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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

積み重なって解けるとき 1 【100話からの恋物語 「乙女ですって(R-18)」溪編】

Posted by 碧井 漪 on   2 

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    溪ちゃんの部屋でミルクココアを飲み終えた俺は、22時過ぎ、

    「良かったら俺、このまま泊まって行こうか?」

    と言った後で、快くない空気が、一瞬で煙みたいにモクモクと立ち込めた・・・ように感じた。


    見開いた目を俺に向けた彼女の表情が険しかったから、そう感じられた。


    チクタクチクタク、時計の秒針の音がまるで俺を刺して来るかのように責めて来る。


    ああ、俺、やっちゃった。彼女に「不審」がられているかも、いや、「不信」を買っている・・・。


    積み重なって解けるとき 2 (R-18)

    Posted by 碧井 漪 on   0 

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      23の頃から五年以上片想いしていた人と恋人同士になれて嬉しかった。


      でも・・・交際を始めて一か月が経過した今は、どうしてよいのか解らなくなっている。


      彼に会えない時は会いたいと思っているのに、いざ会うと怖くなってしまう。それも、昼間はいいけれど、夜。


      怖い理由を考えてみると、

      嫌われたくない、

      触られたくない、でも離れたくはない・・・

      自分でもよくわからない、複雑過ぎる心を持て余している。



      積み重なって解けるとき 3

      Posted by 碧井 漪 on   0 

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        加集は引き攣った。


        溪にアダルトなDVDを観ていた事をうっかり知られて、別れを切り出されてしまったからだ。


        どうしよう、どうしよう、俺、やっちゃった。


        まさかデッキの下にあのDVDが入り込んでいたなんて気付かなかった。


        あああ・・・誘惑に負けて先輩のコレクションを観てしまったからバチが当たったんだ。


        彼女がいるのに、他の女のビデオで抜くなんて、許せないに決まってる。


        俺が女だったら、平手打ちして、アレを蹴って痛めつけてやりたくはないが、やってしまうかもしれない。


        それで許してくれるなら、お安い御用。悶絶する痛みに耐えるから、どうか別れるなんて言わないで!



        積み重なって解けるとき 4

        Posted by 碧井 漪 on   0 

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          二月最初の日は日曜日だった。


          昨夜、土曜日の夜、加集さんからの電話に気付いたのは23時になる前。


          その時考えたのは、翌日は日曜日だから会社はお休みだし、加集さんはまだ起きているかもしれない・・・と思った。


          けれども、昨夜は電話出来なかった。


          もしも私からの電話を待っているとしたら・・・嬉しいけれど、でも、それはいけない事だと思った。


          今まで、彼に期待させていた私がいけない・・・


          積み重なって解けるとき 5

          Posted by 碧井 漪 on   0 

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            「・・・頂こう?」


            加集がそうっと、という感じで言った。


            「・・・・・・」溪は口を閉ざしたまま。


            「いただきます。」


            カシャン、加集がデザート皿にスプーンを当てた後、メレンゲ部分とソースを一緒に一匙掬った。


            溪は加集がお菓子を食べる様子を黙って見ていた。


            「うん、甘過ぎなくて美味しいね。丁度いい感じ。」


            “丁度いい”と加集の口から聞いた溪は何だか嬉しくなって、重かった気持ちがすっと軽くなって行った。


            私も・・・と溪も、飴の糸冠の下の白いメレンゲとクリーム色のソースを一匙掬って口に運んだ。


            積み重なって解けるとき 6

            Posted by 碧井 漪 on   0 

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              溪が加集に別れを告げた翌日の月曜日、正午過ぎ。


              由佳は溪の姿を探しながら、日替わり定食のトレーを持って、一人で食堂内を歩いていた。


              いつも菜津子が座っていた隅のテーブルに、加集の姿を見つけた由佳は、そちらに向かって通路を歩いた。


              「お疲れさまです、加集さん。溪は?」


              「・・・さぁ?」由佳に聞かれた加集は、今日はたった一人だけで座り、箸を進めながら素っ気ない返事を返した。


              由佳が定食のトレーを同じテーブルに下ろした。


              積み重なって解けるとき 7

              Posted by 碧井 漪 on   0 

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                寺沢が交換したという新たな鍵を貰った日の夜、溪は五日ぶりにアパートの自分の部屋へ戻った。


                新しい鍵を挿し、回すと、カチャンと軽い音がした。


                中に入って部屋の灯かりを点けると、暖房は点けずに窓を開けて換気をする。


                冷蔵庫の中身は、普段から傷むような食品が入っていない為、全く問題なかった。


                溪の部屋は、以前よりもすっきりしていた。


                そして溪は、部屋の隅に置いてある紙袋の前に正座した。


                それは以前、加集が溪の部屋を片付けた時に、数ある紙袋を詰め込んでいっぱいになっている紙袋だった。


                積み重なって解けるとき 8

                Posted by 碧井 漪 on   0 

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                  お昼の時刻になる一時間ほど前、一階の受付に由佳が走って訪ねて来た。


                  「はあっ、はあっ、溪・・・あんた、今日のお昼、空け、といて・・・外で、食べるわよ、いい?りいなちゃん、ごめんね、お先に溪、お昼行ってもオッケー?」


                  息を切らしながらでも有無を言わせぬ由佳の様子に、私は何の話か予想が付いた。


                  「はい、私は構いませんけれど・・・」りいなが溪を気にしながら、由佳に返事をした。


                  「溪、いい?」


                  「由佳・・・うん、いいわ。」


                  「じゃ、じゃあ、急いで戻るわ。トイレ長いと思われちゃう。」


                  エレベーターへ向かって走りながら、由佳は頭上でヒラヒラと手を振った。


                  積み重なって解けるとき 9

                  Posted by 碧井 漪 on   0 

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                    総務部内で、加集と溪は特に接近する事なく、週が明けた。


                    二月九日月曜日。


                    加集が同じ広報部に異動して来た時に、周囲に色々な事を訊かれるかもしれないと恐れていた溪だったが、誰にも何にも訊ねられずに済み、それを不思議に感じながらも、騒がれないに越した事はないと、業務中は普段通り過ごしていた。


                    溪は知らなかったが、周囲が静かに思えたのには訳があった。


                    それは由佳が、加集と溪が破局したという噂を喧嘩中だという事に、すぐすり替えていたからだった。


                    加集はそれを塩谷から聞かされて異動初日に知っていたが、溪は全く知らずに過ごしていた。


                    月曜日の終業間際、溪が加集とは喧嘩中だという話の真相を、受付にいた溪は、りいなの目の前で塩谷に訊ねられた。



                    積み重なって解けるとき 10

                    Posted by 碧井 漪 on   2 

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                      加集と別れる事になった経緯を、溪は全て菜津子に打ち明けた。


                      そして浮気しているとされる寺沢との関係も、訊かれてはいなかったが、菜津子には知っていて欲しくなって、溪はそれも話した。


                      何を言うでもなく、落ち着いた様子で聞いていた菜津子に視線を向けると、目が合った。


                      居た堪れなさを感じた溪は「会社を辞めた方がいいでしょうか?」と菜津子に投げかけてしまった。


                      「加集さん以外のご事情がおありでしたら、辞められてもよろしいかと思います。」


                      「それは、どうしてですか?」



                      積み重なって解けるとき 11

                      Posted by 碧井 漪 on   0 

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                        塩谷に訊かれた溪は、首を横に振っていた。


                        「そうですか。では私が・・・」


                        「・・・申し訳ありません。」


                        気を利かせてくれたと判る塩谷の申し出を断る事しか出来なかった溪は、会社を後にした。


                        迷いながらも、菜津子に約束した”別れの理由を加集に告げる”為に、加集の部屋へと向かった。


                        当然ながら、加集はまだ会社に居て、部屋へ戻って来るのは何時になるのか溪にもわからない。


                        塩谷さんに言われた荷物を届ける事も出来なかった私が、加集さんと顔を合わせて、別れを申し出た本当の理由を告げられるの?と、溪の気持ちはグラグラ揺れて、少しも落ち着かなかった。


                        震えの止まらない足と言い様のない不安が溪の頭の中を悪い想像で埋め尽くし、溪を追い詰めて行く。


                        積み重なって解けるとき 12

                        Posted by 碧井 漪 on   0 

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                          シャワーを浴び、寝る支度を整えた溪は、パジャマの上に毛糸のカーディガンを羽織り、ルームシューズを履いた足で哲の部屋のドアの前に立った。


                          コンコン。


                          溪がノックすると、部屋の内側に向かって扉が開いた。


                          「どうぞ。」


                          「お邪魔します。」


                          哲の部屋に入ると、天井のシーリングライトは消されていて薄暗く、代わりに灯されたいくつものキャンドルが、暖かそうに見える光を放っていた。


                          私の好きなフリージアに似た甘い香りが漂っている。


                          円いクッションがラグの上に敷かれ、ローテーブル中央には大きなガラスボールが置いてあった。


                          ガラスボールの中には水が張られ、ブルーと透明なビー玉がいくつも沈められている。


                          水面には小さな炎を灯(とも)したフローティングキャンドルがゆらゆらと二つ、付かず離れず浮かんでいた。


                          甘い香りはどこから?と、ぼんやりした明るさの哲の部屋の中を見回してみたが、フリージアの花はどこにもなかった。


                          もしかすると、花のような香りがするのはキャンドルからかもしれない、と溪は哲が机の上にあるコップ状の透明なキャンドルスタンド三つを、窓辺やラックの上に移動した事からそう考えた。





                          積み重なって解けるとき 13

                          Posted by 碧井 漪 on   0 

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                            翌朝、両親と溪を会社へと送り出した哲は、朝の家事の傍ら、保険証券のしまってある一階リビングの戸棚を開いた。


                            哲は整頓された中から、保険会社のロゴの入った黒いファイルを引っ張り出した。


                            生命保険の保険証券は家族全員分入っている、だけどこのファイルに哲の目的の物は入れられていなかった。


                            こっちかな?


                            もう一冊、隣にあったタイトルのない市販のブルーファイルを取り出して開いてみると、透明なビニールポケットに、保険金請求の手順と書かれた用紙、そして複写紙のお客様控えと病院の領収書と診断書のコピーが収まっていた。


                            「これだ・・・!」


                            溪が大学在学時に入院した時の領収証と診断書。


                            母が生命保険の入院給付金を請求していた事を思い出した哲は、何か書類が残っていないかと思い、探したらこんなにも簡単に見つかった事に自分でも驚いてしまった。


                            「綿雪溪さま入院治療計画書、診断書に領収証・・・そうか、それでゆうべあんな事を言って・・・」


                            溪が入院したのは婦人科だったので、哲は病室までお見舞いに行ったのは、一回か二回だったと記憶していた。


                            積み重なって解けるとき 14

                            Posted by 碧井 漪 on   2 

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                              加集を忘れると決意した溪は、23時過ぎ、ベッドに潜ると灯かりを消した。


                              眠れない・・・


                              溪はベッドから起き出してカーディガンを羽織った。


                              裸足にルームシューズを履き、通勤バッグを開けると、中から手帳とお守り代わりにしている加集に貰ったハンカチを取り出した。


                              それを持った溪は二階から一階に下りた。


                              手帳もハンカチも、溪の決意が翻らないよう、今すぐに庭で燃やしてしまいたい気分だったが、夜中、昼間に関わらず、住宅密集地に建つ家の狭い庭で、実際に何かを燃やすなど簡単に出来るものではないと溪も分かっている。


                              両親も哲も寝静まって静かだったリビングで、溪は灯かりを点けずに、テレビを点けた。


                              ソファーに座ってしばらく見ていたニュースも終わり、深夜のバラエティー番組になると、それを流しながら、溪はキッチンで何かを探していた。


                              「ないなぁ・・・」


                              「何を探してるの?」



                              積み重なって解けるとき 15

                              Posted by 碧井 漪 on   2 

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                                溪は会社最寄り駅に着いた。


                                改札口を通り抜けると、会社に向かうのとは反対の商店街の方へ向かって歩き出す。


                                一歩一歩踏みしめるようにし、震える膝を見ないように顔をずっと上げていた。


                                時刻は10時を過ぎ、土曜午前の商店街、殆どの店は開いていた。


                                この商店街に洋菓子店がある事を知っていた溪は、駅デパートの地下に寄らず、加集の好きな商店街でチョコレートを買おうと決めていた。


                                アイビー洋菓子店、まだチョコレートは売り切れていないかしら?


                                溪が昨年まで用意していたチョコレートは、日本に出店した海外のショコラ専門店のものだった。


                                積み重なって解けるとき 16

                                Posted by 碧井 漪 on   0 

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                                  溪は、菜津子と病院から戻った13時半過ぎから3時間近く加集の部屋の前にしゃがみ込んで待ち続けていた。


                                  16時半頃、溪の電話が着信を知らせた。


                                  相手は『美樹』、同い年の女性で、大学時代は親しくした事もあったが、溪の病気と前後して疎遠になった人だった。


                                  大学を卒業してから、一度も電話のかかって来なかった、まだ友人と呼べるのか疑問符の付く人。


                                  名字は確か『林』さん・・・電話を受けた場合、「林さん」と呼んだ方がいいのかしら?


                                  電話に出るか迷った溪だったが、疎遠になってまで電話をかけて来るのは、余程の用事か、或いは、毎回欠席している同窓会の件か、もしくは間違って発信してしまったという事もある。


                                  その内のどれかだろうと予想して、液晶画面に表示された応答の文字をタップした。


                                  「は、い・・・」おそるおそる返事をすると、


                                  積み重なって解けるとき 17

                                  Posted by 碧井 漪 on   0 

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                                    加集さんはゆうべ僕にかけて来た電話で、今日の午後、コーヒーを飲みに店に来ると言っていた。


                                    その前に姉ちゃんに電話を代わってと言われたけれど、その時姉ちゃんは部屋に籠って電話を代われそうな状態じゃなさそうだったから、代われず・・・つまり、加集さんはコーヒーを飲みたいんじゃなく、姉ちゃんに会いに来たいんだと分かった。


                                    引越しの手伝いの為に店を臨時休業しようかと考えてもいたから、店を開けていなければならない状態で、引越しの話をしたら吉夜が車を借りて来てくれるといい、父も休みだからと手伝いに行ってくれる事になった。


                                    それを知ったきみちゃんも、店番をきみちゃんのお母さんと一緒に引き受けてくれて、僕も引越しを手伝い、急いで終わらせて、あとは店で姉ちゃんを加集さんと引き合わせるだけだと思っていたのに、


                                    それを戻る前に姉ちゃんに知られてしまうとは・・・


                                    積み重なって解けるとき 19

                                    Posted by 碧井 漪 on   0 

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                                      二月中旬の夜道の寒さは、素肌に突き刺さるように厳しく、溪の予想以上のものだった。


                                      しかし、その寒気の刺激は走る内にだんだん感じなくなり、熱った体と苦しさを増す息の下で、溪は思い出したくなかった昔の記憶を蘇らせていた。





                                      積み重なって解けるとき 20

                                      Posted by 碧井 漪 on   0 

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                                        「はっ、はっ、はっ・・・あれ、姉ちゃん・・・」コースの半分を過ぎた辺りで、額から汗を滴らせている哲が走る速度を緩め、足踏みしながら振り向いた。


                                        「はっ、はっ、哲、眼鏡無くても一人で店まで戻れるか・・・?」吉夜も哲と同じく、今走って来た道を振り向いた。


                                        「行けるけど・・・吉夜?」哲は、どうするの?と訊ねる視線を吉夜の横顔に向けた時、


                                        「哲はコース通り走って先にゴールしてて。俺が溪さんのとこ、戻る。」と吉夜は後ろに向かってゆっくり走り出した。


                                        後方から、こちらに向かって走って来る小さな人影が、外灯の下を通る時だけ見える。


                                        「僕が戻るよ。」哲はそう言ってみたが、吉夜の方が先にコースを戻って行っている。


                                        「俺が行く。哲、眼鏡ないし、戻らないでこのまま行って。」吉夜は遠ざかりながら振り向き、同時に挙げた手で哲に向かって合図しながらそう叫んだ。



                                        積み重なって解けるとき 21

                                        Posted by 碧井 漪 on   4 

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                                          カラーン。


                                          「哲、きみちゃんは?」


                                          開店時刻直前、鍵を開けたばかりの表のドアから入って来た溪は、コーヒー豆を挽いていた哲に、カウンター越しに訊いた。


                                          「きみちゃんなら、お得意さんの家へ配達に出掛けたよ。」


                                          「何の配達?どうしてきみちゃんに行かせたの?」


                                          「昨日、きみちゃんがお店番している時に来てくれた由木(ゆうき)さんご夫妻に、ウ・ア・ラ・ネージュを作って欲しいって、ゆうべきみちゃんに頼まれたんだ。僕が配達に行くつもりだったんだけど、きみちゃんが行くって。」


                                          「ゆうべの事、ちゃんと謝ったの?」


                                          「ゆうべって?」



                                          積み重なって解けるとき 22

                                          Posted by 碧井 漪 on   0 

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                                            きみちゃんが店を休んだ今日は月曜日。


                                            あと一時間で閉店時刻を迎える17時30分。僕は厨房の壁に付いた時計を見た。


                                            きみちゃんは閉店までに帰って来て、店に顔を出してくれるのではないかと期待して待っていた。


                                            裏の厨房で作った夕飯を姉ちゃんに家に届けてと頼んだ時、店の電話が鳴った。


                                            「もしもし哲?今夜のメシ、俺の分も作っちゃった?」


                                            吉夜からだった。





                                            積み重なって解けるとき 23

                                            Posted by 碧井 漪 on   2 

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                                              ハッとした哲は、公子の肩から手を離し、

                                              「それじゃ、僕はこれで失礼します。もし、病院へ行く事になりましたら声を掛けて下さい。」
                                              お辞儀をすると部屋を出た。


                                              店の厨房に戻ると、二階から下りて来ていた吉夜に、

                                              「どこ行ってたんだよ。いくら金目のものがないからって、裏開けっ放しで出て行くなよ。まったく、公子も哲も不用心なんだから。」と、腕組みしながら叱られた。


                                              「ごめん・・・」


                                              「公子は?」


                                              積み重なって解けるとき 24

                                              Posted by 碧井 漪 on   0 


                                              にほんブログ村 BL・GL・TLブログ





                                                2月17日火曜日の夕暮れ。


                                                今日も寒かった。


                                                閑散とした店内の様子はいつも通りだけれど、今日はきみちゃんがいないから寂しい。


                                                昨日もきみちゃんがいなかったけれど、姉ちゃんがいた分、別の意味で賑やかだった。


                                                僕はきみちゃんに依存しているのかもしれない。


                                                積み重なって解けるとき 25

                                                Posted by 碧井 漪 on   0 






                                                  ドキドキドキ・・・どうしよう。


                                                  そうだ、きみちゃんのブラジャーの色は、やっぱり見てないと答えよう。


                                                  「今日、若い女性のお客さんって来た?」


                                                  えっ?お客さん?


                                                  「若い女性のお客さん?・・・ううん、来てないけど。・・・急に、どうしてそんな事 訊くの?」


                                                  「へ、変な夢を見ちゃって・・・」


                                                  「変な夢って、どんな夢?」


                                                  「えっとね、コホ、ゴホゴホッ、ゴホッ・・・!」


                                                  きみちゃんが激しく咳き込んだ時、僕は思わずきみちゃんを振り返ってしまった。


                                                  積み重なって解けるとき 26

                                                  Posted by 碧井 漪 on   2 

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                                                    溪は自分の部屋に入ると、灯かりを点けて、カーテンを閉めた。


                                                    バッグを机の上に置き、コートをベッドの上に脱ぎ捨てた。


                                                    ふう・・・と息を吐き、ベッドの上に腰を下ろした溪は、リモコンを手にし、暖房を点けてベッドの上に仰向けに倒れた。


                                                    溪は実家に戻って来て一か月以上が過ぎ、気が緩んだのか、散らかった部屋の中を見回し、ハッと思い出したように立ち上がった。


                                                    そして、ベッドの上に脱ぎ捨てたコートをハンガーに掛け、床の上に散らかった雑誌類を部屋の隅に纏めた。


                                                    それから、クリーニングに出そうとしながらも、まだ吊るしたままだったスーツをハンガーから外し、大きな紙袋に入れた。


                                                    積み重なって解けるとき 27

                                                    Posted by 碧井 漪 on   2 


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                                                      定休日の哲の一日は、両親を送り出した後、のんびりと家事をこなし、食材の買い出しに出る。


                                                      平日のお昼も、雨の日などは昼の時間を避けて休憩を取って店を閉め、車でスーパーへ行く事もある。


                                                      公子が一緒に行くと言えば、連れて行く。


                                                      二人で買い物をする時間は、哲にとって楽しくもあり、少し苦しさも覚えた。


                                                      いつか失う時間を心から楽しんで、そのいつかが訪れてしまったら、どうなるのか。


                                                      走り回る小さな子どもに手こずりながらショッピングカートを押した夫婦とすれ違う度、哲は公子とそんな風になれたらいいなと心の底では願っているのに、頭では考えないようにしていた。


                                                      積み重なって解けるとき 28

                                                      Posted by 碧井 漪 on   2 

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                                                      再びカウンター内に立った僕へと視線を向けた鈴木さんの左手のひらの上には、飴の糸冠が載せられていた。


                                                      その飾りが気になるのかな?と考えている僕に向かって、

                                                      「このウ・ア・ラ・ネージュ、同じカラメルでもソースではなくて糸状にしているのは何か理由があるんですか?」と鈴木さんが訊いた。


                                                      「よくご存じですね。どちらかのお店で召し上がった事があるんですか?」


                                                      「昔、ホテルのレストランで、家族と。カラメルソースだけ、ほろ苦かったのを憶えてます。」


                                                      「コーヒーに合わせるなら、カラメルソースが無い方がいいと思って、代わりに糸飴の冠を載せたんです。」


                                                      「そうなんですね。コーヒーの味とも合うように考えられて、素晴らしいです。」


                                                      こんなに店のお菓子を褒められた事はない。案外、恥ずかしいものなんだなと、哲は思った。


                                                      鈴木は右手でボールペンを握り、傍らに開いている手帳の上を懸命に走らせていた。


                                                      そしてその視線の先が糸冠と手帳を絶えず行き来している。


                                                      鈴木の様子に、哲は、ぷっと吹き出してしまった。


                                                      「何でしょうか?」


                                                      「あ、いいえ。熱心でいらっしゃるなと、感心してました。」


                                                      「仕事ですから。哲さんも、コーヒーとお菓子に対して真摯に臨んでいらっしゃいますよね?」


                                                      「真摯にと言われるとお恥ずかしいですけれど。」


                                                      鈴木はペンを置き、糸冠を皿に戻した。


                                                      「哲さん、その丸縁の眼鏡を見せて頂けませんか?」


                                                      「これですか?」


                                                      哲は眼鏡を外し、ティッシュペーパーでレンズを拭いてから、差し出された鈴木の手のひらの上に「どうぞ」と折り畳んだ自分の眼
                                                      鏡を載せた。


                                                      積み重なって解けるとき 29

                                                      Posted by 碧井 漪 on   2 

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                                                      「お付き合い、どちらにですか?」


                                                      “お付き合い”=交際


                                                      とは早合点だ、と哲は、惚けたとも取れる訊き方をした。


                                                      「そうではなくて、恋人になって頂けませんか?」


                                                      「いえ、あの、僕はそういうのは・・・」


                                                      「もしかして、男性が好きとかそういう・・・」


                                                      「違います。女性が好きですけど、でもまだ鈴木さんの事をよく存じませんし、鈴木さんも僕の事を何もご存知ないですよね?」


                                                      「一目惚れです。」


                                                      「はい?」


                                                      積み重なって解けるとき 30

                                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                                      取材の片付けを終えた哲が店を閉め、一つ残ったウ・ア・ラ・ネージュを入れた容器を持って自宅に戻ると、出かけようとしている溪と玄関先で顔を合わせた。


                                                      「姉ちゃん、その恰好・・・それ着て、どこ行くの?」


                                                      溪が着ていたのは、哲が高校入学時に購入したが、すぐにサイズが合わなくなって着られなくなった黒のウインドブレーカーだった。


                                                      「ちょっと、トレーニングに行って来ます・・・心配しないで。遅くなるようだったら電話するから。」


                                                      「トレーニング?」


                                                      哲は おかしいな?と一度思ったが、溪がスニーカーを履き、小ぶりのリュックを背負っていたので、本当かもしれないと考え、「くれぐれも気を付けて。まさか、登山じゃないよね?」と言った。


                                                      「登山じゃないわ。ちょっとだけお散歩。本当に心配しないで。」


                                                      哲は、散歩なら寒く暗くなる夕方になってから行かずに、朝の明るい時から行けばいいのに・・・と言いたいのを堪え、「夕飯、どうする?」「ごめんね、食べられないと思う。いってきます。」「気を付けて。いってらっしゃい。」と、玄関を出て行く溪を見送った。





                                                      その後、哲は夜に走る時、吉夜に、ひかりから告白された件を相談した。


                                                      「ひゅーっ、色男。さすがだねぇ。ダイエット効果あったな。そのまま巧く、店に来る女の客を誑(たら)し込んで売り上げ倍増だ。」吉夜はとんでもない事を言い出した。


                                                      「何言ってるの!そんな事する訳ないでしょう。誑し込むって何?」


                                                      「飲食店経営っていうのは近年難しくなってる。特に喫茶店。外に出て人と逢う時間を削る現代人が、コーヒーを飲む為にわざわざ喫茶店に入ってのんびり寛ぐ時間とか作れる訳がない。コンビニに入れば低価格のコーヒーが一分以内で手に入る。立地も良くない。

                                                      駅前ならともかく、年数の経った住宅地の中にある店。幾ら宣伝したとしたって、味以外の目的が無ければ正直ここまで歩いて来ないって。ウエイトレスがコスプレ美少女とか、動物連れ可とか、音楽ライブが出来るとか、そういう付加価値を求める客層を狙えないんだったら、俺の考えた”店長がイケメン!カフェ”っていうのが手っ取り早い上にコスト0だろう?」


                                                      「そのイケメンって、僕が?そんな風になれる訳がないよ。」


                                                      「なってるなってる、十分。哲の場合は中身がイケてるから。体格○、見た目◎、中身ハナマル、それで行け!」


                                                      「僕じゃあ、無理だよ。」


                                                      「そんなら、多少胸のある公子に頼むか。セクシーな接客服にして、腕とか足とか鎖骨とか出して、男性客を呼び込むってのもアリだからな。」


                                                      「・・・吉夜、投げるよ?」吉夜に言われた哲は、ちらりと公子の下着姿を思い出し、自分に対しても怒りを湧かせた。あー、もう僕は馬鹿なんだから!


                                                      「わわっ、路上ではやめろ。受け身も忘れたし。それより、その一目惚れ女だけどさ、上手く断れよな。逆恨みとかされてストーカーにでもなられた日には、面倒だからな。哲が公子を好きだなんてうっかり口滑らしたら、公子だって危険かもしれないぞ?」


                                                      「ストーカーって、そんな・・・」と哲は吉夜に返しつつも、溪がストーカー被害を何度も受けた事を思い出し、可能性が全く無いとは言い切れなかった。


                                                      ないとは思うけど、きみちゃんに対してひかりさんが何かするとか・・・ううん、そんな事はないだろう。


                                                      ただ、哲も吉夜の言う通り、ひかりへの返事は慎重にしようと考えた。


                                                      町内を走り終え、店の前で吉夜と別れた哲は、公子の部屋の窓をそっと見上げた。


                                                      灯かりは点けられていない上に、カーテンも開いたままで、今夜は公子に見送られなかったと判った哲は、どこか寂しさを感じていた。


                                                      積み重なって解けるとき 31

                                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                                      駅の公衆電話の受話器を戻した溪は、手袋を外した手のひらの中にある100円玉をギュッと握り締めながら、コンコース奥に陣取った柱の陰に戻った。


                                                      溪はそこに商店街から持って来たみかん箱を敷き、手袋を置いていた。


                                                      他にも、駅で立ち往生している人は、やはりどこからか段ボールを持って来て、コンコースの床に敷いて座っている。


                                                      良かった・・・加集さんに貰った100円玉があって。家に連絡出来た。


                                                      明日、タクシーが動けるようになったら、それに乗って帰ろう。


                                                      溪は、電車の運行が再開するのを待つ人々と共に、駅のコンコースで夜を明かす事を決め、今夜加集に再会した時の事を、忘れたくても、そう出来ずに、繰り返し思い出していた。






                                                      仕事が終わる時間に加集に会いに来た溪は、水曜日、そして木曜日も、加集の自宅裏の小さな公園で待っていた。


                                                      積み重なって解けるとき 32

                                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                                      “邪魔しないで、俺の人生に踏み込まないで”


                                                      私、私は、加集さんの人生の邪魔をする女になってしまっている・・・?


                                                      「あ・・・」溪は震える拳で口を押さえた。


                                                      「泣くなら俺の前で泣かないで、外で泣いて。」と加集は畳みかけ、立たせた溪の背中を玄関の方へ押した。


                                                      「待っ・・・加集さ・・・」


                                                      「早く出てって。それから、二度と来ないで。」


                                                      玄関ドアを開けた加集は、スニーカーをつっかけた溪の背中を、両手で玄関の外に押し出した。


                                                      「さよなら。」


                                                      彼から放たれた言葉が私の胸に突き刺さった。


                                                      すべてを失ってしまったと感じ、全身から力が抜けて行った。


                                                      もう、おしまいだわ・・・


                                                      積み重なって解けるとき 33 (「乙女ですって 157」溪編)

                                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                                      溪の前方に見えた加集の背中が止まり、そしてくるりと振り向いた。


                                                      「け、溪ちゃん!」加集は溪を見た瞬間、驚いた顔を見せた。


                                                      はっ、はっ、はっ・・・溪は、振り返った加集の前で足を止め、胸を押さえて前屈みの姿勢で、荒くなった息を整えていると、


                                                      突然、

                                                      「よかっ、た・・・!」加集が溪の体を正面から抱き締めた。


                                                      びっくりした溪の息が止まった。


                                                      加集さん、どうして?私のこと、嫌いな筈では・・・?


                                                      抱き締められた嬉しさより、戸惑いの方が上回った溪は、何の言葉も発せなかった。


                                                      「溪ちゃんが死んだら、俺も死ぬしかないって考えた。ごめん、俺が悪かった。」


                                                      えっ?!どうして私が死のうとしたことを知っていたのですか?


                                                      そんなに責任を感じないで下さい。謝るのは私の方です。考えなく死んで、益々ご迷惑をお掛けしてしまうところでした。


                                                      積み重なって解けるとき 34 (「乙女ですって」158・159)

                                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                                      加集さんを愛していても、このカラダに触れられるのが怖かった。


                                                      それは、過去に味わった病気の痛み以上に、ただ欲をぶつけられるセックスをされるのが怖かったからだと今は解っていた。


                                                      そこにあって許されたカラダ、必ずしも私ではなくていい、セックス可能な女であるなら誰でもいい。


                                                      昔、ある男と付き合っていた頃の私は“本当の愛”を感じていなかったと思う。


                                                      ただ求めに応じて、恋人という関係だけで、当たり前のようにセックスさせていた。


                                                      それはだんだん苦痛な義務でしかなくなり、ある時、病気が判って入院した。


                                                      それまでの私の人生で、一番辛い時期に間違いなかった。


                                                      だけどその時、カラダの苦痛に耐える中で、ココロは解き放たれた気分になったのは救いだった。


                                                      それからすぐ私の元を去って行った男から愛されてなかったとはっきり判った時、安堵した私も、相手を愛してなかったと気付いた。


                                                      "本物の愛"って、本当にこの世にあるの?


                                                      男も女も、恋愛は欲望と打算で変わって行く気がして、それからは誰も好きになれないと考えていた。


                                                      積み重なって解けるとき 35 (「乙女ですって」161・162)

                                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                                      朝になって、別れを覚悟していた溪は、想像していたこととはまったく逆の、夢の続きのような時間の中で、しあわせを感じれば感じる程、これが現実なのだとは益々信じられなくなっていた。


                                                      ずっと片想いしていて、だけど、これからの未来を夢見ることを諦めた日、溪の思い切った行動のおかげで、体は深く結ばれることが出来た。


                                                      あなたのカラダを治すことが出来て嬉しかった。


                                                      でも、あなたの熱を体の奥で確かめても、私の心の不安は消えて行かなかった。


                                                      言葉で伝えられていない。はっきりと、あなたの口から、私に対しての想いをまだ聞かされていない。


                                                      醒めない夢なのか、それとも、夢が終わった現実なのか、溪は自分の身に浴びているしあわせな時を、信じた途端に消えてしまうかもしれないと怯えた。


                                                      「もう一回、挿れさせて。このまま、溪ちゃんのナカにハイリコミタイ・・・」


                                                      「はい・・・何度でも、どうぞ・・・」


                                                      積み重なって解けるとき 36 (「乙女ですって」163)

                                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                                      商店街を通り、辿り着いた先、ここは・・・


                                                      『ジュエリーショップ ツナシマ』


                                                      加集は溪と手を繋いだまま、店の中に入って行った。


                                                      まさか、今日一緒にホテルに泊まると約束していた女性というのは、菜津子さんのこと?


                                                      そんな、嘘・・・でも、加集さんは、菜津子さんのことをずっと想い続けていた。


                                                      じゃあ・・・私は菜津子さんと加集さんの仲を邪魔してしまったの?


                                                      私は菜津子さんのことも、加集さんのことも好きで、しあわせになって欲しい。どうすれば・・・



                                                      積み重なって解けるとき 37 (「乙女ですって」164・165・166)

                                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                                      「溪ちゃんの家にこれからご挨拶に行っても大丈夫かな?」「はい。」


                                                      土曜日の午後、哲に電話をした後、加集さんに家まで送って貰った。


                                                      途中、デパートの地下で加集さんがお菓子を買って、私の実家に帰って来ると、電話で哲から聞いていた通り、両親は仕事で不在だった。


                                                      加集さんがご挨拶したいから、いつまでも待つというので、哲のお店に入ってコーヒーを飲む事にした。


                                                      加集さんのお部屋を出る時に哲に電話をした時には、全部は説明出来なくて、とにかく無事だった事と、これから帰るという事を伝えた。


                                                      「いらっしゃいませ・・・溪ちゃん!てっちゃん、溪ちゃんが帰って来たよ!」


                                                      お客さんのいないフロアにきみちゃんの驚いたという声が響いた。


                                                      後ろを見たきみちゃんの視線の先、カウンターの中にいつもと変わらぬ哲の姿があった。


                                                      積み重なって解けるとき 38 (「乙女ですって」 166・167)

                                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                                      広報部の朝礼が終わり、一階の受付へ向かう為、りいなと共に広報室を出ようとした溪は、「綿雪さん、待って。応接室で村井部長代理と塩谷さんが話があるって待ってる。」 と加集に呼び止められた。


                                                      「はい。」


                                                      “綿雪さん”と呼ばれたのは、雪の夜にお部屋から追い出されてしまった時以来。


                                                      あの時の私は彼に心底嫌われて、一巻の終わりだと考えてしまったのに、今は彼と一緒に眩し過ぎる未来へ向かおうと歩き始めた―――けれど不安はまだ、私の心の隅に解けない雪の塊のように残ったまま。


                                                      私の隣で立ち止まったりいなちゃんに、「お話が終わったら、すぐに向かいます。」と告げ、彼と共に応接室の方を向いた時、「あの、加集さん、少しよろしいですか?」とりいなちゃんが彼を呼んだ。


                                                      「え?今?あ、うん・・・綿雪さん、先に」と彼はりいなちゃんを振り返り、対応する為、私に先に行くよう指示した、と思ったら、

                                                      「綿雪さん、ここで少し待ってて。ええと、鈴木さん、ちょっとこっちで話そう。」先に行ってというのを翻した彼は、りいなちゃんを連れて廊下へ出た。


                                                      ここで出来ないお話?


                                                      気になった溪は、加集とりいなが出て行った広報室の入口へ向かった。


                                                      積み重なって解けるとき 39

                                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                                      りいなちゃん・・・うそ・・・私、りいなちゃんが彼をそういう風に見ているなんて知らなかった。


                                                      そういえば、バレンタイン前日に彼(加集)にチョコレートを渡していた。あれは、本命ということだったの?


                                                      頭の中がズンと重くなり、立っていられなくなった溪は、その場にしゃがみ込んだ。


                                                      「溪さん、大丈夫ですか?」りいなは、しゃがみ込んだ溪に気付き、下を見ながら声を掛けた。


                                                      「ええ、ごめんなさい・・・立ち眩み、みたい。少しこうして居てもいい?」


                                                      「もうお昼の時間ですから、来客も一段落しましたし、溪さん先にお昼に」「えっ?!溪ちゃん、先にお昼に行っちゃったの?」この声!


                                                      溪がしゃがみ込んで見上げているりいなの視線の先が、カウンターの外へ向いた。


                                                      積み重なって解けるとき 40

                                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                                      「約束していたって、りいなちゃんとですか?」


                                                      あなたは、私と別れて一か月経たない内にもう次の相手を考えていた・・・・・・


                                                      「えっと、あの・・・」


                                                      「全部、教えて下さい。」


                                                      「うん、それは・・・先週金曜日、鈴木さんとお昼を一緒に食べていた時、土曜日に溪ちゃんの実家に様子を見に行こうと誘われて、それで・・・」


                                                      いつもの堂々とした彼らしくない態度が私を苛立たせて行く。


                                                      「それで?」こんな返し方は失礼だって解っているけれど、昂る気持ちを止められず、つっけんどんにしか出来なかった。


                                                      「鈴木さんがバレンタインに恋人と別れたばかりだから、ホテルのケーキバイキングでやけ食いするからどうかと誘われて・・・」


                                                      りいなちゃんが長く付き合っていた恋人と別れたこと・・・知らなかった。


                                                      やけ食いって、それなら私に・・・あ、私、休んでいたし、食べられない事も知っているから、誘われる訳ないわね。


                                                      「ホテルって、ケーキバイキングのことだったんですね。私はてっきり―――」でも、彼(加集)を誘うのはおかしい、気がする。男性とケーキを食べに行こうと考えるかしら?それもホテルに・・・


                                                      「て、てっきり、何?」気になる加集は続きを促した。


                                                      「りいなちゃんとホテルに泊まる約束をしたのかと・・・」


                                                      確かに彼は言った。『明日、女とホテルに泊まるから』そして、『俺はセックスしたいんだ』と・・・


                                                      「約束は、して・・・」加集が言葉を切った時、溪はこくんと小さく呑み込んだ。



                                                      積み重なって解けるとき 41

                                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                                      彼の部屋でシャワーを浴びた後、さっき脱ぎ捨てた会社の制服に再び着替えていると、

                                                      「溪ちゃん、ごめん!俺、もう戻らないといけない時間が迫ってて、あと少ししかいられない。」 と彼が言い出した。


                                                      お部屋の時計を見ると、あと10分で13時になる。


                                                      「えっ、あ・・・ごめんなさい!」急がなくては、と溪は手早くブラウスのボタンを閉めた。


                                                      彼は引き出しから取り出したものを、私の手に握らせた。


                                                      「急がなくていいから。これ、この部屋の合鍵。溪ちゃんが持ってて。」


                                                      「えっ、でも・・・!」


                                                      「好きな時に入っていいよ。何もない部屋だけど。」


                                                      ハンカチ、指輪、そして合鍵。


                                                      彼から貰って嬉しくなかったものなんてない。


                                                      だけどこれは・・・ただの物じゃない、彼が私に心を許している証だと思えた。


                                                      「あっちゃん・・・ありがとう。嬉しい。」私は、ぎゅっと両手で彼の部屋の鍵を握り締めた。


                                                      積み重なって解けるとき 42 (「乙女ですって 170・171」)

                                                      Posted by 碧井 漪 on  


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                                                      電話の向こうで溜め息を吐いた後、彼は無言になった。


                                                      深い溜め息―――すごく怒っている。そうよね。自分のお部屋の鍵を失くされて怒らない人はいない。


                                                      彼は私を信じて合鍵を預けてくれたのに、私は彼の信頼を裏切る事をしてしまった。


                                                      『だらしない人は好きじゃない』以前のアパートの部屋の事もあるし・・・


                                                      私は彼に愛想を尽かされたかもしれない。


                                                      上手く息が吸えなくなって、そして、両目から温い粒がぱたぱたと零れ落ちた。


                                                      「ぐす、ぐすっ・・・本当に、ごめんなさい。どうか許して、あっちゃん・・・私、別れたくない。」


                                                      泣きながら絞り出した私の気持ち。彼を怒らせてしまって本当に申し訳ないし、悲しい。


                                                      「別れる?何で?」


                                                      「だって・・・鍵を失くしてしまって――――」「あるよ、鍵。溪ちゃん、俺のコートのポケットに合鍵入れたでしょう?」


                                                      彼のコートに鍵が・・・入っていた?!


                                                      積み重なって解けるとき 43 (「乙女ですって」 171・173)

                                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                                      2月24日、火曜日の朝。


                                                      混雑する駅改札を抜けた後、人波の穏やかな場所まで歩いた溪は、コンコースの柱を背に人を待っていた。


                                                      そろそろかしら。


                                                      彼女が利用する電車が到着し、増える人波の中へ視線を向けた溪は、探していた由佳の姿を見つけた。


                                                      駅構内から出た所で、溪は由佳の肩を叩いた。


                                                      「わっ・・・!あ、溪か。おはよ。」驚いた由佳の顔色は普段と変わらない。


                                                      「おはよう、由佳。」


                                                      人の流れに沿って歩く由佳の隣に並んだ時、溪は由佳に切り出した。


                                                      「ねぇ、ゆうべの電話だけど・・・」


                                                      「ああ・・・わかってるわよ。結婚決まった事、誰にも言うなって言うんでしょ?」


                                                      「ううん・・・その事じゃなくて・・・」


                                                      何だか由佳が元気なかったから、それを訊きたいのに、上手く言葉が出ない。


                                                      『彼と何かあったの?』と訊いたとして、私に出来る事は何もなさそう・・・却って由佳の気持ちを沈ませてしまうだけかもしれない。


                                                      「何よ、はっきりしないわね。しあわせな人は、しあわせそうな顔をしなさい。それだけで周りもハッピーになれるんだから。あー、私にも分けて欲しいわ。メロメロでラブラブな感じを。」


                                                      積み重なって解けるとき 44 (「風邪みたいに移して 27」)

                                                      Posted by 碧井 漪 on  

                                                      にほんブログ村テーマ スイーツへ
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                                                      自宅最寄り駅に着いた溪が、ロータリーに停められたお店の車に駆け寄り、助手席のドアを開けると、運転席に座って居たのは吉夜だった。


                                                      「溪さん、おかえりなさい。」


                                                      「ただいま、吉夜くん・・・哲は?」


                                                      助手席に乗り込んだ溪がシートベルトを締めると、

                                                      「哲は今、店の厨房で色々やってて、手が離せないみたいだから代わりに来ました。俺じゃ不満でしょうけど、家まで辛抱して下さい。」

                                                      吉夜は、はははと笑いながらハンドルを握った。


                                                      不満なんてとんでもない、わざわざ迎えに来て貰って申し訳ないと溪は思いながら、「ありがとう、吉夜くん。」とだけ言った。


                                                      以前も引越しの時にお世話になった。


                                                      『お店の二階に下宿させて貰ってますから、雑用とかあったら、俺の事は好きに使っていいですよ』とは、溪が実家で暮らしていた大学生の頃、高校生の吉夜に言われた事がある。


                                                      実際、吉夜くんは時間のある時、お店を手伝ってくれていて、哲もすごく助かっていると話していた。


                                                      年下だけど、落ち着いた振舞いの吉夜くん。余裕があって、先回りして待っているような吉夜くんの方が、本当は年上ではないかと思う事がよくあった。


                                                      私と同じか、年上だと言っても、由佳は信じるかもしれない。



                                                      ―――溪は吉夜の想いには気付かないでいた。


                                                      吉夜の方も、溪に自分の想いを告げようとは考えていなかった。


                                                      期間限定の片想い、それも下宿をやめる今年の春までと決めていた。


                                                      駅前から走り出した車は順調に進み、自宅まであと少しの所で赤信号に引っ掛かる。


                                                      その時、加集の事を思い出して、助手席でぼんやりしていた溪に向かって、吉夜が口を開いた。


                                                      「溪さん、両想いって、どんなカンジですか?」


                                                      「え・・・?」


                                                      「いや、俺っていつも片想いだから、自分の想う相手に想われるのってどんなカンジなのかなって、あ、別に・・・答えなくてもいいです。」


                                                      積み重なって解けるとき 45 ※哲編

                                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                                      僕には好きな女の子がいる。


                                                      いつから好きになったのかと訊かれたら、はっきり憶えていないけれど、物心付いた時には、彼女の事が好きだった。


                                                      ただし、それを彼女に伝えた事は一度もない。


                                                      僕の密やかな恋。


                                                      彼女の傍に居て、見て居るだけでしあわせな毎日。


                                                      でもこの恋は、いつか終わりを迎えてしまうという不安はあった。


                                                      せめて少しでも長く、このままで居させて欲しい。


                                                      そう願って、僕は彼女を縛る事を思い付いた。


                                                      大学卒業後、父の開いた喫茶店の経営を正式に引き継ぎ、アルバイトだった彼女を正社員として雇った。


                                                      僕は卑怯な手を使った。彼女に毎日会う為だけに、黒字にならない喫茶店の経営を続け、彼女を働かせている。


                                                      しかし、彼女にとっても悪い条件ばかりではない。


                                                      家は隣だから通勤に関しても心配は要らないし、他の男に出逢うという事もない。


                                                      よく働いてくれる彼女は、僕の心にだけではなく、店にとっても、なくてはならない人になった。


                                                      一つ困った事は、僕が彼女をますます好きになってしまった事。

                                                      積み重なって解けるとき 46 ※哲編

                                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                                      「吉夜、何時頃帰る?」


                                                      「んー、多分20時前には。今夜は付き合うよ。」


                                                      付き合うというのは、日課のジョギングの事だろう。


                                                      「うん。」


                                                      その時、吉夜に話を聞こう。気になっているゆうべの事・・・


                                                      吉夜が出掛けてから、きみちゃんが出勤して来た。


                                                      「おはようございます。」


                                                      「おはよう。」


                                                      いつも通りの挨拶、上手く笑えたかな?


                                                      積み重なって解けるとき 47 ※哲編

                                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                                      明け方に眠りに就いた哲は、誰かが部屋に入って来た音で目を醒ました。


                                                      ん・・・部屋の中は明るい。今何時だろう。9時過ぎか・・・いつもならお店に居る頃。


                                                      吉夜ときみちゃん、どうしたかな。お店、開けたのかな?


                                                      哲は枕元に置いた丸縁眼鏡を手に取った。


                                                      レンズ越しにぼんやり見えたのは、公子だった。


                                                      「きみ、ちゃん?」


                                                      「てっちゃん、ごめんね、勝手にお部屋に入って。具合、どう?」


                                                      「きみちゃん、どうして・・・」


                                                      驚いて声が出せない。


                                                      積み重なって解けるとき 48 ※哲編

                                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                                      もしも今、僕がきみちゃんを実際に抱きしめたらどうなるんだろう?


                                                      でも、その先、夢で出て来たように、きみちゃんにお店を続けていた本当の理由を知られてしまったら・・・きみちゃんに嫌われてしまう。


                                                      「あの、あのね、てっちゃん。吉夜が、人件費のかからない秘策をてっちゃんが知ってるって言うんだけど、なあに?教えて?」


                                                      それって、以前吉夜が言っていた―――


                                                      『早いとこ、公子を嫁にしろよ。そしたら給料払わなくていいだろ?』


                                                      きみちゃんと結婚して、夫婦で店を経営して行けばいいという話。


                                                      積み重なって解けるとき 49 ※哲編

                                                      Posted by 碧井 漪 on  

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                                                      僕は弱いから

                                                      でも本当に強くなりたいなんて思った事は今までになかったのかもしれない




                                                      弱いままでいいなんて言わないけれど

                                                      今のままで居たいとは思った事がある




                                                      誰かが言ってた

                                                      変わらないと進めないと




                                                      時の流れるままに生きていてはいけないのかと

                                                      足掻いた時もあった




                                                      あの頃より今の僕は変わったのかもしれないし変わっていないのかもしれない




                                                      僕自身には何がどう変わったのかはっきりと判らない




                                                      ただ一つ分かった事は

                                                      僕は齢を取った




                                                      足掻いていたあの頃を懐かしむくらい




                                                      今年もまた一つ齢を重ね

                                                      変わったかどうかも分からない中身と来年には変わっている外見




                                                      それでも生きていられる事が

                                                      しあわせなんだろうと思う所まで来た




                                                      変わっても変わらなくても

                                                      僕は僕にしかなれない




                                                      今日も明日もそれからも



                                                      変わっても変わらなくても僕のままだと思う





                                                      積み重なって解けるとき 50 ※哲編

                                                      Posted by 碧井 漪 on  




                                                      姉の作ってくれたお粥は、僕の知らない味だった。


                                                      インターネットか料理本で調べたレシピかもしれない。


                                                      蒸した鶏肉が解(ほぐ)され、溶き卵と共に散らしてあった。


                                                      だしは中華風。塩加減も丁度良かった。


                                                      料理を一生懸命頑張るのは加集さんの為。


                                                      「いいな、加集さんは。」


                                                      茶碗によそわれた分を食べ終え、腹の中が温まった時、そう思った。


                                                      自分が想い、自分を想ってくれる相手と一緒になる。


                                                      中々ない事だと思う。

                                                      このカテゴリーに該当する記事はありません。