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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

馮離 B面 2

Posted by 碧井 漪 on  

賢一 1
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BL小説(創作)


カタ、カタカタ、カタカタ、カタッ。


音が止んだ。


「賢さん。」


キーの上に両手の指を載せたまま、振り向かずに彼は俺を呼んだ。


「はい。」


「いつものお願いします!」


いつもの──あれか。


立ち上がる時に、キシッ、マッサージチェアが小さく音を立てた。


スウッと息を吸い込んで、抑揚を抑え、うんと低音を意識して、そっと吐き出すように放つ。


「・・・殺したい程、愛してるよ。」


馮離 B面 3 ※残酷描写有

Posted by 碧井 漪 on  

賢一 白
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コトッ・・・


キーボードを叩く朝臣の左手と画面の間に愛用のマグカップを置く。


右側にはマウスがあるから、左側がコーヒーの定位置になった。


執筆時専用のコーヒーマグは少し重たいが、頑丈でシンプルな物。


書かない日はどんなカップでもいいが、書く日は絶対に、このマグカップではないと調子が出ない朝臣。


白いカップに焦茶のコーヒーのコントラスト。


頼りなく立ち昇る、雲ような湯気。


紅茶とは違い、苦く鼻を擽る香りを感じているのかいないのか、朝臣は手を止めない。


「ねえ、賢さん!」


「はい。」


「背後に立たないで。気になって嫌なんだ。」


「失礼しました。」すぐに移動する。


うっかりしていた。朝臣は執筆中、後ろに気配を感じるのが苦手だ。


馮離 A面 1 (「縺曖」派生 朝臣編)

Posted by 碧井 漪 on  

馮離 A面1-2
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しあわせの後には不幸が訪れる。


不幸を連れて来るしあわせなら欲しくなかった。


俺がしあわせになったから、彼女を不幸にしたのか?


だったら、俺なんかに出逢わなければ、彼女はしあわせだったのに。


俺と出逢ったばっかりに、彼女の運命を狂わせた。


俺の存在が、彼女の命を奪った。


直接ではなくても、結果そうなった。


償い切れない。


生きていたくない。


誰か俺を殺してくれないか?


この世界から俺一人連れ出して、誰も居ない世界へ放り込んでいいから──そうしたら、誰一人傷付けなくて済む。


馮離 B面 4

Posted by 碧井 漪 on  

馮離2-2
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藤野朝臣、22歳。


高校生の頃から、同級生だった俺の妹・聖子(さとこ)と付き合い、俺と朝臣は、うちのリビングで何度か会って挨拶を交わした事があった。


礼儀正しい好青年で両親も気に入り、妹と朝臣は、大学を卒業したら結婚するという約束もしていた。


大学在学中に日本純文学賞を最年少で受賞し、才能溢れる新進気鋭作家として名声と金、そして妹も手に入れようとした矢先の事故だった。


朝臣がしあわせに恵まれた分、妹に不幸が降りかかって来たんだ。


妹だけ死に、朝臣だけ生きている―――信じたくない現実。


夢かもしれない、早く目を醒まさなければ、聖子が消えてしまう・・・悪夢だと信じたい俺は、毎晩のように妹を夢枕に立たせ、苦しんだ。


絵を描く事が好きだった妹の部屋に入った俺は、ペンスタンドから、鉛筆を削る為の小さなナイフを持ち出した。


原因不明の吐き気で会社を休みがちになり、当時付き合っていた彼女とも付き合っていく気になれず別れてしまった俺の足の向かう先は、事故から半年近く経ってようやく退院したという藤野朝臣のマンション。住所は知っていた。


妹が帰って来なくなった日から半年以上が過ぎた12月下旬。


季節は夏から冬に移っていても、時の流れる感覚を失ってしまっていた俺は、一人取り残されていた。


馮離 A面 2

Posted by 碧井 漪 on  

朝臣 1
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オリジナル小説発表


痛みで覚醒した俺は、時間がないからと運ばれた先の部屋で、あるものを見せられた。


それは、冷たい色で横たわる彼女の人形(ひとがた)で、ぴくりとも動かなかった。


それに向かって、今すぐ別れの言葉を掛けろと言われても、俺の頭の中には、何も思い浮かばなかった。


え・・・?何これ。


嘘だ―――嘘・・・だよね?


傷はないけれど青白く変色した頬、深く眠っているだけに見える瞼、強請られると実は嬉しかったキスを何度も交わした小さな唇―――それがもう、出来なくなったと今告げられても、信じられないよ。


聖子じゃないよ、違うよ。みんなで俺を騙そうとしてないか?


嘘だ、こんなの・・・酷過ぎる悪夢は、終わらなかった。


現実だったから、俺が生きている以降ずっと続くんだ──そう気付いた時、俺も聖子と同じ場所に行きたいと思った。


死んだのが俺だったら良かったのに。


聖子はやさしくて、綺麗で、みんなから慕われて、俺も大好きで、本当に本当に、彼女の居ない世界なんて考えられない。


もう会えないなんて、まだどこか信じられない。


けれど現実だった。入院している俺の前に姿を見せないのは聖子だけだった。


両親も皇も大学の友人達も出版社の人も、それから聖子のご両親もお見舞いに来てくれたのに、聖子だけが来ない。


俺が見た人形は、本物の聖子だったんだ・・・死んでしまった彼女には、もう二度と会えない。


こんな退屈な病室から出て、非常階段から落ちて死んでしまえばいいと何度も考えているのに、俺の体は上半身しか動かせなかった。


痛い、苦しい、熱があって怠い。


それ以上に、聖子を失って、もう息もしたくなかった。


俺に対して、バチが当たったとでも言いたげな世間の反応。


或いは憐れみの声に、耳を塞いだ。


たった今、欲しいのは、金でも名誉でもない。死だ。


馮離 A面 3

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朝臣 白
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あのナイフは、聖子のだ。


そうか、俺を殺しに来てくれたんだと顔が綻んだのを感じた時、お兄さんがそのナイフを俺の右手に握らせ、「俺が憎いだろう?この手で俺を殺してくれ」と言い出した。


俺は「えっ?」と思った。


逆だ。殺して欲しいのは聖子を守れなかった俺の方──なのに。


涙が溢れた。聖子を失ってから初めての『悲しくない涙』だった。


俺はお兄さんと聖子を失って辛い想いを共有したと感じられた。


苦しいのは俺だけじゃなかった。


もう、一人だけの生き地獄なんかじゃない。


この地獄には、俺の他にも人がいた。


馮離 B面 5

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馮離2-1
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「お願いだ。知っているならどんな事でもいいから教えてくれ。」


いつの間にか座り込み、力なく床に投げ出した両手の上に涙を零しながら、俺は朝臣に懇願した。


それで最後にしようと思った。妹の無念を想って、こうして泣く事をやめようと思った。


すると、涙も枯れ果てたような朝臣の目から、ボロボロと大粒の涙が落ちて来た。


驚いたのと同時に、朝臣は本当に生きていたんだと安心もした。


「聖(さと)、子、さんは・・・」


朝臣がその名前を口にしたのはいつ振りなんだろう・・・おそらく避けていたに違いない名前を、途切れ途切れに呼ぶ姿に、聖子の最期を訊いてしまった事を後悔もした。


妹がコンビニに寄った理由は・・・翌日に控えた兄の誕生日のケーキに立てる蝋燭を買う為だった──と、朝臣の口から語られた時、心が凍った。


そうなのだとしたら、俺のせい。聖子が事故に遭う原因を作ったのは──


聖子を車で轢いた加害者は勿論だが、朝臣からしたら、聖子がコンビニに寄る原因になった俺の事も憎いだろう。


俺の誕生日が事故の翌日でなければ──いや、俺がこの世に生まれていなかったら・・・


馮離 A面 4

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賢さんは、聖子が寄越した。


今、聖子が来られないから。


"私の代わりにお兄ちゃん、朝臣が寂しくないように傍に居てあげて"と賢さんに頼んだんだと・・・そんな都合の良い夢まで見るようになった。


俺の為に尽くしてくれる賢さんを残して、一人で死ぬなんて言えない。


それに、今は何を苦に死にたいと言えるのか──脚の事?確かに歩けなくて不便だけど、死ぬ程の理由にはならないと思える。


今は毎日、賢さんに「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」と「おやすみなさい」、それから「おはよう」を言える生活に満足していた。

素直な気持ちで泣けるようになった時、笑ってもいい事に気付いた。




それなのに・・・

聖子が亡くなって八か月が過ぎた三月の初め、賢さんが俺に突き付けた。


「小説を書いて欲しい。」

「小説って、どんな・・・」何も思い浮かばなかった。


まるで、自分が小説家だったと言われても信じられない程に。

「何でもいい。あの日の事でもいい。」

「あの日―――」


体験した事を書くのは簡単だと思って、賢さんは言ったのだろう。



馮離 B面 6

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馮離6
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ガーッ、ガーッ、ガーッ・・・黒いプリンターから、印字された白い用紙が何枚も出て来る。


分厚く束ねたそれを俺が朝臣の向かう机の端にトンと置いた時、

「出来たー!」と朝臣は両手を突き上げ、執筆用の椅子の上で背中を反らした。


「お疲れさまでした。」


朝臣は首を左右に倒しながら、両肩を上げ下げした後、隣に立った俺を見上げた。


「あー、賢さん、ちょっと横になっていい?」


「わかりました。ベッドに運びます。」


傍らの車椅子を使えば朝臣一人で移動出来るが、原稿を書き終えたばかりの今は、甘えさせてやりたい。

馮離 B面 7

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馮離7
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あの日から四年、彼が再び小説を書き始めて三年。


短いようで長かった俺達の三年。


何度諦めようかと思った。


それでもここまで来れた。


あと一息だ。俺の役目は。


カチャ。


賢一は朝臣の眠る寝室へ入った。


一泊の荷物はあらかじめ纏めてあるが、そろそろ出掛ける準備をしないと、宿の夕飯に間に合わなくなるかもしれない。


「朝臣・・・」


賢一は、ベッドに腰掛け、朝臣の耳元で囁いた。


「ん・・・あれ?原稿チェック終わったの?」


「担当さん、帰ったよ。」


「あ・・・」


朝臣は気付いたみたいだ。俺の言葉が仕事モードから変わった事を。


目尻を下げた朝臣は、俺の首に手を伸ばし、


「キスは?」


両手の指で俺を引き寄せながら、仰向けで目を閉じる。


馮離 B面 8

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「そろそろ出掛ける?」


俺の考えている事を読み取ったかのようなタイミングで、朝臣が訊いた。


「うん。」と、俺は朝臣の上を覆う自分の体を動かした。


時々ある、朝臣が俺の考えをわかっているように感じる時が。


一緒に暮らしているから思考が似て来ているのか、お互いの欲しがる物とか、何となくわかる。


『あれ取って』『はい、お醤油』のような。


まるで老夫婦?


いや、男同士だから、夫婦ではないな。

馮離 B面 9

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馮離7
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陽が落ち、ペンションに着く頃には、夕焼け空は星空に変わっていた。


「ここ?ふーん、女性が好みそうな可愛い宿だね。」


「建物が星の形になっていて、真ん中が食堂らしい。部屋はそれぞれが独立して、真ん中の建物に廊下一本で繋がっている。シャワーは部屋に付いてるそうだ。」


「へー、詳しいね。もしかして、賢さん。昔、ここに彼女と泊まりに来た事があるとか?」


「ないよ。朝臣こそ、聖子と色々出掛けたんじゃないのか?」


「いいえ、ないですよ。聖子の家は門限あったからね、ご存知でしょ?お兄さん。」


「それはそれは、失礼しました。」


「ぷっ、やめようよ。何このくだり。」


「そうだな、早く入って夕飯に有りつこう。」







夕食後、朝臣を連れて外へ出た。


「寒くないか?」


「俺は大丈夫。賢さんは?」


「俺も寒くない。」


ここは、街から離れ、灯かりが少ない高原地の為、星が沢山見えた。


「星、綺麗だな。」


「うん。」


今日は天気も良く、夜空には沢山の星が、本当に降って来そうで、思わず手を伸ばしそうになった。


実は星は近くにあるのではないかと、十分錯覚出来た。


朝臣が右手を高く、星に向けて翳した。


暗闇に慣れた目で朝臣の姿を見つめると、彼は目を細めて、微笑んでいるような穏やかな表情で星を眺めていた。


あの頃の朝臣とは随分違う、別人のようだと思った。


俺のした事は、間違ってなかった―――そう思えると、もう俺の役目は終わったのかもしれないと、未来への不安は小さくなった。









三年前、朝臣に小説を書かせる事は簡単ではなかった。


脅しなんて通じない。


俺が会社を辞め、仕事をしなくなっても、元々生活費は朝臣が払っていたのだから、俺の収入など無くても何とでもなる。


マンションは一括購入してあって、ローンはない。


朝臣には貯金もある。


食費、光熱費、医療費等は、事故の慰謝料に加え、朝臣の貯金と障がい者年金と、賞を獲った本の印税があるので、彼が何も仕事をしなくても、一生食べて行く事は出来る。


だけど、本当にそれだけで生きて行くと言えるのか。


体が生きていても、心が死んでいるって、こういう人間の事を言うんだ。


心から笑って泣いて怒って、それが出来なくなって、求めるものを見失ってしまった朝臣。


聖子が天国で見ていたら、確実に悲しんでいるだろう。


『お兄ちゃん、朝臣を助けて。朝臣を笑わせて欲しいの』


そんな幻聴が聞こえて来そうだ。


でもどうやって―――


馮離 B面 10

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キッチンマットの上に掃除機をかけ終え、廊下にある納戸に戻そうとした時、車椅子の朝臣と目が合った。


引き籠もっていた寝室から、やっと出て来たんだ・・・呼びに行く手間が省けて良かった。


「おはよう。」


「・・・・・・」


まだ引き摺って口を利かない。決して良い状態とは言えないか。


「おはようくらいは言えよ。」


「おはよう・・・」


うん、喋る元気はあるな、よし。


「おはよう。と言っても夜だけど。夕飯食べよう。」


「・・・・・・」


「今日も食べなかったら、病院で点滴だからな。眠ったらすぐ身体拘束して連れて行く。」


「・・・!」


馮離 A面 5

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今の俺には書けない──


『小説を書け』と言われたって、書けないものは書けない。


反抗して食事を取らず、口も利かなくなって二日後、

ベッドの上で、俺が長い不貞寝(ふてね)から醒めると、窓の外はもう夜だった―――シンとしているベッドルームの灯かりを点けると、遠くから掃除機の音が聞こえた。


ヘルパーさんかな。でも、こんな時間にいるのはおかしい。


もしかして、賢さんが頼んだのかな?


掃除機をかけているのはヘルパーさんだと思い込んだ俺は、車椅子に移り、ベッドルームから出た。


音のしているキッチンへそろりと近付いた。


すると、そこで掃除機をかけていたのは賢さんだった。


驚いて固まった俺に彼は、

「おはよう。」と、にこやかな表情で放った。


「・・・・・・」"おはよう"って何?何で賢さんがキッチンで掃除機を使ってるんだよ。


「おはようくらいは言えよ。」


「おはよう・・・」二日ぶりに俺は、賢さんに向かって口を開いた。


「まあ、おはようと言っても夜だけどな。腹減っただろ。夕飯食べよう。」


「・・・・・・」腹、減ってるのかどうかも分からない。ただ、喉は渇いた。ずっと眠ってたから。


馮離 B面 11

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馮離11-2
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朝臣は、俺の作ったお粥をレンゲで掬い、口の前に持って行った。


「待った、朝臣!ストップ、食べるな!」


手のひらをパーに開いて止めたが、


「?」朝臣は口を開けたまま、レンゲを下ろさない。


「しょっぱくて、食べられた物じゃない。塩加減 間違えた・・・ごめん。」


ぱくっ。


わわっ!朝臣がお粥というよりお塩を口に入れた。


「しょっ、ぱ・・・」


朝臣は左手で口を覆い、顔を顰めた。


馮離 A面 6

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馮離12
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「どこ、行くの?」


「ちょっとその辺、ぶらっと・・・」


ぶらっと・・・か。


戻って来るよね?


独りで部屋に籠っていたくせに、急に独りになる事が怖くなるなんて、情緒不安定なのかもしれない。


「どこ?コンビニとか?」


「ん、ああ・・・湾岸線でも走ろうかなって、車で。」


「車・・・」怖い。


でも、「俺も、行きたい。」と口から零れた。


「えっ・・・?」


賢さんが驚いた。俺を連れて行くのは嫌なのかな?


独りになりたいと考えているのなら遠慮すべきか。


「お邪魔なら遠慮するけど。」


「遠慮なんかしなくていい。けど・・・運転中、後ろ気にしてられないから、行くなら助手席に座らせるぞ?それでもいいのか?」


助手席?

馮離 B面 12

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馮離11
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「どこ?コンビニとか?」


「ん、ああ・・・湾岸線でも走ろうかなって、車で。」


頭を冷やそうと思った。そして忘れようと。朝臣に小説を書かせたいと思った事も全部。


俺が朝臣の小説に拘らなくなれたら、朝臣から離れられそうな気がした。


「車・・・」朝臣は、俺が左足に靴を履く少しの間 考えてから、「俺も、行きたい。」と言い出した。


「えっ・・・?」車に乗るのを怖がる朝臣が?どういう心境の変化だ?


「お邪魔なら遠慮するけど。」


邪魔ではないし、遠慮する必要もない。だけど―――


「遠慮なんかしなくていい。けど・・・運転中、後ろ気にしてられないから、行くなら助手席に座らせるぞ?それでもいいのか?」


その時、卑怯だが俺は、厳しい条件を付けて朝臣を試していた。


馮離 A面 7

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馮離11-1
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グオォォォ・・・賢さんの車は低く唸りを上げて、夜の湾岸線を走り抜ける。


俺、車に、乗ってる・・・それも助手席。


前を見ると、等間隔に立っている外灯が、視界の左の端にパッパッと、次々現れては消えて行った。


隣で運転しているのは、賢さん。


ちら、と盗み見るようにして、視線を前から右へ移した。


ハンドルを握る賢さんの横顔、少ししか似てないけれど、聖子の姿が重なる。


雰囲気かな。


賢さんと一緒に過ごす時、流れる時間の速さが聖子と過ごした時と近いと感じた。


兄妹だから―――その一言で片付けられない何かがそこにあるのかもしれないと、最近少し思い始めた。


彼は、色々な物事に対して、俺が受け止めるまでの時間を与えてくれている気がする。


隣で、そっと見守っている。


こんな俺の事を―――聖子も、賢さんも見捨てたりせずに。


馮離 B面 13

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馮離 13B
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「どうした?」


ここまで何ともなかったのに、急に異変が・・・!


俺は速度を緩め、車線を左に変更してから、ちらと朝臣を確かめた。


一瞬しか見えなかったが、右手で口を押さえ、左手は胸にあったと思う。


「・・・へ、いき・・・」


どこがだ。顔色までは暗くて判らないが、声は震えてる。


まさか、ずっと我慢してた?


「朝臣、手、右手ここに乗せろ。」


馮離 A面 8

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・・・・・・んっ?


ふーっ、ふーっ、ふーっ・・・ふーっ、ふーっ、ふーっ・・・


何?何だろう?


少し楽になって、目を開くと、賢さんが俺に顔を近付け・・・いや、口を付けていた、俺の口に。


これは、口づけ?―――キス?


びっくりしすぎて、息が、止まっ・・・・・・てない。


出来る、息が。苦しくない。


少し経って俺から離れた賢さんは、安心したように、ふーっと深く息を吐き出した。


俺の方は、しゃっくりが止まった時の感覚に似ていた。


びっくりして、呼吸が楽になったのだろうか?


だけどどうしてキス・・・男同士で、何で―――?


馮離 B面 14

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馮離 14B
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「そう。」と言いつつ、俺は目を泳がせる朝臣の様子が気になっていた。


息を吐き過ぎて、喉がカラカラとか?


あー、それとも人工呼吸されたから、口の中が嫌な感じとか?


んー、空気だけ送って、唾液とか入れてないつもりだったけど、入った?


とにかく、気持ち悪いのには違いないか。


紙袋とか、あったら良かったけどなぁ・・・とりあえず、うがい、出来るものは・・・ない。


賢一はキョロキョロ辺りを見回した。


すると、埠頭のベンチの後方に、ジュースの自動販売機がぽつりと立っているのが見えた。


所々塗装が剥げ、下の方は潮風でかなり腐食している状態だが、灯かりが点いているので動いていそうだ。


「あ、あそこに自販機があるから、何か飲む物買って来るよ。」


「お、れも、行きたい。何だか、熱いから・・・」


「んー、じゃ、おんぶでもいい?」車椅子を出すのが億劫だった。それに、下のアスファルトもあちこち割れて隆起しているから、車でも走り難いし、車椅子はもっとだと思えたから。


「俺はおんぶでもいいけど、賢さん重いでしょ。」


「自販機の前にベンチあるから、あそこまでなら平気だ。」


「・・・うん。」


朝臣を負ぶると、「ねぇ、賢さん・・・何で・・・」ボソボソと話し掛けて来た。


風に遮られ、耳に届かない。朝臣が何を言いたかったのか、気になった。


「何で・・・の後、何だ?」

馮離 A面 9

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賢一は買ったコーヒーを二缶、左右それぞれの手に一缶ずつ持ち、朝臣に向かって駆けて来た。


「お待たせ。ホット売ってなかったから、冷たいけど。」


右手の缶コーヒーを差し出した賢一は、朝臣が受け取ると、ベンチに腰を下ろした。


”ありがとう”と、また言えない。


一々言ってたら、相当の数になるからという訳ではない。


何だか、胸がいっぱいで。


カコッ、賢さんが缶の蓋を開けると、カコ・・・俺も倣(なら)った。


ぐび、ぐび、ぐびっ・・・港に停泊する船を見ながら、朝臣と賢一は、冷たい缶コーヒーを呷った。


さっき息を吐き過ぎたせいで、喉は渇いていた。


だけど冷たい海風に吹かれながらの冷たいコーヒーは、ゆっくり味わいたいものでもなかった。

馮離 A面 10

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「えっ?!朝臣、今、何て言った?」ちら、ちらと助手席と前を交互に見ながら賢さんが驚いた声を上げて、スピードを緩めた。


それが少し可笑しくて、ぷっと吹き出しそうになるのを堪えて、指で右側を差した。車は丁度信号待ちで停まっている。


「え、だから、そこのスーパー、まだ開いてるから、何か食べるもの買ってから帰ったらどうかと・・・」


ガラス張りで、明るい店内が丸見えだった。平屋建ての食品スーパーだけど、陳列棚の様子から、品数が多そうに見えた。


「あのスーパーに寄るの?」意外という感じの声で念を押された。


「え、だって・・・賢さん、腹減ったって言うから。」


「・・・ああ。寄っていいなら。」


「うん、いいよ。」


しかし、スーパーは反対車線側だった為、一度脇道に入ってUターンしてから、駐車場に入る事になった。


たかがスーパーに寄るだけの事が、随分仰々しいと思いながらも、その原因を作ったのは俺だったと、賢さんに押された車椅子で入口に差し掛かった時、店内の買い物客を目にして気付いた。


そうだ、俺は、こうして人目のある場所に行くのが嫌で、ずっと拒否していた。


だから賢さんはあんなに驚いたんだ。


やっぱり俺は駄目な奴だったんだな。


馮離 A面 11

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賢さんは二つになった買い物袋を車椅子の手押しハンドル部分に提げず、自分の両腕に提げながら、俺の車椅子を押して歩いた。


負担を掛けるのが嫌で、一生懸命、手で漕ぐけれど、絶食していたせいか、上手く力が入らない。


外を出歩く事を想定してなかった上に、周囲に電動の車椅子を勧める人はいなかったから、俺の車椅子は手動だった。


軽くて小回りの利く型で、家の中で不便を感じた事はないが、外へ行くとなると、スーパーの入口もスロープだったし、電動車椅子の方が都合が良さそうだと思った。


電動の価格は手動の四倍だけど、買えない訳ではない。


だけど賢さんは反対するだろうな。


『腕の力が鈍(なま)る!』


リビングには俺の腕を鍛える為と称された運動器具が賢さんの手によって設置されている。


バーにぶら下がるタイプの物だ。鉄棒と言うのか、とにかく腕を鍛えろと、毎日懸垂(けんすい)をやらされる。俺の腕はその内、賢さんより太くなりそうだ。


「ただいまー。」


「・・・・・・」


馮離 A面 12

Posted by 碧井 漪 on  

ビール缶
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「やった事ない。」


「分かった。ちょっと待て。」


カチッ、カチッと両方の鍋の火を止め、ホワイトソースの方の鍋を木べらでグルグルグルグルと手早く掻き混ぜた後、ブロッコリーの鍋の方を持ち上げ、シンクの中に構えたザルの中に鍋を返した。


ザバッ、

音と同時にシンクの中からもうもうと湯気が立ち昇る。


タン、と鍋をコンロに、ザルを調理台の上に置いた賢さんは俺を振り返って屈んだ。


「ほら、缶詰の横のここにベロが付いてるだろ。ここに、上に貼ってある鍵みたいなの物の穴に挿し込んで、グルグルと巻く。そしたら後は一周ぐるーっと巻いて行けば、缶の蓋がパックリ開く、という訳だ。」


「パックリ?」


「そう。簡単だろ?」


ふうん、簡単、なのか?


馮離 B面 15

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頬をひやりと夜風が撫でた。


俺の意識は、想い出の中から現在に戻って来た。


あの夜も寒かった。


あの後、車で帰宅途中、夜遅くまで開いているスーパーに寄って冷凍炒飯を買って、家で食べたんだった。


それから朝臣のお気に入りになった冷凍炒飯。


「寒くないか?宿に戻ろうか?」


「思い出してた。」


「何を?」


聖子の事かと思いながら、俺は朝臣に訊き返した。


馮離 B面 16

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馮離 B16
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「は・・・っ?え、賢さん、今なんて?」


「今日は朝臣から、俺にキスして。」


「俺からって、え?何、賢さん、もう一回・・・」


「もー言わなーい。」顔がボッと火照った。


キシキシキシ、宿に向け、速度を上げた車椅子が軋んだ。


さっき来た道を五分も戻ると、宿に着いた。


部屋に入ると、体にぶつかっていた無数の風を感じなくなり、暖房を点けていなくても暖かく感じた。


灯かりを点けると、山の麓だからか、

生活音も外の風の音も無く、しんとして、感覚が研ぎ澄まされる。


カチャン、ドアの鍵を閉め、

カチャ、手にしていた鍵を下駄箱の上に置いた。


俺は靴を脱ぎ、朝臣の靴も脱がせた後、

車椅子のタイヤカバーを外し、

再び車椅子のハンドルを握った。


その時、

ひやり、と何か左手の甲に冷たい物が触れ、視線を向けた。


馮離 B面 17

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馮離B17
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小説15禁・18禁(性描写あり)


皇くんが越して来てから、夜は二人きりになれなかった。


だから、俺も朝臣も、二人だけの夜は三か月ぶり。


「・・・どっちでも。風呂でもベッドでも・・・」


「じゃあ、こうしよう。俺は風呂場で、朝臣はベッドで俺にキスをして。」


「えっ・・・!」


「そーしよう。今夜は俺、ネコ。」


「ネコって、無理だよ。俺は・・・」


「俺だって、たまには襲われたい。」なんて言ってみる。

馮離 B面 18

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元々涙脆い朝臣の涙は、執筆中には見慣れていたが、普段、聖子の話をした時に泣くという事は、今までになかった。


今日は特別な日―――聖子の命日、だからなのか?


いつもは口の端を歪めて、苦笑いしているような表情を浮かべて―――ああ、そうか、朝臣はずっと我慢していたのかもしれない。


こうして素直に感情を流す事を。


自由な俺の左手を朝臣の背中に回した。


丸めた背中を背骨に沿って、揃えた指で上から下へ撫で下ろす。


あたたかい。


ボコボコと朝臣の背骨の凹凸を指先に感じながら、俺はゆっくり息を吸って吐いた。


馮離 B面 19 (R-18) ※BL

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万年筆
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「や、ソコ、舐めんな!今日は突っ込むんじゃなかったのかよ。ソコばっか、しつこ・・・ああ、やっ・・・!」


「耳の裏弱すぎ。胸も。素直に嫉妬してると言えば、即突っ込んでもいいけれど、まだイキそうにないでしょう?」


「ひゃ、っ・・・そ、んな事、ない・・・、もう、あ、ダメ・・・だよ・・・っあ!」


「嘘吐き。」


賢一は、濡らした後孔に指を挿し込み、朝臣の感じる部分を集中的に刺激した。


「も・・・ダメ、これ以上イジメたら、ホントに出る・・・!」


棹を扱きながら、硬くなった乳首を舌で嬲る。


「出してしまえ。」


「何そのセリフ。萎える。」


賢一は、朝臣の前を扱く手のスピードを緩めた。


馮離 B面 20

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ペットボトル
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そう言う俺にも、秘密はあるが。


胸の奥に、何かがじわりと熱く滲む。


こんな事しなくたって、俺は朝臣の事を、いつまでも変わらず―――いや、それは違うか。


無償で不変な愛は、この世界に存在しない。


何か、見返りがあるから成り立つんだ。


俺の場合は、小説。


朝臣の最高傑作が読みたい。


小説が完成した時、俺の役目は終わる。


馮離 B面 21

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「今日は熱無いだろ。自分で飲め。」


「ケチ。じゃあ要らない。トイレ行きたくなるし。」


「飲めよ。脱水になるだろ。」


「嫌だ。おやすみ。」


そう言った朝臣は、背中に当てていた枕を抜き取ってポイと投げて戻すと、

両腕の力だけで、布団の中に頭まで潜り込んだ。


「こら、朝臣!」


馮離 B面 22

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馮離 22
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「ザッとシャワー浴びて、支度したら出よう。」


俺はベッドの足元をぐるりとして、朝臣の方へ回り込んだ。


俺を見上げる瞳が眩しい。


朝臣の小説の中で、キスマークは所有印だという表現があったが、

今まで半信半疑だった。


しかし今日の朝臣は、この背中を、俺以外誰の目にも触れさせる事が出来なくなった。


元より、俺以外に見せる事は無いのだが、

それでも・・・という、更に枷を増やしたような気持ち。


「何、見てんの?」


「いや・・・」


「あのさ、一つ忘れてた事があって。」


「何だ?」


馮離 A面 13

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賢さん特製ドリアが焼き上がった。


賢さんがミトンを嵌めた手でオーブンを開けると、白い湯気と共に、焦げたチーズの匂いがキッチンに立ち込めた。


「ありゃ、焦げた。」


オーブンの前にしゃがみ込む彼の横顔、赤い舌の先が口から覗いた。


車椅子で近付く俺と視線の高さが一緒。


両脚が不自由になる前は気にならなかった他者の目線の位置。


今はとても気になる。背が低い、そういうレベルではない。


相手が立っていると、常に座位の低い位置に目線がある俺は、見上げる姿勢になる。

首が疲れる、それはあるけれど、大した事ではない。


見下(みお)ろされる、見下(みくだ)される。


相手が全員、俺を見下(みくだ)している訳ではないだろうが、文字通り、そんな気持ちにもなる。


馮離 A面 14

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「朝臣、食べよう。」


賢さんの声にハッとしてテーブルの上に目を遣ると、オーブンから取り出された特製ドリアの皿は一回り大きなプレートに載せられ、すでに中央に置かれていた。


白い湯気がゆらりゆらり、

賢さんは車椅子を動かし、俺をテーブルに着かせた。


そして、ポンと俺の肩に手を載せ「多分、美味いとは思うけど、保証はしないからな。」そう言って離れた後、賢さんは向かいの椅子に腰を下ろした。


白い陶器の小鉢に取り分けられたドリアは俺の前に置かれた。


白いソースの中から、グリーンと臙脂色が覗いている。


ブロッコリーとコンビーフ、どんな味になるだろう。


想像出来るような、けれど、想像を超える意外な味であるかもしれない事を期待して、

「いただきます。」とスプーンで掬った。

馮離 A面 15

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馮離A15
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吐いたものは、俺の膝の上ばかりか賢さんの服にまで掛かった。


「ごほ、ごほごほっ!」まだ喉に何か違和感があった。何かの粒?胡椒か?


「大丈夫か、朝臣。」


吐かれた事など気にも留めず、賢さんは俺の背中を手で摩(さす)り続けた。


「苦しいか?もっと吐くか?」


やってしまった。


恥ずかしさと申し訳なさに襲われ、穴があったらすぐに飛び込みたい位だった。


「こほっ、だい、じょ・・・ぶ、くほっ!」


急いでキッチンへ行き、戻って来た賢さんは、手にしたキッチンペーパーで俺の口や顎を拭うと、「風呂場に行こう」と車椅子を押した。

馮離 A面 16

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馮離A16
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そして浴槽の中で、俺の開いた足の間にしゃがみ込み、目一杯身を縮こまらせた賢さんの姿がおかしくて、いじらしくて、「あははっ!」と笑う俺の目に、涙が浮かんだ。


賢さんは、こんな俺の為に色々してくれて、なのに俺は素直に『ありがとう』の言葉一つ満足に伝えられなくて、


いつも後悔している。


「可笑しいか?」


「うん、だって、そんなに端っこに縮こまってさ。」


「邪魔かと思って。」


そんな事、絶対にないよ。


俺は膝を曲げる為、右大腿を両手で持ち上げた。


「いいよ、足、伸ばしたままで。」


浴槽の中で賢さんは体の向きを変え、俺と向かい合った。


変な感じだ。男同士、向かい合って湯船に浸かるなんて。


「なんか、照れるな。」右手で頭を掻きながら、突然賢さんが言った。


この状況下、何を言い出すんだと思った。


俺はバクバクし出した心臓の音を気取られないように、

「女性とは何度も入ってるんでしょ?」と言ってみた。

馮離 A面 17

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馮離 A17
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ぱさっ。


何かが頬に触れた。重い、そして生温(なまあたた)かい何か。


うーん・・・


目をゆっくり開いた朝臣に見えたのは、人の腕だった。


あれ、何だこれ、夢か?


ぱちぱちと瞬きしてみる。


隣には、うつ伏せのまま、顔を半分枕に埋め、眠る賢さんの姿があった。


俺の左頬は、賢さんの右手に包まれている状態。


何故?


ゆうべの記憶を辿ってみる。


風呂から上がって、着替えて、ベッドでマッサージを受けて・・・


馮離 A面 18

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ケーキとコーヒー
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ゆうべを除けば、三日ぶりの食事。


慣れてしまった空腹感を手放す方が怖くなっている。


二人で作ったお粥、今朝は塩の量を慎重にしたから、問題はないと思う。


舌をやけどしないように、十分冷ました。


しかし、お粥の中に入れたレンゲを持つ手が上に上がらない。


俺のそんな状態に気付いて居ながら黙っていた賢さんも、とうとう


「食べられないなら、病院行くか。」脅すようにではなく、仕方がないという風に、考えている事を伝えて来た。

馮離 A面 19

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車椅子1
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それから頑張ってはみたものの、

結局、形にならなかった。


これだという題材を決め、それから必要な資料を集め、一つ一つを組み立て、繋ぎ合わせる。


賞を取った小説を書いた時は確か、鉄筋コンクリート造りの三階建てを作ったような気分でいた。


今の俺は、基礎すら築けないでいる。


どうやって書いていた?


終わりの見えない渦の中から逃れたくて指を動かしてみても、それは小説に発展しない言葉の羅列に過ぎなかった。

馮離 B面 23

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2016年6月21日火曜日。


賢一の29歳の誕生日、賢一は朝臣を連れて、聖子の墓参りを済ませると、実家へ向かった。


【黒森】


久し振りに実家の表札を前にして思ったのは、どうして俺はこの家の一人息子なんだろうって事。


帰りたくない家。今年は正月だって顔を出したくなくて、昨年末の忙しい時期に少し立ち寄った位。


父さんはまだいい、問題は母さん。


一人娘の聖子を失って、それまで注ぎ込んでいた愛情とやらを、一人残った俺に向けるようになってしまった。


もう一人、息子でも娘でも居てくれたら良かったのに・・・と賢一は実家に帰る度、縁談と同居話をする母親に辟易していた。


馮離 B面 24

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馮離24
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そう、今日は俺の誕生日。聖子の命日は昨日だ。


今年は20日の命日ではなく、俺の誕生日21日今日に来て欲しいと言われていた。


それでも、朝臣の体の負担や、仕事の事を考えると、やはり実家に居るよりマンションに戻った方がいい。


「ごめん、母さん。また今度───」「”今度”そう言って、また来ないつもりなんでしょう?」


俺を責め出した母さんにびっくりしたのか、朝臣は「一人で帰れるから」と俺の襟元で囁いた。


「いや・・・」普通の声でそう返した俺に、


「朝臣くん、ソファーの方がいいわね。ごめんなさい。向こうでお茶煎れましょうね。」と母さんが言った。


馮離 B面 25

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先の事を考えたくない、そう言っている人間は、この先の逃れられない嫌な事を、一秒でも味わいたくないからなんだろう。


自分のしあわせを追い掛けたいなら、親を捨てる非道な人間にならなければならない。


親に恨まれるのが俺だけならそうしても構わない。


しかし───そうではないから、俺はそうしてはならない。


馮離 A面 20

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一人でシャワーを浴びた後、ベッドルームへ移動して着替えた。


よし、やろう。


ベッドルーム兼執筆部屋にしたのは、今日から。


パチッ。


ノートパソコンのスイッチを入れた。


しかし、さっきと同様、何も浮かんで来ない。


俺は、白い画面をぼんやりと見つめていた。


そして、何を書いたら賢さんは喜ぶだろう・・・そんな事を考えていた。


馮離 A面 21

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馮離26

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目一杯、手を伸ばした。痛い位。


なのに賢さんには届かない。足も動かない。車椅子も見当たらなくて、俺は独りベッドの上に取り残された。


伸ばした手を力尽きたかのようにベッドの上にパタリと落とした。


同情して欲しかったのか?


賢さんの同情を買ってまで、俺の傍に縛って置きたかったのか?


違うだろ。


だけど・・・俺は何とか賢さんの期待に応えたかった。


馮離 A面 22

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何を隠したんだろう?賢さん。


出版社の封筒かな。裏だったから社名は見えなかったけれど。


こんな時間まで出掛けていたのって、まさか・・・


賢一が会っていた相手が、出版社の人間ではないかと考えてしまった朝臣は、もしそうなら、俺はこれから賢さんの期待を粉々に打ち砕く言葉を言う事になるんだ。


【もう小説は書かない】


たったそれだけ言えば、終わる関係。


俺に小説を書かせる為にここに住み、会社まで辞めてしまった賢さん。


縛りたくないだなんて、言い訳にもならない。


馮離 A面 23 (R-18)

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ちゃぷん、ぽちゃん。


天井から落ちて来る水滴が、湯面に波紋を作った。


そして「冷たっ!」朝臣の額にも落ちて来た。


ぽちゃんぽちゃんが、ボチャボチャに変わった頃、

「賢さん、そろそろ出ようよ。」と朝臣は、朝臣の体を後ろから抱いた状態で入浴している賢一に声を掛けた。


賢一は、首を前に傾(かし)げながら、その目を閉じていた。


馮離 A面 24

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決意した翌朝の天気は、雨だった。


薄曇りの天気雨。


打たれる程の雨量では無かったが、その雨に触れてみたいと思った俺は、パジャマのままベランダへ出ようと考えた。


鍵を開け、窓を開けた。


しかし・・・ベランダには出られなかった。


段差があり、車椅子では無理だった。無理に出ようとすれば、車椅子は倒れ、転んだ拍子に頭でも打ち兼ねない。


仮にそうなって死んでも構わなかった。だけど今の状況でそれをすれば、賢さんに迷惑を掛ける。


勝手するのは一人になってからだ。今ではない。


馮離 A面 25

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どうするんだろう、と考えていると、

賢さんは、俺の乗っている車椅子を押して、大きな和傘の下の、赤い長椅子の前に移動すると、ブレーキを掛けた。


そして、「せえの!」と声を出し、俺の体を抱え上げると、ヨタヨタ歩き、長椅子の上に俺を下ろした。


「ここで待ってて。」


そう言って、走り出した賢さんは階段を急いで上がり、店内に入って行った。


お店の入口付近、レジを挟んで立つお店の女性から何か貰って、賢さんは走って戻って来た。


「はい、メニュー。」


差し出されたのは、ラミネート加工された二つ折りのメニュー表。


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