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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

縺曖 407

Posted by 碧井 漪 on  

「えっ?」


目を見開いた彼女の、こげ茶色の瞳が円く見えた。


「この前、教室で荷物・・・タクシーまで運んで貰ったから。」


「ああ、いえ、あんなのは・・・」

縺曖 406

Posted by 碧井 漪 on  

「額、汗掻いてるから。」と言うと、

「えっ、そんな、いいです、大丈夫です!私もハンカチ持ってますから・・・」彼女は慌てて、片手で額を隠しながら、ベンチの上の自分のバッグの中を探った。


僕は差し出したままのハンカチ片手に、バッグの中に手を突っ込んで必死な彼女を静かに見守った。

縺曖 405

Posted by 碧井 漪 on  

でも・・・

「先輩、どうぞ。」と彼女が先に、ベンチの日なたに座って言った。


彼女は日なたに座り、僕は日陰・・・そんな風にはしたくないと思うけれど、すでに腰を下ろし、額に汗を浮かべる彼女に向かって、僕は何と言ったらよいのだろうかと悩む。

縺曖 404

Posted by 碧井 漪 on  

エレベーターに乗って、降りた階は屋上だった。


乗ってすぐに、彼女はエレベーターのRというボタンを押した。


Rとは【Roof】屋根、屋上という意味。

縺曖 402

Posted by 碧井 漪 on  

「え・・・っと、どうしようか。」


「あ!それならいい所、知ってます。」


どこだろう?上階にあるレストランかコーヒーショップかな?


お金は・・・先生から貰った分もあるから足りると思う、と彼女の背中に付いて行きながら僕はお財布の中身を思い出して居た。

縺曖 401

Posted by 碧井 漪 on  

僕が助けて貰ったそのお礼に、ジュースを驕る事を強要してしまうなんて僕は、なんて最低な人間なんだろうと思った。


これでは、誰からも嫌われるのは当然で、人の気持ちの読めない僕と一緒に過ごしたくない人、続出だ。


誘ってしまった事を後悔する僕に、彼女はびっくりするような事を言った。

縺曖 400

Posted by 碧井 漪 on  

図書館を出るまで無言で、出た後も僕は、後ろから付いて来るであろうイサダさんの事を振り返って見る事も、話し掛ける事も出来なかった。


ずんずん歩いて向かうのは、以前皇くんと行ったショッピングモール。


あ、そうだ!と思ったのは、もうあと少しで着くという時。


こんなに歩かなくても、図書館脇にジュースの自動販売機があったのを、今になって思い出した。


縺曖 399

Posted by 碧井 漪 on  

「それじゃあ、失礼します。」


お辞儀をして立ち去ろうとするイサダさんに、

「待って!」と僕は言った。


「えっ?」イサダさんは僕を見る目を丸くした。

縺曖 398

Posted by 碧井 漪 on  

「ああ、どうも。」


ロングスカート、短い靴下、スニーカーから、おそらく学生らしいその女性を振り返って、何かを受け取る男性の声が、少し柔らかくなった気がした。


何を落として、何を拾って貰ったのだろう?と僕はそれに少し興味を持ちながら、膝をついたままぼんやりしてしまった。

縺曖 397

Posted by 碧井 漪 on  

僕が皇くんに恋をしなくなった時に読もう。


そうしたらきっと、僕は朝臣先生の小説の中に、答えを求めなくなる。


その時に先生の小説を読んだら、純粋に物語の世界に没頭出来る筈だから。

縺曖 396

Posted by 碧井 漪 on  

大切に取って置きたい本を買う事も大事だけれど、今は読む事をしたかった。


どんな形であれ、僕は朝臣先生の本を、朝臣先生の考えを、朝臣先生の世界を知りたかった。


そして、先生の本をすでに読んだ皇くんの気持ちに近付きたい、そう願った。

縺曖 395

Posted by 碧井 漪 on  

三階のフロアに入ると、図書館独特の香りに気付いた。


あちこちの椅子に掛けて本を読む人は結構いるのに、その誰もが口を開かず、静かに本のページを捲っている。


それぞれが手にしている本の世界に入り込んでいる。


誰も僕がこのフロアに入って来た事は気にも留めない。

縺曖 394

Posted by 碧井 漪 on  

僕が欲しいもの────それは手に入らない。


ううん、手に入れるという表現はおかしい。


人の心をもののように扱う事は出来ない。

縺曖 393

Posted by 碧井 漪 on  

図書館へ着いたら僕は、場所と時間を手に入れる。


それは僕にとってまるで魔法のお城。書庫に籠もって勉強する学者のように・・・なれる、といいな。


そんな事をぼんやり考えている内に、図書館に着いた。


自動ドアを潜り中へ入ると、少し緊張する。


外よりは暗く、冷房の効いた館内。勉強する場所もある。そして無料で利用可能。

縺曖 392

Posted by 碧井 漪 on  

母から貰った千円札をお財布にしまった後、

身支度を整え、リュックを背負うと、充電台の上から携帯電話を取った。


その二つ折りの携帯電話を開いて見る。


10:18


今から向かうと、図書館には11時頃着くだろう。

縺曖 391

Posted by 碧井 漪 on  

「行こうかな・・・」


僕の呟きは、掃除機の音に掻き消された。


気付かず、母は掃除機を掛けて居た。


この世のどこにも居場所を失くした気分だった。


どうしてそう思うのか、理由は上手く説明出来ないけれど。


縺曖 390

Posted by 碧井 漪 on  

勉強しよう。


今の僕に出来る事はそれしかない。


机上に立ててあった教科書とノートを取り、ペンケースは・・・と、足元のリュックの中から取り出した。


その時、リュックの中で触れてしまった黒い日記帳を、そのままにしておけず、手に取った。

縺曖 389

Posted by 碧井 漪 on  

僕は、父のように人の粗(あら)を見つけるのが苦手で、ただし、偶然見つけられたとしても、それを口で言うのは苦手で、それだから駄目なのだと姉には昔から言われて来た。


父も姉も、他人に対して思った事をはっきり述べられる人間で、僕にはそれが出来ない。だからこそ父も姉も、そんな僕を見るとイライラしてしまうのかもしれない。

縺曖 388

Posted by 碧井 漪 on  

「やけどってどうしたんだ?」


振り向くと、父が立って居た。


「あ、えっと何でも────」


思わず僕はやけどした手を引っ込め、父から隠した。


縺曖 387

Posted by 碧井 漪 on  

左手に当てて居た保冷剤をテーブルの上に置いた僕は、両手をそっと合わせた。


「いただきます。」


「はい。」


僕は先に一人で朝食を済ませる事にした。


右手で箸を持ち、左手にお茶碗を持った。


やけどした指が少しヒリヒリする。


冷やされて一時的に無くなって居た痛みの感覚が徐々に戻って来たのだろう。

縺曖 386

Posted by 碧井 漪 on  

僕は役に立たなかった。それ所か、却って母の仕事を増やしてしまったかもしれない。


「うん・・・」


僕は水を止め、タオルで手を拭くと、保冷剤を当てて椅子に座った。


毎日、情けないと、無力だと思う事を一つでも減らせたら、自信は生まれて来るのだろうか。


肩を落とし、ぼんやり座る僕の前で、母はいつも通りとてきぱき動いて、あっという間にテーブルの上に朝食を準備した。

縺曖 385

Posted by 碧井 漪 on  

「ほら、お豆腐お鍋に入れて頂戴。」


「あ、うん。」


僕は皇くんへの気持ちを思い出しながら、平皿の上の豆腐を鍋の中に入れた。


もしも、僕は僕のやり方で、彼を好きで居てもいいのなら・・・・・・


縺曖 384

Posted by 碧井 漪 on  

「はい、お豆腐。」


母はプラスチックパックから取り出した豆腐を平皿の上に載せて、僕に渡した。


僕は豆腐を切る時は、手のひらの上に載せて包丁で切るものだと思って居た。確か昔、母も鍋の上に伸ばした手のひらの上で豆腐を切って居た。


だからと、僕も平皿の上の豆腐を手のひらのに載せようとした。

自殺相談所 51 失敗

Posted by 碧井 漪 on  

「俺・・・」

間違っていたのでしょうか───と続け、所長の答えを聞いてみたくなった。

しかし、それは恥ずべき事だと自分でブレーキを掛け、口を噤んだ。

所長は気付いたのか、そうではないのか、

「お疲れのようですね。目の下に隈が出来ていますよ。今日はおうちに帰ってお昼寝なさい。明日、お時間あるようでしたら、またこちらを手伝っていただけませんか?」と言った。




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