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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

そうそうない 217 2016年3月12日のこと(5)

Posted by 碧井 漪 on  

その時の事を考えた僕の胸の中は、寂しさと、嘘を易々と吐かれた怒りでぐちゃぐちゃになった。

酷く強く美和の体を抱き締めながら、「いつか、美和に好きな人が出来たら、ここを出て行くよ、きっと。」と言うと、美和は横に首を振って、

「絶対に出て行かない。元を一人にしない。」と言って、僕の事をぎゅっと抱き締めた。

「絶対なんてないって、美和だって言ってたじゃないか。」

「でも、絶対。私が死ぬまでここに居るってもう決めたから。」

「だから、そんなのは変わるよ。美和に好きな人が出来たら、その人の事でいっぱいになるから。そしたらこの家で僕と暮らしたいなんて思わなくなるよ。」

そうそうない 216 2016年3月12日のこと(4)

Posted by 碧井 漪 on  

スマートフォンを持つ左手を硝子戸に近付けて開けようとした時、硝子戸の向こうにゆらり、人影が動いて、次の瞬間、カタカタカタ、戸が開いた。

ヒッ!と僕が息を呑んだ瞬間、僕の鼻先を硬いものが掠めた。

あわわ・・・!

咄嗟に目を閉じた。鼻先をザリザリと押され、思わず顔を背けた。

ああ、やられる!───と、犯人より先に僕が観念した時、

「え・・・?元?どうして?」女性の声が聞こえて来た。

そうそうない 215 2016年3月12日のこと(3)

Posted by 碧井 漪 on  

久し振りの山道。

外灯もあったりなかったりの決して安全とは言えない暗く細い道。

だけど僕は、何故か安心していた。

帰って来たんだという、その気持ちからなのか・・・僕はすっかり、こちらの人間になってしまったんだと自分でも思った。

ここは都会より不便で、気候も厳しいのに、それでも住みたい理由ってあるのかなって思ってたけれど、そういう条件なんて飛び越えて、暮らしてしまえばもう、ここが自分の生きる場所となる人が大半だろうと今は思う。

あの家が僕の家、帰る場所。

たとえ家族が居なくても、一人ぼっちでも、帰りたいと思う場所。

そうそうない 214 2016年3月12日のこと(2)

Posted by 碧井 漪 on  

「別に、自然な事じゃない?男でも女でも、好きになった人と一緒に過ごせる事こそがしあわせなのよ?」

「分かってるよ。」

「元啓、美和ちゃんの事、"好き"でしょう?」

一瞬、言葉に詰まった。

そんな僕を観察して居るかのような志歩理は、今度はニヤリともせず、黙って僕が口を開くのを待って居た。

逃げようと思えば逃げられただろうが、そうしなかったのは、僕自身、僕の口から出る言葉を聞きたかったからだろう。

「勿論好きだよ。そうでなければ、一緒に暮らせない。」

僕は、僕自身の声を耳にし、美和への想いを再認識した。

そうそうない 213 2016年3月12日のこと(1)

Posted by 碧井 漪 on  

三月の第二土曜日、午前11時前。

今日と明日は、全社員休養日だった。僕は志歩理のお見舞いにと、小さなブーケを持って病室を訪ねて居た。

「どう?具合は。」

「元啓、来てくれたの?お花・・・気を遣わなくていいのに。私は元気よ。退屈でもう早く退院したいわ。」

志歩理は両手でこぶしを作って顔の横に構えて見せた。顔色も良く、確かに以前より元気そうに見えた。

縺曖 257

Posted by 碧井 漪 on  

図書室の中を急いで移動し、いくつかの書架から抜き取った本をカウンターへ持って行った。

本来なら本を借りる時、自分以外の誰かに頼んで貸し出し手続きを取るのがルールだけれど、僕は急いでいて、他に貸し出し手続きをしてくれる係の委員も見当たらなかったので、自分でしようとカウンターの中へ入った。

選んだのは、小説、エッセイ、キャンプの指南本を一冊ずつ。

カードを書いていると、

「先輩、私が貸し出し手続きします。」と声がした。

そうそうない 212 2016年2月16日のこと(4)

Posted by 碧井 漪 on  

一瞬迷って、

【うん、まだ起きてる】と送ってしまった。

【少し話してもいい?】

美和はメール打つの早かったんだな。

僕はキーボードならまだいいけれど、スマートフォンのフリック入力はあまり得意ではなかった。

話すって電話かけろって事かな、と考えて居ると、次のメールが届いた。

【お仕事、大変だった?】

僕は返信した。

【そうでもない】

そうそうない 211 2016年2月16日のこと(3)

Posted by 碧井 漪 on  

僕は以前、社長代理も社長秘書も経験していた。

だから、なんて事はないと高を括っていた。

それがいけなかった。

「───つ、かれたー・・・」

夜、20時過ぎ。

僕は実家二階の部屋に入るなり、鞄を脇に転がしてうつぶせに倒れこんだ。

胸が圧迫されて苦しく感じたので、すぐに仰向けになり、天井を見上げた。

比較的新しいLEDシーリングライトが、疲れ目に眩しい。

いつ買ったんだ?

そうそうない 210 2016年2月16日のこと(2)

Posted by 碧井 漪 on  

久し振りの社内は勝手が違い、よく見知った場所であった筈なのに、どこかよそよそしく、勝手が違った。

入口のセキュリティーカードを持っていなかった僕は、社員と思しき男性の後についてエントランスの自動扉を潜り抜けた。

取り敢えずと向かった社長室、開けようとした扉には鍵が掛かっていて、ガチャ、ガチャ、開かない。

以前よりセキュリティーが強化されたのか、どうしても開け方が分からなかった。

扉脇の壁に設置されたカードリーダーは、僕が扉を開けようとしたせいなのか、さっきまで点いていなかった赤いランプがチカチカと点滅している
何か、よくなかったかな・・・と鍵は掛かっていないと思い込み、無理に扉を開けようとしてしまった事を後悔した。

どうしようかな、と辺りを見回してみる───が、しかし、朝早いせいか、誰も通り掛からない。

期待されていない、当てにされていない以前に、僕が来るという事を誰も知らないのではないか、

泰道に乞われてノコノコやって来てしまったけれど、果たして本当に僕が、今のこの会社の役に立つのだろうかと考えると、ひやりとした。

そうそうない 209 2016年2月16日のこと(1)

Posted by 碧井 漪 on  

スーツに着替え、一階に下りた僕は洗面所へ向かった。

眼鏡を外し、顔を洗った後、髪を整えた。

昔と同じ顔・・・には見えないか。随分老けた。

移住前の朝を思い出す。

徹夜する事も多かったわーさんは、時々、僕が起き出す少し前に、朝食を用意してくれた。

出社前の僅かなひととき。

忙しない毎日の中で、一緒に居られる貴重な時間。

そうそうない 208 2016年2月15日のこと(11)

Posted by 碧井 漪 on  




僕は、あの日から、わーさんに会えなくなって寂しかった。

そして美和も、相手が生きて居ると言っても会いに行けずに寂しかった。

でも、寂しい者同士でも、二人で居る時は寂しさを忘れて居られた。

しかし、わーさんを愛しているのなら、寂しさを忘れてはならないと、寂しさを感じる事こそが彼を愛して居る証だと考えた僕は、最初、美和を追い出して、本当は嫌いな寂しさを取り戻そうとした事もあった。

けれどその作戦は悉(ことごと)く美和に阻止され、結局僕は、今まで寂しくない暮らしを送り、それにすっかり慣らされてしまって居た。

寂しさを感じない、賑やかで飽きの来ない生活に。

そうそうない 207 2016年2月15日のこと(10)

Posted by 碧井 漪 on  

その後、母の咳が悪化したのと、明日に備えると言うのもあって、僕は二階の部屋に行く事になった。

懐かしい部屋。僕が二十年近く前まで使って居たここは、今、僕の物は殆ど無い。

甥達のおもちゃ、本、洋服などが置かれて居る。

まあ無理もない。僕はこの家を出てからというもの、実家にはあまり帰らなかったから。

あの頃はどう接してよいものか分からなくなって居た。同性愛者であると告白した息子も、告白された両親も、お互い悩んだ。

今は僕も両親も短くはない年月を経て、落ち着いたというのか、昔のような激しい感情が湧き上がる事もなく、

どうして最初からこんな風になれなかったのかと僕も、おそらく両親も思って居るに違いない。

しかし、最初から分かり合うなんて、家族であっても無理な事柄があるのだと、僕らは身を以(もっ)て知った。

縺曖 256

Posted by 碧井 漪 on  


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驚いたイサダさんの顔をじっと見てしまうと、イサダさんは困ったように僕から視線を逸らし、

「先輩、あの、藤野くんは今日はお休みです。」と言った。

「えっ?お休みってどうして?」

「さっきメールで訊ねたら、『熱が出たから』だそうです。」

「えっ!」自分でも驚く程の大きな声が出てしまった。

そうそうない 206 2016年2月15日のこと(9)

Posted by 碧井 漪 on  


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『元、ごめんなさい』

えっ?何だ?いきなり。僕はヒヤリとしながら、口を開いた。

「何かあったの?」

実家に行ったら誰も居なかったとか?まさか乗って居たバスが事故に遭ったとか・・・

『無事、着いたかな・・・って』

「え?」

『携帯にかけたけど、出なかったから。おうちに電話しちゃってごめんなさい』

「あ、ごめん、出られなくて。」

携帯電話は上着の内ポケットの中だ。

そうそうない 205 2016年2月15日のこと(8)

Posted by 碧井 漪 on  


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食後の洗い物は、何とか僕にさせて貰った。

その間、父はお茶を淹れ、母は薬を飲んだ。

濡れた手をタオルで拭いて居ると、「美和ちゃんと喧嘩してない?」と唐突に母が訊いた。

喧嘩したから家出した、などと思ったのだろうか。誤解だ。

「してないよ。こっちに来たのは、志歩理の会社手伝う為。」

座ってと促され、僕のと思われる熱いお茶の入った湯呑みの前に腰を下ろすと、入れ替わりに父が立ち上がり、戸棚をゴソゴソ漁り始めた。

そうそうない 204 2016年2月15日のこと(7)

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しかし、父さんはいつからそんなに疑り深くなったのか。

"やっぱり"じゃないよ。鼻の頭がすっかり冷えて、くしゃみが出そうだ。

消灯したスマートフォンを上着のポケットに入れると同時に、パッと門灯が点いて、暗さに慣れた僕の目が眩んだ。

ガチャ、ガチャン。

玄関の鍵に続いてドアが開き、父が出て来た。

「何故来たんだ。」

随分だな。

「用事があって。」

ガチャッ、父が門を開けた。

暁と星 100 暁と星(最終話)

Posted by 碧井 漪 on   10 


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「風邪引くよ、星良。」

夜明け前、バルコニーに出た暁良は、ガウンを羽織って空を見上げている星良の後ろ姿に声を掛けた。

「うん・・・」

そう返事をしても、星良は振り向かず、消えそうな星をただ見つめていた。

「もう少しで夜が明けるね。」暁良は星良と並び、その細い体を抱き寄せた。

「あなたの時間ね。」星良は暁良の腕の中で、暁良の胸に頬を寄せた。

「二人の時間だよ。今は。ほら、星と暁が出逢う時。星良の好きな瞬間。」

「ええ。私、この瞬間が一番好きなの。」

「暁の王子と星の姫が出逢える時刻だから?」

「ほんの一瞬でも、二人にとっては何より大切で、永久に失いたくない瞬間なのよ。」

「そうだね。」

「私達は贅沢ね。毎日一緒に永い時を過ごせるのだもの。」

「永いかな。僕は足りない。もっともっと星良と一緒に過ごす時間が欲しい。」

暁良が星良の顔を覗き込みながら微笑むと、「欲張りねぇ。」と星良は暁良の頬に指先を伸ばした。

「ほら、冷たいよ、星良。また熱を出したらいけないから───」

「もう少しだけ。今日は良く晴れて、だけど雲の形も綺麗なの。ほら見て暁良。」

「うん・・・」

「私がいなくなっても、きっと暁良を見守っているから。寂しくならないでね。」

「分かってる。」

「あの星がいいかしら、それともあの星?どっちが暁良をよく見えるかしら?」

「どちらでもいいよ。僕は星良を探して、必ず傍に行くから。」

「ふふ、そうね。待っているわ、暁の王子さま。」

「はい、星の姫。」

「ふふふ、恥ずかしい。私達、もうそんな年ではないのにね。」

「そうは言っても、星良はいつまでも僕の"星の姫"で───」

「暁良はいつまでも私の"暁の王子さま"ね。」

「そういう事。」

「おばあさまの作った『暁と星』はハッピーエンドではなかったのよね?」

「本当にそうなのかな。」

「だって、暁の王子は、空の上から消えてしまった星の姫を探して旅に出ておしまいでしょう?」

「おばあさまは多分、傍にいられなくても、愛している事を伝えたかったのだと思うよ。住む世界が分かれて、それでも消せない想いがずっと続く事を忘れて欲しくないと、物語に込めたんだと思う。」

「暁良は、おばあさまの叶わなかった恋のお話ではなく、ずっと続く愛の話だと思うの?」

「物語の感じ方は人それぞれ。僕は、おばあさまがどんな思いをこの物語に込めたのかと、想像する事しか出来ないから。」

「並川さんが言っていたような、交わらない二人の悲しい恋物語では無かったのね。」

「僕はそうではないと思っているよ。僕がふたりの運命は繋がっていると思えたのは、多分・・・」

「多分?なあに?」

「続きはベッドに戻ってから。」

「うん。」


そうそうない 203 2016年2月15日のこと(6)

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「すみません、本当に僕の我が儘を聞いて下さってありがとうございます。」

そう言って、彼はグスッと洟を啜った。

僕は気付かない振りをして、缶コーヒーを飲み干すと立ち上がった。

男が男の前で涙を見せるのは、よっぽどの事だと僕は思う。

我が儘なんて思わなくていい。志歩理を想って、そして自分でもどうしようもなくてのSOSなのだから。

「それじゃあ、僕はこれで。コーヒーご馳走さまでした。」

「あ・・・ありがとうございました!」

僕は敢えて振り返らず、向かった階段脇の自動販売機の隣に設置されたゴミ箱に空き缶を捨てた。

そうそうない 202 2016年2月15日のこと(5)

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「確かに、ご主人に呼ばれたけれど、それだけでは来ない。僕は志歩理を親友だと思っているから来たんだ。もし、僕に頼りたくない、そう思うなら、僕と絶交すればいい。」

「・・・あなた、狡いわよね。昔から変わらない。勝てないわ。」

「別に、負かそうとは思ってないけど?」

「普段やさしいくせに、そういう所、厳しいわよね。敵わないわよ、もう!」

志歩理は観念したらしい。

「明日から出社するけど、いい?」

「どうぞお好きに。私をクビにしたいならそれでもいいわよ。」

そうそうない 201 2016年2月15日のこと(4)

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オリジナル小説発表


「チョコって何を作ったの?溶かして固めただけ?」

随分見くびられたものだ。確かに男がお菓子作りをするなんて一般的には聞かないだろうが、有名店のチョコレート職人は男が多い。

まあ僕の話はいいとしても、志歩理を想って頑張った美和に対して失礼じゃないか。

「生チョコ。車にあるから取って来るよ。」

「いいわよ。見せなくて。」

「志歩理にあげるよ。美和だってそうしたくて作ったみたいだし。」

「私に?どういう意味?」

あ・・・僕とした事が興奮して、ついうっかり口を滑らせてしまった。

そうそうない 200 2016年2月15日のこと(3)

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長編小説、ノベルシリーズ

「えっと・・・」と口籠る美和に、「とにかく乗って。幼稚園に戻るから。」と車に乗るよう促した。

「え、いいよ。走って戻れるから。」

「走るって、今からじゃあ遅刻だよ?乗って。」

美和は渋々車に乗った。僕は、追いかけて来たのが美和だと気付いた瞬間から、忘れ物ごと美和を幼稚園まで乗せて行くつもりだった。

次の交差点で右折し、Uターンしてから再び交差点で左折し、反対車線へ入った。

中央分離帯が無かったら、もっと簡単だったけど。

「ごめんね、元。」

しゅんとする美和をちらと見てから、前を向き、

「いいよ。何を忘れたの?」再び訊いた。

そうそうない 199 2016年2月15日のこと(2)

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「いってきます。」

そう口に出して言ったのは美和だった。

ハッとして後ろを振り返った僕は、手を合わせて居る美和を見つけた。

美和は、何かを祈るように目を閉じていた。やがてパッと目を開けた美和は、僕を見るなり「もういいの?それじゃあ、行く?」と訊いた。

腕時計を見ると、そろそろ美和を送って行く時間だった。

「行こう。」僕は立ち上がった。

ぐずぐずしていても仕方ない。

そうそうない 198 2016年2月15日のこと(1)

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恋愛小説(オリジナル)


寒さはいつもの事だから考慮しないとしても、月曜の朝は布団から起き出すのが特に辛かった。

今朝はそれに加えて、今日と言う日がこのまま始まらなければいいのにとも思って居た。

目を醒ましても、温かな布団の中で天井を仰いだままで居る僕に、

「おはよ、元。」隣の布団の中から、美和が声を掛けた。

僕は視線の先を、ゆっくり美和へと向けると、美和は目やにを擦って居たらしい指を目元から離し、「目玉焼きとスクランブルエッグ、どっちがいい?」と僕に訊いた。

「・・・玉子焼き。」

僕は選択肢に無いものを選ぶと、美和は戸惑いながら、

「えっ?玉子焼きって、厚焼き?甘いのがいい?」と続けた。

暁と星 99 (R-18) 生きる意味

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満ちた大きな月の明かりが、天井までの広い窓に掛かる薄いカーテン越しに部屋の中を照らし、

灯かりも点けて居ないのに、二人が倒れこんだベッドの中の明るさは十分だった。

透ける布越しのるびぃの肌に、励は何度もくちづけた。るびぃはそれだけで羞恥に包まれ、火照った体を小刻みに震わせた。

「何緊張してんだよ。この前もしただろ?」

「だっ、だって・・・あなたは慣れてるかもしれないけれど、私は・・・ひゃあんっ!」

励は、仰向けになっているるびぃの体に覆い被さり、硬くなった体の一部を擦り付けながら、るびぃの耳朶を噛んだ。

「ちょ、ちょっと待っ・・・んっ!」

「待てない。お前もだろ?ここ、こんなにしてさ───」


そうそうない 197 2016年2月14日のこと(13)

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そろりと顔だけ振り向いた美和が訊いた。

「えっと、お水?」

「うん。」

「待って、今用意するから。」

「急がなくていいよ。」

僕は椅子を引き、腰を下ろした。

気付かない振りをしようかなと思ったけれど、ガサゴソ、美和が隠すのに苦労しているみたいだから、そんなの今さらだと思って、

「手伝おうか?」とは、隠さなくてもいいようにと言ったのだけれど、

それには答えず、美和は水を汲んだコップを、僕の前のテーブルにコトンと置いた。

そうそうない 196 2016年2月14日のこと(12)

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それから、家を空ける為の支度をあれこれして居る内に、夜になった。

冷蔵庫の整理をし、冷凍に出来る食材は調理をしてから冷凍した。

夕食を済ませた後、美和がお風呂に入って居る間、僕は仏壇の前に腰を下ろした。

わーさんの遺影をどうしよう、持って行こうかと一瞬考え、

いや、やはりこのまま、わーさんにはこの家で留守番して貰おうと決めた。

「ごめんね。僕が家を空ける事になって寂しい?」

ぽつり訊いたって、わーさんからの返事がないのは分かって居る。

何かの答えを期待して居た時期はもう過ぎて居た。

そうそうない 195 2016年2月14日のこと(11)

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「それよりね、聞いて元。」

台所で手を洗った美和は、冷蔵庫の前で手招きしながら言った。

「何?」

すると美和は、冷蔵庫の中からバットを取り出し「ほら見て。固まったみたい。」と嬉しそうに言った。

「それで?」

「それで?じゃないよ。これから、これを賽の目に切って、ココアをまぶすの。」

ああ、そうだった。しかし待てよ?

そうそうない 194 2016年2月14日のこと(10)

Posted by 碧井 漪 on  

電話を終えると僕は、雪がパタパタ落ちて、薄いグレーに覆われて行ってしまうフロントガラス越しに、わーさんのお墓を眺めて居た。

積もって行く雪に遮られ、わーさんのお墓がだんだん見えなくなった時、急に不安になった。

わーさんのお墓が見えなくなったからというだけではない。

それまで見えていたわーさんのお墓は雪に埋もれてしまって居て、それは毎日雪掻きをしなかったせいでもある。

今まで毎日雪掻きしなかったけれど、それはいつでもすぐに出来るという安心感からの怠慢で、しかし今度雪が積もったら、すぐに雪掻きしたいと思っても出来ないからの放置になる。

僕は車から降りた。

そして、お墓へ向かって、膝下までの雪に少し足を取られながらも一直線に進んだ。

そうそうない 193 2016年2月14日のこと(9)

Posted by 碧井 漪 on  

言い難いと言わんばかりに言葉を切った泰道は、僕が「はい」と返事をすると、洟を啜って、また話し出した。

『今、入院治療中です。本当は具合が悪くてすごく不安な筈なのに、それを表に出すと仕事復帰が遅くなると思って、このままだと、完全によくなる前に退院したいと言い出しそうで心配なんです』

「そうですか。仕事の事以外、他に気になる事はありますか?」

『いいえ・・・"私にはそれしかないから"と──もし、入院した事でこの先仕事が出来なくなったらとそればかり考えてしまって居るようです。だから、木村さんが以前のように、志歩理の代わりに社長を務めて下さったら、志歩理も安心して治療に専念出来ると思うんです』

志歩理から仕事を取り上げたからと言って、何も残らない訳ではないけれど、社員想いの志歩理の事だ、社長不在の会社の事を心配にならない訳がない。

癌の再発ではなかった事は不幸中の幸いだったけれども、現在、志歩理が病気で苦しんで居る事には変わらず、僕も何か力になりたいとは思う。

美和はどうだろう。

自殺相談所 39 要請

Posted by 碧井 漪 on  

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その日は、日が暮れるまで居ても結局、その後は相談者は現れず、居る意味があったんだろうかと肩を落としてしまうと、

「お疲れ様でした。帰って、ゆっくり休んで下さいね。」と所長がやさしい言葉で労(ねぎら)ってくれた。

大した事はしていない俺は、何だか恥ずかしくなって「いいえ、疲れてません。お役に立てなくて───」と言った所で、事務所の扉がバーンと開いた。

「ねーねー、田中っち、新しい子入ったんだって?どの子?」

入って来たのは、三、四十代位の男性。短く刈った清潔感のある髪に、白いTシャツ、下は黒いパンツに濃紺の丈の長い前掛けを着け、形の悪くない額には、細く畳んだバンダナを巻いて居る。

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