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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

縺曖 290

Posted by 碧井 漪 on  

僕が教室に着いたのは、お昼休み終了のチャイムが鳴る五分前だった。

すでにお昼ご飯を食べ終えたクラスメイト達は、思い思いのグループに分かれ、談笑中だった。

五限目は世界史、教室移動は無い為、みんなギリギリまで自分の席に戻ろうとしない。

縺曖 289

Posted by 碧井 漪 on  

ほっとしたのも束の間、僕は皇くんが辛そうにしている事に気付いた。

「皇くん、大丈夫・・・じゃないよね?」

「まあ・・・正直ツライ。」

それは僕も同じだった。

「帰ろう。」と言ったのは、自分の為というより皇くんの為だった。

自分一人なら我慢していただろう。けれど、目の前で辛そうにしている皇くんを一人放って置けなかった。

これ以上ここにいても仕方がない。

熱くてぼーっとする僕の頭の中は、どうやったら無事に皇くんを家まで送り届ける事が出来るかという事で一杯になった。

縺曖 288

Posted by 碧井 漪 on  

「ベッド・・・」と僕はもう一つのベッドを確かめるべく、自分の物ではなくなったような足を床につけて、カーテンをえいっと開けた。

すると、もう一つのベッドがあるにはあったが、布団はおろか、マットレスすらなく、ベッドとしては全く機能していなかった。

「ベッド、一つしかないの?」もしかして、僕が運ばれて来たせいで、それまで皇くんの寝ていたベッドを奪ってしまった?と背中に冷や汗を感じながら、恐る恐る皇くんに訊くと、

「そうみたいだね。」と返って来た。

先輩の好きにしていいですよ? -女子大生Mの恋愛事情- 13

Posted by 碧井 漪 on  

夢野は人間不信だった。家族は別として、人を見たら疑えと肝に銘じている。

人より恐ろしい生き物はいない。嘘、偽り、欺き、裏切り、善い事より悪い事の方を多く挙げられる自信があった。

だから今も親友と呼べる友人はいない為、他人に肩を貸すなんて事も無かった。

快人の事も放って置いても良かった。

しかし快人に助けられた事で、夢野の中に今まで感じた事の無かった不思議な気持ちが生まれた。その正体に興味があった。

────先輩は人が好過ぎる。いつも弱味をちらつかせて利用して来る人間を助けるなんて事、私なら絶対にしない。

夢野には分からなかった。どうして快人は身を挺し、歩道橋の階段から転落しそうになった夢野を助けたのか。

エレベーターを降りた夢野は、ビルの狭い廊下を、快人に肩を貸しながら進んだ。

「先輩って本当にバカですね。」

縺曖 287

Posted by 碧井 漪 on  

ベッドをぐるり囲むクリーム色のカーテンを見ると、強い日差しをやさしく通している事が分かった。

「今、何時?」僕は、制服姿で腕時計をしている皇くんに訊いた。

体育の授業中に倒れた僕は、ジャージ姿で腕時計も持っていなかった。

「今、午後一時前。」

もうそんな時間・・・という事は、今はお昼休みか。いつもならお弁当を食べた後、午後の授業開始まで図書室へ行っている頃。

縺曖 286

Posted by 碧井 漪 on  

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絶対に明かしてはならない。

保健室のベッドの上、手の下の掛布団をギュッと握り締めた時、「ゴホ、ゴホッ!」と咳込んだ皇くんが目を醒ました。

「伸長くん。」

続けて「大丈夫?」と言ったのは、僕も皇くんも同時だった。

見合わせた顔を「うん。」と綻ばせたのは皇くんが先だった。

その笑顔を見た途端、僕の気も緩み、ふうと息を吐いた。

縺曖 285

Posted by 碧井 漪 on  

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クラクラして、グルグル目が回って、そして熱くて────

だけど・・・ひやり。

首筋と額に感じる冷たさに救われて、目を開くと、右胸の辺りに黒い影があった。

・・・・・・えっ?

ドクン、と心臓が大きく動く。

ドクンドクンドクンドクン、それは止まらず、どんどん速くなる。

いや、止まったら死んじゃうけれど、だけどこのままどんどん速くなっても息苦しくなって死んでしまうかもしれない。

先輩の好きにしていいですよ? -女子大生Mの恋愛事情- 12

Posted by 碧井 漪 on  

タクシーに乗る事五分で快人の家の前に着いた。

快人の家は駅近くの商店街の中にあった。一階は不動産屋の店舗が入る六階建ての築二十から三十年といったビル。

「これでお願いします。」と夢野は通学時使用しているバス定期の電子マネーを、タクシーの支払い機に翳した。

ピッピッピッと決済完了の電子音を確認した夢野は、快人がリュックからやっと取り出したばかりの財布を快人のリュックの中に押し込み、「行きますよ。」と快人を促した。

バタン、ドアが閉まるとすぐにタクシーは動き出した。

広くは無いバス通り、交通量はそこそこ。タクシーは長い時間停めて置けない。

「歩けますか?」

「大丈ぶっ・・・!」

いてて、と顰めた快人の顔を覗き込んで、夢野は溜め息を零した。

それを聞いた快人は、夢野が掴む手を解こうとした。

「いいよ、ほんとに平気だから。暗くなって来たし、松田は帰っていいから・・・って、あー・・・」

後悔したように言った快人に気付いた夢野が

「何か忘れ物ですか?」と訊いた。

もしかしてこれの事かな、と夢野は後ろに隠した紙袋を差し出そうか迷った。

しかし、違った。

「松田、さっきのタクシーにそのまま乗って帰ったら良かったんだよ。あーあ・・・」今度は快人が溜め息を吐いた。

「別に私は足を挫いてませんから、タクシー乗らなくても帰れますし。」

先輩の好きにしていいですよ? -女子大生Mの恋愛事情- 11

Posted by 碧井 漪 on  

「そんな、タクシーなんて、大丈夫ですよ。」

立ち上がろうとする快人の背中を、夢野がサッと支えた。

驚いた表情で夢野を見た次の瞬間、「つっ・・・!」快人は苦しそうに顔を歪めた。

「カイトくん!大丈夫?」野島が夢野とは反対側から、快人の体を支えた。

「あ、平気です・・・ほんとに大丈夫なので。」

微笑みながら野島を気遣う快人に少しムッとした夢野は、快人の腕を掴む手に力を籠めた。

「イテッ!」




先輩の好きにしていいですよ? -女子大生Mの恋愛事情- 10

Posted by 碧井 漪 on  

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しかし快人の目は、そう簡単に開かなかった。ただ、呼吸はしている。

「救急車よびましょうか?」

スーツ姿の若い男性がスマートフォン片手に身を乗り出しながら訊いて来た。

確かに、このまま目を開かなかったらそうしなければならない。

「ちょっと待って下さい。」と言って、夢野は快人の瞼を指で押し広げた。

────早く目を開けてよ、先輩。

夢野の願い虚しく、快人は動かない。

「救急車、お願いします。」

夢野は階段の上に投げ出された快人の手を握りながら、スーツの男性を見上げ、頼んだ。

先輩の好きにしていいですよ? -女子大生Mの恋愛事情- 9

Posted by 碧井 漪 on  

夢野がギュッと目を閉じたすぐ後、何者かに強く掴まれた夢野の腕は、後ろへ引っ張られた。

───えっ・・・?

ドスン!

夢野の背中とお尻に硬い物がぶつかる痛みを覚えた。

ふわりと浮いた夢野の体が、階段下まで落ちて着地したにしては、滞空時間が短く、衝撃も軽かった。

それでも多少覚えた痛みに目を開いた夢野は、眼下に広がる光景に息を呑んだ。






自殺相談所 43 要所

Posted by 碧井 漪 on  

「今日も遅くなるの?」と訊く母親に

「今日は早いと思う。」と答えた。

家族がみんな出掛け、家に一人になった後、戸締まりをして出掛ける。

今まではほぼ家に居て一日を終えて居たから、外に出るというのは、自分にとっても、これまでの俺の暮らしを見守って居てくれた母にとっても、大きな一歩になった。

当たり前が当たり前に出来なくなった事を思い知らされた瞬間の衝撃は、未だに心の隅に残って居る。

忘れたくない訳ではない。忘れてはいけない事だと思う。

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