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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

百世不磨の心 86 (ムーンライトノベルズ101話)

Posted by 碧井 漪 on  

百世100
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背中に壁、両腕はみゆきちゃんに強く掴まれて動けない。


金ちゃんより背の高いみゆきちゃん。普段、遠くにある顔が近付いて来る。


好きだった。


男とか女とか関係なく、すごく好きで、今の私にとって、なくてはならない人で・・・


キスしたくない訳じゃなかった。


でも、みゆきちゃんとキスしたら”何か”大切なものを失いそうで怖かった。


みゆきちゃんの唇が近付く。


同じ男の人だけど、金ちゃんとは違う感覚に陥らされる。


キスシテモイイ、デモホントウハ、シタクナイ・・・


琥珀は美優生の目を見つめていた。


その瞳は涙で潤み、閉じる気配はなかった。


美優生は、今度こそ絶対にしようと決めて臨んだ三年越しのキスを―――


諦めた。


琥珀の腕を掴んでいた美優生の手から力が抜かれ、近付ける事をやめた美優生の顔をもう一度見た琥珀は、思わずふうっと小さな息を吐いた。


そして、ふいっと背けた美優生の横顔はとても綺麗で、琥珀はまるで、自分がドラマのヒロインになってしまったかのように思えた。


こんなにカッコよくて優しい人にキスされる女の子に嫉妬しそう・・・なのに、みゆきちゃんにキスされるのが嫌なんて、自分でも自分の気持ちがよく分からない。


「・・・・・・」無言で琥珀に背を向けた美優生は、入口に置いた旅行鞄を手に提げて続き間に入った。そして畳の上に腰を下ろし、何事も無かったかのように、旅行鞄から洗面用具や着替えを取り出し始めた。


琥珀は、美優生に声をかけられなかった。


どうして今日は、いつも通りに出来ないんだろう。みゆきちゃんと私。


金ちゃんがいるから?男と女を意識しているっていうの?


金ちゃんがいなくて、二人っきりの旅行だったら、金ちゃんの心配している通り、私とみゆきちゃんが・・・男女の関係になったかもしれないって事?


―――確かに、金ちゃんと再会せずに、二人でここへ旅行に来ていたら、私、みゆきちゃんの思う通りにされていたかもしれない。


でもそれは、私は恋とかじゃなくて、私を好きだと思ってくれるみゆきちゃんの気持ちに応えたいというだけ―――


焦って、悔しくて、泣きたくて、苦しくて、消えたくなって、そんな気持ち、金ちゃんを想うといつもだった。


みゆきちゃんと、そうなるのが怖かった。ううん、そうなりたくなかった。


違う・・・そうなれなかった。


大学生の時、焦ったり悔しくなる気持ちはみゆきちゃんに対しても感じた事があった。あれは、みゆきちゃんが同級生の女の子とキスしていた時。


でも、それだけ・・・みゆきちゃんは私を泣かせたり、苦しめたり、消えたくさせたりする人ではなかった。


ずっと好きでいたい人。傷付けたり、傷付いたりせずに、大切にされて、大切にしたい人。


壁際に立ったまま、琥珀が美優生の背中を見つめていると、

ガチャッ。


右斜め前方にある洗面所のドアが開き、中から金矢が出て来た。


旅館の浴衣を着て、濡れ髪を白いタオルで覆い隠している。


金矢に向けて上げた琥珀の視線と、金矢の視線がふと合った。


さっきの、みゆきちゃんとの会話、金ちゃんに聞かれてなかったよね?


何だか居た堪れなくなって、金ちゃんから視線を外すと、「ジュース、買って来る。」と小走りで部屋の外へ出た。


琥珀が離れの通路を通り抜け、本館に渡ると、一階ロビーに自動販売機はなく、見回すと、土産物を集めた売店のレジ横に、飲み物を入れた冷蔵販売ケースがドーンと立っているのを見つけた。


あれだ。


ええと、お財布・・・琥珀はハッと気付いた。バッグを部屋に置いて来た事に。


お金がないんじゃ買えない。戻ろう。


金ちゃんとみゆきちゃんを二人にしちゃった事も心配だし。


部屋の前に戻って来た琥珀は、静かにドアを開けようとして、丸いドアノブを捻りながら引いた。


ガチャ、ガチャッ。


ドアは開かない。


何で、どうして?


あ、こういう所ってオートロック?


私、鍵を持って来てないよ。


ドンドン叩けば、出て来るかな。金ちゃんかみゆきちゃん。


でも・・・気まずい。


琥珀はドアに耳を当てて、部屋の中の様子を窺った。


聞こえない・・・?


冷たい金属製のドアは、低いキーンという振動音しか伝えてくれなかった。


ドンドン、ドン。


叩くと、ガチャリと内側から鍵を開けてくれた。


どっちだろう、金ちゃん?みゆきちゃん?


琥珀はドアをゆっくり開いた。


入口に立っていたのは、浴衣姿の金矢だった。


少しホッとした琥珀は、「みゆきちゃんは?」と金矢に訊いた。ここからは続き間に居るであろう美優生がどうしているか見えない。


「今、一人で外の露天風呂に入ってる。」


「そう・・・」


「飲み物は?」


「あ、それが、お財布忘れちゃって。」


「ドジ。」


にこりと微笑んだ金ちゃんは、私のおでこを右手の人差し指でつついた。


「えへ。」


私は舌先をペロッと出して、笑った。


やっぱり金ちゃんが付いて来てくれて良かったと思ってしまった。


みゆきちゃんと二人だったら、今頃どうなっていたんだろう。


もし、男女の仲になっていたら、私とみゆきちゃんの関係は壊れていたんじゃないかと思えた。


金ちゃんの事を抜きにしても、怖くて無理だったんだ。


みゆきちゃんと、苦しい気持ちを乗り越えて行く事は、きっと出来ないと思えた。


これから金ちゃんと出来るかどうかはわからないけど、でも、今まで苦しかった分、それ以上はないと思えるから―――


「わかっちゃった、私。」


「何が?」


「みゆきちゃんとは―――」


「みゆきちゃんとは?」


「恋・・・」カチャッ。


続き間の入口から音がした。


「・・・・・・」


手に鍵を持った浴衣姿のみゆきちゃんが、スリッパを履いた。ドアの傍で向かい合って話していた金ちゃんと私の横をすり抜け、みゆきちゃんは出て行った。


「みゆきちゃん!」


「琥珀、待て。」


「何、金ちゃん。みゆきちゃん怒ってる。私、謝らないと。」


「今は、一人にしておこう。」


「だけど・・・!」


「怒ってるんじゃないよ。頭を冷やしたいんだ。」


「どうして?」


「俺も、気持ちが分かるから。好きな女と旅行に来てる男として。」


「好きな女って・・・今回の旅行はそういうんじゃ・・・」


「琥珀を抱きしめて、キスしたい。押し倒して、エッチな事もしたい。多分そう思ってる。みゆきちゃんも俺も。でも、しない。」


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碧井 漪

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