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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

馮離 A面 1 (「縺曖」派生 朝臣編)

Posted by 碧井 漪 on  

馮離 A面1-2
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しあわせの後には不幸が訪れる。


不幸を連れて来るしあわせなら欲しくなかった。


俺がしあわせになったから、彼女を不幸にしたのか?


だったら、俺なんかに出逢わなければ、彼女はしあわせだったのに。


俺と出逢ったばっかりに、彼女の運命を狂わせた。


俺の存在が、彼女の命を奪った。


直接ではなくても、結果そうなった。


償い切れない。


生きていたくない。


誰か俺を殺してくれないか?


この世界から俺一人連れ出して、誰も居ない世界へ放り込んでいいから──そうしたら、誰一人傷付けなくて済む。


馮離 A面 2

Posted by 碧井 漪 on  

朝臣 1
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痛みで覚醒した俺は、時間がないからと運ばれた先の部屋で、あるものを見せられた。


それは、冷たい色で横たわる彼女の人形(ひとがた)で、ぴくりとも動かなかった。


それに向かって、今すぐ別れの言葉を掛けろと言われても、俺の頭の中には、何も思い浮かばなかった。


え・・・?何これ。


嘘だ―――嘘・・・だよね?


傷はないけれど青白く変色した頬、深く眠っているだけに見える瞼、強請られると実は嬉しかったキスを何度も交わした小さな唇―――それがもう、出来なくなったと今告げられても、信じられないよ。


聖子じゃないよ、違うよ。みんなで俺を騙そうとしてないか?


嘘だ、こんなの・・・酷過ぎる悪夢は、終わらなかった。


現実だったから、俺が生きている以降ずっと続くんだ──そう気付いた時、俺も聖子と同じ場所に行きたいと思った。


死んだのが俺だったら良かったのに。


聖子はやさしくて、綺麗で、みんなから慕われて、俺も大好きで、本当に本当に、彼女の居ない世界なんて考えられない。


もう会えないなんて、まだどこか信じられない。


けれど現実だった。入院している俺の前に姿を見せないのは聖子だけだった。


両親も皇も大学の友人達も出版社の人も、それから聖子のご両親もお見舞いに来てくれたのに、聖子だけが来ない。


俺が見た人形は、本物の聖子だったんだ・・・死んでしまった彼女には、もう二度と会えない。


こんな退屈な病室から出て、非常階段から落ちて死んでしまえばいいと何度も考えているのに、俺の体は上半身しか動かせなかった。


痛い、苦しい、熱があって怠い。


それ以上に、聖子を失って、もう息もしたくなかった。


俺に対して、バチが当たったとでも言いたげな世間の反応。


或いは憐れみの声に、耳を塞いだ。


たった今、欲しいのは、金でも名誉でもない。死だ。


馮離 A面 3

Posted by 碧井 漪 on  

朝臣 白
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あのナイフは、聖子のだ。


そうか、俺を殺しに来てくれたんだと顔が綻んだのを感じた時、お兄さんがそのナイフを俺の右手に握らせ、「俺が憎いだろう?この手で俺を殺してくれ」と言い出した。


俺は「えっ?」と思った。


逆だ。殺して欲しいのは聖子を守れなかった俺の方──なのに。


涙が溢れた。聖子を失ってから初めての『悲しくない涙』だった。


俺はお兄さんと聖子を失って辛い想いを共有したと感じられた。


苦しいのは俺だけじゃなかった。


もう、一人だけの生き地獄なんかじゃない。


この地獄には、俺の他にも人がいた。


馮離 A面 4

Posted by 碧井 漪 on  

馮離A-4
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賢さんは、聖子が寄越した。


今、聖子が来られないから。


"私の代わりにお兄ちゃん、朝臣が寂しくないように傍に居てあげて"と賢さんに頼んだんだと・・・そんな都合の良い夢まで見るようになった。


俺の為に尽くしてくれる賢さんを残して、一人で死ぬなんて言えない。


それに、今は何を苦に死にたいと言えるのか──脚の事?確かに歩けなくて不便だけど、死ぬ程の理由にはならないと思える。


今は毎日、賢さんに「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」と「おやすみなさい」、それから「おはよう」を言える生活に満足していた。

素直な気持ちで泣けるようになった時、笑ってもいい事に気付いた。




それなのに・・・

聖子が亡くなって八か月が過ぎた三月の初め、賢さんが俺に突き付けた。


「小説を書いて欲しい。」

「小説って、どんな・・・」何も思い浮かばなかった。


まるで、自分が小説家だったと言われても信じられない程に。

「何でもいい。あの日の事でもいい。」

「あの日―――」


体験した事を書くのは簡単だと思って、賢さんは言ったのだろう。



馮離 A面 5

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馮離A-5
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今の俺には書けない──


『小説を書け』と言われたって、書けないものは書けない。


反抗して食事を取らず、口も利かなくなって二日後、

ベッドの上で、俺が長い不貞寝(ふてね)から醒めると、窓の外はもう夜だった―――シンとしているベッドルームの灯かりを点けると、遠くから掃除機の音が聞こえた。


ヘルパーさんかな。でも、こんな時間にいるのはおかしい。


もしかして、賢さんが頼んだのかな?


掃除機をかけているのはヘルパーさんだと思い込んだ俺は、車椅子に移り、ベッドルームから出た。


音のしているキッチンへそろりと近付いた。


すると、そこで掃除機をかけていたのは賢さんだった。


驚いて固まった俺に彼は、

「おはよう。」と、にこやかな表情で放った。


「・・・・・・」"おはよう"って何?何で賢さんがキッチンで掃除機を使ってるんだよ。


「おはようくらいは言えよ。」


「おはよう・・・」二日ぶりに俺は、賢さんに向かって口を開いた。


「まあ、おはようと言っても夜だけどな。腹減っただろ。夕飯食べよう。」


「・・・・・・」腹、減ってるのかどうかも分からない。ただ、喉は渇いた。ずっと眠ってたから。


馮離 A面 6

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馮離12
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「どこ、行くの?」


「ちょっとその辺、ぶらっと・・・」


ぶらっと・・・か。


戻って来るよね?


独りで部屋に籠っていたくせに、急に独りになる事が怖くなるなんて、情緒不安定なのかもしれない。


「どこ?コンビニとか?」


「ん、ああ・・・湾岸線でも走ろうかなって、車で。」


「車・・・」怖い。


でも、「俺も、行きたい。」と口から零れた。


「えっ・・・?」


賢さんが驚いた。俺を連れて行くのは嫌なのかな?


独りになりたいと考えているのなら遠慮すべきか。


「お邪魔なら遠慮するけど。」


「遠慮なんかしなくていい。けど・・・運転中、後ろ気にしてられないから、行くなら助手席に座らせるぞ?それでもいいのか?」


助手席?

馮離 A面 7

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グオォォォ・・・賢さんの車は低く唸りを上げて、夜の湾岸線を走り抜ける。


俺、車に、乗ってる・・・それも助手席。


前を見ると、等間隔に立っている外灯が、視界の左の端にパッパッと、次々現れては消えて行った。


隣で運転しているのは、賢さん。


ちら、と盗み見るようにして、視線を前から右へ移した。


ハンドルを握る賢さんの横顔、少ししか似てないけれど、聖子の姿が重なる。


雰囲気かな。


賢さんと一緒に過ごす時、流れる時間の速さが聖子と過ごした時と近いと感じた。


兄妹だから―――その一言で片付けられない何かがそこにあるのかもしれないと、最近少し思い始めた。


彼は、色々な物事に対して、俺が受け止めるまでの時間を与えてくれている気がする。


隣で、そっと見守っている。


こんな俺の事を―――聖子も、賢さんも見捨てたりせずに。


馮離 A面 8

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・・・・・・んっ?


ふーっ、ふーっ、ふーっ・・・ふーっ、ふーっ、ふーっ・・・


何?何だろう?


少し楽になって、目を開くと、賢さんが俺に顔を近付け・・・いや、口を付けていた、俺の口に。


これは、口づけ?―――キス?


びっくりしすぎて、息が、止まっ・・・・・・てない。


出来る、息が。苦しくない。


少し経って俺から離れた賢さんは、安心したように、ふーっと深く息を吐き出した。


俺の方は、しゃっくりが止まった時の感覚に似ていた。


びっくりして、呼吸が楽になったのだろうか?


だけどどうしてキス・・・男同士で、何で―――?


馮離 A面 9

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馮離A9
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賢一は買ったコーヒーを二缶、左右それぞれの手に一缶ずつ持ち、朝臣に向かって駆けて来た。


「お待たせ。ホット売ってなかったから、冷たいけど。」


右手の缶コーヒーを差し出した賢一は、朝臣が受け取ると、ベンチに腰を下ろした。


”ありがとう”と、また言えない。


一々言ってたら、相当の数になるからという訳ではない。


何だか、胸がいっぱいで。


カコッ、賢さんが缶の蓋を開けると、カコ・・・俺も倣(なら)った。


ぐび、ぐび、ぐびっ・・・港に停泊する船を見ながら、朝臣と賢一は、冷たい缶コーヒーを呷った。


さっき息を吐き過ぎたせいで、喉は渇いていた。


だけど冷たい海風に吹かれながらの冷たいコーヒーは、ゆっくり味わいたいものでもなかった。

馮離 A面 10

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馮離A10
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「えっ?!朝臣、今、何て言った?」ちら、ちらと助手席と前を交互に見ながら賢さんが驚いた声を上げて、スピードを緩めた。


それが少し可笑しくて、ぷっと吹き出しそうになるのを堪えて、指で右側を差した。車は丁度信号待ちで停まっている。


「え、だから、そこのスーパー、まだ開いてるから、何か食べるもの買ってから帰ったらどうかと・・・」


ガラス張りで、明るい店内が丸見えだった。平屋建ての食品スーパーだけど、陳列棚の様子から、品数が多そうに見えた。


「あのスーパーに寄るの?」意外という感じの声で念を押された。


「え、だって・・・賢さん、腹減ったって言うから。」


「・・・ああ。寄っていいなら。」


「うん、いいよ。」


しかし、スーパーは反対車線側だった為、一度脇道に入ってUターンしてから、駐車場に入る事になった。


たかがスーパーに寄るだけの事が、随分仰々しいと思いながらも、その原因を作ったのは俺だったと、賢さんに押された車椅子で入口に差し掛かった時、店内の買い物客を目にして気付いた。


そうだ、俺は、こうして人目のある場所に行くのが嫌で、ずっと拒否していた。


だから賢さんはあんなに驚いたんだ。


やっぱり俺は駄目な奴だったんだな。


馮離 A面 11

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賢さんは二つになった買い物袋を車椅子の手押しハンドル部分に提げず、自分の両腕に提げながら、俺の車椅子を押して歩いた。


負担を掛けるのが嫌で、一生懸命、手で漕ぐけれど、絶食していたせいか、上手く力が入らない。


外を出歩く事を想定してなかった上に、周囲に電動の車椅子を勧める人はいなかったから、俺の車椅子は手動だった。


軽くて小回りの利く型で、家の中で不便を感じた事はないが、外へ行くとなると、スーパーの入口もスロープだったし、電動車椅子の方が都合が良さそうだと思った。


電動の価格は手動の四倍だけど、買えない訳ではない。


だけど賢さんは反対するだろうな。


『腕の力が鈍(なま)る!』


リビングには俺の腕を鍛える為と称された運動器具が賢さんの手によって設置されている。


バーにぶら下がるタイプの物だ。鉄棒と言うのか、とにかく腕を鍛えろと、毎日懸垂(けんすい)をやらされる。俺の腕はその内、賢さんより太くなりそうだ。


「ただいまー。」


「・・・・・・」


馮離 A面 12

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ビール缶
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「やった事ない。」


「分かった。ちょっと待て。」


カチッ、カチッと両方の鍋の火を止め、ホワイトソースの方の鍋を木べらでグルグルグルグルと手早く掻き混ぜた後、ブロッコリーの鍋の方を持ち上げ、シンクの中に構えたザルの中に鍋を返した。


ザバッ、

音と同時にシンクの中からもうもうと湯気が立ち昇る。


タン、と鍋をコンロに、ザルを調理台の上に置いた賢さんは俺を振り返って屈んだ。


「ほら、缶詰の横のここにベロが付いてるだろ。ここに、上に貼ってある鍵みたいなの物の穴に挿し込んで、グルグルと巻く。そしたら後は一周ぐるーっと巻いて行けば、缶の蓋がパックリ開く、という訳だ。」


「パックリ?」


「そう。簡単だろ?」


ふうん、簡単、なのか?


馮離 A面 13

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馮離A13
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賢さん特製ドリアが焼き上がった。


賢さんがミトンを嵌めた手でオーブンを開けると、白い湯気と共に、焦げたチーズの匂いがキッチンに立ち込めた。


「ありゃ、焦げた。」


オーブンの前にしゃがみ込む彼の横顔、赤い舌の先が口から覗いた。


車椅子で近付く俺と視線の高さが一緒。


両脚が不自由になる前は気にならなかった他者の目線の位置。


今はとても気になる。背が低い、そういうレベルではない。


相手が立っていると、常に座位の低い位置に目線がある俺は、見上げる姿勢になる。

首が疲れる、それはあるけれど、大した事ではない。


見下(みお)ろされる、見下(みくだ)される。


相手が全員、俺を見下(みくだ)している訳ではないだろうが、文字通り、そんな気持ちにもなる。


馮離 A面 14

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馮離 A14
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「朝臣、食べよう。」


賢さんの声にハッとしてテーブルの上に目を遣ると、オーブンから取り出された特製ドリアの皿は一回り大きなプレートに載せられ、すでに中央に置かれていた。


白い湯気がゆらりゆらり、

賢さんは車椅子を動かし、俺をテーブルに着かせた。


そして、ポンと俺の肩に手を載せ「多分、美味いとは思うけど、保証はしないからな。」そう言って離れた後、賢さんは向かいの椅子に腰を下ろした。


白い陶器の小鉢に取り分けられたドリアは俺の前に置かれた。


白いソースの中から、グリーンと臙脂色が覗いている。


ブロッコリーとコンビーフ、どんな味になるだろう。


想像出来るような、けれど、想像を超える意外な味であるかもしれない事を期待して、

「いただきます。」とスプーンで掬った。

馮離 A面 15

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馮離A15
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吐いたものは、俺の膝の上ばかりか賢さんの服にまで掛かった。


「ごほ、ごほごほっ!」まだ喉に何か違和感があった。何かの粒?胡椒か?


「大丈夫か、朝臣。」


吐かれた事など気にも留めず、賢さんは俺の背中を手で摩(さす)り続けた。


「苦しいか?もっと吐くか?」


やってしまった。


恥ずかしさと申し訳なさに襲われ、穴があったらすぐに飛び込みたい位だった。


「こほっ、だい、じょ・・・ぶ、くほっ!」


急いでキッチンへ行き、戻って来た賢さんは、手にしたキッチンペーパーで俺の口や顎を拭うと、「風呂場に行こう」と車椅子を押した。

馮離 A面 16

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馮離A16
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そして浴槽の中で、俺の開いた足の間にしゃがみ込み、目一杯身を縮こまらせた賢さんの姿がおかしくて、いじらしくて、「あははっ!」と笑う俺の目に、涙が浮かんだ。


賢さんは、こんな俺の為に色々してくれて、なのに俺は素直に『ありがとう』の言葉一つ満足に伝えられなくて、


いつも後悔している。


「可笑しいか?」


「うん、だって、そんなに端っこに縮こまってさ。」


「邪魔かと思って。」


そんな事、絶対にないよ。


俺は膝を曲げる為、右大腿を両手で持ち上げた。


「いいよ、足、伸ばしたままで。」


浴槽の中で賢さんは体の向きを変え、俺と向かい合った。


変な感じだ。男同士、向かい合って湯船に浸かるなんて。


「なんか、照れるな。」右手で頭を掻きながら、突然賢さんが言った。


この状況下、何を言い出すんだと思った。


俺はバクバクし出した心臓の音を気取られないように、

「女性とは何度も入ってるんでしょ?」と言ってみた。

馮離 A面 17

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馮離 A17
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ぱさっ。


何かが頬に触れた。重い、そして生温(なまあたた)かい何か。


うーん・・・


目をゆっくり開いた朝臣に見えたのは、人の腕だった。


あれ、何だこれ、夢か?


ぱちぱちと瞬きしてみる。


隣には、うつ伏せのまま、顔を半分枕に埋め、眠る賢さんの姿があった。


俺の左頬は、賢さんの右手に包まれている状態。


何故?


ゆうべの記憶を辿ってみる。


風呂から上がって、着替えて、ベッドでマッサージを受けて・・・


馮離 A面 18

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ケーキとコーヒー
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ゆうべを除けば、三日ぶりの食事。


慣れてしまった空腹感を手放す方が怖くなっている。


二人で作ったお粥、今朝は塩の量を慎重にしたから、問題はないと思う。


舌をやけどしないように、十分冷ました。


しかし、お粥の中に入れたレンゲを持つ手が上に上がらない。


俺のそんな状態に気付いて居ながら黙っていた賢さんも、とうとう


「食べられないなら、病院行くか。」脅すようにではなく、仕方がないという風に、考えている事を伝えて来た。

馮離 A面 19

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車椅子1
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それから頑張ってはみたものの、

結局、形にならなかった。


これだという題材を決め、それから必要な資料を集め、一つ一つを組み立て、繋ぎ合わせる。


賞を取った小説を書いた時は確か、鉄筋コンクリート造りの三階建てを作ったような気分でいた。


今の俺は、基礎すら築けないでいる。


どうやって書いていた?


終わりの見えない渦の中から逃れたくて指を動かしてみても、それは小説に発展しない言葉の羅列に過ぎなかった。

馮離 A面 20

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一人でシャワーを浴びた後、ベッドルームへ移動して着替えた。


よし、やろう。


ベッドルーム兼執筆部屋にしたのは、今日から。


パチッ。


ノートパソコンのスイッチを入れた。


しかし、さっきと同様、何も浮かんで来ない。


俺は、白い画面をぼんやりと見つめていた。


そして、何を書いたら賢さんは喜ぶだろう・・・そんな事を考えていた。


馮離 A面 21

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馮離26

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目一杯、手を伸ばした。痛い位。


なのに賢さんには届かない。足も動かない。車椅子も見当たらなくて、俺は独りベッドの上に取り残された。


伸ばした手を力尽きたかのようにベッドの上にパタリと落とした。


同情して欲しかったのか?


賢さんの同情を買ってまで、俺の傍に縛って置きたかったのか?


違うだろ。


だけど・・・俺は何とか賢さんの期待に応えたかった。


馮離 A面 22

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何を隠したんだろう?賢さん。


出版社の封筒かな。裏だったから社名は見えなかったけれど。


こんな時間まで出掛けていたのって、まさか・・・


賢一が会っていた相手が、出版社の人間ではないかと考えてしまった朝臣は、もしそうなら、俺はこれから賢さんの期待を粉々に打ち砕く言葉を言う事になるんだ。


【もう小説は書かない】


たったそれだけ言えば、終わる関係。


俺に小説を書かせる為にここに住み、会社まで辞めてしまった賢さん。


縛りたくないだなんて、言い訳にもならない。


馮離 A面 23 (R-18)

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ちゃぷん、ぽちゃん。


天井から落ちて来る水滴が、湯面に波紋を作った。


そして「冷たっ!」朝臣の額にも落ちて来た。


ぽちゃんぽちゃんが、ボチャボチャに変わった頃、

「賢さん、そろそろ出ようよ。」と朝臣は、朝臣の体を後ろから抱いた状態で入浴している賢一に声を掛けた。


賢一は、首を前に傾(かし)げながら、その目を閉じていた。


馮離 A面 24

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決意した翌朝の天気は、雨だった。


薄曇りの天気雨。


打たれる程の雨量では無かったが、その雨に触れてみたいと思った俺は、パジャマのままベランダへ出ようと考えた。


鍵を開け、窓を開けた。


しかし・・・ベランダには出られなかった。


段差があり、車椅子では無理だった。無理に出ようとすれば、車椅子は倒れ、転んだ拍子に頭でも打ち兼ねない。


仮にそうなって死んでも構わなかった。だけど今の状況でそれをすれば、賢さんに迷惑を掛ける。


勝手するのは一人になってからだ。今ではない。


馮離 A面 25

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どうするんだろう、と考えていると、

賢さんは、俺の乗っている車椅子を押して、大きな和傘の下の、赤い長椅子の前に移動すると、ブレーキを掛けた。


そして、「せえの!」と声を出し、俺の体を抱え上げると、ヨタヨタ歩き、長椅子の上に俺を下ろした。


「ここで待ってて。」


そう言って、走り出した賢さんは階段を急いで上がり、店内に入って行った。


お店の入口付近、レジを挟んで立つお店の女性から何か貰って、賢さんは走って戻って来た。


「はい、メニュー。」


差し出されたのは、ラミネート加工された二つ折りのメニュー表。


馮離 A面 26

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「賢さん、珈琲!」俺はソーサーから持ち上げた白いカップを賢さんに手渡した。


受け取ってグビリと飲んだ賢さんは、

「ん・・・ぐっ、あちぃー!」と大きく息を吐き出した。


「もうっ!食べながら喋るから噎せるんだよ。」


「ははっ、ごめんごめん。朝臣も、はい抹茶。」


今度は賢さんが、抹茶椀を俺に手渡した。


「ありがと。」


ずっ、ずずっ・・・想像していたより甘くない、粉っぽい。


馮離 A面 27

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『書けない』という言葉を心の中から消した日の夜、

クタクタになって帰宅した俺と賢さんは、二人でお風呂に浸かってから、ベッドに移動した。


「いいよ、賢さん。俺、疲れてないし・・・」


賢さんは、ベッドの上にうつ伏せにした俺の体を両手で解し始めた。


首、肩、背中、腰、臀部、大腿、膝から下は感じないけれど、腕、そして頭は───「・・・っあ・・・!」思わず声が出てしまった。


「あ、ごめん。強かったか?」


「ううん、そうじゃ、なくて・・・っ!」


ぞわっ、鳥肌が立った。


短い髪の間に入り込んだ賢さんの指の腹は、俺の地肌をゆっくり這いながら、時々グッと力を加え、心地良い刺激を与えた。


「頭、触られるの嫌だっけ?」


「分からない・・・」素直に”気持ちいい”とは言えなくて、はぐらかすと、

「じゃあ、やめよう。」と俺の言葉を素直に受け取った賢さんは、俺の頭から両手をスッと離した。


馮離 A面 28

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馮離A28
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目が醒めて、キッチンに行くと、ダイニングテーブルに朝食が用意されていた。


ヘルパーさんが作ったんじゃない、賢さんだ。


テーブルの上のメモには、賢さんの字で【夕方に帰る。コーヒーはポットに移してあるから】とある。


「ポット?」


見ると、テーブルの上にステンレス製のスリムな水筒があった。


食パン、スクランブルエッグ、ハムサラダ、それからコーヒー。


コーヒーならコーヒーメーカーで淹れたらいいのに───と思って居たが・・・


ポットからマグカップにコーヒーを移して飲むと、熱過ぎず冷た過ぎずで丁度良かった。砂糖も少し加えてあって、好きな甘さの上、普段飲むコーヒーより、味がまろやかだった。


「何これ。美味い。」


強い酸味も嫌な苦みも感じない。コクがあり香りも残って居て、美味かった。


「これ、豆変えたのかな?」

馮離 A面 29 ※お食事前後の方閲覧注意

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馮離A29
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胸の奥のチクチクした嫌な感じが、飲み込んだカツサンドと一緒に腹に落ちて来た。


チクチク、チクチク・・・胃かな。ストレスだ、多分。


「何が分かってるって?」


「俺、そんな事言った?」


「は?」


笑みを浮かべ、顔を上げた俺は、

「このパン美味しいね。まだ残ってるなら明日の朝、コーヒーと一緒に食べたいな。」と精一杯の明るい声で賢さんに言った。


「あ、ああ、うん。」と俺の偽物の笑顔に向かって、面食らったように返事した賢さんは、


「今、コーヒー淹れようか?」と俺に訊いた。


馮離 A面 30 ※お食事前後の方は閲覧注意

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馮離A30
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「あっ・・・うっ!」


メリメリ、ミリミリ、軋むような感覚と痛みのピークが同時に肛門を過ぎ去った。


重苦しかった下腹部の感覚と痛みは、いつの間にか和らいでいた。


「はあ、はあ、はあ・・・」呼吸が荒くなってしまう俺の背後で、ふーっと息を吐いた賢さんが「もう大丈夫だと思う。苦しかっただろう?全部出し切れ。」と言った瞬間、


ピュッ、ピューッ、


俺のペニスの先から尿が飛び出して、防水シートの上にパタパタ落ちた。


馮離 A面 31

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馮離A31
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「コーヒー飲むか?」


病院から帰って来るなりすぐにキッチンに立った賢さんは、そう俺に訊きながらコーヒーを淹れる準備を始めた。


どっちでも良かったけれど、俺のマグカップまで用意されては断れないと、

「うん、飲む。」と答えた。


手を洗いに洗面台へ向かった。


ゆうべ散らかっていた脱衣所は、綺麗に片付いていた。しかし、今日はまだヘルパーさんが来ていない。


今朝は病院へ行く支度で慌ただしくて気付かなかったけれど、ここは全部、ゆうべから今朝の内に賢さんが片付けたんだと分かった。


いつもして貰うばかりで───と思う俺の胃がキリキリ痛んだ。


賢さんに言い出しづらい。小説を書けない事。


馮離 A面 32

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TL小説の基本形は、ボーイミーツガール。この場合女性が主人公だからガールミーツボーイ。


何かあるのかと思ったけれど、それが何なのか分からないまま読み終えた。


少女漫画の小説版と言えばいいのか。


物語のベースは恋愛。それに尽きる。


ただ・・・これは本当に少女向けって訳でもない描写が度々登場したのには面食らった。


キスの後、官能小説までとは言わないものの性描写がある。


今時の女子中高生は、おとぎ話の姫物語の先に、生々しい現実の性愛に辿り着くまでを見たいと思って居るのかと、少しこの国の行く末を憂えた。

馮離 A面 33 (R-18)※BL

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「出来ないんなら終わりだって言ってんの。俺、もう限界。お前の事、好き過ぎて、頭おかしくなりそう。」


「俺達、友達やめてどうなるってんだよ。」


「誰か、俺の事好きになってくれる男と付き合う。それで賢一の事、忘れようと思う。」


「やめろよ。そんな事するの!」


「別にいいだろ?友達でもなくなった俺の事なんかほっといてくれよ。じゃあな。」


「待て、秀則。待てよ!」


「追い掛けてくんなよ。」


馮離 A面 34 (R-18)※BL

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怖い・・・普段と違う賢一の貌に、朝臣は震えた。


嘘だ、夢だと思いたいのに、賢一に触られる感覚はリアルで、とても夢だとは思えなかった。


「んっ、んんんっ・・・!」


与えられる痛みに抗えないまま、この後どうなるのだろうと、朝臣が心配していたのは自身の体の事よりも、賢一との関係の方だった。


こんな事してまで賢さんは俺にBL小説書かせて、それでその後、俺の前から消えて、恋人とどこかへ行くつもりなのか?


裏切られた気分だった。


大事にして貰っていると思っていたのに、実は違ったなんて。


「う、ううっ・・・」朝臣の目から涙が溢れた。


馮離 A面 35

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風呂から上がり、賢一に着替えを手伝って貰った朝臣は、ベッドの上にうつ伏せの姿勢で賢一のマッサージを受けていた。


「・・・っ、つつっ!」


「腰と肩、大分凝ってるな。背中も張ってる。」


「そうかな・・・」朝臣が惚けても、賢一には分かっていた。


下肢が不自由な分、上肢には負担が掛かっている。


適度なストレッチを行っても、制限付きの動きでは、全ての筋肉を一人で解す事は難しい。


「辛い時は俺を頼れよ・・・って言っても、お前の事だから辛くたって黙ってるんだろ?」


「そんな事ないよ。甘えてる方だよ。」

馮離 A面 36

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それから朝臣は、賢一に車椅子への移乗を手伝って貰い、トイレへ向かった。


その間に、自分の使う枕を部屋から持参した賢一は、朝臣の枕の隣にそれを並べ、車椅子で戻って来た朝臣の体をベッドの上に移した後、掛布団を掛けた。


賢一も朝臣の隣に潜り込み、ゴロリ寝返りを打つと、朝臣の方を向いた。


「ち、近くない?」


「そうか?この前もこんなもんだったろ?」


「そうだっけ?」


「ほら、あんまり端に行くと落ちたらいけないから、もっとこっち来いよ。」


二人でも十分な広さのベッド。手摺りもあるし、端までの距離も十分あるから、下半身を動かせない俺が簡単にベッドから落ちる訳ないのに。


今夜、どういうつもりで俺と一緒に寝ようなんて、賢さんは言い出したんだろう?


馮離 A面 37

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あれから何日経っただろう。


朝臣は昼夜逆転の生活を送っていた。そうしたくてなった訳では無い。


夜、ベッドに入っても眠れなくなった。


一人ベッドに入って眠ると、悪夢にうなされるようになった。


あの日の夢。聖子と死に別れた日の夢。そして訪ねて来た賢一に憎悪剥き出しの目で見られながら、ナイフで刺される───そこでいつも目が醒める。


机の前でパソコンを開き、書いては消し、消しては書くの繰り返し。


朝、賢一が朝臣の様子を見に来る時間になるとベッドに入り、眠った振りをして、賢一が出掛けると起き、賢一の淹れたコーヒーを飲んで眠る。


そうして夕方頃起きてシャワーを浴びると、早目に夕飯を食べ、部屋に籠もる。

馮離 A面 38

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「え・・・?」


賢さんが怒った。


しかも”何より大事”って・・・俺の事が?嘘だ、そんな訳ない。聞き間違いだ。


賢さんを見ると、ベッドの上に座り込み、何とも言えない目で俺を見下ろしながら、うちわで扇ぐ手を止めない。


だけど”大事”だったらなんで、急にあんな風に素っ気なくしたんだろう。


訊ける筈もなく、それについて賢さんも何も言わなかった。


ただ、


「今日から一緒にここで寝る。朝臣が他に寝たいと思う女が出来るまで、俺が隣で寝るからな!」と宣言された。


びっくりしたけど、嬉しかった。


思わず零した涙を慌てて拭うと、

「泣く程嫌なのか?」と賢さんに顔を覗き込まれ訊かれ、

恥ずかしかった俺は両手で顔を覆い、「違う・・・」としか言えなかった。


そうしたら賢さんは、

突然俺に覆い被さるように抱き付いて来て、

「可愛い奴だー!」と、ふざけたように言い、ぐしゃぐしゃ、俺の髪を掻き混ぜた。


「ぷはっ!変な頭!」賢さんは笑い、

涙も引いた俺は、頬を膨らませて怒った振りをしようと思ったけれど、

賢さんが見せて来る変な顔に堪えられず、吹き出して大笑いしてしまった。


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