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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

暁と星 38 執事と婚約者

Posted by 碧井 漪 on  

暁と星 38
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子猫は、抱かれている旺治郎の手からピョンと飛び、ベッドの中で目を閉じているだけの星良の顔へ擦り寄った。


「にゃーん。」


その声とふさふさした毛に顔を擽られた星良はすぐに目を開けた。


窓辺に立つ旺治郎の視線は星良に注がれていた。


星良は旺治郎の視線を受け止めきれず、胸元で丸まる子猫へ視線を移した。


どき、どきどきどき・・・


旺治郎が帰って来た。本当に、夢じゃなくて本物。


起きなくちゃと思うのに、体は固まって動けない。

「にゃ、にゃっ!」


ガシガシ、子猫は星良のパジャマをツメで引っ掻き始めた。


のそり、星良はベッドの上に上体を起こした。


旺治郎は黙ったまま。


星良は気まずかった。


勝手に旺治郎の部屋に忍び込んだ挙句、ベッドで眠り、それを帰って来た旺治郎に見られてしまった。


何故かと訊かれたら、何と答えよう・・・そればかり考えていた。


「おはようございます、星良さま。よくお休みになられましたか?」


いつもと変わらない旺治郎のやさしい声。


でも、それは偽りのあなた。


あなたの本当の心は、こんな所から早く去りたい、暁の姫の許へ帰りたい、そう願っていると、さっきの声で分かった。


『暁───』


愁いを含んだ低い声で囁いたあなたが本当。


「ごめんなさい。私───自分の部屋に戻ります。本当にごめんなさい。」


ベッドから降りた星良は、旺治郎の目を見ないままお辞儀をすると、サッと部屋を出て行った。


パタン。


「星良・・・さま。」


子猫は枕の傍に座り、前足で顔を擦っている。


旺治郎はベッドの上にドスンと腰を下ろし、パタリと倒れ込んだ。


顔を埋めた枕からは、星良の髪と同じ匂いがする。


手で触れると、まだほんのり温かいシーツ。


『どうして、この部屋にいらしたのですか?』


訊こうと思えば訊けた。だが、この問いは彼女を困らせるものになると思い、口を噤んでいた。


何を期待している。彼女は婚約した。これが私の役目、これでいい。このまま、私はこの屋敷を去る者。彼女はこの屋敷に留まり、しあわせになるべき人。


今までのような苦労をさせたくない。これからは、お金の心配をせず、女性としてのしあわせを掴んで欲しい。


なのに何故苦しくなる?


何か言いたそうな星良の目を見ると、この手に抱き締めてしまいたくなる。


その役目は、私のものではないのに。






ペタペタペタ・・・二階の廊下を走った星良は、ガチャッ、逃げ込むように部屋へ入るとバタン、急いでドアを閉めた。


はぁ、はぁ、はぁ・・・


星良は火照りを感じる両頬を手のひらで挟み、背にしたドアを滑り落ちるように、ずずずとその場にしゃがみ込んだ。


どきどきどき・・・


旺治郎が戻って来てくれて嬉しかった。


でも、悲しかった。


あなたの切ない声を聞かされて。


本当はここへ戻って来たくなかったのでしょう?


戻ったのは、私の為ではなく暁良ちゃんの為。


あなたの事が好きなのに、あなたは私を好きではない。


あなたが好きなのは、私ではない人。


私が好きだと思うあなたのすべては、彼女に捧げられて・・・


私の手には入らない。


魔法のような毒薬であなたを操っても、あなたの心は手に入らない。


私に出来る事は、ここからあなたを解放する事。


励さんと結婚し、当主となって、あなたを自由にする事だけ。


ガタン。


部屋の奥からの物音に、星良はハッと顔を上げた。


不意にガチャッ、ドアが開き、出て来たのは、白い湯気を纏った、バスローブ姿の励だった。


「あれっ、私・・・」


星良は部屋を間違えたのかと部屋の中を見回した。


花瓶に活けられた花、絵画、アンティークチェストの古傷、ランプシェードのほつれ、励の部屋がどうなっているのかは知らないが、それらから星良は、ここが自分の使っている部屋に間違いないと分かった。


ではなぜここに励が居て、星良の部屋のバスルームから出て来たのか。


それは励本人に訊いてみないと分からない。


「おはよう、星良。良く眠れた?」


「え、あ、はい・・・励さん、どうしてこのお部屋に?」


「あー、俺の部屋のシャワーソープ切れててさ、並川に言ったら追加料金取られそうだから、星良の部屋のを拝借したって訳。星良はここの所、あいつの部屋に行ってたみたいだったから。あ、勿論、俺としては星良がここに居てくれた方が背中流して貰えただろうから良かったんだけどね。」


「励さん。」ふふ・・・と星良は笑った。励はいつもの冗談を言っているものだと思いたかった。


しかし、星良を壁際に追い詰める励の目は少しも笑っていなかった。


「励さ・・・」


ダン!


励は、星良の頭上の壁に拳を叩き付けた。


「星良、夜だって寂しくて眠れないなら、あいつの部屋じゃなくて俺の部屋に来るべきじゃないの?婚約したんだよ?いくら本人がいないからって、俺の婚約者が他の男のベッドで眠るのって許せると思う?星良だったらどう?俺が他の女のベッドで眠ってたらどう思う?」


「そ、れは・・・」


星良は励が他の女のベッドで眠っている所を想像してみたが、別に嫌だと思わなかった。当然のような気がしているのは、お見合いの第一印象が、複数の女を侍らせる遊び人というものだったからだろう。


それが旺治郎だったら・・・嫌、というより絶望的な気持ちになる。


旺治郎に必要なのは私ではない別の人だと思え、消えてしまいたくなる。


励さんが私に対してそんな風に思うとは考えられないけれど、確かに、婚約者が別の人と仲良くしていたら嫌に決まっている。


私と旺治郎の間には何もないけれど、誤解させてしまった事はいけない事だわ。


「ごめんなさい。ごめんなさい、励さん。」


「あいつ帰ってないからいいけどさ。」


「・・・・・・」励さんはまだ、旺治郎が帰って来た事を知らない。知ったら、疑われる?


どうしよう。もし疑われて、励さんに婚約破棄されてしまったら、旺治郎はこのお屋敷を出て行けなくなってしまう。


「そんな顔するなよ。怒ってない。たださ、婚約者なのに頼りにされない俺ってあいつ以下なのかと思って悲しくなっただけ。」


今度は励が寂しそうな顔をした。


考えてみれば、励は、家出中の身。


家出した理由はギターの事だけかと思っていたけれど、それだけではないのかもしれない。


励にも色々あるのかもしれないと考えた星良は、励の背中に腕を回し、ぎゅっと抱き締めていた。


「星良?」


「今度、眠れなかったら励さんの所へ行くから。」


「星良・・・それ、どういう意味か分かってる?」


「え?」


励の両腕が星良の体に巻き付けられ、真っ直ぐ抱き上げられた星良はそのまま、ベッドの上に押し倒された。


「こういう事だよ。」


両腕を押さえ付けられた星良の上に、励の顔が近付いて来る。


キス、される・・・!


星良が、ぎゅっと目を瞑った時、コンコン、ドアがノックされた。


誰?


「星良さま、入ってもよろしいですか?」


旺治郎・・・!


星良が目を見開いた瞬間、唇を強く塞がれた。


「ん・・・っ!」


声が出せないどころか、呼吸もままならない。


ぬるりと励の舌が星良の口の中へ入り込んだ。


「んっ、ふ・・・っ・・・!」


苦しい。


両手首は押さえつけられて、かろうじて動かせる両脚をばたつかせたが、星良の上にある励の体はビクともしなかった。


励はキスをやめなかった。


離して、励さん。嫌、こんなの嫌・・・


星良が、だんだん励の事を嫌いになってしまいそうで怖くなった時、


ガチャッ!


ドアが開いて、旺治郎が星良の部屋に入って来た。


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碧井 漪

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