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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

風邪みたいに移して 【「乙女ですって」派生編プロローグ】

Posted by 碧井 漪 on   0 

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    高校時代、友達に

    初恋はいつか?と訊かれた時、答えられなかった

    初恋ってどんなもの?


    キスってした事ある?って訊かれて、

    あれもキスになるのかな?って

    今更考えたら、

    初恋に結びつくかもしれない淡く抱いたままの気持ちに気が付いた



    初恋という感情に気付けなかったのは、

    今もその初恋の中にいるからだという事が判ってしまった



    てっちゃんは

    いつも一緒に居るだけで気分が良くなって

    毎日

    そのやさしく見守ってくれているような笑顔を見ていたい人



    さくらんぼの味のキャンディーを、

    どうしてもいつも最後に残った一個を食べてしまったてっちゃんが、

    えーんと泣いて悔しがる私に気付いて

    「これ、あげるよ」と

    てっちゃんは口に入れてぬるくなったキャンディーを

    私の口に移してくれた



    初めて貰ったのは確か幼稚園に入ったばかりの年中の夏頃、

    小学校に入る前の春頃にはされなくなったキャンディーのやり取り

    今はされない事が寂しいというより悔しいに近い

    風邪みたいに

    てっちゃんの熱を口から移して欲しくなる



    風邪みたいに移して 1 【「乙女ですって(R-18)」 派生・公子編】

    Posted by 碧井 漪 on   0 

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      空気と同じ。


      あなたが居ても居なくても。


      でもね、空気と同じだったら、

      あなたが居なくなったら死んじゃうの。


      息が苦しくて、欲しくなって、

      恋とか愛とかそれと同じか知らないけれど、

      私にはあなたが必要だって、それだけは解るの。


      私はあなたに必要とされる人間になりたい。


      毎日毎日、精一杯頑張るから、

      要らないって言わないで。



      風邪みたいに移して 2

      Posted by 碧井 漪 on   0 

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        クビ・・・って、本当に私がこのお店を辞めさせられちゃうの?


        私はてっちゃんの顔を見た。


        「吉夜、それは困る。きみちゃんが居なかったら昼間の接客が」「今は殆んど常連しか来ないから、哲が表に顔出しても平気だよ。俺だって夜だけだけど、手伝える日は手伝ってるだろ?」


        そう、私が雇われている唯一で最大の理由。


        それはてっちゃんの見た目が、若い女性客に気持ち悪がられた事があったから。


        てっちゃんは常連以外のお客さんが来ると、裏に引っ込んだまま出て来ない。


        その間の接客やレジは全部私が引き受けている。


        てっちゃんの良さも解らない人なんて、てっちゃんの淹れたコーヒーを飲む資格はないから帰れ!って言いたくなるけど、そんな事したら本当にクビになってしまう。


        風邪みたいに移して 3 (「乙女ですって」123話の後)

        Posted by 碧井 漪 on   2 

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          てっちゃんがダイエットを始めて、明日で20日になるという1月29日木曜日の夜21時半過ぎ。


          自宅二階の自室の窓から、お店の前の道路を眺めていた。


          21時に吉夜と町内を一周、お店の前から走りに行くてっちゃんは、最初の頃は一時間かかっていたけれど、今は40分前後で戻って来る。


          50日で25キロ減量するというのは無謀な挑戦だと思っていた。


          だって、10日で5キロ、1日0.5キロのお肉を確実に落として行かなくちゃならないって、結構キツいと思うのよ。


          私だってダイエット経験あるから解るけど、最初の頃は週2~3キロは簡単に落ちる、けど、油断したら簡単に戻る。


          食事制限に加えて、運動。それも仕事の後。


          朝に走りたいと思うけど、お店があるからと、夜にジョギングする事にしたてっちゃん。


          戻って来てお風呂に入ったらすぐに眠ってしまえる程だと話していた。


          私に手伝える事は・・・


          風邪みたいに移して 4 (微BL)

          Posted by 碧井 漪 on   2 

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            片想い中の乙女にとって、年に一度の大切なイベント、バレンタインデーがやって来る。


            付き合っている恋人同士なら、お互いの誕生日やクリスマスに想いを確かめ合うのだろうが、


            片想い中の私にとって今重要なのは、明日、2月14日のバレンタインデーだった。


            2月13日金曜日、公子の自宅のキッチンの灯かりが消えたの深夜25時頃、つまり、バレンタインデー当日2月14日土曜日の午前1時を迎えてしまった。


            ギリギリになってしまったのには訳があった。


            風邪みたいに移して 5

            Posted by 碧井 漪 on   0 

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              ダイエット中のてっちゃんが、カゼキチにお菓子を作るのを禁じられて一か月。


              公子が哲の為に手作りするのは毎年バレンタインデー。それ以外、クリスマスのお菓子はお店で一緒に作り、ホワイトデーのお菓子は哲一人で作る。


              クッキー、キャラメル、マシュマロ、ホワイトチョコ・・・毎年、前年と違うものをくれる。


              今年はどうするのかな・・・作っちゃだめって、言われてるから。


              私の為ならと作ってはくれそうだけど、それをてっちゃんの前で一人で食べるのは嫌。


              毎年一緒に食べてくれる時間が楽しいのに。


              風邪みたいに移して 6

              Posted by 碧井 漪 on   0 

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                「な、何でもないっ!」と公子が厨房調理台下の冷蔵庫の前にしゃがみ込んで、背中で隠すようにしたのが逆効果だった。


                「今、何隠した。出せ。」


                調理台を回って来たカゼキチは、冷蔵庫扉の前にしゃがみ込んだ私の右腕を掴んだ。


                「やっ!いたっ、やめて・・・っ!」抵抗したけど、無駄だった。


                私をなんなくどかしたカゼキチに、見つかってしまった、冷蔵庫の中に隠した箱が。


                かくして、てっちゃんの為のガトーショコラは、顔を顰めたカゼキチの前に晒された。


                「このケーキって、もしかして・・・」


                風邪みたいに移して 7

                Posted by 碧井 漪 on   0 

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                  コツン、私の鼻の頭に何か触れた。


                  ハッとして、瞑っていた目を開いたら、てっちゃんの両手が私の体から離れ、

                  「これ僕に作ってくれたの?ありがとう。毎年すごいね、きみちゃんは器用だよね。」と調理台の上の艶々ガトーショコラを、てっちゃんは体を屈め、顔を近付けてじーっと見始めた。


                  「やだ、そんな恥ずかしい、てっちゃんの方が器用だし、お菓子作るのも上手よ。」


                  「そんな事ないよ。きみちゃんのお菓子の方が美味しいよ。後で、一緒に食べよう?」


                  私を振り向いたてっちゃんの丸眼鏡の奥の目が細くなる。私の一番好きな顔。


                  「うん!」


                  大好き、てっちゃん。


                  今日も面と向かって言えないけれど、心の中では毎日叫んでいるからね。



                  風邪みたいに移して 8

                  Posted by 碧井 漪 on   0 

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                    14日の夜、いつもの時刻より遅れて、てっちゃんと吉夜は日課のジョギングに出発した。


                    いつも時間通りなのに、何かあったのかな?


                    一か月経過して、てっちゃんの体重は現在18キロ減、すごいでしょ、すごいよね?


                    これからあと一か月足らずでマイナス7キロって、無理・・・じゃなーい!


                    無理って思っちゃうと無理になる、絶対にいける、やれる、てっちゃんなら達成出来る!


                    ゼイゼイ、ハアハア、走ってもないのに興奮して息切れしちゃったわ。


                    私に出来る事は、こうして毎晩、二階の窓から見守る事くらいで・・・って、これは何もしてないのと同じよね。


                    うーん、しかも今日はチョコ渡して、困らせちゃった?し。


                    てっちゃんがダイエット成功したら、たとえテレビの企画で優勝出来なかったとしても、何かてっちゃんの欲しい物をプレゼントしよう。


                    何がいいかな?


                    うーん、その時訊いてみよう、てっちゃんの欲しい物。


                    風邪みたいに移して 9

                    Posted by 碧井 漪 on   0 

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                      「何それ、どういう意味?お母さん。」


                      「いつまでここにいるつもりかって訊いてるの。」


                      「・・・家を出ろって事?」


                      「そうは言ってないわよ。あなたもいい年なんだからそろそろお嫁に行くとか、他の勤め口に行くとか」「行かない。」


                      「行かないって、お母さんがあなたの年にはもう結婚」「だから?」


                      いつもそう。


                      お母さんは23歳で結婚して、25歳でお姉ちゃんを産んで私を30歳で産んだ、その話ばかり。


                      だから何?


                      私はお母さんと同じ年で子どもを産まなくちゃならない理由って何?って言いたくなるのを毎回我慢してる。


                      親と同じように生きられたらしあわせとでも思っているのかな?



                      風邪みたいに移して 10

                      Posted by 碧井 漪 on   4 

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                        それから少しして、お店の厨房に戻って来たお母さんと交替でお昼を済ませた。

                        お天気は悪くないのに、今日は本当にお客さんの来ない日曜日の午後。

                        普段だったら、パラパラ来るのに、お客さんは、由木さんご夫妻だけだった。


                        カウンター内側の引き出し内を整頓しているお母さんに「こんなにお客さん来ないお店で潰れないの?」とか言われちゃったらおしまいのような気がして来て、目も合わせられないし、声も掛けずにいた。


                        それこそ「他にお勤めしなさい」と、バックにカゼキチをつけて説得されたら、言い返せなくなりそう。


                        この店の経営が苦しい事は知っているようで知らない。


                        てっちゃんは収支の帳簿を私には見せてくれない。


                        こっそり知りたくても無理だった。


                        それら全ては、てっちゃんのお部屋のデスクトップPCで管理しているって話だから。


                        私は大学を出て、このお店に勤めさせて貰って以来、てっちゃんのお部屋に入った事がない。


                        大学在学中は勉強を教えて貰ったりしてお邪魔したけれど、それでもお店の中で教えて貰う比率が高かった。




                        風邪みたいに移して 11 (続・微BL 「TとK」?)

                        Posted by 碧井 漪 on   0 

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                          今日は疲れたーっ!


                          お風呂上がりのホカホカほわほわした体の私は、心地良い疲労感をお共に、ベッドの上にゴロンと転がった。


                          軽くてあったかいフリース生地の真新しいパジャマは、少し早いけど、と中学時代からの友人が誕生日プレゼントに宅配便で送ってくれた物。


                          ケーキとティーカップのプリントされたパジャマで、私がてっちゃんLOVEな事も知ってる友人は「仕事も恋もガンバレ!」とメッセージも付けてくれていた。


                          「恋も、かぁ・・・」ふぅ、と溜め息を吐いた。


                          今日、加集さんとお話していたら、てっちゃんと違うなって思った。


                          私やお母さんの話した昔の溪ちゃんの事を聞いていた時の加集さんは真剣で、お母さんが「結婚」の話を振ると、照れ笑いしながらそうなったらいいなと話してくれて、溪ちゃんはいいなって羨ましく思えた。


                          大好きな人に想って貰えて、結婚も・・・きっと真面目な加集さんとなら、溪ちゃんはしあわせな家庭を築ける、うんうん。


                          風邪みたいに移して 12

                          Posted by 碧井 漪 on   0 

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                            2月16日月曜日の朝、

                            公子は、洗面台の鏡の前で大きな溜め息を吐いた。


                            それから出勤時刻ギリギリまで泣き腫らしてしまった目を何とかしようと、蒸しタオルで温めたり、氷水に浸けたタオルで冷やしたりを交互に繰り返した。


                            多少、よくなったけど・・・メイクしてもあまり誤魔化せない。


                            寝不足って嘘ついて、時間と共に腫れが引くのを気長に待つしかない。


                            てっちゃん、気にするかな?


                            ううん、しないで欲しい・・・だから私はお客さんが来るまでなるべく店の外にいよう。


                            外では掃除以外する事ないけどね。どうしようかな。


                            仕事休む、とか?・・・でもそれは今まで考えた事がなかった。


                            私が店内で接客しなければ、てっちゃんはお店を閉めるというかもしれない。


                            風邪みたいに移して 13

                            Posted by 碧井 漪 on   0 

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                              このまま帰れない。


                              てっちゃんが早起きして折角作ってくれたこのお菓子をこのまま持って帰ったら、てっちゃんをがっかりさせてしまう。


                              公子は中学校の外周道路に面したフェンス土台の塀に腰掛け、風呂敷包みを開いた。


                              保冷材のすぐ下の容器にアングレーズソース、そして真ん中の深い容器に固めたメレンゲが二つ、一番下の容器に糸冠が入れられていた。


                              スプーンも箸もない。


                              両手をパンパンと叩き、黒パンツの腰ポケット辺りに両手のひらを数度擦った。


                              そして公子は、卵より大きな卵型の白いメレンゲ菓子、ウ・ア・ラ・ネージュを素手で掴んで、クリーム色のソースの入っている容器の中へ浸け、口に運んだ。




                              風邪みたいに移して 14

                              Posted by 碧井 漪 on   0 

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                                今まで知らなかった世界が、私の目の前に広がっていた。


                                国内屈指の製菓会社の新製品発表会場に出入りする大勢の人々。


                                どこかの偉い社長のように見える年配の人から、サラリーマン風の男性、モデルみたいに若くて綺麗な女性、主婦、おじいちゃんおばあちゃん・・・


                                吉夜情報によると、皆さん関係者だそうで、取引先、株主、マスコミに親戚も、とにかく私が体験した事のない、何かのパーティーみたいな雰囲気だった。


                                そして、緊張続きときつく締められた帯によって、圧迫された胃はだんだん痛くなっていた。


                                逃げ出したいけど、こんな恰好、借り物の振袖でどこへ逃げる気?と頭の中の自問を自答しながら、とりあえず与えられた来賓受付の仕事を引き攣ってるかもしれない笑顔で頑張ってみた。


                                ほんと・・・苦しい、帯が。


                                喉がカラカラだけど、何か飲んだらトイレに行きたくなっちゃいそうだから我慢。


                                風邪みたいに移して 15

                                Posted by 碧井 漪 on   0 

                                翌朝、ベッドの上で目を醒ますと、下着姿の自分の隣に・・・は、天井から下りて来た蜘蛛がいた。


                                「ぎ、きゃ・・・っ・・・!」


                                鼻先を掠めた小さな黒い生物出現に驚いて、キャーッと上げた筈の私の声は嗄れて濁っていた。


                                けほ、くほっ・・・


                                朝だから、だけじゃない。喉の奥が腫れて詰まった感じがする。


                                それに下着姿なのに寒いどころか熱いし―――熱を出したんだ。



                                風邪みたいに移して 16

                                Posted by 碧井 漪 on   0 

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                                  ゴーンゴーンゴーン。


                                  鐘が鳴っている。


                                  白色じゃない鳩が数多飛び立って、鳴っている鐘は教会の鐘ではなく近所の神社にある鐘。


                                  ウエディングドレスではなく振袖姿の私は、何故か鐘の中に立って、上半身をすっぽり覆われていた。


                                  そこへ現れたのは白い足袋に草履を履いた灰色袴の男。足しか見えない。


                                  「なんだ?その鐘の衝き方。なってないよ。もっとこう強く・・・」


                                  せーの、と聞こえた声は吉夜のものだった。


                                  ハッ!と気付いた時には、もう遅かった。


                                  風邪みたいに移して 17

                                  Posted by 碧井 漪 on   0 


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                                    「・・・・・・」


                                    あまりの事に、公子は声が出せなくなっていた。


                                    そして、わなわなと震えてしまうのは熱のせいだけではないかもしれないと考えていた時に、

                                    「あ、着替え中だったのか、わりぃわりぃ。じゃ、俺はこれで・・・そうそう、これ見舞いのプリンだ。ここに置いとくな。」吉夜がわざとらしく明るくした声で言った。


                                    そして「じゃーな!」とニヤけた吉夜は、部屋の入口にプリン専門店のロゴの入った紙袋を置いて後ずさり、お大事にではなく、「ごゆっくり」と意味の解らない事を呟きながらドアを閉めた。


                                    風邪みたいに移して 18

                                    Posted by 碧井 漪 on   2 

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                                      哲が灯かりの漏れる店裏厨房のドアを開けると、

                                      「おっ、おかえりー哲!どうだった?」と裏用のスツールに腰掛けた吉夜が、顔だけを振り向かせて訊いた。


                                      「どうだった?って、何が・・・」


                                      「えー?”きみちゃん”と仲良し出来た?」


                                      「仲良しって、仲直りって事?」


                                      「違う違う、な・か・よ・し。あいつ結構色気のあるカラダしてたなって、俺も驚くくらい」


                                      風邪みたいに移して 19

                                      Posted by 碧井 漪 on   0 


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                                      公子が寒さで目を開けると、ベッドの上に横たわっている自分を覆っていた筈の掛布団が、ベッドの下へ落ちていた。


                                      その形状から、体が熱くなって、蹴り落としてしまったのだと考えられた。


                                      開いたままのカーテンの外は真っ暗で、枕元の目覚まし時計を掴んで見ると、一時五十一分だった。


                                      ずっと眠ってた?お母さん起こしてくれたら良かったのに。


                                      今更と思いながらも、公子はベッドから起きて、パジャマに着替えた。


                                      熱かった体は、嘘みたいに冷たくなっていて、喉はカラカラだった。


                                      公子は、戻した目覚まし時計の隣に置いてあったペットボトルの水を口に含んだ。


                                      コク、ゴク、ゴクッ、ぷはっ・・・喉の奥が潤って、冷たい感覚が胃へと落ちて行く。


                                      熱が下がったんだ、良かった。明日はお店に―――と考えたすぐ後、

                                      昼間見てしまった、哲と女性が店で談笑していた姿を思い出し、

                                      お店、行きたくないな・・・という気持ちになってしまった。


                                      風邪みたいに移して 20

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      出勤時刻、公子は厨房のドアを開けられずに、溜め息を吐いた。


                                      建物の北側、陽の当たらない場所は朝でも暗くて、吐き続ける息も白い。


                                      ドアノブを持つ手を放した公子は、表から裏に運ばれたプラスチックの大きなゴミバケツの蓋を開けた。


                                      ゴミは無くなっている。


                                      洗っちゃおう。


                                      公子は外水道に付けたピンク色のビニールホースの先を手に持つと、蛇口を捻り、水を出した。


                                      ジャババババ、バケツの中で渦を巻き、溜まって行く水を眺めて、公子は、また溜め息を吐いた。


                                      あーあ、あと何回だろう。私がこのゴミバケツを洗うのは。


                                      好きでも嫌いでもない仕事だったけど、それも近い将来出来なくなるのかと考えると、出来なくなるのは嫌だなと思う仕事だった。


                                      お客さんが来なくて、手持無沙汰な時間も嫌だって思ってたけど、

                                      てっちゃんと過ごせるかけがえのない時間だと考えると、一分一秒が贅沢な時間に変わって行く。


                                      でも、いくら恋しても、届かない相手なんだよね。


                                      ただの幼馴染みならまだいい方?


                                      てっちゃんは幼馴染み以下に想っているかもしれない。


                                      『関係ない』存在の私。


                                      正直に『腐れ縁』だと言い切る吉夜の方がまだ、私の存在を意識してくれているような気がして来る。


                                      店主と従業員・・・てっちゃんにとって私の価値は、吉夜の『腐れ縁』以下の所にある、多分。


                                      改めて自覚出来ると、大層落ち込んだ。


                                      風邪みたいに移して 21

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      どくんどくん、どくんどくん・・・


                                      嘘、てっちゃんが私にキスとか、そんなまさか・・・!


                                      あっ、でも私、てっちゃんとキスしたことあるんだった。


                                      子どもの頃だけど。しかもキスとかそんな色っぽい感情抜きの、ただ飴の受け渡しの為の口移し。


                                      今は飴も食べてないし、第一、てっちゃんには水曜日にお店で見た彼女が、いる、のに・・・


                                      ひゃっと首を竦めながら、公子は目を瞑った。


                                      スッ・・・哲の指先は、公子の髪を掴んだ。


                                      風邪みたいに移して 22

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      連絡を取りたくて鳴らし続けている電話の相手にいつまでも出て貰えないと、確かに不安になった。


                                      折り返しの電話もないと、益々不安になるよね。無事なのかな?って。


                                      幼馴染みのお姉ちゃんというだけの私でも心配になるのだから、溪ちゃんの弟であるてっちゃんの心配や不安は大変なものだと思う。


                                      着替えた公子は、店に裏から入った。


                                      厨房で、哲は一人、ボールに入れた卵白を泡立てていた。吉夜はいない、と公子はホッとした。


                                      調理台の上のもう一つのボールには三個の卵黄が入れられている。


                                      てっちゃんは朝、二人分のウ・ア・ラ・ネージュを作る。


                                      風邪みたいに移して 23

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      哲がコーヒーを持ってテーブル席にやって来ると、「きみちゃんも。」と公子を促し、二人揃って椅子に腰を下ろした。


                                      「・・・・・・」哲は無言だった。


                                      公子は、はっ、とした。


                                      溪ちゃんが髪を掻き上げて左耳に掛けた時、左手の薬指に白金のダイヤのリングが光っているのに気付いてしまった。


                                      それって、婚約指輪?っぽい・・・


                                      私の左隣のてっちゃんの位置からは、見えるか見えないか、わからない。


                                      コートを脱いだ加集さんの恰好は、会社帰りではなさそうなのにスーツだし・・・


                                      これって、と何故か私がそわそわ緊張し出した時、溪ちゃんがゆうべの事を話し出した。


                                      加集さんに会いに行って、帰ろうとしたら雪で電車が止まって、それでやむを得ず加集さんのお部屋に泊まる事になったと・・・そして、今日、加集さんからのプロポーズを溪ちゃんが受けた事も。


                                      ええーっ、結婚?!じゃあやっぱり溪ちゃんの左手の薬指のって、エンゲージリング?


                                      私は溪ちゃんの隣に座る加集さんをちらっと見た。


                                      美人な溪ちゃんを射止めた人。イケメンではないけれど、でも、この前話した感じでは、やさしい人だと思った。


                                      別れちゃったから、結婚は絶望的だと思っていたけれど、良かった。プロポーズが上手く行って。溪ちゃん、しあわせそうな顔をしている。


                                      それより、ビックリしたのは・・・


                                      風邪みたいに移して 24

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      てっちゃんちのお夕飯、今夜はハンバーグ。


                                      うちの分も貰っちゃった。お母さんがお夕飯をすでに作っていたら、明日の朝ごはんはハンバーガーになる。


                                      てっちゃんの作るハンバーグは厚みがあってふっくらジューシー。デミグラスソースは作って冷凍してあるものを解かす。


                                      片付けを終えたてっちゃんが冷蔵庫から取り出したのは、今日も出なかった ウ・ア・ラ・ネージュ。


                                      「これ、残っちゃったね。」


                                      「うん。」


                                      哲は、取り出した皿にソースを敷き、ウ・ア・ラ・ネージュを盛り付けた。


                                      今日、てっちゃんの彼女さんは来なかった。


                                      訊いちゃおうか、思い切って。


                                      「今日はどうして三つ作ったの?」


                                      どきどき、どきどき・・・


                                      風邪みたいに移して 25

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      私は、よしっ、今日も頑張ろう!と、てっちゃんへの気持ちを今日も封印したつもりで出勤した日曜日の朝。


                                      「おはようございます!」と公子は厨房裏口ドアから入ると、元気よく挨拶した。


                                      と・・・そこには、どんよりと顔色も人相も悪い男が一人 椅子に腰掛け、その隣には、背筋をきちん伸ばし、公子と同じ服装をして丸眼鏡を掛けた王子さまが立っていた。


                                      「・・・ったく、うるせぇ。頭に響くんだよ。静かに入って来い。」


                                      ムカッ。


                                      やっぱり二日酔いの吉夜。


                                      ゆうべ私とてっちゃんを邪魔した罰よ!──といっても、本当に邪魔だったかどうか?と訊かれれば、うん、と肯定出来ないけれど。


                                      「吉夜、そんな言い方・・・おはよう、きみちゃん。」


                                      風邪みたいに移して 26

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      結婚、か・・・


                                      パタン。


                                      パジャマ姿の公子はベッドの中にうつ伏せの姿勢で、吉夜から廻って来た結婚情報誌の表紙を捲って、いや やっぱり・・・と、すぐに閉じ、灯かりを消した。


                                      ごろん・・・公子は、暗くなった部屋の天井を仰いだ。


                                      公子は、自分に縁の無くなった人生行事、結婚式、

                                      その舞台を背景にして、満面の笑顔で婚礼衣装に身を包むモデルの写真を見るのは怖ろしかった。


                                      結婚が人生の分岐点とはいうけれど、結婚しないで人生を終える人もいる。


                                      例えば、私の人生あと三日だったら・・・結婚は不可能。それならば結婚よりも、何をすればいいのかな?と考えてみる。


                                      日曜日、時刻は23時52分、あと8分で月曜日の0時になる。


                                      そうしたら、期限はあと二日、48時間か。


                                      風邪みたいに移して 27

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      2月25日水曜日の朝になった。


                                      公子はいつも通り起床し、朝食後、顔を洗って歯磨きをした。


                                      部屋に戻って普段なら仕事着に着替え、隣の店へ出勤し、あと10分で哲に「おはよう、てっちゃん」と挨拶をして、仕事を開始する。


                                      仕事以外で会う約束はしていない。


                                      時々、水曜日に買い物に出かける事はあったけれど、主に店の物。


                                      それも火曜日にてっちゃんから『明日、買いたい物があるんだけど・・・』と誘われた場合のみ。


                                      平均すると、水曜日にてっちゃんと出掛けていたのは月に一回。


                                      そういえば・・・吉夜がお菓子を作るのを禁止してからは出掛けてないかも・・・お菓子の材料買わなくなったからかしら。


                                      今日は水曜日。運が悪い。


                                      てっちゃんに会う口実がない。


                                      一人で出かけると言っても、どこに?


                                      学生時代の友人とは随分連絡を取っていない上、平日の昼間・・・みんな仕事に違いない。


                                      かといって、お母さんと出掛けるのはウルサイから嫌、それなら一人の方がのんびり出来そう。

                                      風邪みたいに移して 28

                                      Posted by 碧井 漪 on  


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                                      死んでから地獄に落ちるより苦しいのは、生きている内に地獄だと感じる時。


                                      そんな当たり前の事を知らなかった訳じゃない。


                                      25年間、主に吉夜のせいで、プチ地獄は何度かあったけれど、こんなにツライ目に遭うなんて、想像してなかった。


                                      毎年、誕生日にはいいことが無かった。でも、てっちゃんが傍にいてくれたから、何とかなった・・・


                                      それなのに・・・業火に焼かれてしまったてっちゃんへの想い。


                                      地面に落とした私のハートは、その業火に焼かれて真っ黒焦げで煤だらけになった。


                                      きっとギュッと掴んだら、跡形もなく崩れる程、脆い恋。


                                      落としたハートは、後でこっそり土に埋めようと考えていたら、綺麗な天女が、

                                      真っ黒焦げの私のハートをてっちゃんの目の前で踏み潰し、木っ端微塵にした。


                                      もうこの地獄にいられないと悟った私は、地獄の使いに頼んだ。


                                      『連れてって』


                                      地獄の使いと向かう先は、地獄に決まっている。期待なんてしてなかった。


                                      ただ絶望から逃れたかっただけ。


                                      地獄から抜け出す場合の地獄の使いは、天国への道案内人?


                                      風邪みたいに移して 29

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      総合スーパーを出ると、吉夜は「もうこんな時間か。」と呟き、左手で公子の右手を引いて歩きながら、右手でスマートフォンを操作し始めた。


                                      『歩きスマホ禁止!』と言ってやろうと思った公子の隣で吉夜は、スマートフォンを右耳に当てると、


                                      「もしもし、俺。うん、もう出たんだけどさ、彼女の支度に時間がかかって。」


                                      彼女?誰?


                                      「今?駅だから、あと15分位かな。席、一人分追加しといて。」


                                      席?何の席?


                                      電話を終えた吉夜は、コートの右ポケットにスマートフォンを入れた。


                                      気になった公子は、「今、誰と電話してたの?」と訊いた。


                                      「姉貴。今日、ばあちゃんの誕生日でさ、昼飯に呼ばれてんだ。」


                                      「おばあちゃんの誕生日?プレゼント用意したの?」


                                      「うん。」


                                      風邪みたいに移して 30

                                      Posted by 碧井 漪 on  


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                                      まさか吉夜のおばあさまがお庭に居るなんて、考えもしていなかったから。


                                      吉夜、ちょっとだけごめん、半分はあんたのせいだけど、半分は私のミスよ。


                                      「佐藤公子さんね?」


                                      「は、い・・・」どうして私の名前を知っているの?


                                      「後で、この間のお振袖の写真渡しますね。とてもよく似合っていましたよ。」


                                      ええっ?!と声を上げそうになるのを必死に堪え、笑って誤魔化した。


                                      「じゃあ、行きましょうか。枝は後で片付けるから、このまま・・・よいしょっと。」


                                      おばあさまは、細腕に脚立を通して、肩に担ごうとした。


                                      それを吉夜が止め、脚立を物置きまで運ぶ事になった。


                                      そういう訳で、先に行ってしまった吉夜の背中を追い掛けるようにして、私とおばあさまは、お庭より少し高い場所にあるお邸へのスロープを、二人でゆっくり歩いている。


                                      風邪みたいに移して 31

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      吉夜のおばあさまのお誕生日を祝う昼食会は、先日の新商品発表会の後のディナーの時よりも多い人数で行われた。


                                      びっくりする私に、家族、親戚、重役達だ、と吉夜が教えてくれた。


                                      平日なのにお仕事は?と思っていると、創業者のおじいちゃんとおばあちゃんの誕生日は、八月と二月で、その日はお休みにしていると、またまたこっそり教えてくれた。


                                      みんながそれぞれプレゼントを渡す度、おばあさまは、どんなものでも驚き、喜んだ。


                                      「俺達からは、これ。」


                                      吉夜がプレゼントとして上着の内ポケットから取り出したのは手のひらサイズの立方体の箱。


                                      なーんだ。プレゼント、ちゃんと用意してたのね。


                                      リボンを解いたおばあさまが、箱の中から中身を取り出すと、白い長方形の台の上に、クリスタルで出来たウサギの置物?それとも判子?


                                      「拡大鏡なんだ。こうしてレンズを引き出して、ここのボタンを押すとライトが点く。」


                                      「ありがとう吉夜、公子さん。暗い所でも字が読めて便利ね。」


                                      風邪みたいに移して 32

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      一番好きな事は仕事にしない方がいい、と誰かが言っていた。


                                      一番好きな人とは結婚しない方がいい、と誰かが言ったような言わないような。


                                      一番好きな事、てっちゃんのお手伝いをする事。


                                      一番好きな人、てっちゃん。


                                      両方を否定されたら、私の人生、何も残らない。



                                      風邪みたいに移して 33

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      「どうして私と結婚するなんて話が出るのよ。第一、家柄が釣り合わないでしょ。うちは超庶民なのよ?どちらかというと貧しい方。」


                                      「別に、今時政略結婚なんてないよ。そういう家もあるんだろうけど、うちは恋愛結婚推奨派なんだと。気の合わない者同士暮らしても長続きしないって。ただし同居するんだから、家族とも合う女じゃないとって条件があるけど、お前、姉貴にまで気に入られてたしな。珍しいぞ。あ、珍獣だった。」


                                      「冗談言ってないで、そんな、私みたいなのが気に入られる訳ないでしょ。」


                                      「ばぁちゃんと誕生日一緒ってのがツボだったな。」


                                      「ツボ?」


                                      「やばいな、ほんと。こうなるって分かってたら連れてくのやめたのになぁ。」


                                      「え、え、どういう事?それって、ご家族は本気だって言うの?」


                                      「気に入ったから泊めたんだろ?」


                                      「えーっ?!」


                                      風邪みたいに移して 34

                                      Posted by 碧井 漪 on  


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                                      『俺と結婚すれば?』


                                      昨日、25歳の誕生日の夜。


                                      犬猿の仲と自他共に認める相手から、『プロポーズ』をされた。


                                      しかも同じベッドで一夜を共に・・・って、ただ眠っただけよ。それ以上何もないわ。


                                      結婚はしたい。実家も出たい。仕事も変えたい・・・


                                      でも、嫌いな男の『嫁』にはなりたくない。


                                      たった一つだけ、吉夜の『嫁』になってもいいと思う事。


                                      それは、吉夜がてっちゃんの『親友』だという事。


                                      てっちゃんが彼女と結婚しても、『親友の妻』という理由で会えるかもしれない。


                                      風邪みたいに移して 35

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      しあわせ・・・って何だろう?


                                      自分の望みがすべて叶ったらしあわせ?


                                      てっちゃんと両想いになれたら、結婚出来たら、二人で一生ここで暮らせたら・・・


                                      もしもそうなったら、それがいつ終わりを迎えてしまうかと不安になるかもしれないのに、それをしあわせというの?


                                      しあわせって何?


                                      私の願いがすべて叶ったら、それでしあわせと思えるの?


                                      違う、かもしれない。


                                      私がしあわせだと思って求めていたものは、実はしあわせではないものかもしれない。

                                      風邪みたいに移して 36

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      腫れ腫れ瞼にヘタっぴメイク。


                                      服はいつもの仕事着に平たい革靴、髪も結び難い髪質の私は、肩までの長さの髪を下ろして、


                                      いつもと違うのは、エプロンのポケットの中身だけ。


                                      いよいよね・・・お店の裏に立った。厨房のドアを深呼吸してから開ける。


                                      「おはようございまーす。」


                                      笑顔、不自然でも笑顔よ、公子。


                                      にっこり。


                                      小麦粉の生地が焼けた匂いが鼻を擽る。


                                      バターと卵に、お砂糖。

                                      風邪みたいに移して 37

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      お店のテーブル席に、私とてっちゃんの彼女は並んで座って居る。


                                      イチゴのデコレーションケーキとホットケーキ。


                                      お前はこっちだな、と吉夜が私の前にホットケーキを運んで来た。


                                      てっちゃんが彼女に運ぶのは、カットされたイチゴのケーキ。


                                      手間暇かけて作った、特別な日の甘い甘いスイーツ。


                                      私はホットケーキの女。


                                      地味でダサくて、大味。特別ではない日の手軽なおやつ。


                                      スイーツとおやつ、格が違う。


                                      人前に出しても恥ずかしくない娘さんと、人前に出したら恥を掻かせる娘。


                                      『お前と居ると恥ずかしいんだよ。その恰好、酷過ぎるぞ?哲、可哀相』


                                      分かってる、分かってるわよ。


                                      てっちゃんみたいに素敵な人には不釣り合いだって。


                                      『ホットケーキが似合いのお前みたいな女は、俺にしとくしかないんだよ』


                                      風邪みたいに移して 38

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      失恋したら髪を切る―――バッサリと。


                                      少女漫画のヒロインなら、そう。


                                      でも私は少女漫画のヒロインでもないし、バッサリ切るという程長い髪でもない。


                                      それに、美容室行ったらお金かかるし・・・


                                      これ以上短くするなら、パーマ掛けないと中学生の時みたいになって、また吉夜に馬鹿にされる。


                                      カット&パーマで一万円弱吹っ飛ぶ。


                                      はぁ・・・失恋して髪形変えるのにもお金が掛かるのよね。


                                      退職した今、次の仕事を見つけるまでは無給。


                                      新しい部屋の家賃、引越し費用、生活費、色々とお金が・・・ああ、お札がパタパタと飛んで行く。


                                      美容室に行く余裕はないわ。





                                      風邪みたいに移して 39

                                      Posted by 碧井 漪 on  


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                                      ぐすっ・・・今何時?21時半過ぎか・・


                                      相当泣いた。もう涙が出ないってくらい。あーあ、明日また目が腫れちゃうな。


                                      取り敢えず鼻水拭こう。ティッシュ、ティッシュ。


                                      ベッドから起き上がり、机に向かった公子のつま先が、何かにコツンとぶつかった。


                                      ん?何、この感触。


                                      机の上の灯かりを点けて、足にぶつかった物の正体を確かめると、それは吉夜の姉に貰った本革のバッグだった。


                                      そうだ、このバッグ、どうしよう。


                                      公子はさっき、スマートフォンで求人検索をする合間に、頂き物のブランドバッグの値段を調べていた。


                                      同じ型のバッグを見つける事は出来なかったが、よく似たバッグがオークションサイトに出品されていて、それは中古品でも10万円以上の値が付いていた。


                                      これは私が吉夜の恋人で婚約者だからくれたのよね。


                                      でも婚約者というのは真っ赤な嘘で、私は吉夜の恋人でもないし、結婚だって考えていない。


                                      風邪みたいに移して 40

                                      Posted by 碧井 漪 on  


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                                      バタン。ブオオオオ・・・


                                      公子が哲を追って外に出ると、哲はもう居なかった。


                                      あれ、お店の車がない。


                                      今の音、車の・・・もしかして、てっちゃんが、車に乗って行っちゃったの?


                                      どうしよう。


                                      てっちゃんに告白出来なかった。


                                      それを吉夜の部屋に戻って報告するのも気まずい。

                                      風邪みたいに移して 41

                                      Posted by 碧井 漪 on  


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                                      ぐすっ。


                                      公子が小さく洟を啜った時、吉夜の顔が公子に近付けられた。


                                      ひゃっ、何?!


                                      反射的に目を瞑った公子の右頬に、吉夜の頬が掠った。


                                      そして公子は、先程吉夜が公子の右耳に唇を押し当てて来た事を思い出し、体を強張らせた。


                                      嫌な筈なのに、体が動かないし、声も出せない。


                                      やだ、耳がやけどしたみたいに熱い。


                                      いつもなら『やめて』って吉夜を突き飛ばす所なのに、私、どきどきして・・・


                                      風邪みたいに移して 42

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      それから吉夜と二人、窓の外を気にしながら、暖房の効くお店の方で、てっちゃんの帰りを待った。


                                      てっちゃんは、すぐに戻って来なかった。


                                      結局、お店で夜を明かした。


                                      朝──


                                      吉夜より先に起きた私が見たのは、カウンターの中に立つてっちゃんの幻影だった。


                                      グラスを磨いてる。私の好きなてっちゃんの顔。


                                      でも今、てっちゃんの笑っている顔を思い出せない。


                                      それが怖かった。


                                      もう、てっちゃんを笑顔に出来ない私になるのが怖かった。


                                      告白して、断られて、お店にも居られなくなって去る事なんてきっと悲しくない。


                                      てっちゃんの笑顔を、もう二度と見られなくなってしまう事が嫌だから、今まで何も言えなかったんだ。


                                      てっちゃんに好きになって貰いたい、じゃなくて、てっちゃんに嫌われたくない、だったから何も出来ずにいたんだ。


                                      振り返ってみると、ただ待ってるだけの日々だった。てっちゃんに好かれる努力もしないで。


                                      どうしたら好かれるか分からない、それじゃあ駄目だったね。


                                      風邪みたいに移して 43

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      「なんだ?虫が出たのか?クロイヤツ?」


                                      「違うの。これ、これって・・・」


                                      吉夜が公子の指差した先を見ると、真っ白な生クリームでデコレーションされたケーキが調理台の上にあった。


                                      イチゴも何も載ってない状態。


                                      隣には、そのケーキに載せられそうなイチゴとチョコレートのバースデープレート。


                                      『おたんじょうびおめでとう』


                                      「これが何?」


                                      「こ、これ、わた、私の、なの、かな?」


                                      「ちゃんと喋れ。」


                                      風邪みたいに移して 44

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      どっくん、どっくん、どっくん・・・


                                      この後、本当は聞きたくない。


                                      『きみちゃんの気持ちには応えられない』


                                      『僕は、他に好きな人がいるから―――』


                                      この世界が崩壊する言葉を、てっちゃんの口から聞きたくない。


                                      でも・・・私にとっては必要でも、てっちゃんにとっては要らない世界なんだったら、壊してもいいよ。


                                      ガラガラガラって、私の気持なんか全部瓦礫(がれき)の山にしちゃって、それで、私みたいな幼馴染が居たって事は綺麗さっぱり忘れちゃっていいから。


                                      「こっちに来てくれる?」


                                      顔を上げられず、お辞儀したままの私の背中をはてっちゃんに促され、厨房の冷蔵庫の前に連れて来られた。


                                      てっちゃんは、私がさっきケーキを見つけたのとは違う扉を開けて、冷蔵庫の中から何か取り出した。


                                      その透明な袋の口は、赤いリボンで縛られている。


                                      風邪みたいに移して 45

                                      Posted by 碧井 漪 on  


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                                      泣いたから、頬が熱い。


                                      多分、物凄く酷い顔だって判ってたから、このまま家に帰れなかった。


                                      メイク出来たらいいけど、それは無理そう。せめて、どこかで洗って・・・


                                      仕事着のまま、コートも着ていない。さすがにエプロンは外して手に持ったけど。


                                      今、近所の路上を当てもなく歩いている。


                                      持っているのはスマホだけ。


                                      寒いから走ろう。


                                      最近運動不足だったしね。丁度いいわ。

                                      風邪みたいに移して 46 (「積み重なって解けるとき 56」)

                                      Posted by 碧井 漪 on  


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                                      「神様はその願い、聞いてくれないよ。」


                                      てっちゃん、どうしてそんな事を言うの?


                                      「そんな事ない!」私は向きになった。


                                      「僕が毎日笑って過ごすなんて無理だよ。帰ろう。」


                                      てっちゃんがお参りをやめさせようと、私の手を取った。


                                      そんな・・・駄目だよ。てっちゃんに笑う事の出来ない毎日を過ごして欲しくない。


                                      絶対百回お願いする。


                                      てっちゃんの手を振り解いた。


                                      「嫌!これはてっちゃんに『関係ない』。私の勝手なお願い事だから。てっちゃん一人で先に帰って!」


                                      公子はまた、一人黙々とお参りを始めた。


                                      気配が離れた。


                                      てっちゃん、帰ったのかな?


                                      しかし、公子の考えとは裏腹に・・・


                                      ペタペタペタ、石畳を走る足音がもう一つ増えていた。


                                      哲も裸足になり、公子に倣ってお参りを始めた。


                                      パンパン。哲の拍手が響いた。


                                      「てっちゃん・・・」


                                      「僕のお願い事も叶うかな。」

                                      風邪みたいに移して 47 (「積み重なって解けるとき 57」)

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      公子は右手で胸をドンドン叩いて、苦しそうな表情で目を瞑っていた。


                                      ごっくん!


                                      「きみちゃん!」


                                      「げほっ、けほけほけ・・・ほっ、ごほっ!」


                                      「ごめんね、余計な事しちゃった。きみちゃん、大丈夫?」


                                      哲は、キャンディーを飲み込んで苦しそうな表情になった公子の背中を手でさすった。


                                      「う、うん、ダイジョウブ・・・」


                                      「苦しかったね、ごめんね。」


                                      哲が公子の背中を撫で続けていると、公子が涙を零し始めた。


                                      「きみちゃん、苦しい?」


                                      あ、ダメ、泣きそう。


                                      苦しいよ、苦しかったよ、本当に、好きで好きで、切なくて苦しかった。


                                      風邪みたいに移して 48

                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                      暗い自室のベッドの中で、パジャマ姿の公子は天井を見上げ、幾度目かの溜め息を漏らした。


                                      夢みたいな夜だった。


                                      てっちゃんの作ってくれたキャンディーよりも甘い時間。


                                      てっちゃんの腕の中で、このまま、時が止まってくれないかと願った。


                                      「また明日」


                                      てっちゃんと指切りをして、別れた後から、どんどん恋しくなって、午前二時を過ぎてもまだ眠れずにいた。


                                      片想いの時より、想いが募って、胸が本当に焦げたみたいに熱くなって、

                                      会いたくて、離れたくなくて、眠れなくて。


                                      てっちゃんと絡めた小指を握り締める。


                                      私が私で良かったと、生まれて初めて思った。


                                      好きな人の好きな人になれたと知った瞬間、自分の事も愛おしくなれた。


                                      てっちゃんに好きになって貰えた自分、頑張れ。うん、もっと頑張る。

                                      風邪みたいに移して 49

                                      Posted by 碧井 漪 on  




                                      マスクをしたてっちゃんが私の部屋を訪れたのは、夕飯のお粥を食べ、薬を飲んで、ウトウトしていた18時半過ぎ。


                                      朝と違い、寒気は治まったけど、全身はカッカと熱くなって、18時に体温を測ると38.6度だった。


                                      解熱剤を飲んで三十分経過し、そろそろ効き始めた筈なのに、てっちゃんが来てくれた瞬間、カッと顔が熱くなる・・・これって風邪のせいだけじゃない?


                                      何とか体を起こそうと、両腕を突っ張ってみるけれど、熱いし力が入らないしで大変だった。


                                      枕を背中で押し上げるようにして体を起こす事に何とか成功した私は、ゆうべ離れた瞬間からずっと会いたかったてっちゃんの顔を見た。


                                      てっちゃんがお店、今日一人で開けてたってさっきお母さんから聞いて、心配してた。


                                      それに今日、お店に行くと約束したのに、それを守れなくて申し訳なくて──

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