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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

自殺相談所 15 自殺動機

Posted by 碧井 漪 on  

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所長の前に現れたのは、ここへ入る為に用意されているサングラスもマスクも着けていない中年の男だった。


平均より少し腹が出た程度で、よく見かける体型の親父は、禿げてはいないが、薄くなった白髪雑じりの髪は短く、目尻と弛んだ頬には皺が目立ち、所々シミもあって、お世辞にも綺麗とは言えなかった。


服装は白いポロシャツ、首筋は汗ばんで、着古したグレーのスラックスのポケットから取り出したハンカチで額から首筋の汗をざっと拭いながら椅子の前に立った。


すると、所長が立ち上がり、

「どーもどーも、渡辺さん。」とその男に握手を求めた。


え?知り合い?


「田中さん、こんにちは。暑いですね、どうですか、元気ですか?」


訊かれた所長は、バーコードカツラと鼻髭眼鏡を取り去った。


「はい、おかげさまで。渡辺さんは最近・・・?」


所長はタナカという名前に間違いないと、そのワタナベという男に裏付けられた。


「まあ、何とか・・・」


どうぞ、と所長が手で促すと、ワタナベという親父が椅子に腰掛けた。


俺の親父より年上か・・・って事は、もう定年を迎えてる人かな?

無遠慮 (R-40)※推奨

Posted by 碧井 漪 on  

再登板 男性視点
大局観 男性視点
寒暖計(R-40) 女性視点
に続くお話。男性視点です。


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孫が生まれた。


七十手前で、ようやくおじいちゃんだ。


初孫、そして一人息子の子どもだから内孫、

だけどまだ一度も会った事が無い。


孫娘が生まれてから一月半(ひとつきはん)。


嫁さんは実家に里帰りしたらしいが、うちには来ない。今は自宅に戻ったそうだ。


うちに来ないのは、嫁さんの実家より遠方だからという理由らしいが、

先日テレビを見ていたら、なんちゃらこめテーターが、

『奥さんの実家って遠方でも頻繁に帰ったりしますけど、旦那の実家が遠方だと完全に足が遠のきますよね』と言っていた。


馮離 B面 14

Posted by 碧井 漪 on  

馮離 14B
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「そう。」と言いつつ、俺は目を泳がせる朝臣の様子が気になっていた。


息を吐き過ぎて、喉がカラカラとか?


あー、それとも人工呼吸されたから、口の中が嫌な感じとか?


んー、空気だけ送って、唾液とか入れてないつもりだったけど、入った?


とにかく、気持ち悪いのには違いないか。


紙袋とか、あったら良かったけどなぁ・・・とりあえず、うがい、出来るものは・・・ない。


賢一はキョロキョロ辺りを見回した。


すると、埠頭のベンチの後方に、ジュースの自動販売機がぽつりと立っているのが見えた。


所々塗装が剥げ、下の方は潮風でかなり腐食している状態だが、灯かりが点いているので動いていそうだ。


「あ、あそこに自販機があるから、何か飲む物買って来るよ。」


「お、れも、行きたい。何だか、熱いから・・・」


「んー、じゃ、おんぶでもいい?」車椅子を出すのが億劫だった。それに、下のアスファルトもあちこち割れて隆起しているから、車でも走り難いし、車椅子はもっとだと思えたから。


「俺はおんぶでもいいけど、賢さん重いでしょ。」


「自販機の前にベンチあるから、あそこまでなら平気だ。」


「・・・うん。」


朝臣を負ぶると、「ねぇ、賢さん・・・何で・・・」ボソボソと話し掛けて来た。


風に遮られ、耳に届かない。朝臣が何を言いたかったのか、気になった。


「何で・・・の後、何だ?」

馮離 A面 8

Posted by 碧井 漪 on  

馮離 8A
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・・・・・・んっ?


ふーっ、ふーっ、ふーっ・・・ふーっ、ふーっ、ふーっ・・・


何?何だろう?


少し楽になって、目を開くと、賢さんが俺に顔を近付け・・・いや、口を付けていた、俺の口に。


これは、口づけ?―――キス?


びっくりしすぎて、息が、止まっ・・・・・・てない。


出来る、息が。苦しくない。


少し経って俺から離れた賢さんは、安心したように、ふーっと深く息を吐き出した。


俺の方は、しゃっくりが止まった時の感覚に似ていた。


びっくりして、呼吸が楽になったのだろうか?


だけどどうしてキス・・・男同士で、何で―――?


馮離 B面 13

Posted by 碧井 漪 on  

馮離 13B
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「どうした?」


ここまで何ともなかったのに、急に異変が・・・!


俺は速度を緩め、車線を左に変更してから、ちらと朝臣を確かめた。


一瞬しか見えなかったが、右手で口を押さえ、左手は胸にあったと思う。


「・・・へ、いき・・・」


どこがだ。顔色までは暗くて判らないが、声は震えてる。


まさか、ずっと我慢してた?


「朝臣、手、右手ここに乗せろ。」


馮離 A面 7

Posted by 碧井 漪 on  

馮離11-1
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グオォォォ・・・賢さんの車は低く唸りを上げて、夜の湾岸線を走り抜ける。


俺、車に、乗ってる・・・それも助手席。


前を見ると、等間隔に立っている外灯が、視界の左の端にパッパッと、次々現れては消えて行った。


隣で運転しているのは、賢さん。


ちら、と盗み見るようにして、視線を前から右へ移した。


ハンドルを握る賢さんの横顔、少ししか似てないけれど、聖子の姿が重なる。


雰囲気かな。


賢さんと一緒に過ごす時、流れる時間の速さが聖子と過ごした時と近いと感じた。


兄妹だから―――その一言で片付けられない何かがそこにあるのかもしれないと、最近少し思い始めた。


彼は、色々な物事に対して、俺が受け止めるまでの時間を与えてくれている気がする。


隣で、そっと見守っている。


こんな俺の事を―――聖子も、賢さんも見捨てたりせずに。


百世不磨の心 98 (ムーンライトノベルズ113話) 恋しい

Posted by 碧井 漪 on  

百世113
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金ちゃんの家族に紹介されてから一か月後の六月初め、今度は金ちゃんが、私の家に来て、両親に挨拶をした。


現在交際していて、ゆくゆくは結婚したいと告げると、両親、特に父は難色を示した。


結婚したいと言うその前に、金ちゃんが自分の体の事を包み隠さず話したからだった。


金ちゃんには事前に、私の両親に金ちゃんの体の事は黙っておこうと提案したけれど、それは駄目だと聞いて貰えなかった。


家族になる人に、隠し事をするなんてよくない、と・・・


だけど案の上、父は結婚に反対して、母も父が反対するから賛成とは言わなかった。


両親とはギクシャク、金ちゃんとも週末会うのは短時間になって──それを続けて一月半以上、七月下旬。


結婚出来ないのに付き合うっていうのも、どうなの?と、母が夏休み初日に言った。


おそらく父が毎夜ブツブツ、母に零しているのだろう。


学校の行事で遅くなった日も、金ちゃんの家に行っていて遅くなったのかと一々勘繰られるのにも疲れていた私は、翌日、思い切って家を出る事にした。


馮離 B面 12

Posted by 碧井 漪 on  

馮離11
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「どこ?コンビニとか?」


「ん、ああ・・・湾岸線でも走ろうかなって、車で。」


頭を冷やそうと思った。そして忘れようと。朝臣に小説を書かせたいと思った事も全部。


俺が朝臣の小説に拘らなくなれたら、朝臣から離れられそうな気がした。


「車・・・」朝臣は、俺が左足に靴を履く少しの間 考えてから、「俺も、行きたい。」と言い出した。


「えっ・・・?」車に乗るのを怖がる朝臣が?どういう心境の変化だ?


「お邪魔なら遠慮するけど。」


邪魔ではないし、遠慮する必要もない。だけど―――


「遠慮なんかしなくていい。けど・・・運転中、後ろ気にしてられないから、行くなら助手席に座らせるぞ?それでもいいのか?」


その時、卑怯だが俺は、厳しい条件を付けて朝臣を試していた。


馮離 A面 6

Posted by 碧井 漪 on  

馮離12
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「どこ、行くの?」


「ちょっとその辺、ぶらっと・・・」


ぶらっと・・・か。


戻って来るよね?


独りで部屋に籠っていたくせに、急に独りになる事が怖くなるなんて、情緒不安定なのかもしれない。


「どこ?コンビニとか?」


「ん、ああ・・・湾岸線でも走ろうかなって、車で。」


「車・・・」怖い。


でも、「俺も、行きたい。」と口から零れた。


「えっ・・・?」


賢さんが驚いた。俺を連れて行くのは嫌なのかな?


独りになりたいと考えているのなら遠慮すべきか。


「お邪魔なら遠慮するけど。」


「遠慮なんかしなくていい。けど・・・運転中、後ろ気にしてられないから、行くなら助手席に座らせるぞ?それでもいいのか?」


助手席?

馮離 B面 11

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馮離11-2
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朝臣は、俺の作ったお粥をレンゲで掬い、口の前に持って行った。


「待った、朝臣!ストップ、食べるな!」


手のひらをパーに開いて止めたが、


「?」朝臣は口を開けたまま、レンゲを下ろさない。


「しょっぱくて、食べられた物じゃない。塩加減 間違えた・・・ごめん。」


ぱくっ。


わわっ!朝臣がお粥というよりお塩を口に入れた。


「しょっ、ぱ・・・」


朝臣は左手で口を覆い、顔を顰めた。


馮離 A面 5

Posted by 碧井 漪 on  

馮離A-5
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今の俺には書けない──


『小説を書け』と言われたって、書けないものは書けない。


反抗して食事を取らず、口も利かなくなって二日後、

ベッドの上で、俺が長い不貞寝(ふてね)から醒めると、窓の外はもう夜だった―――シンとしているベッドルームの灯かりを点けると、遠くから掃除機の音が聞こえた。


ヘルパーさんかな。でも、こんな時間にいるのはおかしい。


もしかして、賢さんが頼んだのかな?


掃除機をかけているのはヘルパーさんだと思い込んだ俺は、車椅子に移り、ベッドルームから出た。


音のしているキッチンへそろりと近付いた。


すると、そこで掃除機をかけていたのは賢さんだった。


驚いて固まった俺に彼は、

「おはよう。」と、にこやかな表情で放った。


「・・・・・・」"おはよう"って何?何で賢さんがキッチンで掃除機を使ってるんだよ。


「おはようくらいは言えよ。」


「おはよう・・・」二日ぶりに俺は、賢さんに向かって口を開いた。


「まあ、おはようと言っても夜だけどな。腹減っただろ。夕飯食べよう。」


「・・・・・・」腹、減ってるのかどうかも分からない。ただ、喉は渇いた。ずっと眠ってたから。


馮離 B面 10

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馮離10
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BL小説(創作)


キッチンマットの上に掃除機をかけ終え、廊下にある納戸に戻そうとした時、車椅子の朝臣と目が合った。


引き籠もっていた寝室から、やっと出て来たんだ・・・呼びに行く手間が省けて良かった。


「おはよう。」


「・・・・・・」


まだ引き摺って口を利かない。決して良い状態とは言えないか。


「おはようくらいは言えよ。」


「おはよう・・・」


うん、喋る元気はあるな、よし。


「おはよう。と言っても夜だけど。夕飯食べよう。」


「・・・・・・」


「今日も食べなかったら、病院で点滴だからな。眠ったらすぐ身体拘束して連れて行く。」


「・・・!」


馮離 B面 9

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馮離7
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陽が落ち、ペンションに着く頃には、夕焼け空は星空に変わっていた。


「ここ?ふーん、女性が好みそうな可愛い宿だね。」


「建物が星の形になっていて、真ん中が食堂らしい。部屋はそれぞれが独立して、真ん中の建物に廊下一本で繋がっている。シャワーは部屋に付いてるそうだ。」


「へー、詳しいね。もしかして、賢さん。昔、ここに彼女と泊まりに来た事があるとか?」


「ないよ。朝臣こそ、聖子と色々出掛けたんじゃないのか?」


「いいえ、ないですよ。聖子の家は門限あったからね、ご存知でしょ?お兄さん。」


「それはそれは、失礼しました。」


「ぷっ、やめようよ。何このくだり。」


「そうだな、早く入って夕飯に有りつこう。」







夕食後、朝臣を連れて外へ出た。


「寒くないか?」


「俺は大丈夫。賢さんは?」


「俺も寒くない。」


ここは、街から離れ、灯かりが少ない高原地の為、星が沢山見えた。


「星、綺麗だな。」


「うん。」


今日は天気も良く、夜空には沢山の星が、本当に降って来そうで、思わず手を伸ばしそうになった。


実は星は近くにあるのではないかと、十分錯覚出来た。


朝臣が右手を高く、星に向けて翳した。


暗闇に慣れた目で朝臣の姿を見つめると、彼は目を細めて、微笑んでいるような穏やかな表情で星を眺めていた。


あの頃の朝臣とは随分違う、別人のようだと思った。


俺のした事は、間違ってなかった―――そう思えると、もう俺の役目は終わったのかもしれないと、未来への不安は小さくなった。









三年前、朝臣に小説を書かせる事は簡単ではなかった。


脅しなんて通じない。


俺が会社を辞め、仕事をしなくなっても、元々生活費は朝臣が払っていたのだから、俺の収入など無くても何とでもなる。


マンションは一括購入してあって、ローンはない。


朝臣には貯金もある。


食費、光熱費、医療費等は、事故の慰謝料に加え、朝臣の貯金と障がい者年金と、賞を獲った本の印税があるので、彼が何も仕事をしなくても、一生食べて行く事は出来る。


だけど、本当にそれだけで生きて行くと言えるのか。


体が生きていても、心が死んでいるって、こういう人間の事を言うんだ。


心から笑って泣いて怒って、それが出来なくなって、求めるものを見失ってしまった朝臣。


聖子が天国で見ていたら、確実に悲しんでいるだろう。


『お兄ちゃん、朝臣を助けて。朝臣を笑わせて欲しいの』


そんな幻聴が聞こえて来そうだ。


でもどうやって―――


百世不磨の心 97 (ムーンライトノベルズ112話) おまけ(R)

Posted by 碧井 漪 on  

百世112
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「はーっ、楽しかったぁ!」


「よく言うよ、緊張し過ぎて、ぶっ倒れたくせに。」


夕方、青木家を出た私と金ちゃんは、私の家の近くにある高台の、鐘のある公園に来ていた。


公園は、三年半前と変わっていなかった。


木が伸びたのと、鐘を支える柱の錆が増えた位で。


クリスマス前のあの日と違って、季節は初夏。


湿った風は、陽が落ちるにつれて冷たくなって来ている。


しっかりと繋いだ手だけ、やっぱり温かい。


オレンジの膜の中に入ったような金ちゃんの横顔をこの公園でまた見る事が出来て、しあわせだと思った。


あの日、百世の誓いを胸に刻んだ日――それからの別れなんて、想像もしていなかった。


今は、きっとね、もう別れないと思うよ。


そんな危機が訪れても、私からこの手を離す事はもうない。


金ちゃんからもないと思ってる。


私達、もう心で結ばれたの。


疑わなかったら、きっと解(ほど)けない。


「気味が悪いな。」



馮離 B面 8

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「そろそろ出掛ける?」


俺の考えている事を読み取ったかのようなタイミングで、朝臣が訊いた。


「うん。」と、俺は朝臣の上を覆う自分の体を動かした。


時々ある、朝臣が俺の考えをわかっているように感じる時が。


一緒に暮らしているから思考が似て来ているのか、お互いの欲しがる物とか、何となくわかる。


『あれ取って』『はい、お醤油』のような。


まるで老夫婦?


いや、男同士だから、夫婦ではないな。

馮離 B面 7

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あの日から四年、彼が再び小説を書き始めて三年。


短いようで長かった俺達の三年。


何度諦めようかと思った。


それでもここまで来れた。


あと一息だ。俺の役目は。


カチャ。


賢一は朝臣の眠る寝室へ入った。


一泊の荷物はあらかじめ纏めてあるが、そろそろ出掛ける準備をしないと、宿の夕飯に間に合わなくなるかもしれない。


「朝臣・・・」


賢一は、ベッドに腰掛け、朝臣の耳元で囁いた。


「ん・・・あれ?原稿チェック終わったの?」


「担当さん、帰ったよ。」


「あ・・・」


朝臣は気付いたみたいだ。俺の言葉が仕事モードから変わった事を。


目尻を下げた朝臣は、俺の首に手を伸ばし、


「キスは?」


両手の指で俺を引き寄せながら、仰向けで目を閉じる。


馮離 B面 6

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ガーッ、ガーッ、ガーッ・・・黒いプリンターから、印字された白い用紙が何枚も出て来る。


分厚く束ねたそれを俺が朝臣の向かう机の端にトンと置いた時、

「出来たー!」と朝臣は両手を突き上げ、執筆用の椅子の上で背中を反らした。


「お疲れさまでした。」


朝臣は首を左右に倒しながら、両肩を上げ下げした後、隣に立った俺を見上げた。


「あー、賢さん、ちょっと横になっていい?」


「わかりました。ベッドに運びます。」


傍らの車椅子を使えば朝臣一人で移動出来るが、原稿を書き終えたばかりの今は、甘えさせてやりたい。

風邪みたいに移して 28

Posted by 碧井 漪 on  


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死んでから地獄に落ちるより苦しいのは、生きている内に地獄だと感じる時。


そんな当たり前の事を知らなかった訳じゃない。


25年間、主に吉夜のせいで、プチ地獄は何度かあったけれど、こんなにツライ目に遭うなんて、想像してなかった。


毎年、誕生日にはいいことが無かった。でも、てっちゃんが傍にいてくれたから、何とかなった・・・


それなのに・・・業火に焼かれてしまったてっちゃんへの想い。


地面に落とした私のハートは、その業火に焼かれて真っ黒焦げで煤だらけになった。


きっとギュッと掴んだら、跡形もなく崩れる程、脆い恋。


落としたハートは、後でこっそり土に埋めようと考えていたら、綺麗な天女が、

真っ黒焦げの私のハートをてっちゃんの目の前で踏み潰し、木っ端微塵にした。


もうこの地獄にいられないと悟った私は、地獄の使いに頼んだ。


『連れてって』


地獄の使いと向かう先は、地獄に決まっている。期待なんてしてなかった。


ただ絶望から逃れたかっただけ。


地獄から抜け出す場合の地獄の使いは、天国への道案内人?


馮離 A面 4

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馮離A-4
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賢さんは、聖子が寄越した。


今、聖子が来られないから。


"私の代わりにお兄ちゃん、朝臣が寂しくないように傍に居てあげて"と賢さんに頼んだんだと・・・そんな都合の良い夢まで見るようになった。


俺の為に尽くしてくれる賢さんを残して、一人で死ぬなんて言えない。


それに、今は何を苦に死にたいと言えるのか──脚の事?確かに歩けなくて不便だけど、死ぬ程の理由にはならないと思える。


今は毎日、賢さんに「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」と「おやすみなさい」、それから「おはよう」を言える生活に満足していた。

素直な気持ちで泣けるようになった時、笑ってもいい事に気付いた。




それなのに・・・

聖子が亡くなって八か月が過ぎた三月の初め、賢さんが俺に突き付けた。


「小説を書いて欲しい。」

「小説って、どんな・・・」何も思い浮かばなかった。


まるで、自分が小説家だったと言われても信じられない程に。

「何でもいい。あの日の事でもいい。」

「あの日―――」


体験した事を書くのは簡単だと思って、賢さんは言ったのだろう。



積み重なって解けるとき 43 (「乙女ですって」 171・173)

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2月24日、火曜日の朝。


混雑する駅改札を抜けた後、人波の穏やかな場所まで歩いた溪は、コンコースの柱を背に人を待っていた。


そろそろかしら。


彼女が利用する電車が到着し、増える人波の中へ視線を向けた溪は、探していた由佳の姿を見つけた。


駅構内から出た所で、溪は由佳の肩を叩いた。


「わっ・・・!あ、溪か。おはよ。」驚いた由佳の顔色は普段と変わらない。


「おはよう、由佳。」


人の流れに沿って歩く由佳の隣に並んだ時、溪は由佳に切り出した。


「ねぇ、ゆうべの電話だけど・・・」


「ああ・・・わかってるわよ。結婚決まった事、誰にも言うなって言うんでしょ?」


「ううん・・・その事じゃなくて・・・」


何だか由佳が元気なかったから、それを訊きたいのに、上手く言葉が出ない。


『彼と何かあったの?』と訊いたとして、私に出来る事は何もなさそう・・・却って由佳の気持ちを沈ませてしまうだけかもしれない。


「何よ、はっきりしないわね。しあわせな人は、しあわせそうな顔をしなさい。それだけで周りもハッピーになれるんだから。あー、私にも分けて欲しいわ。メロメロでラブラブな感じを。」


百世不磨の心 96 (ムーンライトノベルズ111話) 1秒だけじゃ何も出来ない

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百世111
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どたっどた、どたどた、どたっ。


ん?何かしら?


琥珀が変な音の響いて来た方を見ると、


「ばぁばー、おなかすいたー!」


目のくりっとした可愛い男の子が階段を下りて来て、金ちゃんのお母さんの脚に抱き付いた。


「あらあら聖ちゃん、お腹空いたの。待っててね、もうすぐお昼ご飯だから。」


「えー、ごはんじゃなくて・・・」


「チョコか?だめだぞ聖矢。じぃじ、この前ママに怒られたんだから。ご飯の前にお菓子は駄目、ってな。」


さっき一瞬、凍り付いたような空気は、”セイヤ”という男の子の出現によって暖められ、解け出した?


ううん、私の方の問題は片付いていない。


金ちゃんのご両親に認められないと、金ちゃんとお付き合い出来なくなる?


一難去って、また一難。


さっき、金ちゃんと私のカラダの問題は何とかして行けそうだと思ったばかりなのに、次はご両親・・・私達の事、認めて貰えるには、どうしたらいいのかな?


馮離 B面 5

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馮離2-1
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「お願いだ。知っているならどんな事でもいいから教えてくれ。」


いつの間にか座り込み、力なく床に投げ出した両手の上に涙を零しながら、俺は朝臣に懇願した。


それで最後にしようと思った。妹の無念を想って、こうして泣く事をやめようと思った。


すると、涙も枯れ果てたような朝臣の目から、ボロボロと大粒の涙が落ちて来た。


驚いたのと同時に、朝臣は本当に生きていたんだと安心もした。


「聖(さと)、子、さんは・・・」


朝臣がその名前を口にしたのはいつ振りなんだろう・・・おそらく避けていたに違いない名前を、途切れ途切れに呼ぶ姿に、聖子の最期を訊いてしまった事を後悔もした。


妹がコンビニに寄った理由は・・・翌日に控えた兄の誕生日のケーキに立てる蝋燭を買う為だった──と、朝臣の口から語られた時、心が凍った。


そうなのだとしたら、俺のせい。聖子が事故に遭う原因を作ったのは──


聖子を車で轢いた加害者は勿論だが、朝臣からしたら、聖子がコンビニに寄る原因になった俺の事も憎いだろう。


俺の誕生日が事故の翌日でなければ──いや、俺がこの世に生まれていなかったら・・・


馮離 A面 3

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朝臣 白
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あのナイフは、聖子のだ。


そうか、俺を殺しに来てくれたんだと顔が綻んだのを感じた時、お兄さんがそのナイフを俺の右手に握らせ、「俺が憎いだろう?この手で俺を殺してくれ」と言い出した。


俺は「えっ?」と思った。


逆だ。殺して欲しいのは聖子を守れなかった俺の方──なのに。


涙が溢れた。聖子を失ってから初めての『悲しくない涙』だった。


俺はお兄さんと聖子を失って辛い想いを共有したと感じられた。


苦しいのは俺だけじゃなかった。


もう、一人だけの生き地獄なんかじゃない。


この地獄には、俺の他にも人がいた。


馮離 A面 2

Posted by 碧井 漪 on  

朝臣 1
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痛みで覚醒した俺は、時間がないからと運ばれた先の部屋で、あるものを見せられた。


それは、冷たい色で横たわる彼女の人形(ひとがた)で、ぴくりとも動かなかった。


それに向かって、今すぐ別れの言葉を掛けろと言われても、俺の頭の中には、何も思い浮かばなかった。


え・・・?何これ。


嘘だ―――嘘・・・だよね?


傷はないけれど青白く変色した頬、深く眠っているだけに見える瞼、強請られると実は嬉しかったキスを何度も交わした小さな唇―――それがもう、出来なくなったと今告げられても、信じられないよ。


聖子じゃないよ、違うよ。みんなで俺を騙そうとしてないか?


嘘だ、こんなの・・・酷過ぎる悪夢は、終わらなかった。


現実だったから、俺が生きている以降ずっと続くんだ──そう気付いた時、俺も聖子と同じ場所に行きたいと思った。


死んだのが俺だったら良かったのに。


聖子はやさしくて、綺麗で、みんなから慕われて、俺も大好きで、本当に本当に、彼女の居ない世界なんて考えられない。


もう会えないなんて、まだどこか信じられない。


けれど現実だった。入院している俺の前に姿を見せないのは聖子だけだった。


両親も皇も大学の友人達も出版社の人も、それから聖子のご両親もお見舞いに来てくれたのに、聖子だけが来ない。


俺が見た人形は、本物の聖子だったんだ・・・死んでしまった彼女には、もう二度と会えない。


こんな退屈な病室から出て、非常階段から落ちて死んでしまえばいいと何度も考えているのに、俺の体は上半身しか動かせなかった。


痛い、苦しい、熱があって怠い。


それ以上に、聖子を失って、もう息もしたくなかった。


俺に対して、バチが当たったとでも言いたげな世間の反応。


或いは憐れみの声に、耳を塞いだ。


たった今、欲しいのは、金でも名誉でもない。死だ。


馮離 B面 4

Posted by 碧井 漪 on  

馮離2-2
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藤野朝臣、22歳。


高校生の頃から、同級生だった俺の妹・聖子(さとこ)と付き合い、俺と朝臣は、うちのリビングで何度か会って挨拶を交わした事があった。


礼儀正しい好青年で両親も気に入り、妹と朝臣は、大学を卒業したら結婚するという約束もしていた。


大学在学中に日本純文学賞を最年少で受賞し、才能溢れる新進気鋭作家として名声と金、そして妹も手に入れようとした矢先の事故だった。


朝臣がしあわせに恵まれた分、妹に不幸が降りかかって来たんだ。


妹だけ死に、朝臣だけ生きている―――信じたくない現実。


夢かもしれない、早く目を醒まさなければ、聖子が消えてしまう・・・悪夢だと信じたい俺は、毎晩のように妹を夢枕に立たせ、苦しんだ。


絵を描く事が好きだった妹の部屋に入った俺は、ペンスタンドから、鉛筆を削る為の小さなナイフを持ち出した。


原因不明の吐き気で会社を休みがちになり、当時付き合っていた彼女とも付き合っていく気になれず別れてしまった俺の足の向かう先は、事故から半年近く経ってようやく退院したという藤野朝臣のマンション。住所は知っていた。


妹が帰って来なくなった日から半年以上が過ぎた12月下旬。


季節は夏から冬に移っていても、時の流れる感覚を失ってしまっていた俺は、一人取り残されていた。


馮離 A面 1 (「縺曖」派生 朝臣編)

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馮離 A面1-2
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しあわせの後には不幸が訪れる。


不幸を連れて来るしあわせなら欲しくなかった。


俺がしあわせになったから、彼女を不幸にしたのか?


だったら、俺なんかに出逢わなければ、彼女はしあわせだったのに。


俺と出逢ったばっかりに、彼女の運命を狂わせた。


俺の存在が、彼女の命を奪った。


直接ではなくても、結果そうなった。


償い切れない。


生きていたくない。


誰か俺を殺してくれないか?


この世界から俺一人連れ出して、誰も居ない世界へ放り込んでいいから──そうしたら、誰一人傷付けなくて済む。


縺曖 39

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5月3日、祝日の水曜日、約束の午前11時を過ぎた時、玄関前で立っていた僕の目に、ゆうべ乗せて頂いた白のワゴン車がスーッと門の前を通過して、停まったようだった。お隣の植木を通して、車の白い屋根が見える。


僕は家の門を出て、左を見た。


眩しい日差しの中、赤いテールランプが薄っすらと灯り、運転席のミラーへ目を向けると、丁度窓が開き、黒髪の男性が顔を覗かせた。


ケンイチさんだ。


「こんにちは、先輩。」

百世不磨の心 95 (ムーンライトノベルズ110話) いとおしいひと

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百世110
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5月6日月曜日、振替休日の朝。


金ちゃんの作ってくれたご飯を食べて、帰り支度をする。


ゆうべは友達の家に泊まった事になっている。


何だか、私、昨日と違う?


鏡を見ながら琥珀は体を左右に捩って確かめた。


見た目では解らない、と思う。私が処女でなくなった事は。


22歳で初体験って遅い方なのかな?早い方ではないけれど、標準的な感じかな?


鏡の中の私の両肩に、後ろから にゅっと、ブルーデニムの袖を捲った腕が二本、私の胸の上に伸ばされた。


背中には金ちゃんの胸の感触、そして、肘を曲げた腕は、私を捕まえるように胸の上を交差している。


「捕まえた。」

縺曖 38

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「率直に申し上げて、先輩・・・あ、先輩と呼ばせて頂いても、よろしいですか?」


「はい。」


「先輩は、皇くんの家の事を、どこまでお聞きになりました?」


「どこまで・・・って、あの・・・」


「先生の事、ご存知のようですから。」


賢一の低い声は、殺気を含んでいるように感じ取れた。背筋に嫌な感覚が走った伸長は、更に賢一に向けられた視線に慌てた。


「誰にも、何も話してません!先生が皇くんの従兄弟とは、家族にも一切話してません!本当です。僕は友達が居ないんです!」


縺曖 37

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皇くんのメッセージは、徒(いたずら)に僕を脅かしたかっただけのものなのかもしれない。ケンイチさんは親切な人のようだ。


それに、作家のアシスタントを務める人は、いい人に決まっている。


「僕は、白岸伸長と申します。」


「シロキシノブナガさん。字はどのように?」


「シロは白色の白、キシは河岸の岸、ノブはにんべんの伸びる、ナガは長いの長です。」


「それは素敵なお名前ですね。」


「え、いえ・・・」


お世辞だと判っていても、普段から持ち上げられる事に慣れていない僕は、自分の力で得た名前ではないけれども、思わず照れてしまった。


「皇くんとは、いつからお友達になられたのですか?」


馮離 B面 3 ※残酷描写有

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賢一 白
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コトッ・・・


キーボードを叩く朝臣の左手と画面の間に愛用のマグカップを置く。


右側にはマウスがあるから、左側がコーヒーの定位置になった。


執筆時専用のコーヒーマグは少し重たいが、頑丈でシンプルな物。


書かない日はどんなカップでもいいが、書く日は絶対に、このマグカップではないと調子が出ない朝臣。


白いカップに焦茶のコーヒーのコントラスト。


頼りなく立ち昇る、雲ような湯気。


紅茶とは違い、苦く鼻を擽る香りを感じているのかいないのか、朝臣は手を止めない。


「ねえ、賢さん!」


「はい。」


「背後に立たないで。気になって嫌なんだ。」


「失礼しました。」すぐに移動する。


うっかりしていた。朝臣は執筆中、後ろに気配を感じるのが苦手だ。


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