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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

馮離 B面 23

Posted by 碧井 漪 on  

馮離23

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2016年6月21日火曜日。


賢一の29歳の誕生日、賢一は朝臣を連れて、聖子の墓参りを済ませると、実家へ向かった。


【黒森】


久し振りに実家の表札を前にして思ったのは、どうして俺はこの家の一人息子なんだろうって事。


帰りたくない家。今年は正月だって顔を出したくなくて、昨年末の忙しい時期に少し立ち寄った位。


父さんはまだいい、問題は母さん。


一人娘の聖子を失って、それまで注ぎ込んでいた愛情とやらを、一人残った俺に向けるようになってしまった。


もう一人、息子でも娘でも居てくれたら良かったのに・・・と賢一は実家に帰る度、縁談と同居話をする母親に辟易していた。


そうそうない 42 2015年10月11日のこと(5)

Posted by 碧井 漪 on  

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ずっと考えていた。僕が美和を追い出せなかった理由。


美和の足に火傷させた負い目、或いは誰かが居ないと寂しいからと弱った心が美和をここに置いてしまった原因かと思っていたけれど、


違うのかも。


僕が美和に冷たくすると、わーさんが怒るような気がした。


僕が美和にやさしくすると、わーさんが喜ぶような気がした。


僕の知ってるわーさんは、家に迷い込んだ子猫を、そのまま外に放り出せない人だった。


美和が出て行くと言うまで、僕は美和の為と言うより、僕とわーさんの為に追い出さないでおこうと思った。


大分(だいぶ)、この暮らしにも慣れた事だし。

暁と星 59 沈む星

Posted by 碧井 漪 on  


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頑張るって、それは私の為に?それとも並川さんに、あのクスリの研究を手伝えと言われたからなの?


ううん、違う・・・お金の為かもしれない。どうしてなんて、訊かなければ良かった。


「どうして、って?それは、星良ちゃんを愛しているからでしょう?眠っていたから分からないでしょうけど、毎朝毎晩、星良ちゃんの体を綺麗にしてくれていたのは、暁良ちゃんよ?」


私の体を綺麗にって、それは───「お下(しも)の世話、つまり星良ちゃんのオムツ交換も、私達三人でしていたのよ。」


「・・・・・・!」ええっ?!並川さんとリューさん・・・旺治郎まで?そんな・・・・・・


「それなのに『離婚して』って暁良ちゃんに言ったそうね。酷いわ、星良ちゃん。暁良ちゃんは星良ちゃんを愛しているのに。星良ちゃんもそうでしょう?暁良ちゃんの事、好きだったでしょう?私にそう教えてくれたわよね?それなのに、どうして離婚してなんて言ったの?」


嘘、嘘よ・・・彼が私を愛しているなんて、とても思えない。


献身的にお世話をしてくれたという話は本当だと思えるけれど、それはあくまで義務や憐みからであって、愛ではない気がしている。


だって、私が彼だったら、私なんて愛さない・・・そう思えるから。

縺曖 230

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晴香のようになれたら同期の彼に告白したい、真波は晴香に片瀬の事をそう打ち明けていた。


帰ってから真波は晴香に謝罪のメールを送った。晴香から返信は無かった。


翌週の月曜日。真波は会社で片瀬に金曜日の事を謝った。すると逆に、片瀬から謝られた。


「ごめん、田代。俺───」





乙女ですって 224 (R-18) 振り返っても守れない

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『退職届』


菜津子は病室で、会社既定書式の退職届に記入を終えると封筒に収め、ベッド上のテーブルに置いた。


これまでは、会社の産休・育休制度を利用しようして、出産・育児を考えていた菜津子だったが、出産前に休職を余儀なくされた今の状況、そして母にその現実を告げられた事で、職場に復帰する事を諦めてしまった。


書類は加集が、溪と共に届けてくれた。


『本当にいいんですか?』


加集は菜津子が誰より仕事が出来て、これからも続けて行きたいと思って居る事を知っていたから、菜津子に退職届を渡す時、そう漏らした。


『はい』


妊娠・出産しても仕事は続けたかった。けれど、今大切なのは、子どもの命だと、菜津子は退職を決意していた。


菜津子の気持ちが分かる加集と溪は、それ以上は何も言わず、ただにこにこと世間話をして病室後にした、それが5月23日土曜日午後。

そうそうない 41 2015年10月11日のこと(4)

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美和が仏壇に手を合わせている間、僕は冷蔵庫から取り出した保存容器を、電子レンジに入れて温めた。


戻って来た美和が、「レンジに入れたのって、朝の残りの味噌汁?」と訊いて、僕が頷くと、食器棚からお椀を二つ出してテーブルの上に載せた。


「レンゲ出して。」


「はーい。」


僕がレンジから味噌汁の入った容器を取り出してテーブルの上に置くと、美和がお椀に移し替えた。


椅子に腰を下ろし、いただきますと手を合わせる。


僕がきちんと手を合わせるのは美和がそうするから。今までは、食事の前に手を合わせるのは絶対の習慣ではなかったが、美和が必ず手を合わせるから僕も自然とそうしてしまう。


美和が手を合わせるようになったのはと訊けば、幼稚園で給食の時間、園児達と手を合わせているからと言う。


近男 -Kindan- (R-18) 改稿版 2 同棲の始まり(12~14話)

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結婚…一緒に暮らす──10年前、昔の彼と付き合っていた頃に言われたかった言葉を、一回りも年下の甥に言われるなんて想像した事もなかった。


「流星…無理よ。私は」
「俺も無理だから。輝美以外と暮らす事なんて、もう考えられない」

「本気なの?」
「冗談なら受け入れてくれる?なら、冗談で言ってる事にしてもいいよ?」

「理由は?私と結婚したいという一番の理由」

もしも、このマンションが欲しいというのなら、流星に譲って、私はどこか別の所に移り住んでもいいと考えた。

「輝美の堅い殻の内側に秘めてるやさしさ99%に包まれる1%の俺。しあわせだと思わない?」
「よく、解らないけど…セックスの事を言ってるの?」

「それだけじゃないよ。家族の事もあるし…」
「そうよ。家族が私との結婚を賛成する訳ないでしょう?」

「何で?輝美の両親って、おじいちゃんとおばあちゃんでしょ?孫が息子になるってだけの話じゃん」
「はっ?!」

あらやだ。若い子みたいな素っ頓狂な声を出してしまって、はしたないわ。

「まあねー、俺が正輝(継父)の義兄になるのはともかく、おふくろ(実母)が義妹になるっていうのは変な話になっちゃうけど。でも、しょうがないよね」
「しょうがないって事はないでしょう。とにかく、私はそんな理由では結婚しませんから」

そうそうない 40 2015年10月11日のこと(3)

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何を言い出すかと思えば・・・しかし、張り切り過ぎだろ。


つられて笑った僕は、両手で茎の下の方を掴んだ。せーの、で引っこ抜く。


あまり力み過ぎると、腰と背中をやられる。程々が難しい所だ。


男の僕でさえ腕が痛くなるこの作業。美和の細い腕じゃ大変だろうと腰を伸ばして美和の方を見ると、美和は僕が思っていたより速く作業を進めていた。


二列目の半分終えた僕と、二列目に入った美和。


いい勝負だ。ぼんやりしてると美和に抜かれる。


僕はペースを上げた。無心になって、ひまわりを引っこ抜くのに没頭した。


そうして、二人ですべての茎を抜き終えた後、家と畑の間、縁側の前にそれを運んで山にした。

累とみみ 8

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本物の僕って何だ?益々解らなくなった所で、

「今度、累のおうちに遊びに行ってもいい?」と訊かれた。


「え?僕の家?」


「駄目?迷惑?」


「い、いや・・・そうじゃないけど。」


「じゃあ、いいの?」


僕が自宅にみみを招く所を想像してみた。


両親は腰を抜かすかもしれない。励はニヤニヤしそうだ。


侶偉は友達になりたがるかもしれない。


考えたら、みみは侶偉と同い年だ。


そうそうない 39 2015年10月11日のこと(2)

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食後、食器を片付け終わると、僕が掃除機をかけ、美和は畑の前の物干しに洗濯物を干した。


「わー、終わったー!」


縁側から居間に上がった美和は、畳の上に寝転んだ。


ゴロゴロ転がる美和に、行儀が悪いと言いそうになったけど、昨日、運動会頑張って疲れてるだろうからと大目に見た。


ひまわりが枯れて一か月、種を採る頃合いとなった。


今日は薄曇りで、風はあまりない。明日から雨の予報だから、何としても今日、全て刈り取ってしまいたかった。


「くしゅん!」美和がくしゃみをした。


僕は開けっぱなしだった窓を閉めた。そして美和を振り返り、


「何か羽織ったら?」と言った。


「そうする。」


起き上がった美和は、箪笥のある部屋へ行った。


暁と星 58 涙

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暁良は星良の頬を伝い落ちた涙に気付き、星良に向かって指先を伸ばした・・・が、星良の苦し気な表情に、暁良は伸ばしたその手を握り締め、力なく膝の上に下ろした。


星良が倒れてからというもの、暁良はただひたすら、星良の目が醒める事だけを願って来た。


星良が目を醒まし、以前と同じ生活を送れるようになればいいと、ただそれだけを───目を醒ました星良が、暁良と結婚した事実を知った時、離婚したいと言うかもしれない、その時は応じなければと考えてはいたものの、星良の『離婚して、出て行って』という要求を受け入れたくないと思った。


どうしたらいい───僕は星良の目が醒める事を願っていた。君の体が元通りになる事も。


しかし・・・心は変えられない。


星良が、君が求めているのは、僕ではなかった・・・


僕は、君を守って行く役目を失ってしまった。


星良の涙を誤解した暁良は居た堪れなくなり、「初音さまを呼んで来ます」と椅子を立ち、部屋を出た。


縺曖 229

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翌日、月曜日の放課後の図書室で、伸長は昨日図書館で借りて来た本を読んでいた。


既読のファンタジーと未読の時代小説は後に回し、ゆうべから読み始めたのは皇が今読んでいるという恋愛小説を書いた作者の本だった。




主人公・田代真波は24歳会社員の女性。同期入社の男性社員・片瀬に恋をしている。


しかし片瀬は、高校時代に付き合い、大学生になってから別れた彼女を忘れられないでいる。


乙女ですって 223 (R-18) 降って湧いた話

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「じゃあ、またね。舞、引っ越しの荷物、無理して運んだりしたら駄目よ?」


「分かってる。荷物は宅配便使うし、細々した物は祥ちゃんが運んでくれるって。アサ、来てくれてありがとね。」


木南はマンションの玄関先で、笑顔の舞に見送られ、外に出た。


生温く感じるビル風に頬を撫でられた木南は、ふっと夜空を見上げた。


「舞ってば、婚姻届書いた後はニコニコしてたわ。吹っ切れて、すっきりしたのかな?」


誰かに話したい気持ちから、木南は呟いていた。そして頭に浮かんだ相手は、菜津子だった。


「綱島さんに知らせたら喜んでくれるかな・・・って、そうか、綱島さんはそういう事を聞かされても喜ぶタイプじゃなさそう。」


・・・っていうか、私だったら、自分と彼氏を別れさせた女が今更、前の夫と復縁するから、彼氏とは結婚しなーい、好きにしてー・・・なんて事になったら、腹が立って、その女(=舞)を思いっ切りビンタしてやりたくなるわ。


言いたいけど、言えない・・・綱島さんに。妊婦なのに、心穏やかで居られなくさせてしまう。


今更よ、ほんと。

そうそうない 38 2015年10月11日のこと(1)

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隣に畳まれた布団を見てそう思ってガッカリしている自分に気付いた。


台所に立って居るのが美和でなければいいのに。わーさんだったら僕はしあわせなのに。


そんな風に思った自分が嫌で、僕は台所への戸を開けず、廊下に続く襖を開けた。


ひやり、冷たい床をつま先立ちで通り抜け、洗面台のマットの上にようやく両足の裏を落ち着けると、歯ブラシを取った。


歯を磨いた後、冷たい水で顔を洗い、うがいをした。


箪笥のある部屋で着替え、台所へ入ると、ほわっ、炊き上がったご飯と、味噌汁の匂いがした。


テーブルの上には厚焼き玉子とお漬物、焼いたアジの干物があった。冷凍庫に残ってたアジかな。


「おはよう、元。」


美和は生成りではなく、僕の黒のエプロンをしていた。


近男 -Kindan- (R-18) 改稿版 1 禁断の始まり(1~11話)

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近男 目次-黒
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***登場人物紹介***


(2015年2月現在)


塩谷(しおたに) 輝美  (35)  1979.8.15生

塩谷 流星  (23)  1991.8. 8生



塩谷 正輝  (33)

塩谷 秋子  (40)
 
塩谷 真子  ( 7)  2007.10生



塩谷 輝一  (62)

塩谷 裕美子(60)



**********************


そうそうない 37 2015年10月10日のこと(7)

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お風呂を出ると、美和が台所のテーブルに向かって、お茶を煎れていた。


氷を入れたグラスに、冷ました緑茶を注いでいる。


「はい、元。」


「ありがとう。」


僕が椅子に腰を下ろすと、美和も向かいに腰を下ろした。


「疲れた?」


「うん。」


「ありがとうね。今日。元のおかげで楽しかった。大成功だったし。」


「別に、僕のおかげじゃないだろ。」


累とみみ 7

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テレビ、ない。エアコンはあるけれど、とても古くて動くのかも判らない。


こたつは電気コードを抜いているし、ストーブもない。


どこからか風が吹き込んでいるようだ。気密性が低い。部屋の中だと言うのに、寒くてコートを脱ぐ事が出来ない。


窓でも開いているのかと見ると、何故か硝子一面、梱包材で覆われていて、外が見えない。防犯対策?それとも飛散防止?


「今、作ってるからね。」


台所を見ると、コンロの前に立つみみの背中が見えた。


「何を作っているの?」


「お・た・の・し・み。もう少し待ってて。」


変わった匂いがして来た。これは何だ?


何かの香辛料?よく分からない匂いだ。


火から下ろした鍋の中身を、みみはどんぶりに移し、お盆に載せて僕の前に運んで来た。


どんぶりの中には、まるでマグマのようなと言いたくなる、謎の赤い汁が入っている。


そうそうない 36 2015年10月10日のこと(6)

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席に戻って約十分後、僕の前にステーキのプレートが運ばれて来た。


熱々の鉄板の上のステーキからは、ジュウジュウ音がして、白い湯気がもうもうと立ち昇る。僕の周りに、肉の焼ける旨そうな匂いが広がった。


他にライス、サラダと並べられる。美和の前にもパンとサラダ。


あれ?サラダボウルが二つ。


僕はサラダを頼んでいない筈だけど?


「あ、これ?セットの方がお得だからって、サラダ、頼んじゃった。」


「もしかしてコーヒーも?」


「そう。」


「要らないって言ったのに。」


「ごめん。余ったら私が食べるから。」

暁と星 57 オウジの正体

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背を起こしたベッドに預けている星良の両肩が、ビクンと揺れた。


「ど・・・して・・・」


部屋に入って来た旺治郎の姿を見た星良は戸惑い、視線の先をベッドの上に落とした。


確かに"待って居る"人には違いなかったが、星良は旺治郎ではなく、まず暁良に会って気持ちを整理したいと考えていた。


今、旺治郎に会ったら私、また苦しくなって、泣いてしまうかもしれない。


旺治郎と同じ空間に居るだけで、“好き”という気持ちが溢れ、星良の心をいっぱいに埋め尽くした。


今、上手く声にして伝えられなくて良かった。


あの時言えなかった言葉。今は永遠に告げられなくなった言葉。

縺曖 228

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中央図書館からの帰り道、電車の中で二人はたわい無い会話を楽しんだ。


伸長は夕焼け色に染まる空気の中、しあわせを噛み締めていた。


またこんな風に皇くんと会って話せるようになれた事は、本当に嬉しくて、夢なら醒めて欲しくなくて、でもまたいつか、皇くんに嫌われて、口も利けなくなる日が来るかもと考えてしまうと、胸が押し潰されそうになる。


伸長は、皇の提げているショップロゴの入った袋に視線を落とした。


あの中には、もうすぐ誕生日を迎えるという、勇田さんへのプレゼントが入っている。

そうそうない 35 2015年10月10日のこと(5)

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「あっ!みわせんせいだー!」


横を向いていたカズキくんが、突然声を上げた。


カズキくんの視線の先に僕も目を遣ると、美和が走って、こちらに向かっていた。


「こんにちはー、数喜くんのお父さん。」


シートの前で立ち止まった美和は、カズキくんのパパに挨拶した。


「こんにちは。」


「よかったねー、数喜くん、お父さん来てくれて。」美和はしゃがみ込んで、カズキくんの肩に手を置いた。


「うん!みわせんせい、ありがとう。おべんとういっしょにたべてくれて。」


「どういたしまして。」

乙女ですって 222 (R-18) 福縁

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「どうか、菜津子がしあわせになりますように。」


「・・・え?菜津子。」


「あ、俺!えっと、声に出してましたか?」


「はい。その方は、離婚したいと願う奥様のお名前ですか?」


隆人は、槇尾に今までの事情を話した際、菜津子の名も舞の名も明かしていなかった。


「違います。元妻は舞といい、菜津子というのは、僕が別れたくなかった人の名です。」


「ああ・・・そうでしたか。菜津子、さん。その方は、隆人くんと別れた今はどうなさっておられるのですか?」


「知りません。でも、多分元気だと思いたいです。」


「連絡は取ってないのですか?離婚したら会いに行くとか・・・」


「はい。でも、もういいんです。会いません。その方が、こんな俺に関わらない方が、菜津子はしあわせになれるんじゃないかと思う
ので。」


「水晶玉にお願いしている時点で、関わっているのではないかと思うのですが。」


「あ!そうか。それじゃあ、今のは取り消して、ええとええと───」「冗談ですよ。隆人さんの願いを菜津子さんは知らないでしょう?それなら大丈夫ですよ。ただ・・・」


「ただ、何ですか?」菜津子がしあわせになるという願いを叶えるのは難しいと言われたらどうしよう・・・そう隆人が考えていると、


「隆人くん自身に関わらない願いは叶わないのですよ。」と槇尾に告げられた。


「そんな・・・」


遠くから、君のしあわせを願う事も許されないと言われたみたいで悲しかった。


二度と菜津子に関われない───分かっていても、改めて知らされると絶望感が胸の中を埋め尽くした。


せめて、君だけでもしあわせになって欲しいと願っている。君がしあわせになったら、俺は直ちにこの世から消えても構わないと思う程に。







そうそうない 34 2015年10月10日のこと(5)

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「カズキくん、パパの事、呼んで。」


「パパー!カズキのパパー、どこー?」


カズキくんを負ぶった僕は、観覧する大人達の前をウロウロした。


「数喜!」


どこからか声がした。


「パパ?」


すみません、と人の間を通り抜け、額に汗した男性が僕らの目の前に立った。


「カズキくんのパパですか?」


「はい。あなたは・・・?」


「話は後です。僕と交代して、競技に出て下さい。このままカズキくんを負ぶって、あのオレンジの旗のある列です。早く!」


「え、は、はい!」


僕は背中からカズキくんを下ろした。


そうそうない 33 2015年10月10日のこと(4)

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【にゅうじょうもん】


二本のポールの間に、僕らが作った紙の花で飾られた看板を取り付けた簡単な門。


その付近には園児に加え、僕と変わらない年齢の主に男達と、女性も居た。


先生らしき女性が列の先頭に立ち、こちらを向いて


「はーい、ではお父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃんは、お子様の隣に並んでくださーい!」と叫んだ。


ざわざわ、保護者は子ども達の並ぶ列の横に並び始めた。


ええと実は保護者ではない僕はどこに移動すればいいのだろうか・・・見ると、各クラス毎に分かれているようだが、僕はカズキくんのクラスも知らなかった。


顎に手を当て、考え出した時、

「数喜くん、こっちでーす。」と僕は背後から、両脇を掴まれ、押し出されるようにして、カズキくんの隣に連れて来られた。

累とみみ 6

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僕は家から離れられない。弟達と違い、蔵持家を継ぐという宿命を背負っている。


当主の器ではないと思いながらも、与えられた使命を果たさなければならない。


料亭から、一人ぼんやり歩いていた僕は、いつの間にか会社の前に立って居た。


見上げた高層ビル。家を継げば、このビルも僕の所有になるらしい。


コツン、コツーン、ビルの前に響くのは、空っぽでつまらないという男の足音。


それから向かった先は、ゆうべのあの白い橋。


赤い橋を眺めながら土手道を歩き、階段を下りた。


ゆうべと違って明るいから、踏み外して転んだりはしない。


視線を足元から前へ移すと、そこにある河はいつもと変わらず、悠々と流れている。

そうそうない 32 2015年10月10日のこと(3)

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僕は、名前しか知らない男の子と二人、日陰のブルーシートの上に取り残された。


「おじさん、もうたべられない。」


げっぷをしながらカズキくんは、それでも、僕が皿の上によそった分だけは全部平らげて言った。


「うん。よく食べたな。偉い偉い。」


わーさんが僕にしてくれたように、僕はカズキくんの頭を意識せず撫でていた。


ふと思い出して、目頭が熱くなる。わーさんもこんな気持ちだった?


もっと愛されたいと素直に言えなかった僕の気持ちに気付いて、頭を撫でていた?


そうだ。僕みたいにカズキくんもいつか気付く。今この瞬間も愛されている事に。傍に居なくても、家族の愛は途切れる事はない。


僕も、今は分かるよ。わーさんが僕を愛してくれていた事。家族だと思っていてくれた事。今も、傍に居ないけど、多分───

暁と星 56 待ち焦がれた人

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そして並川は部屋から出て行き、残った初音はベッド脇の椅子に腰掛けたまま、しばらくの間、星良の手をやさしく撫でていた。


そこへ、

「すぐに来てくれるって。」 と嬉しそうな顔で戻って来た並川を、初音は椅子から立ち上がり、廊下に引っ張って行った。


そして初音は、星良に聞こえないように小さな声で並川に訊ねた。


「センセ、本気?暁良ちゃんを星良ちゃんに逢わせるって・・・旺ちゃん、それでいいって言ったの?」


「いいも悪いも、星良ちゃんが暁良ちゃんに逢いたいって言うんだから仕方ない。オウジだって内心は、星良ちゃんに早く言いたいんじゃないか?結婚した事。」


「そうなの?でも・・・星良ちゃんの気持ちはそんなすぐに───」


「大丈夫だよ。星良ちゃんも分かってくれる。そうするしかなかったんだし・・・」


「そうだけど、結婚って女の子にとって一番重要な事だから。」

縺曖 227

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「伸長くん、どうする?三冊借りる?」


「これは読んだ事がある。」と伸長は有名SF小説の表紙に触れて言った。


「やっぱりな。そうじゃないかなと思ったんだけど。」


「中学校の図書室にあったんだ。」


「そっかあ。こっちの二冊は?」

乙女ですって 221 (R-18) 原因

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翌日、5月20日。


昨日は5月19日火曜日、大安か・・・


槇尾の置いて行った携帯電話のカレンダーでそれを知った隆人は、20日水曜日の朝食後、ベッドの上から病室の窓の外に目を向けた。


空と、病院敷地内に植えられている樹々の葉しか見えない。


全身の打撲の痛みは殆どない。階段を滑り落ちたのに、手足も挫かず済んだのは幸いだった。


しかし、原因不明の痛みは続いていた。


痛み止めの切れる明け方、眠れなくなり、朝食後の薬の時間まで耐えるというのが続いていた。


頭を打ったからという訳でもなさそうだ。頭に目立った外傷はなく、階段を滑り落ちる前からこめかみや首筋が痛かった事を考えると、何かの病気かもしれない。


しかし、CTもMRIも異常は無かったという。この痛みの原因は不明だ。


そうそうない 31 2015年10月10日のこと(2)

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世間一般では、こういう風に送る人生をしあわせと言うのだろう。


僕には縁のない暮らしだった。


異性と結婚して子どもを設け、家族仲良く暮らす。


それでも僕は不幸だとは感じなかった。


わーさんと暮らしている間、とてもしあわせだった。


大好きな人と、自分のペースに合った暮らし。


結婚も子どもも望めないけれど、不幸だなんて感じた事は無かった。


わーさんと別れる事になった時は辛かったけれど、二人、一緒に居た時は、この上なくしあわせだったと、僕は胸を張って言える。

そうそうない 30 2015年10月10日のこと(1)

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10月だというのに、お昼にかけて気温はどんどん上昇して、肌に感じる陽射しの暑さは8月下旬並みだった。車を運転する僕の脇の下にも、じとりと汗が滲む。


12時からお昼ごはんと聞いていた。今、12時5分前。ギリギリだった。


幼稚園の隣の空き地に車を停めようかと思っていたけれど、普段ガラガラのそこは、今日は車で一杯だった。


園児達の家族の車。それでも全園児の人数を考えると入り切らない広さの空き地だから、空き地の端には自転車の列も見えた。


これじゃあ、部外者の僕なんかが停められる訳がないと、12時になったのにも拘わらず、まだ競技中らしい園庭の様子を車の窓から確認した僕は、一旦車を出した。


累とみみ 5

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両親と共に乗った車で二十分、馴染みの料亭に着いた。


洋風な我が家と違い、和風なこの料亭に来ると、自然と気が引き締まる。


こちらです、と通された部屋。すでに到着していたお見合い相手の顔を見ると、大層美人だった。


佐久間悠美(さくまはるみ)さん24歳。趣味はお菓子作り。大手企業の一般職に就いているという。


これで性格も良かったら、蔵持家長男の結婚相手としては申し分ない。


両親もそろそろ決めたいと焦っているから、今日は殊更気合が入っているのが傍目にも判る。


お見合いをする張本人より真剣なのが可笑しくて、笑ってしまいそうになるのを必死で堪える。


ポーカーフェイスを保とうとする時の僕の顔は”仏頂面”らしい。

そうそうない 29 2015年10月6日のこと(2)

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スパゲティミートソースにすると言ったから、“大好き”と言ったのだろうという事は僕にも判っていた筈なのに、また動揺してしまった。


言われ慣れてないからだ。女性に免疫がないと言われればそう。


「好きとか嫌いとか、もうそういう事、言わないで欲しい。」


“好き”と言われる事は、”嫌い”と言われるよりは嬉しいが、別の意味に勘違いしそうで嫌だ。


「ああ、わーさんに言われたいなぁ。”好きだよ”って。」


僕はわーさんの声を頭の中で蘇らせてみる。


でも、さっき聞いたばかりの美和の声に邪魔されて、上手く思い出せなかった。


暁と星 55 会いたい人

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並川を呼ぶと言った旺治郎は、星良の枕元にあるブザーを押した。


程無くして治療室に入って来た並川は、すぐに星良の診察を始めた。


数時間前、突然意識を失くし、呼吸停止した星良を並川と旺治郎が手を尽くして蘇生させ、その後、落ち着いた星良の様子を旺治郎と並川が交替で見ていた。


「奇跡かもしれない。オウジ、俺のほっぺた抓ってみてくれ。」


「はい。」


ぎゅうっ。


「いってぇ!いてて!強過ぎ、オウジ!何か憎しみ籠もってない?」


「星良ちゃん!目が醒めたって本当?」


騒ぎを聞き付け、治療室に飛び込んで来たのは初音だった。


「リュ・・・」


「ああ、星良ちゃん。私が分かるのね。」


初音は星良の髪を撫でた。二年前と変わらぬ長さの星良の髪は、時々初音がカットしていた。

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