縺曖 105
Posted by 碧井 漪 on
それから皇くんが僕の右手に握っていた携帯電話をパタンと閉じると同時に、ジリリと鳴っていた音も止(や)んだ。
黒電話の音の出所(でどころ)は、皇くんの左手に握られた白いスマートフォンと思われる。
「逸(はぐ)れたかと思って、捜したんですよ?」
「ご、ごめんなさい。」
皇くん、僕を捜してくれていたんだ。
一人で先に行っちゃったかもしれないと思って、ごめん。
僕を待っててくれた事、捜してくれた事、嬉しくて、胸の奥がじんと熱くなった。
そう言って、皇くんは僕に左手を差し出した。
何だろう?何も乗ってないようだけど、と皇くんの手のひらに顔を近付けると、
「手、出して。」
「手?」と、僕が自分の右手のひらを胸の前で眺めてみると、
「ほら早く。図書館まで引っ張って行きますから。」皇くんが僕のその手を取った。
皇くんと手を繋いでいる。しかも、駅前の、人通りの多い場所で。
これって、皇くんには良くないんじゃないかな、と心配したのも束の間、
皇くんは本当に僕の手を引っ張って数歩歩くと、今度は「走りますよ!」と突然走り出した。
ええええ?
僕は皇くんについて走りながら、左手でリュックサックの肩紐を掴んだ。
ゆっさゆっさ、ゆっさ・・・
走ったおかげで、図書館までは五分と掛からなかった。
リアル・恋愛小説
↑「夜の天気雨」公開しました。
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