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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

自殺相談所 16 自認

Posted by 碧井 漪 on  

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「どうして、お・・・僕が親孝行だなんて言うんですか?」


「ナガイくんが親になれば分かるさ。」


「え・・・」


全然わからない。


親になればって言うけれど、親はそんなに偉いのか?


親にもなれない俺は、やっぱり駄目な奴だって言われている気にもなる。


うちの親は、俺を孝行息子だなんて思ってない。


駄目な息子だから期待していない―――諦めている。


『もっと頑張れ』と言われても「頑張ってるよ」としか返せないけれど、

俺の心の中に”甘え”があると自分でも気付いてる。


馮離 A面 12

Posted by 碧井 漪 on  

ビール缶
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「やった事ない。」


「分かった。ちょっと待て。」


カチッ、カチッと両方の鍋の火を止め、ホワイトソースの方の鍋を木べらでグルグルグルグルと手早く掻き混ぜた後、ブロッコリーの鍋の方を持ち上げ、シンクの中に構えたザルの中に鍋を返した。


ザバッ、

音と同時にシンクの中からもうもうと湯気が立ち昇る。


タン、と鍋をコンロに、ザルを調理台の上に置いた賢さんは俺を振り返って屈んだ。


「ほら、缶詰の横のここにベロが付いてるだろ。ここに、上に貼ってある鍵みたいなの物の穴に挿し込んで、グルグルと巻く。そしたら後は一周ぐるーっと巻いて行けば、缶の蓋がパックリ開く、という訳だ。」


「パックリ?」


「そう。簡単だろ?」


ふうん、簡単、なのか?


縺曖 53

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4月1日生まれは損だと、僕のどこかに抱えていた感情が溢れ出ても来たんだろう。


何かをするのに人より遅いと、誕生日のせいにしてしまう自分が嫌で、考えないようにしていた。


徒競走でいうとビリのイメージ。


今は高二だから、身長体重、みんなと変わらなくなって来たけれど、幼稚園や小学校低学年の時は小さかった。


それは悪い事ではないけれど、四月の身体測定時には誕生日の事など考慮されないから、先生からは『いっぱい食べてる?もっと食べないと大きくなれないよ』と言われたりもした。


僕の学年にも4月2日生まれの人はいて、僕とは、ほぼ一年違う訳だから、敵いっこない。


だから、僕と同じ4月生まれの人に対して、苦手意識を持っていた。


馮離 A面 11

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馮離A11
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賢さんは二つになった買い物袋を車椅子の手押しハンドル部分に提げず、自分の両腕に提げながら、俺の車椅子を押して歩いた。


負担を掛けるのが嫌で、一生懸命、手で漕ぐけれど、絶食していたせいか、上手く力が入らない。


外を出歩く事を想定してなかった上に、周囲に電動の車椅子を勧める人はいなかったから、俺の車椅子は手動だった。


軽くて小回りの利く型で、家の中で不便を感じた事はないが、外へ行くとなると、スーパーの入口もスロープだったし、電動車椅子の方が都合が良さそうだと思った。


電動の価格は手動の四倍だけど、買えない訳ではない。


だけど賢さんは反対するだろうな。


『腕の力が鈍(なま)る!』


リビングには俺の腕を鍛える為と称された運動器具が賢さんの手によって設置されている。


バーにぶら下がるタイプの物だ。鉄棒と言うのか、とにかく腕を鍛えろと、毎日懸垂(けんすい)をやらされる。俺の腕はその内、賢さんより太くなりそうだ。


「ただいまー。」


「・・・・・・」


縺曖 52

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小説同盟


どうして3月31日生まれを学年の一番最後にしないで、4月1日生まれを最後にしたのかと疑問に思い、本で調べた事があった。


確か、学校教育法第十七条一項によると、四月一日生まれの人は、三月三十一日の午後12時(終了時)、つまり、四月一日の午前0時に満年齢を迎える事になるらしい。


言われてみれば、確かにそうかもしれない。


夕方頃に生まれた人でも、翌年以降、その日の午前0時になった瞬間、誕生日を迎えた事になっている。


僕の場合、3月31日と4月1日の日付が変わる時刻に生まれた事と考えて、満六歳を迎えた次の4月1日から始まる学年に入れられる。

風邪みたいに移して 35

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しあわせ・・・って何だろう?


自分の望みがすべて叶ったらしあわせ?


てっちゃんと両想いになれたら、結婚出来たら、二人で一生ここで暮らせたら・・・


もしもそうなったら、それがいつ終わりを迎えてしまうかと不安になるかもしれないのに、それをしあわせというの?


しあわせって何?


私の願いがすべて叶ったら、それでしあわせと思えるの?


違う、かもしれない。


私がしあわせだと思って求めていたものは、実はしあわせではないものかもしれない。

縺曖 51

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創作倶楽部


皇くんは吹き出すや否や両手で口元を覆ったけれど、僕の顔には皇くんの唾が飛んで来ていた。
それに気付いた皇くんは、

「あ、すいません。唾飛ばしちゃって。」手の甲まで伸ばしたシャツの袖口で、僕の頬をゴシゴシ擦った。


「大丈夫。」


少し痛かったので、頬を擦る皇くんの右手に僕は下から手を添えて止めた。


「調子乗って、すみません。」


唾の事を言っているのかな?


そんなに気にならなかった。僕も昔、同じ失敗をしたし。


「気にしないで。」


風邪みたいに移して 34

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『俺と結婚すれば?』


昨日、25歳の誕生日の夜。


犬猿の仲と自他共に認める相手から、『プロポーズ』をされた。


しかも同じベッドで一夜を共に・・・って、ただ眠っただけよ。それ以上何もないわ。


結婚はしたい。実家も出たい。仕事も変えたい・・・


でも、嫌いな男の『嫁』にはなりたくない。


たった一つだけ、吉夜の『嫁』になってもいいと思う事。


それは、吉夜がてっちゃんの『親友』だという事。


てっちゃんが彼女と結婚しても、『親友の妻』という理由で会えるかもしれない。


縺曖 50

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ライトノベェーール!!


昔、僕も同級生にこんな風に顔を近付けてしまった事があった。あれは確か中学時代、委員会の時だったかな。


隣の席との間があまりなく、顔を横に向けたら近くなってしまって、喋りながらだったから、相手が不快に思ったらしく、「あんまり顔、近付けないで下さい。」と言われてしまった。


後で考えたら、唾が飛んでしまっていたのかもしれないと、反省した。


悪気があった訳ではないけれど、それ以来、話す時は人との距離を保つのが僕の鉄則だった。


こんなに顔と顔を近付けて話す事は、普段ない事だった。


僕の方は嫌ではない。相手が嫌だろう、と思っていた。

積み重なって解けるとき 45 ※哲編

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恋愛小説(オリジナル)


僕には好きな女の子がいる。


いつから好きになったのかと訊かれたら、はっきり憶えていないけれど、物心付いた時には、彼女の事が好きだった。


ただし、それを彼女に伝えた事は一度もない。


僕の密やかな恋。


彼女の傍に居て、見て居るだけでしあわせな毎日。


でもこの恋は、いつか終わりを迎えてしまうという不安はあった。


せめて少しでも長く、このままで居させて欲しい。


そう願って、僕は彼女を縛る事を思い付いた。


大学卒業後、父の開いた喫茶店の経営を正式に引き継ぎ、アルバイトだった彼女を正社員として雇った。


僕は卑怯な手を使った。彼女に毎日会う為だけに、黒字にならない喫茶店の経営を続け、彼女を働かせている。


しかし、彼女にとっても悪い条件ばかりではない。


家は隣だから通勤に関しても心配は要らないし、他の男に出逢うという事もない。


よく働いてくれる彼女は、僕の心にだけではなく、店にとっても、なくてはならない人になった。


一つ困った事は、僕が彼女をますます好きになってしまった事。

縺曖 49

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僕の小説を紹介して♪


ぷはっ、コーヒーは苦かった。


最後の香りが鼻を抜ける瞬間、

僕がカチャン、とカップをソーサーに置くと、気付いた皇くんが手を伸ばし、それを預かってくれた。


「ありがとう・・・」


「いえ・・・」


会話が続かない。訊きたい事はあるけれど、僕は中々それを切り出せずにいた。


カチャカチャ、と皇くんはトレーの上でお皿を並べ替えている。



風邪みたいに移して 33

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オリジナル小説発表



「どうして私と結婚するなんて話が出るのよ。第一、家柄が釣り合わないでしょ。うちは超庶民なのよ?どちらかというと貧しい方。」


「別に、今時政略結婚なんてないよ。そういう家もあるんだろうけど、うちは恋愛結婚推奨派なんだと。気の合わない者同士暮らしても長続きしないって。ただし同居するんだから、家族とも合う女じゃないとって条件があるけど、お前、姉貴にまで気に入られてたしな。珍しいぞ。あ、珍獣だった。」


「冗談言ってないで、そんな、私みたいなのが気に入られる訳ないでしょ。」


「ばぁちゃんと誕生日一緒ってのがツボだったな。」


「ツボ?」


「やばいな、ほんと。こうなるって分かってたら連れてくのやめたのになぁ。」


「え、え、どういう事?それって、ご家族は本気だって言うの?」


「気に入ったから泊めたんだろ?」


「えーっ?!」


縺曖 48

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珈琲、コーヒー


ケーキとコーヒーを交互に楽しむ皇くんと違って、不器用な僕はケーキを平らげた後、コーヒーを頂く事にした。


皇くんが『冷めてる』と言ったコーヒーは、皇くんの机の上にあった。


アルミホイルとプラスチックフィルムの上にフォークを載せたお皿片手に、僕はベッドから立ち上がった。


「あの・・・」僕が声を掛けた時、


皇くんは、チーズケーキの最後の一欠(ひとか)けを口に運んだ所だった。

風邪みたいに移して 32

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恋愛小説(オリジナル)


一番好きな事は仕事にしない方がいい、と誰かが言っていた。


一番好きな人とは結婚しない方がいい、と誰かが言ったような言わないような。


一番好きな事、てっちゃんのお手伝いをする事。


一番好きな人、てっちゃん。


両方を否定されたら、私の人生、何も残らない。



縺曖 47

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皇は机の上に運ばれたカップを持ち上げ、コーヒーを一口飲んだ。


「冷めてる。やっぱりか・・・」


「やっぱりって、何が?」


「多分、あの二人、俺の部屋の前で聞き耳立ててたんだ。」


「えっ?何故?」


「気になってるんでしょ。先輩の事。」


「僕?気になるって何が・・・」


風邪みたいに移して 31

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長編小説、ノベルシリーズ


吉夜のおばあさまのお誕生日を祝う昼食会は、先日の新商品発表会の後のディナーの時よりも多い人数で行われた。


びっくりする私に、家族、親戚、重役達だ、と吉夜が教えてくれた。


平日なのにお仕事は?と思っていると、創業者のおじいちゃんとおばあちゃんの誕生日は、八月と二月で、その日はお休みにしていると、またまたこっそり教えてくれた。


みんながそれぞれプレゼントを渡す度、おばあさまは、どんなものでも驚き、喜んだ。


「俺達からは、これ。」


吉夜がプレゼントとして上着の内ポケットから取り出したのは手のひらサイズの立方体の箱。


なーんだ。プレゼント、ちゃんと用意してたのね。


リボンを解いたおばあさまが、箱の中から中身を取り出すと、白い長方形の台の上に、クリスタルで出来たウサギの置物?それとも判子?


「拡大鏡なんだ。こうしてレンズを引き出して、ここのボタンを押すとライトが点く。」


「ありがとう吉夜、公子さん。暗い所でも字が読めて便利ね。」


風邪みたいに移して 30

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まさか吉夜のおばあさまがお庭に居るなんて、考えもしていなかったから。


吉夜、ちょっとだけごめん、半分はあんたのせいだけど、半分は私のミスよ。


「佐藤公子さんね?」


「は、い・・・」どうして私の名前を知っているの?


「後で、この間のお振袖の写真渡しますね。とてもよく似合っていましたよ。」


ええっ?!と声を上げそうになるのを必死に堪え、笑って誤魔化した。


「じゃあ、行きましょうか。枝は後で片付けるから、このまま・・・よいしょっと。」


おばあさまは、細腕に脚立を通して、肩に担ごうとした。


それを吉夜が止め、脚立を物置きまで運ぶ事になった。


そういう訳で、先に行ってしまった吉夜の背中を追い掛けるようにして、私とおばあさまは、お庭より少し高い場所にあるお邸へのスロープを、二人でゆっくり歩いている。


縺曖 46

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オリジナルBL小説・・・ストーリー系



どたん!どたどたっ!


あいたたた・・・!


床に打ち付けたお尻が痛い。


そして、

「あ、いててて。先輩、何で俺を巻き込むんですか。」

倒れる寸前、咄嗟に、僕が目の前の皇くんの腕を掴んでしまったせいで、皇くんも一緒に倒れてしまったようだ。


左腰の横に手をついた僕、その腕の外側を交差する形で、皇くんの右腕が床に向かって伸ばされていた。


そして、僕の両脚を跨いだ恰好で、皇くんの膝は床についていた。


つまりBLで解説すると、僕が”受け”で皇くんが”攻め”という状態になる。


顔が近い。誰かとこんなに接近したのは、初めての事かもしれない。


どきどきする。でも嫌ではない。


相手に拒絶さえされなければ、僕はどれだけ近付かれても平気みたいだ、という事を今初めて知った。






風邪みたいに移して 29

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恋愛、恋、愛、ラブ


総合スーパーを出ると、吉夜は「もうこんな時間か。」と呟き、左手で公子の右手を引いて歩きながら、右手でスマートフォンを操作し始めた。


『歩きスマホ禁止!』と言ってやろうと思った公子の隣で吉夜は、スマートフォンを右耳に当てると、


「もしもし、俺。うん、もう出たんだけどさ、彼女の支度に時間がかかって。」


彼女?誰?


「今?駅だから、あと15分位かな。席、一人分追加しといて。」


席?何の席?


電話を終えた吉夜は、コートの右ポケットにスマートフォンを入れた。


気になった公子は、「今、誰と電話してたの?」と訊いた。


「姉貴。今日、ばあちゃんの誕生日でさ、昼飯に呼ばれてんだ。」


「おばあちゃんの誕生日?プレゼント用意したの?」


「うん。」


縺曖 45

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BLイラスト・漫画・小説何でも書いちゃう!


「・・・・・・」


ベッドの上にうつ伏せになった皇くんは、無言のまま、ピクリとも動かなかった。


「あ、あの、皇くん。」


呼び掛けても返事がない。


何だか、怒ってる?


日当たりの良いお部屋。


窓は大きく、ベッド、机の上にはノートパソコン。箪笥はないけど、壁一面に木製の折り畳み式ドアが備え付けられている。クローゼットだ。

縺曖 44

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「ただいま、って、え?!」


バサッ、と床の上に何かが落ちた音が響いた。


僕の手を握ったまま、皇くんを振り返っている男の人は、「ケーキ、ぐしゃぐしゃになったんじゃないのか?」と訊いた。


ケーキ?


皇くんは、慌ててしゃがみ込むと、白い箱のはみ出たビニール袋を持ち上げた。


皇くんは箱を両手で持って、左右に軽く振った。


「そんな事したら、余計に崩れますよ。」


キッチンワゴンを押したケンイチさんが、皇くんの横をすり抜けながら注意した。


縺曖 43

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BL小説(創作)

僕がソファーに腰を下ろすと、先生は・・・ではなくて、皇くんの従兄弟かもしれない男の人は、僕と膝を90度に突き合わせる位置に車椅子を寄せた。


どきどきどき・・・緊張する。


「先輩は、皇のどこが好き?」


男の人の唐突過ぎる質問を、僕は聞き逃しそうになった。


「どこが、好き・・・って、ええと・・・」


好き?スキ、すき、鋤、ではなくて、LOVE?


皇くんの事は、良く知らない。

百世不磨の心 100 (ムーンライトノベルズ115話) 「愛」 最終話

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百世最終話
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とても苦しそうな金ちゃんの表情が目に焼き付いた。

私の目の前で、金ちゃんは、両膝をつけた姿勢から床の上に―――倒れた。


「金ちゃん、金ちゃん、しっかりして!」


「・・・・・・」


パニックを起こした。


いざとなったらこうしようと話していた事を思い出す余裕もなく、どうしたらよいか分からないまま救急車を呼んだ。


AEDの存在を思い出して取りに向かう頃に、救急車が到着して、救急隊員が金ちゃんを救急車に乗せて応急処置をして、私も乗り込んだ救急車は数分でかかりつけ病院の救急入口に着いた。


ストレッチャーに移された金ちゃんは、そのまま処置室へ運ばれた。


廊下で待っていて下さいと、どの位待っただろう。


しゃがみ込んで、背中を壁に預けた。


不安で堪らない。


大丈夫、絶対大丈夫、と心の中で唱えながら、頭の中には最悪の事態が浮かんでしまう。膝を抱えながら、頭を振った。


考えないで待とう。ここは病院、先生も処置してくれているし、心配ない。


今、何時だろう・・・家を出る時、唯一引っ掴んで来たスマートフォンの画面を見た時、”着信 美優生”と表示され、音が鳴り出した。


辺りを見回すと、廊下の端に設置されたの台の上に、公衆電話らしき物が見えた。


あそこなら、電話に出られる。


立ち上がると、長いスカートをたくし上げて、公衆電話のある位置まで急いだ。


その間、廊下になり響く電話の音が気になって、画面をタップした。


『もしもし、琥珀?家に着いたけど、何で誰も出て来ないの?』


久し振りに聞いた親友の声。


今大変な事態になっている事、言わなくちゃいけないけれど、でも言いたくない気持ちもあった。


認めたくない、金ちゃんが倒れて、命が危ないかもしれないなんて、言葉にしたら、本当にそうなってしまいそうで怖かった。


縺曖 42

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自作小説!!

僕は、首を右に90度以上捻ったと思う。


胸鎖乳突筋、いや、斜角筋かもしれない。とにかくそれらが痛いのも忘れる程、注視した先は、ダイニングテーブルのあるキッチンカウンターの向こう側、ケンイチさんに続いて入って行く車椅子の男の人。


よく見ると、髪の色が薄い、皇くんと近い色だった。


と、いう事は、あの男の人が皇くんの従兄弟の小説家”塔之寵姫”先生という事になる。


車椅子の男の人が、先生?


凄く爽やかで恰好良くて、やさしそうな人が、あんなに甘くて切なくて激しい大人の恋愛小説を書く人だなんて信じられない。


しかも、女性として書いている。難しいと思う。


その時、不図(ふと)、ケンイチさんが、先生の小説に出て来た男の人に似ているかもしれないと思い当たった。


男同士の恋愛・・・それもエッチな・・・うわわ!


凄くリアルな描写で、経験談を書いているとしたら、先生とケンイチさんの関係って・・・

積み重なって解けるとき 44 (「風邪みたいに移して 27」)

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スイーツ

自宅最寄り駅に着いた溪が、ロータリーに停められたお店の車に駆け寄り、助手席のドアを開けると、運転席に座って居たのは吉夜だった。


「溪さん、おかえりなさい。」


「ただいま、吉夜くん・・・哲は?」


助手席に乗り込んだ溪がシートベルトを締めると、

「哲は今、店の厨房で色々やってて、手が離せないみたいだから代わりに来ました。俺じゃ不満でしょうけど、家まで辛抱して下さい。」

吉夜は、はははと笑いながらハンドルを握った。


不満なんてとんでもない、わざわざ迎えに来て貰って申し訳ないと溪は思いながら、「ありがとう、吉夜くん。」とだけ言った。


以前も引越しの時にお世話になった。


『お店の二階に下宿させて貰ってますから、雑用とかあったら、俺の事は好きに使っていいですよ』とは、溪が実家で暮らしていた大学生の頃、高校生の吉夜に言われた事がある。


実際、吉夜くんは時間のある時、お店を手伝ってくれていて、哲もすごく助かっていると話していた。


年下だけど、落ち着いた振舞いの吉夜くん。余裕があって、先回りして待っているような吉夜くんの方が、本当は年上ではないかと思う事がよくあった。


私と同じか、年上だと言っても、由佳は信じるかもしれない。



―――溪は吉夜の想いには気付かないでいた。


吉夜の方も、溪に自分の想いを告げようとは考えていなかった。


期間限定の片想い、それも下宿をやめる今年の春までと決めていた。


駅前から走り出した車は順調に進み、自宅まであと少しの所で赤信号に引っ掛かる。


その時、加集の事を思い出して、助手席でぼんやりしていた溪に向かって、吉夜が口を開いた。


「溪さん、両想いって、どんなカンジですか?」


「え・・・?」


「いや、俺っていつも片想いだから、自分の想う相手に想われるのってどんなカンジなのかなって、あ、別に・・・答えなくてもいいです。」


縺曖 41

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ライトノベェーール!!


「こ、んにちは・・・」


「どうぞ、上がって。」


ケンイチさんと変わらない年齢と思しき男の人は、ニコニコしながら右腕を正面から90度大きく動かし、入ってと促した。


「は、はい。お、おじゃましま、す。」


声が喉に引っ掛かる。


確かに緊張し過ぎかもしれない。


靴を脱いで上がると、「ささ、どうぞ先輩。」と、車椅子の男の人に腰をグイッと押され、開いていた部屋のドアから、明るいリビングダイニングへ移動させられた。

縺曖 40

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「ゆうべもお話ししましたが、今日、先生に会う事は他言しないで下さい。先生は、作家としてではなく、皇くんの従兄弟として、先輩に会いたいと思っています。」


「も、勿論です。僕は、先生の事を誰にも言ったりしませんし、今日は皇くんの友人としてお邪魔させて頂きたいと思っています。よろしくお願いします!」


ケンイチさんは、右手でハンドルを握りながら、左手の甲で顔の前を押さえたようだ。


馮離 A面 10

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馮離A10
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「えっ?!朝臣、今、何て言った?」ちら、ちらと助手席と前を交互に見ながら賢さんが驚いた声を上げて、スピードを緩めた。


それが少し可笑しくて、ぷっと吹き出しそうになるのを堪えて、指で右側を差した。車は丁度信号待ちで停まっている。


「え、だから、そこのスーパー、まだ開いてるから、何か食べるもの買ってから帰ったらどうかと・・・」


ガラス張りで、明るい店内が丸見えだった。平屋建ての食品スーパーだけど、陳列棚の様子から、品数が多そうに見えた。


「あのスーパーに寄るの?」意外という感じの声で念を押された。


「え、だって・・・賢さん、腹減ったって言うから。」


「・・・ああ。寄っていいなら。」


「うん、いいよ。」


しかし、スーパーは反対車線側だった為、一度脇道に入ってUターンしてから、駐車場に入る事になった。


たかがスーパーに寄るだけの事が、随分仰々しいと思いながらも、その原因を作ったのは俺だったと、賢さんに押された車椅子で入口に差し掛かった時、店内の買い物客を目にして気付いた。


そうだ、俺は、こうして人目のある場所に行くのが嫌で、ずっと拒否していた。


だから賢さんはあんなに驚いたんだ。


やっぱり俺は駄目な奴だったんだな。


馮離 A面 9

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賢一は買ったコーヒーを二缶、左右それぞれの手に一缶ずつ持ち、朝臣に向かって駆けて来た。


「お待たせ。ホット売ってなかったから、冷たいけど。」


右手の缶コーヒーを差し出した賢一は、朝臣が受け取ると、ベンチに腰を下ろした。


”ありがとう”と、また言えない。


一々言ってたら、相当の数になるからという訳ではない。


何だか、胸がいっぱいで。


カコッ、賢さんが缶の蓋を開けると、カコ・・・俺も倣(なら)った。


ぐび、ぐび、ぐびっ・・・港に停泊する船を見ながら、朝臣と賢一は、冷たい缶コーヒーを呷った。


さっき息を吐き過ぎたせいで、喉は渇いていた。


だけど冷たい海風に吹かれながらの冷たいコーヒーは、ゆっくり味わいたいものでもなかった。

百世不磨の心 99 (ムーンライトノベルズ114話) 百世の誓い

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胸の音が耳の中で大きくなっている間中ずっと、

角度を変えた金ちゃんの唇に食まれ続けた。


開いた口の中で舌を絡め、熱を感じ、吐息を交わした。


この世界に、私と金ちゃんだけしか存在しなくなる瞬間、

好き、以外の言葉が浮かばない。


好きだよ、すごく。


百世、このままで居たいよ。


ねぇ、わかってよ。私の気持ち。


あなたの胸の奥で刻む音をずっと、聞いていたい。


私もあなたと同じ速さで刻んで、傍に居るから。


生きていてね。


あなたが生きていてくれるなら、私は二度と死のうと思わない。


私の命を愛してくれた人。


あなたが居るから、私は生きられる。


百世、その間に肉体が亡んでも、

百世、この想いを残らずあなたに捧げたい。


百世不磨の心、

磨り減ったりしないよ。


毎日、動かして、

毎日、時を移動して、

今から百世先には、

どのくらい沢山の心が生まれているのだろう。


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