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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

縺曖 2

Posted by 碧井 漪 on  

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時は四月下旬、明日から大型連休に入る・・・と言っても実際は飛び休だが。


二年四組、白岸伸長(シロキシノブナガ)16歳、図書委員会副委員長職に就いている。


どこにでも居る長過ぎず短過ぎず不快な印象を与えないと思う髪型は、低予算対応店において月に一度散髪している。


視力は1.0と0.3、左右差があるのと乱視が酷いので、矯正の為、眼鏡を着用している。


これは経験上、頑丈さが売りの四角く、黒い太縁、敢えてレンズを薄くなどしない低価格な眼鏡を使用している。


洒落っ気はないが学生の本分は勉強の為、十分だ。


縺曖 3

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「この本全部、図書室に寄贈したいんですけど。」


右手に大きな紙袋を提げている男子は、歩いて距離を縮め、カウンターの前に立った。


「寄贈ですか?」


「はい。いっぱいあって困っているので、図書室に置いて貰えませんか?」


本の寄贈は珍しい。いつもは生徒の要望書を参考に司書の副岡先生が決めている。


寄贈本を扱うのは初めてだけど、不安よりわくわくする気持ちが先行した。


どんな本だろう。


「拝見します。」


縺曖 4

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「ジャンルはファンタジーですか?」


「・・・ではないですね。まぁ、恋愛小説と言えばいいのか。」


「恋愛小説ですか・・・」


「あの、図書室に置いて貰えますか?」


「僕にその権限はないので、一応、司書の副岡先生が戻ってから相談してみます。」


「俺が寄贈したって、誰にもバラさないで欲しいんですけど。」


縺曖 5

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「従兄弟は男ですよ?」


「え?」


「内容が女性向けなので、女性名で書いてますけど、実は男です。あ、そこの所は内緒でお願いします。」


「男性・・・拝見します。」


伸長は、手にしていた文庫本をパラパラと捲り、一節を読んでみた。


縺曖 6

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「拾ってくれて、ありがとう・・・」


「いえ、先輩。」


センパイ。


初めてではないが、男子生徒から先輩と呼ばれた記憶があまりなかった為、ドキリとした。


「・・・・・・」


「シロキシ先輩、ですか?」


縺曖 7

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ええと・・・と伸長が言おうとする前に、

「やっぱりそうですよね。」と皇が肩を落とした。


「・・・・・・」


言葉が見つからない伸長の前で、皇はカウンター上の文庫本を紙袋に戻し始めた。


ドサッ、バサッ、副岡先生が個人的に好みそうな本達が、どんどん紙袋に戻されて行く。


先生にこれを見せたら、読みたいと言うかもしれない。そして僕も・・・重版される程人気のあるシリーズ本を読んでみたいと思った。

縺曖 8

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「迷惑だなんてとんでもない!帯が付いてて、全部新品ですから、ただで頂くのは勿体ないって意味ですよ!」


「いや、要らないから持って来たんです。」


「ああ、そうか、そうだった・・・えっと、じゃあ、先生にも見せていいですか?」


「先生って?」


「司書の副岡先生です。今僕は、先生に男性同士の恋愛小説の本を借りて読んでいる所なんです。」


誤解させてしまったと伸長は反省し、迷惑ではない事を皇に伝えようと必死だった。


「男性同士って・・・BL小説?」


縺曖 9

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「俺は、こんなの絶対読みません。」


穏やかな口調で”絶対~しない”と全否定されると、僕の方が間違った発言をしたように思えた。


いや、しかし、本を読む読まないは、その人の自由だから僕が強要する事ではない。


ただ僕は、読まないより、読んで色々感じた方が後悔しないと思っている。


縺曖 10

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伸長は図書準備室、通称・司書室へ続く白く塗られた木製ドアのノブを何とか捻って押した。


少し開いたドアを背中で押して通れるまでにすると、両手に提げた二つの紙袋を揺らしてぶつけない様にして運んだ。


司書室の中には先生の机と、作業用の長机とパイプ椅子。


図書室が見渡せる大きなガラス窓の下には棚があり、文房具が納められている。


先生の机の後ろの壁一面には、天井近くまでの大きなスチール製の扉付き収納があり、そこには僕ら生徒が触れる事のない書類が上段の観音開きの鍵付き棚に、下の引き戸の棚二段分には、先生の私物のコミックスや小説が入っている。


僕は長机の作業台の上に紙袋を置き、中身を取り出した。

縺曖 11

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理解出来ない事が一つ減れば、人の気持ちも一つ理解出来るようになる。


僕は”人の気持ちのわからない人間”らしい。


今時の言葉で言うと“KY”=”空気が読めない”らしい。英語ではなく、日本語を略するのなら、クヨ、でもいいと思ってしまう所も”KY”なのかもしれない。


BLを理解出来たら、同性愛もわかるだろう。


女性が、男性同士の恋愛物語を好む気持ちも理解出来るようになるかもしれない。


不図(ふと)思い出した。

縺曖 12

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人の体と言うのは、本当に良く出来ている物なのだな。


男は女とだけではなく、男とも性行為が可能なのであれば、お得な生き物と言える。


僕は、自慰の経験がある。


独自に調べた結果、高二の男子の95%以上は自慰の経験があるらしい。


KYな僕も、その点は一般的な空気を読めている、時流に乗る、いや違う、平均的な成長を遂げた性徴と言うのかどうか。


縺曖 13

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「す、すみません、もうこんな時間に。僕・・・すぐに閉館準備をします!」


「あら、いいのよ、慌てなくて。今日、もう一人のお当番は一年の・・・勇田さんね。先に帰ってしまったの?」


「あ、それが・・・」


「来てない?連絡もなかった?」


「はい。何か急な用事があったのかもしれません。」


縺曖 14

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副岡先生に訊かれた伸長は、ぎくりとして肩を揺らした。


ファン・・・と言うか親戚。しかしそれは、藤野くんの様子から誰にも明かせない。


「先生、塔之寵姫さんをご存知なのですか?」


「ええ、家に全巻揃ってますよ。私のというより、妹のだけれど。」


「先生の妹さんのですか?」


「そう。白岸くんに貸した本も、元は妹が買って来た本なの。塔之さんの本は性描写が過激だからここには持って来ていないけれど、他にもあるわよ。」


縺曖 15

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ガチャッ。


リビングのドアを開けると、向かって右の明るいキッチンに母、左のリビングのソファーに、姉が座ってテレビを見ていた。


「おねえ、ちゃん・・・」


「のぶ、おかえり。」


ソファーに座ったまま、顔だけをこちらに向けた姉が言った。


「何で、どうしたの?」


「明日から連休でしょ?たまには実家に羽を伸ばしに来たの。」


「お義兄さんは?」


「出張だって。」


「大型連休に仕事?」

縺曖 16

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食後、お風呂に入った伸長は、明日は学校が休みだから、遅くまで本が読めると、うきうきしながら階段を上(のぼ)った。


二階の自分の部屋のドアを開けると、あれ変だな、灯かりを消して出て来た筈なのにと、部屋の中を見ると、

「げっ・・・!」と思わず声を上げてしまった。


姉の日和が、伸長のベッドに寝そべって本を読んでいた。


しかもその本と言うのが、紙袋に収めていた筈の、藤野に借りたBLコミックスだった。


縺曖 17

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日和も相当の読書家だった。


しかし、伸長が日和の持っていた本に興味を示す年齢になる前に、日和はそれらの殆どを売ったか捨てたかして処分してしまっていた為、伸長は日和がどのような本を読んでいたのかという事を全く知らなかった。


「原作 塔之寵姫か・・・名前を聞いた事あったけど、結婚してからこういうの買わなくなったからなぁ。でも画も綺麗で、攻め受けの人物設定とか変わってて面白かったから、続きは電子書籍版探して読んでみようかな。」


「こういうの・・・?」


「まさか、のぶがBL読んでるなんてねぇ。びっくり。」


「お姉ちゃん、BL・・・読んだ事あるの?」


伸長は、今一番知りたい事を日和に訊いた。


縺曖 18

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「腐るって言うのは、何て言ったらいいのかな?うーん・・・同性愛、BLとかGLとか、アブノーマルな趣味に走ったオタク女子の事を自虐的に腐ってると言ったのと婦女子を掛けたとか何とかで、腐女子。最近はあんたみたいなのを腐男子って言うらしいわ。」


「フダンシ?普段子・・・じゃなくて腐?」


「念の為訊くけど、真に腐ってないわよね?」


「シンにクサるって?」


「のぶが、ゲイ・・・えっとホモ?って事よ。同性が好きって事。」


「ドウセイが好き?」


「恋愛対象が男の子かって事。お母さんには黙ってるから、私にはちゃんと言って。」

縺曖 19

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日和は開いていたコミックスを閉じて、伸長のベッドの上にあぐらをかいた。


「BL読んだからって人の気持ちがわかる訳ないでしょう?」


「え・・・」


「誰だって人の気持ちなんてわからないものなの。同性愛を学びたいって言うなら別だけどさ。あんたは本より実地よ。」


「実地?」


縺曖 20

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「全部読んで、気に入ったら僕にくれるとは言ってたけど・・・」


「新品だけどゴミって事?ああ、引っ越しとかで処分する必要に迫られて、家族にバレるのを恐れて、押し付けたかったって事かしらね?」


「違うよ、この本は彼のい・・・えっと・・・」


勝手に彼の秘密を話してはいけない気がして、口を噤んだ。


「カレノ・・・何?」


「えっと・・・」


縺曖 21

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自宅に持ち帰った本を三日間で読み終えた伸長は、5月2日月曜日、本達を入れた紙袋を厚い布製の手提げに入れた上で、大事そうに抱えて登校した。


昼休みに図書室へ行き、紙袋の中の読み終えた本達を、他の本達と一緒に一旦司書室の棚に収めさせて貰った。


明日からまた三連休、今日は残りの本達を持って帰って、読破しよう。


小説の方はコミックス以上に過激な表現の連続だったけれど、事が自然と澱みなく流れて行く描写力に脱帽した。


BL小説を知らない人にも読んで欲しいと思う程、丁寧に書かれていて、読まないと言っていた藤野くんにも是非お勧めしたいと思った・・・性的描写については言及せずに。

縺曖 22

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司書室の扉を開けて図書室内に入った伸長の前に、皇がサッと近付いて来た。


「あ、どうしたの?」どぎまぎしながら答えた伸長に、


「同居人に家から本を持ち出したのがバレて、休み前に渡した本全部、今日中に家に戻せって言われて。だから、すいませんけど本全部返して貰ってもいいですか?」


え・・・?と思った。まだこれから続きを読むのを楽しみにしていたのに。


しかし伸長は、

「勿論。」と、

縺曖 23

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「じゃあ、丁度いいのでお願いします。」


通学用のリュックサックを背押う伸長と皇の二人は、折り畳み傘の柄を右肩から斜めに掛けて首で挟むようにしながら、昇降口を出た。


二人は、副岡に貰ったゴミ箱用のポリ袋を被せた本の詰まった紙袋を、それぞれ胸の前に抱えている。


雨の強くなる中、ずしりと重いそれが濡れないように注意しながら高校の正門を出た二人は、駅に向かって歩く足が、だんだんゆっくりになって行った。


ふぅ、結構大変だ。この前も今朝も、運んだのはこの半分の量だったから。


伸長は、本の入った紙袋を抱えて、皇と二人で歩くのは、高校から徒歩五分少々の駅のバスロータリーか駅改札口までだと思っていた。


まだ午後4時前だと言うのに、空は雨雲に覆われて、辺りはすでに日が暮れたように暗かった。



縺曖 24

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皇を追い掛けてタクシー乗り場に着いた伸長の前で、停車していたタクシーの後部ドアは、パカッと自動で開いた。


先に乗り込む皇の姿を見ながら、伸長はちらと、タクシーなら僕が付いて行く必要はないんじゃないかな?と思った。


「先輩、乗って下さい。」


「う、ん・・・」


後ろを振り向く運転士さん、開いたままのドア、後部座席には既に藤野くんが座っていて、僕が乗り込むのを待っている。


縺曖 25

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「こちらでよろしいですか?」


「あ、はい。ここでいいです。」


皇と伸長を乗せたタクシーは、目的地に到着した。


「えー、お会計は1640円になります。」


「これで。」


皇は、制服のズボンのポケットから出した財布から、千円札二枚をすっと引き抜き、タクシー代金を支払った。


縺曖 26

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いつの間にか僕の前方で振り向いた藤野くんがそう言ったのは、駅から近くも遠くもない、閑静な場所に立つ集合マンションの門の前だった。


一角が街のようになった場所に点在するマンション群。


僕の知る、近所の簡素な公営団地とは比べ物にならない位、お洒落な外観。


洋風だけどゴテゴテしている訳ではない所が高級感を醸し出している・・・なんて。


僕の表現の幅は狭い。読むのは好きだけど書くのは苦手、と言うよりも書けない。


言葉の並べ方が下手で、気分の悪くなる文章しか書けない。だから書かないようにしているというのもある。


縺曖 27

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皇に続いてエントランスの自動ドアを潜(くぐ)った伸長は、エレベーターに乗り込んだ。


皇は、一番上にある8のボタンを押すと、扉を閉めるボタンは押さずに伸長を振り返った。


「先輩。」


「はい。」


びくりとした伸長の視線は、真っ直ぐ見つめて来る皇と開いたままの扉の向こう、煌びやかなシャンデリアが飾られ、大理石の床が眩しいホールとを行き来した。


「友達になってくれませんか?」皇に唐突に言われ、


「Fe?」フとヘの間の声が伸長の口から漏れた。日本語の発音ではないと思えた。


縺曖 28

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どきどきどき・・・通路から見える景色にもドキドキするけれど、このドキドキは違う種類のドキドキも混ざっている。


だって、僕は生まれてこの方、小説家に会った事が一度もないから。


どんな人なんだろう。この本を書いた人って。


会ってみたいけど、でも執筆中とかで、実際に会えるとは限らないよね。


「藤野くん、あの、僕がお宅にお伺いしたら・・・先生のお仕事の邪魔になるのではないかな?」


縺曖 29

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伸長は、再び歩き出した皇の後ろをついて歩き、

「この部屋です・・・じゃなくて、この部屋。」

と、言い直した皇は、折り畳み傘をドア横の壁に立て掛け、ポケットから取り出したキーケースを片手で巧く操り、鍵を出した。


そしてドアに挿した鍵を引き抜くと、玄関ドアを開け、「伸長先輩、どうぞ。」と伸長に先に入るよう促した。


玄関の灯かりが自動で点いた。凄いな、そういう設計なんだ。


伸長は思わず、天井を見上げた。天窓が見え、最上階という事を思い出した。


電球色の暖かな色に包まれた玄関内は、想像より広かった。たたきに靴は一足も出ておらず、生活感を感じさせない。


見回すと、通常下駄箱を置く右手の壁は一部切り取られたように少し窪んでいて、それを補うかのように襖程の大きさの鏡があった。


鏡に向かって左側の縁に、取っ手と思しき金具が見える。


なるほど、あの大きな鏡が扉になっていて、横に開くのかもしれない。そうでなければ、靴をしまう場所がない。


縺曖 30

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あれ?


この人はコウくんの従兄弟の”アサミ”さんではない?


“ケンイチ”さん?名前で呼ぶという事は、お兄さんではなさそう。


「皇くん。どうしてお友達が、先生の本を持っているのかな?」


「・・・学校からここまで、運ぶの手伝って貰ったんです。」


「まさか、話したの?先生の事。」


「・・・人に話されてマズい小説書いてるって言いたいの?」


「そうじゃないよ。だけど誰彼構わず打ち明けていい話ではないでしょう?」

縺曖 31

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「先輩、上がって。」


「あ、僕はここで・・・失礼します。」


夜遅くに人のお家にお邪魔するなんて、よくない。先生にはお会いしたかったけれど、簡単にお会い出来る方ではないのだから、諦めよう。


帰ると告げた僕の声が小さ過ぎたのか、コウくんはケンイチさんの方を向き、

「賢一さん、朝臣は仕事中?」と訊いた。


「そう。夕方から執筆に入って、珍しく今日はまだ途切れずに頑張ってますよ。」


「そっか。会わせたかったのに。朝臣、友達連れて来いって言ってたから。」


ああ、そうだった。僕はコウくんの"友達役の人"としてここへ呼ばれたのだった。


・・・と言う事は、僕は塔之先生にお会いするまで帰らない方がいいのかな?


「友達・・・確かにそうだけど、今は―――それに先輩は帰りたそうですよ?先生に会わせたいなら、また、昼間に来て貰えばいいでしょう?」


「昼間って・・・学校だし。」


「先輩、明日は如何ですか?」


何の前触れもなく、ケンイチさんが僕に向かって微笑みながら訊いた。


縺曖 32

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僕は明日のお昼頃、コウくんのおうちにお邪魔するという話が纏まり、ケンイチさんに車で送って頂く事になってしまった。


ケンイチさんと地下駐車場へ向かう為、エレベーター前で待っている時、


「先輩、これ、後で読んで下さい。」と、開いた生徒手帳の一頁をビリリと破いて二つに折ると、僕の手を取り、しっかり握らせた。


コウくんは、さっきから、ちらちらと、僕の左隣、エレベーターの扉前に立っているケンイチさんを気にしている。


一方ケンイチさんは、一点を凝視したまま、身動(みじろ)ぎもしない。


僕は、ケンイチさんの内なる気を、微かに感じたような気がした。


縺曖 34

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ケンイチさんについて行った僕の目の前に現れたのは、大きな白い車だった。背が高くて、車種は何て言うのかな、僕は車の種類に詳しくないからわからない。


確か、ワゴン車?


タクシーみたいな乗用車ではなくて、後ろが引き戸みたいに開く、マイクロバスみたいに長い車。


「先輩、どうぞ。」


ケンイチさんはその白い大きな車の助手席のドアを開けてくれた。


縺曖 35

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バタン。


ケンイチさんが運転席に乗り込むと、右手で何か操作をして、車にエンジンが掛けられた。


パッとライトが点き、それまでくすんだ色に見えていた駐車場の壁と柱が、青白く光り輝いた。


そして、

「失礼します。」

鋭い目をしたケンイチさんの右手が、僕の喉元目がけてスッと伸びて来た。


ゾクッ!


これって・・・首を、締められる・・・?


皇くんの“気を付けて”って、こういう事?


考えたら、僕はケンイチさんの事を何も知らない。皇くんの事も大して知らない・・・


縺曖 36

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僕はケンイチさんの方を見た。


「先輩、ご自宅のご住所を、このナビに向かって言って下さい。」と、ケンイチさんが液晶モニターを人差し指でタッチしながら言った。


え?僕の自宅の住所・・・?


「えっと、家の住所、ですか?」


「そうです。音声認識なので、はっきり話して頂けると助かります。」


「あ、はい。」


僕は自宅の住所をモニターに向かって、はっきり喋った。


縺曖 37

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皇くんのメッセージは、徒(いたずら)に僕を脅かしたかっただけのものなのかもしれない。ケンイチさんは親切な人のようだ。


それに、作家のアシスタントを務める人は、いい人に決まっている。


「僕は、白岸伸長と申します。」


「シロキシノブナガさん。字はどのように?」


「シロは白色の白、キシは河岸の岸、ノブはにんべんの伸びる、ナガは長いの長です。」


「それは素敵なお名前ですね。」


「え、いえ・・・」


お世辞だと判っていても、普段から持ち上げられる事に慣れていない僕は、自分の力で得た名前ではないけれども、思わず照れてしまった。


「皇くんとは、いつからお友達になられたのですか?」


縺曖 38

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「率直に申し上げて、先輩・・・あ、先輩と呼ばせて頂いても、よろしいですか?」


「はい。」


「先輩は、皇くんの家の事を、どこまでお聞きになりました?」


「どこまで・・・って、あの・・・」


「先生の事、ご存知のようですから。」


賢一の低い声は、殺気を含んでいるように感じ取れた。背筋に嫌な感覚が走った伸長は、更に賢一に向けられた視線に慌てた。


「誰にも、何も話してません!先生が皇くんの従兄弟とは、家族にも一切話してません!本当です。僕は友達が居ないんです!」


縺曖 39

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5月3日、祝日の水曜日、約束の午前11時を過ぎた時、玄関前で立っていた僕の目に、ゆうべ乗せて頂いた白のワゴン車がスーッと門の前を通過して、停まったようだった。お隣の植木を通して、車の白い屋根が見える。


僕は家の門を出て、左を見た。


眩しい日差しの中、赤いテールランプが薄っすらと灯り、運転席のミラーへ目を向けると、丁度窓が開き、黒髪の男性が顔を覗かせた。


ケンイチさんだ。


「こんにちは、先輩。」

縺曖 40

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「ゆうべもお話ししましたが、今日、先生に会う事は他言しないで下さい。先生は、作家としてではなく、皇くんの従兄弟として、先輩に会いたいと思っています。」


「も、勿論です。僕は、先生の事を誰にも言ったりしませんし、今日は皇くんの友人としてお邪魔させて頂きたいと思っています。よろしくお願いします!」


ケンイチさんは、右手でハンドルを握りながら、左手の甲で顔の前を押さえたようだ。


縺曖 41

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「こ、んにちは・・・」


「どうぞ、上がって。」


ケンイチさんと変わらない年齢と思しき男の人は、ニコニコしながら右腕を正面から90度大きく動かし、入ってと促した。


「は、はい。お、おじゃましま、す。」


声が喉に引っ掛かる。


確かに緊張し過ぎかもしれない。


靴を脱いで上がると、「ささ、どうぞ先輩。」と、車椅子の男の人に腰をグイッと押され、開いていた部屋のドアから、明るいリビングダイニングへ移動させられた。

縺曖 42

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僕は、首を右に90度以上捻ったと思う。


胸鎖乳突筋、いや、斜角筋かもしれない。とにかくそれらが痛いのも忘れる程、注視した先は、ダイニングテーブルのあるキッチンカウンターの向こう側、ケンイチさんに続いて入って行く車椅子の男の人。


よく見ると、髪の色が薄い、皇くんと近い色だった。


と、いう事は、あの男の人が皇くんの従兄弟の小説家”塔之寵姫”先生という事になる。


車椅子の男の人が、先生?


凄く爽やかで恰好良くて、やさしそうな人が、あんなに甘くて切なくて激しい大人の恋愛小説を書く人だなんて信じられない。


しかも、女性として書いている。難しいと思う。


その時、不図(ふと)、ケンイチさんが、先生の小説に出て来た男の人に似ているかもしれないと思い当たった。


男同士の恋愛・・・それもエッチな・・・うわわ!


凄くリアルな描写で、経験談を書いているとしたら、先生とケンイチさんの関係って・・・

縺曖 43

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僕がソファーに腰を下ろすと、先生は・・・ではなくて、皇くんの従兄弟かもしれない男の人は、僕と膝を90度に突き合わせる位置に車椅子を寄せた。


どきどきどき・・・緊張する。


「先輩は、皇のどこが好き?」


男の人の唐突過ぎる質問を、僕は聞き逃しそうになった。


「どこが、好き・・・って、ええと・・・」


好き?スキ、すき、鋤、ではなくて、LOVE?


皇くんの事は、良く知らない。

縺曖 44

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「ただいま、って、え?!」


バサッ、と床の上に何かが落ちた音が響いた。


僕の手を握ったまま、皇くんを振り返っている男の人は、「ケーキ、ぐしゃぐしゃになったんじゃないのか?」と訊いた。


ケーキ?


皇くんは、慌ててしゃがみ込むと、白い箱のはみ出たビニール袋を持ち上げた。


皇くんは箱を両手で持って、左右に軽く振った。


「そんな事したら、余計に崩れますよ。」


キッチンワゴンを押したケンイチさんが、皇くんの横をすり抜けながら注意した。


縺曖 45

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「・・・・・・」


ベッドの上にうつ伏せになった皇くんは、無言のまま、ピクリとも動かなかった。


「あ、あの、皇くん。」


呼び掛けても返事がない。


何だか、怒ってる?


日当たりの良いお部屋。


窓は大きく、ベッド、机の上にはノートパソコン。箪笥はないけど、壁一面に木製の折り畳み式ドアが備え付けられている。クローゼットだ。

縺曖 46

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どたん!どたどたっ!


あいたたた・・・!


床に打ち付けたお尻が痛い。


そして、

「あ、いててて。先輩、何で俺を巻き込むんですか。」

倒れる寸前、咄嗟に、僕が目の前の皇くんの腕を掴んでしまったせいで、皇くんも一緒に倒れてしまったようだ。


左腰の横に手をついた僕、その腕の外側を交差する形で、皇くんの右腕が床に向かって伸ばされていた。


そして、僕の両脚を跨いだ恰好で、皇くんの膝は床についていた。


つまりBLで解説すると、僕が”受け”で皇くんが”攻め”という状態になる。


顔が近い。誰かとこんなに接近したのは、初めての事かもしれない。


どきどきする。でも嫌ではない。


相手に拒絶さえされなければ、僕はどれだけ近付かれても平気みたいだ、という事を今初めて知った。






縺曖 47

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皇は机の上に運ばれたカップを持ち上げ、コーヒーを一口飲んだ。


「冷めてる。やっぱりか・・・」


「やっぱりって、何が?」


「多分、あの二人、俺の部屋の前で聞き耳立ててたんだ。」


「えっ?何故?」


「気になってるんでしょ。先輩の事。」


「僕?気になるって何が・・・」


縺曖 48

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ケーキとコーヒーを交互に楽しむ皇くんと違って、不器用な僕はケーキを平らげた後、コーヒーを頂く事にした。


皇くんが『冷めてる』と言ったコーヒーは、皇くんの机の上にあった。


アルミホイルとプラスチックフィルムの上にフォークを載せたお皿片手に、僕はベッドから立ち上がった。


「あの・・・」僕が声を掛けた時、


皇くんは、チーズケーキの最後の一欠(ひとか)けを口に運んだ所だった。

縺曖 49

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ぷはっ、コーヒーは苦かった。


最後の香りが鼻を抜ける瞬間、

僕がカチャン、とカップをソーサーに置くと、気付いた皇くんが手を伸ばし、それを預かってくれた。


「ありがとう・・・」


「いえ・・・」


会話が続かない。訊きたい事はあるけれど、僕は中々それを切り出せずにいた。


カチャカチャ、と皇くんはトレーの上でお皿を並べ替えている。



縺曖 50

Posted by 碧井 漪 on  

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ライトノベェーール!!


昔、僕も同級生にこんな風に顔を近付けてしまった事があった。あれは確か中学時代、委員会の時だったかな。


隣の席との間があまりなく、顔を横に向けたら近くなってしまって、喋りながらだったから、相手が不快に思ったらしく、「あんまり顔、近付けないで下さい。」と言われてしまった。


後で考えたら、唾が飛んでしまっていたのかもしれないと、反省した。


悪気があった訳ではないけれど、それ以来、話す時は人との距離を保つのが僕の鉄則だった。


こんなに顔と顔を近付けて話す事は、普段ない事だった。


僕の方は嫌ではない。相手が嫌だろう、と思っていた。

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