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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

そうそうない 48 2015年10月12日のこと(5)

Posted by 碧井 漪 on  


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「秘密。」


「秘密って何だよ。言えよ。」わーさんは、僕の大事な人だぞ?


「じゃあ、元も教えてくれる?いつもわーさんと何を話しているのか。」


美和に言われて、ハッと気付いた。僕はわーさんに話している事はないと。ただ寂しいという事と、それから会いたいと願う事ばかり。


「話してないよ。だって、答えは返って来ないから。」


問い掛けても返事はない。返事が来たかのように、都合の良い方に考えを持って行く事もしたくない。


「寂しいなぁ。」お墓を見ながらそう吐き出した美和は、すくっと立ち上がった。


「寂しいよ。」


「わーさんの事、忘れたい訳じゃないんでしょ?」


「さあ・・・」


「さあ・・・って、どうしちゃったの?元。」


僕らの間に漂う空気が、嫌な方向に流れて行くのが分かる。


開かない方がいいと思える口を、僕は開いた。わーさんに聞かせたかったのかもしれない。拗ねたままの僕の心を見せたかったのかもしれない。


「昔、わーさんに『俺が死んだら、俺の事は忘れていいから』って言われたんだ。」


逆の立場だったら言えたかな。言えないかも。だって、そんな事言われたら忘れられなくなるんじゃないかって思うでしょ?相手の事を想うというべきじゃないかもなって。


「ふうん。だから?」


「だから?って、それって、僕がこんな風にしても嬉しくないって意味だろ?仏壇もお墓もわーさんは用意して死んだけど、僕に守って貰わなくてもいいって、僕には期待してなかったって事だろ?」


「そういう事じゃない気がする。わーさんは、元に期待していなかったとか、そういう事はないと思う。」


「わーさんに会った事ないだろ?だから美和には分からないよ。」


「私だったらって考える事はあるよ。私がわーさんだとして、もしそういう事を言ったとしたら、元を想って出した言葉だと思うから。」


「え?」僕を想って?だったら何故、最期まで付き合うと決めた僕に忘れていいからなんて言ったの───?


「例えばだけど、ある夫婦が居ました。子どもはいません。旦那さんが病気で亡くなる前に、同じ事を言ったらどう?」


「・・・・・・」どうと言われても、その夫婦の場合、残された妻に再婚しろと言いたかったのか?


「自分を忘れていい、それが、言葉を発した旦那さんの本心かどうか、が問題じゃないのよ。受け取った奥さんの気持ちが大事なの。忘れたかったら忘れてもいい。忘れたくないならそのままでいい。旦那さんはどちらも受け容れて、自分が奥さんを愛している気持ちを伝えたかったの。ずっとずっと、愛して居るから言えたんだと思う。わーさんが元を愛していたから。わーさんだって、元に忘れられたくない気持ちがあったと思う。でもそれ以上に、元を愛しているから言えたんだ。元の気持ちを楽にしたくて言ったんだよ。」


「知った風な口を利くね。僕らの事、何も分からないくせに。」


「そうだね。でも私には分かるよ。わーさんがそう言った気持ち。」


「美和にはそう言える相手もいないのに?美和自身、病気でも死にかけている訳でもないのに?わーさんの気持ちが美和に分かる訳ない。」


美和は一瞬言葉に詰まった。僕は言い過ぎたと少し俯いた。


「私が言ったんじゃ説得力ないでしょうけど、分かるのは分かるよ。わーさんが本当に元のしあわせを願っていた事だけは。」


「僕のしあわせ?何だよそれ。僕が他の誰かを好きになる事が僕のしあわせだって言いたいの?」


「わーさんはね、元の心の隙間を埋める物なら、何だっていいって思ったんだよ。元の心にぽっかり空いた穴を、埋めてくれる物を何でもいいから見つけて欲しいって・・・」


「埋めなくていい!空いたままでいい。ここはわーさんの居場所だから。他の物で埋めたくなんてない。」


美和が居て良かったなんて、思った自分が恨めしい。


わーさんを失った寂しさを埋めるもの、それを欲していたのはわーさんじゃなく、僕の方だと認めたくなかったんだ。わーさんは僕を想ったまま死んだのに、僕はわーさん以外のもので心の隙間とやらを埋めようだなんて。


僕はもっと苦しめばいい。もっともっと、もっともっともっと!


独りぼっちで、寂しくてどうしようもなくて毎日、わーさんの所へ行きたいと思ってなくちゃならない。


それを覚悟して、わーさんについてここへ来たんだったろう?


忘れたとは言わせない。僕は誰かと・・・美和と暮らしてはいけなかったんだ。


「元、お腹、空いたんじゃない?お昼まだだから。今何か作るね。」


お墓の前から、勝手口に向かって歩いて行く美和の背中に向かって僕は言った。


「美和。お願いがあるんだ。」


「何?」


振り向いて止めた美和の足に、ザザザと風に巻かれた枯葉が絡んだ。


「出て行って。この家から。」


ヒュウ、ザザザ、ザザッ・・・


北風が枯葉と戯れる中、西に傾き、朱くなり始めた陽が、僕と美和を染めた。


暖かい色に包まれているのに、胸の中は冷たい寂しさで埋まっていた。


頷いたようにも見えた美和は、再び僕に背を向け、勝手口へ黙って歩いた。


聞こえてなかったという事は無い。僕が『出て行って』と言った後、美和は僕と視線を合わせた。


確かに聞こえていたと思う。そして、僕の言った内容を無視した訳でもなさそうだ。


バタン。


風に押された勝手口のドアは、いつもより大きな音を立てて閉じた。


「追い出したら満足なのか?」


僕のものともわーさんのものとも取れない呟きが口から漏れた。



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碧井 漪

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