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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

寂しいの反対世界(恋愛短編)

Posted by 碧井 漪 on  

寂しいの反対世界
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「汗掻くから、夏って嫌」


あー、もーっ!と、

ミンミン唸る蝉達よりも、

持て余したその鬱憤をみんな僕にぶつけていた君が、今日は隣に居ない。


正確には、喧嘩した一昨日の夜から。


静かな日曜の昼下がり、こんなのは君と付き合う三年前以来。


一人過ごす部屋の中は、クーラーを点けて快適な温度を保っている。


窓は開けない。


見舞う残暑が、弱った僕を酷く苛むのをわかりきっているから。


腕を枕に、床の上に寝転んだ。


静かで、何の煩わしさも感じない。


閉め切った窓の外の景色に目を移すと、

晴れた空、長方形に小さく切り取られても鮮やかな青が、恥ずかしくなる程眩しく映った。


上階のベランダに狭(せば)められた口惜(くや)しさを取り返そうと、

ベランダに出て、一人覗いた青空に、浮かぶ白い雲を見上げて、しばし佇む。


肌に射す熱より、心をひやりと掠めた後悔が目に沁みた。


暑いのに冷たい、不思議な感覚。


「ばかは、どっちだ」呟いていた。


君と喧嘩したままでは、夏を暑いと感じる力が弱くなる。


このままだったらおそらく冬も寒くないし、春と秋は違いすらわからなくなりそう。


このままでいいのかって、じとじと、こめかみから汗が滲み出す。素直に出て来ない物の代わりに、そう、泣いているみたいに。



"ほら、だから夏って嫌でしょう?"



隣に立って、僕の汗をハンカチで拭いながら、先ず何にでも否定的な事を言う君が居なかったら、

僕は春も夏も秋も冬も好きになれる、だろう、

けれど、

そのどれも、大差なくなって、

そのどれも、感じなくなって、

好きと嫌いの区別が付けられなくなる。



ぼんやりした僕には、

はっきりした君が居ないと駄目だって、最初からわかってたよ。



いつもぶつかって、相性なんて良くないって諦めたら簡単に壊れてしまう僕達だけど、

夏は暑いから夏で、

冬は寒いから冬なんだって考えたら、

正反対だからこそ、補い合えるって気付いた。



快適な環境下ではわからなかったよ。


一昨日の、君の僕にぶつけたかった真意にも、僕がまだ気付けていないだけなんだって考えてみたら、先が拓けた。


暑いベランダから戻って涼しい部屋のクーラーを消し、戸締りだけして、何も持たずに外へ出た。


Tシャツに膝下短パンが湿り出す。


突っ掛けたサンダルだけを後悔しながら、陽炎(かげろう)立つ道を君の家まで走っている最中、

玄関ドアを開けた時の君への言葉をただひたすら考えていた。


『汗をかくから、僕も夏を嫌いになりそうだけど、君の事は』

"嫌いになれない"って言うだけじゃ、

多分君は納得しない。



でも言えそうもない。



汗だくで辿り着いた君の家の前でへたり込んだまま僕は、

届かないインターホンのボタンを押さずに、ドンドンと二回、君の家のドアを叩いた。


はぁ、はぁ、はぁ、肩で息をしながら待っていると、カチャン、鍵を開けたタンクトップの君が、

ドアの隙間から、しゃがみ込む僕を見付けて目を丸くした。


何も言わないままの君を、僕はドアチェーンの隙間分だけ窺った。


数秒もしない内に、君がドアを支える手を緩めたので、焦った僕は立ち上がりながら口を開いた。


「汗を掻いても、夏・・・じゃなくて、嫌いになれないから」


「え?」


やっぱり納得せず、訊き返した君を僕は指差し、


"好きだから"


・・・って言ったような言わなかったような。


今日だけ、夏の暑さにやられた僕の口が滑った事だけは確か。


でも、

汗びっしょりになってまで頑張ってみた僕の前で、君は無情にドアを閉めた。


ひんやりした。背中以上に心の中が。


ぽたん、僕の頬を通過したしずくが、顎先から通路の床に落ちた。涙じゃないよ、汗だよ。


君に拒絶されるなんて、少しも予想してなかった。それは驕りだったのかな。


久し振りに走った疲れから項垂れた僕の横で、

カチャン、金属の擦れる高い音が響いた後、ドアが開いた。今度はさっきよりも大きく。


その開いたドアを右手で支える君の足元、サンダルの先から覗くネイルは、君が普段着けない色、僕が選んだオレンジ。


「すごい汗、早く拭かないと風邪引くよ。入って」


君が手招きした。


僕の中に、君の声と共に暑さが戻って来た。


そして、数万匹の蝉に囲まれたような感覚も。


「お邪魔します」


「今更、他人行儀な・・・」


くすっと笑った君の背中を調子に乗って抱きしめたら、

「こら!汗!冷たい!」って怒られた。




快適だけど、色んな物を強く感じられない世界より、

煩わしいけど、とにかく君の居る世界を選んだ僕は、

それだけで、一生懸命生きている気持ちになった。





君と居たら、僕の人生は、この先ずっと僕の思い通りにはならないだろう。


でも寂しくならない、煩わしい程に。





数万匹の蝉と君、比べたら絶対怒られるから言わないけれど。


僕は、セミよりキミがスキだ。


君は、僕が煩わしくなっても僕の傍に居てくれる?





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碧井 漪

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