、君はその後、別れたその後に泣くだろう。俺もそうだから分かる。


会って悲しい思いをする位なら、二度と会わない方がいい。


ただ、君がしあわせになる事を祈ってる。


隆人は、菜津子がいるという店をちらとも見ず、舞とはなの暮らすマンションへと急いだ。







ピンポーン。隆人はマンションのインターホンを鳴らした。


昨日まで帰れるか分からなかったし、突然帰って来て驚かせてみたいと思ったのもあって、舞には電話せずに来た。


一か月半振りか。まあそれ位では何も、大きく変わっている事はないな。


ピンポーン。


あれ?出掛けてるのかな?買い物?


隆人はポケットからマンションの鍵を出し、ガチャガチャとドアを開けた。


玄関の中へ入ると、靴が無かった。


やっぱり買い物か。


隆人は「ただいま」と呟いて、ダイニングへ入った。


キッチンは片付いている。


手を洗い、うがいの後、水を飲んだ。


リビングに移動すると、少し物が散らかっていた。


窓辺には乾いた洗濯物が干されたまま。観葉植物の葉も萎れている。


ソファーの上には、ぬいぐるみ、脱ぎっぱなしの舞のマタニティーワンピース、靴下、はなちゃんのパジャマと下着、そしてローテーブルの上には、食べかけのお菓子の袋とアニメのDVD、産婦人科名の入った薬の袋。


薬?・・・伏見舞様『張り止め』『妊娠後期』


よく分からないけど、薬を飲んで胎児には影響ないのか?


先週、舞は電話で『順調で、何の問題もないって。心配要らないから、隆ちゃんはお仕事頑張ってね。GWもわざわざ帰って来なくていいから、そっちでのんびりしてね』と言っていたのに。


隆人は舞に電話をした。


呼び出すが、出ない。


冷蔵庫を開けると、食材は結構な量が残っていた。宅配サービスも利用していると聞いていたから、買い物ではないのかもしれない。


うーん、もしかして、体調が悪くて産婦人科に行ったのかな。だとしたら心配だ。


隆人は一人、マンションで舞とはな、二人の帰りを待った。


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碧井 漪

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2 Comments

says..."管理人のみ閲覧できます"
このコメントは管理人のみ閲覧できます
2017.09.10 05:47 | | # [edit]
sazanami says..."Kさま ありがとうございます。"
sazanamiのご褒美はKさまのコメントでございます。


今回の更新、またもギリギリで、落とした場合の差し替え用に「そうそうない」を用意していましたが何とか使わずにすみました。

そして、頂いたコメントのおかげで、次と次の回を書く事が出来ました(奇跡@▽@)ありがとうございます。

ここの所ずっと「そうそうない」の世界に嵌り、他の話が書けなくなっていました。

ブログ作品の方を頑張ります。


小説を書く事が出来るのは平和な世の中だから。

小説を書き始めてから、平穏無事に生きられるのはしあわせなのだと、噛み締められるようになりました。

大切な事に出逢うと、人は自分を、周りを、それまで以上に大切に思えるようになるのだなぁと知りました。


戦いの中にいる人にもきっと、大切なものはあるのでしょうけれど、それが平和より大切なものなのか、考えてみて欲しいですね。


コメント、ありがとうございましたm(_ _)m
2017.09.11 22:58 | URL | #- [edit]

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