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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

自殺相談所

Posted by 碧井 漪 on   0 

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    「死にたい」

    その言葉を身近な人から聞かされると

    とてもつらい気持ちになります。



    かつて自分も毎日のその考えに支配されていた事を思い出しながら書きました。


    今でも年に数度はそう思う日もあります。


    本気のSOSを受け止める人が居る、

    そういうお話を書いてみたいと走り書いた文章が下(続きを読む以下)にあります。


    自殺を考えた事のない方はご覧にならないで下さい。


    R-15にすべきなのかもしれないとは考えましたが、

    自殺を考えた事がある人ならご覧になっても何という事はないでしょう。



    読む前に、この事を一番伝えたいので、横に置いといて読んで下さい。


    「私は今 生きていて良かったと 自分のいのちを守ってくれた全てに感謝しています」


    死のうとしか考えられなかった日々は長かったですが、

    未来にしあわせな事は何も待っていないと思っていましたが、

    やりたい事が見つかりました。


    それは、浮き沈みながら手探り継続中のブログで小説を書くという事。


    お金にもなりませんし、

    時間も体力も使います。


    書けない日は苦しいですし、日々勉強中です。


    ですが、やっと「自己満足」出来るようになって来ました。

    ブログで繋がった顔も声も知らない皆さまの存在を感じて、

    毎日生きる力を貰っています。




    今日も生き続けられていられる感謝の気持ちと、

    亡くなった親友に読んで欲しい気持ちを合わせて突然書き始めました。

    (親友は自殺したのではありません)


    完結はいつになるのか見通せませんが、

    恋愛小説以外の、原点を思い出して書いて生(行)きたいと思います。




    タイトルは「結婚相談所」があるのに「自殺相談所」はないという着想から。


    ※行政機関には「自殺対策相談室」なるものがあります。

    このお話は、民間非営利団体「自殺相談所」を舞台に繰り広げられるフィクションです。


    9月1日 午前6時に第1話を「小説家になろう」で不定期連載開始します。






    この命が誰かの役に立たないのなら、

    まず自分だけの為に生きてみる。


    その内に仲間が増えて来て、

    自分が必要とされてしまう存在になって行く。



    永合遼大(ながいりょうた)24歳、

    9月1日に

    自殺相談所 所長と出逢う。












    自殺相談所 2 (R-15)

    Posted by 碧井 漪 on   0 

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      築何年だろう。


      通っていた小学校の廊下に似た古さのビルの入口は、四段上がった奥にある。


      一階にある店舗は文具店のようだ。


      印章・名刺のご注文は当店へと、黄色が褪せた布製のぼりが出ている。


      あまり明るくない廊下を奥まで進むと、エレベーターが正面に一基見えた。


      俺は赤とワイン色の中間の扉の前に立つと、上矢印ボタンを押した。


      程無くして扉がゆっくり開き、エレベーター内へ入ると、正面の壁に『自殺相談所所長より』と書かれた、以下の手書き文書が掲示されていた。


      自殺相談所 3 (R-15)

      Posted by 碧井 漪 on   0 

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        カーッ、小さく軽い音を立てて、自動扉が開いた。


        それが閉まる前にと、慌てて中へ足を踏み入れたのは、自動扉に挟まった経験があったからだった。


        でもそれがいつどこでだったか思い出せない。


        鬱になる以前から、現実の中のような擬似体験の夢を見るようになって、本当に自信が扉に挟まれた経験があったのか、他人が挟まれたのを目撃したからなのかも自信がない。


        夢を見た日は憂鬱だった。


        自殺相談所 4 自殺相談所所長との出逢い

        Posted by 碧井 漪 on   0 

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        俺は、サングラスとマスクをむしり取った・・・といっても、普通に取っただけだ。


        憤りを表わす為に、自分の顔を隠すものをパッと剥ぎ取った。


        「ちょっと!ここの責任者いますか?」


        ウサギの着ぐるみは、頭を横に振り、オロオロする仕草をみせた。


        自殺相談所の実態を調べる為には、ここで声を荒げてはならないと判っていた・・・のは、”つもり”だけだったようだ。


        カーッと頭に血が上のぼった。


        何に対して?


        自殺を簡単に扱う事に対してだ!


        ふと、床に目を落とすと、紺色のビニールテープが線状に貼られていて、辿ると先端が矢印になっていた。


        白いプラスチックボードの間仕切りで、道が五つに分けられている。


        そして、『レスラー』『イヌ』『所長』『ネコ』『占い師』と矢印の途中に貼られた白いテープに黒マジックで書かれた文字を見つけた。


        俺は、真ん中『所長』の矢印のある通路へ踏み込んだ。


        「あっ!ちょっ・・・!」くぐもった声だけど甲高い、女の声だった。


        振り向くと、着ぐるみウサギが白いモコモコの両手で口元を覆っていた。


        中身は女だったのか、と驚いた。何となく男かなと思っていたからだ。


        頭がでかいから、俺より身長があると感じ、そう思い込んでいたんだな。


        ずんずん歩く俺の後ろをウサギも慌てて付いて来て、後ろから俺の背中をトントン叩く。


        立ち止まりも振り向きもしない俺の血走っているであろう目に、背凭れの有る回転椅子に座る男の背中が見えて来た。


        あいつが所長か?

        自殺相談所 5

        Posted by 碧井 漪 on  

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        俺の身が運ばれた先は、古いけど綺麗に掃除された、いかにも事務所という造りの場所だった。


        机が並べられ、隅に見える黒い革張りの応接ソファーは磨り硝子の入ったパーテーションで仕切られている。


        相談所の表と違って裏は明るい。開かれた窓にはカーテンがはためき、表と裏を逆にした方がいいんじゃないか?なんて悠長な考えを持てるようになったのは、


        俺が椅子に縛り付けられて何分か経った後の事だった。


        相談所の表から裏に連れて来られた俺は、背凭れが異様に高い椅子に座らされ、ヒゲ眼鏡の所長タナカという男とレスラーと呼ばれた覆面男、二人がかりで白いロープで椅子に縛り付けられた。両腕と胴体は背凭れに、足首は椅子の脚に。


        おまけに、口に粘着テープも貼られた。これじゃあ、まるで銀行強盗に遇ってしまった人質。


        「むー、んー、ふー、ぐ・・・!」なんで俺がー!




        自殺相談所 6 自殺反対

        Posted by 碧井 漪 on  

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        コンコン。


        二つあるドアの一つ、俺が連れて来られた方のドアが外側からノックされた。


        ハッとした俺は、首をそっちへ動かした。


        「はい、どうぞ。」


        カチャッ、ドアが開いて入って来たのは、鼻髭眼鏡の所長・タナカだった。


        「お待たせしました。お師匠様。いかがですか、彼は。」


        タナカはふざけた眼鏡を外し、机の上から普通の眼鏡を掛けてばあちゃんに訊ねた。


        「あなたを待っていたところです。お茶が入りましたから、お二人でどうぞ。戸棚の中に頂き物のカステラがありますから召し上がって。次の方が見えられるので、私はそろそろ戻ります。」次の方が見えられるって、まるで予見しているみたいだ。


        ばあちゃんはタナカに丸盆を手渡し、載せてある三つの湯呑みの一つを取ると、軽く仰いで飲み干した。あまりに早かったので、最初から湯呑みの中にお茶を、ほんの少しだけしか注いでなかったんだと思えた。


        自殺相談所 7 (R-15) 自殺願望

        Posted by 碧井 漪 on  

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        「ナガイさんは自殺したいと考えたのはいつ頃ですか?よろしければ原因も教えて頂けませんか?」


        何も言えなくなった俺は、所長に訊かれた問いに、素直に答えるしかなくなっていた。


        「俺が自殺したいと思ったのは、大学中退した五年前くらいです。理由は解らないけど、六年前突然電車の中で倒れて、それから乗れなくなって、心の病気だって診断されて。原因も解らず、毎日気分が落ち込んで、何も出来なくなって・・・大学も辞めて、生きる意味とかないんだったら死んだ方がいいんだろうなとか、でも死のうとする行動も起こせなかったから今、生きてる感じで。その当時、いい自殺方法を知ってたら死んでたかもなとは思います。」


        「いい自殺方法ですか。それは私も知りたいです。何を以って”いい”というのでしょうね。」


        自殺相談所 8 自殺概念

        Posted by 碧井 漪 on  

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        「自殺したいと考えている人に関わりたくない、そう考えている方が多いのが事実です。中途半端な事を言って自殺されたら堪らない、ですけれど、あなたに相談者が自殺した責任を取れなどと言いません。自殺は自己責任です。誰かに”死ね”と言われて死ぬというのはすべて自分で選んだ道です。自分の人生は自分で決めなさい、それならば生きるも死ぬも自分で決めて良い筈ですが、大概の人間は仲間と意識する人間を生きる事へ縛りたがります。」


        「俺・・・宗教とか、そういうのやらないんで。」


        「宗教について私は詳しくありませんが、信仰心が無かったら自殺しているという方はいます。宗教が存在しなければ、多くの人が自ら命を絶つ世界となるかもしれません。」


        「じゃあ・・・人って何の為に生きてるんですか?生きる意味って何ですか?」

        自殺相談所 9 (R-15) 自縛

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        「私は神様にお会いした事はありません。私の神様というのは自分の事だと考えています。私の意志を自由に操っているのが神様とした場合です。ですから、自然界の神々は別でしょう。この世は生命の数ほどの神様が絡み合って、大きな力を生み出しています。」


        「自分が神ってことですか?」


        「あなたの神様と私の神様は違うという事を解っていない人が多く存在しています。平等にといいますが、相反するものに平等を与えるのは難しいのです。沢山の命を救う未来を持つ医師と沢山の命を葬る未来を持つ暗殺者を前に、ここに100年の命があったとします。どちらにどれだけ与えたら平等なのでしょう?50年ずつですか?それとも0か100かですか?」


        自殺相談所  10 自覚

        Posted by 碧井 漪 on  

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        二度と来ないと思っていたビルに、自ら足を踏み入れる事になるとは、思いもしなかった。


        しかも翌日にだ。


        9月2日。暑さのキツくなって来た昼前の時刻。


        ビルの中は暗く、陽が当たってないから涼しいだろう・・・と考えていたが、エレベーターの中は冷房もなく、肌に風を感じない分、外より蒸し暑いと感じた。


        貼り紙の横にぶら提げられたビニール袋には、使い捨てマスクとサングラスが入っている。


        相談者なら着けるべき・・・しかし今日の俺は”相談者”なのか?


        違う。背中のモヤモヤをばぁちゃんに祓って貰いたい―――つもりだったけど、今は不思議と感じなかった。


        自殺相談所 11 自ら

        Posted by 碧井 漪 on  

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        楽に生きたい。


        そう口にした事は無かった。


        そんな軽口を叩く奴らを、軽蔑した振りをして、本当は羨んでいたと理解出来た。


        昨日、自殺相談所所長のタナカと話している時の俺は、嫌なものに目を瞑り、自分のしたい事だけしかしたくない、ただの我が儘な人間だと思えた。


        金にならないから、そんな理由は、今だって金にならない仕事しか出来てない俺に振りかざせる言葉ではない。


        他の相談員達は別の仕事で生計を立てつつ、自殺を考える人の話を無償で聴く。


        その上で何かするのかと訊いたら、『何もしない』タナカはそう答えた。


        人の話を聴くだけ、それにどんな意味がある?どんな利益を齎(もたら)す?


        俺は考えて、自ら答えを導き出した。

        自殺相談所 12 自活

        Posted by 碧井 漪 on  

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        「それじゃあ、自殺を防ぎようがないですよ。」


        俺なんかが話を聴いた位で、相談者の自殺を食い止めるなんて到底無理だと思えた。


        「自殺を考えるのは、特別な人ではありません。誰しも、命を持っていて、命の価値を考えたことのある人ならば、自殺の選択肢を持っています。そして、他人とぶつかるのを恐れる人は、選択肢を増やすことが出来ません。」


        「それって、人と関わらないと自殺を選びたくなるってことですか?逆に、人と話すと疲れて死にたくなるって事もあると思うんですけど・・・」


        「話しているだけではぶつかった事にならない場合もあります。建前で話してもぶつかった事にはなりません。しかし、本音を話さず、他人とぶつかるのを避ける人もいます。疲れるというのは、感じている事を吐き出せない時です。嘘を吐く罪悪感、虚無感、他者と自分を比べて感じる敗北感に劣等感。それらを感じても、隠したり我慢したりしなければ、人のストレスは減り、活力が湧くのです。」


        「活力?」


        「活きる力です。」


        「じゃあ、ストレスを抱えたままで、活力が湧かないと・・・」


        自殺相談所 13 自生

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        「その一匹は元気で、秋も冬も越しました。どこにでもいる赤の和金なんですけれど。ただずっと一匹で、何も入ってない殺風景な水槽の中ですいすい泳ぐ姿を見ていると、寂しくないかなと考えて、胸が苦しくなりました。金魚ですから、死ぬまで水の中から出られない。そして足が生えている訳でもありませんから、自ら歩いて別の水槽へ移住する事も出来ません。ごはんは二日に一回くらい、麩のかすをあげていました。好きな所へ行けず、好きな物も食べられず、仲間にも出逢えず、縁を得る事のない名もない金魚は一匹ぽっちで、死に絶えるまで、その水槽で泳ぎ続ける事を考えると忍びなくて・・・」


        「・・・・・・」


        もしも自分が、死ぬまで毎日、小さな水槽に一匹で、ただひたすら泳ぐ事しか出来ない金魚だったのなら、と考えてみた。


        自殺相談所 14 自助努力

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        「訊き出すのではなく、ただ聴くのですよ。知らない相手だからこそ、何のしがらみもなく打ち明けられる事があります。」


        「でも、もしも・・・生きて居たくないとしか言わなかったら?」


        「生きて居たくない―――それなのにまだ生きて居るという事は、迷って居るという事です。」


        「迷う?」


        「自殺をして、生命を終わらせたいのではなく、今生きて居るこの心に安らぎを求めているだけです。その術が分からない、思いつかないから、自殺して生きる事を終わらせたいと考えます。」


        確かにそれは解る気がする。


        楽になりたい、でもなれない。


        苦しさから一刻も早く逃げ出したい。だけど自分一人の力ではどうにもならなくて、どうにかしようとして、手っ取り早く命を絶ってしまう事を考える―――


        自殺相談所 15 自殺動機

        Posted by 碧井 漪 on  

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        所長の前に現れたのは、ここへ入る為に用意されているサングラスもマスクも着けていない中年の男だった。


        平均より少し腹が出た程度で、よく見かける体型の親父は、禿げてはいないが、薄くなった白髪雑じりの髪は短く、目尻と弛んだ頬には皺が目立ち、所々シミもあって、お世辞にも綺麗とは言えなかった。


        服装は白いポロシャツ、首筋は汗ばんで、着古したグレーのスラックスのポケットから取り出したハンカチで額から首筋の汗をざっと拭いながら椅子の前に立った。


        すると、所長が立ち上がり、

        「どーもどーも、渡辺さん。」とその男に握手を求めた。


        え?知り合い?


        「田中さん、こんにちは。暑いですね、どうですか、元気ですか?」


        訊かれた所長は、バーコードカツラと鼻髭眼鏡を取り去った。


        「はい、おかげさまで。渡辺さんは最近・・・?」


        所長はタナカという名前に間違いないと、そのワタナベという男に裏付けられた。


        「まあ、何とか・・・」


        どうぞ、と所長が手で促すと、ワタナベという親父が椅子に腰掛けた。


        俺の親父より年上か・・・って事は、もう定年を迎えてる人かな?

        自殺相談所 16 自認

        Posted by 碧井 漪 on  

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        「どうして、お・・・僕が親孝行だなんて言うんですか?」


        「ナガイくんが親になれば分かるさ。」


        「え・・・」


        全然わからない。


        親になればって言うけれど、親はそんなに偉いのか?


        親にもなれない俺は、やっぱり駄目な奴だって言われている気にもなる。


        うちの親は、俺を孝行息子だなんて思ってない。


        駄目な息子だから期待していない―――諦めている。


        『もっと頑張れ』と言われても「頑張ってるよ」としか返せないけれど、

        俺の心の中に”甘え”があると自分でも気付いてる。


        自殺相談所 17 自己申告

        Posted by 碧井 漪 on  

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        所長の言う、”箱”と言うのは”心”の事だと、何となく解った。


        “人の望みは宝物”、すなわち、俺の”望み”も”宝物”という事になる。


        俺の”望み”って何だろう。


        この場合、一番叶えたい事だと思う。


        ・・・わからない。


        俺は、何を望んでいるのか。


        自分の事なのに、たった一つだけと言われた時、決められずに迷うだろう。


        考え込んで下を向いていた俺に、所長は「どうしますか?帰りますか?」と訊いた。


        自殺相談所 18 自閉症スペクトラム

        Posted by 碧井 漪 on  


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        椅子に座った女性の隣で男の子は、椅子に乗ったり降りたりを繰り返した。


        今は椅子に座った状態で、ベビーカーを手繰り寄せては、遠ざけてを繰り返している。


        坊ちゃん刈りのあどけない男の子。


        対して女性の顔色は青白く、頬には涙の乾いた痕があった。


        俺達の顔を見ようとはせず、膝の上に握り合わせた両手をじっと見ていた。


        ジュースを買いに行ったワタナベさんはまだ戻って来ない。


        女性は黙ったまま、何も話さなかった。


        「死にたいですか?」


        所長が静かな口調で言った。


        自殺相談所 19 自己否定

        Posted by 碧井 漪 on  

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        自閉症の男の子のお母さんは、フルサワコズエと名乗った。


        年齢は30歳。旦那さんは34歳だという。


        シュウくんの一歳半健診の時に大きな病院を紹介され、そこで自閉症スペクトラムと診断され、療育センターにも通い、自宅でも色々頑張っている、けれど効果が見られない事など、ぽつりぽつり話す内、コズエさんが育児の悩みだけで自殺しようと考えたのではない事が分かって来た。


        コズエさんとシュウくんを取り巻く環境の中、シュウくんの将来を真剣に考えるコズエさんはあれこれ悩み、疲れ果て、死に救いを求めるようになった。

        自殺相談所 20 自己防衛

        Posted by 碧井 漪 on  

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        「どうしてですか?学校も会社も休めるのに、母親は休む事が許されないとでも?だからあなたはやめるしかないと考えて、死のうとなさったのですか?あなただけではなく、シュウくんも一緒に。」


        「それは・・・」


        「そうですね、一週間程、あなたには母親を休んで頂きましょう。別人になって下さい。それに伴って、シュウくん母である事、シュウくんのお父さんの妻である事も忘れて下さい。」


        「そんな事、夫が許す訳がありません。」


        「コズエさん、あなたは自分の為に死のうとした。それならば、自分の為に一週間生きてから死んで下さい。あなたの人生です。誰かが許す許さないは問題ではありません。夫にはあなたの葬儀の手配でもお願いしておく位でよろしいかと思います。」


        「葬儀・・・」

        自殺相談所 21 自殺以外の解決方法

        Posted by 碧井 漪 on  

        「それじゃあ、行こうか。」


        「渡辺さん。」


        所長は、二人を連れてここを後にしようとするワタナベさんを呼び止めた。


        シュウくんと手を繋いだまま、ワタナベさんは振り返った。


        「田中さん、後で連絡します。」


        「分かりました。」


        たったそれだけのやり取りの中に、ワタナベさんと所長だけに解る何かがあるんだと思えた。


        信頼し合っているからこそだ、と考えていた時、


        「永合さん。」と所長に声を掛けられ、どきりとした。


        ワタナベさんに任せておけば、二人は大丈夫だと思いながらも俺は、「あの、コズエさんとシュウくん、大丈夫でしょうか?」と所長に確認せずには居られなかった。


        「大丈夫ですよ。」


        その言葉を聞いた俺は、ふっと肩から力を抜けた。


        “大丈夫”その言葉を聞きたかっただけだと分かった。


        コズエさんもさっき、ワタナベさんが”大丈夫だ”と言った後、ホッとしたように涙を流していた。


        自殺相談所 22 自信

        Posted by 碧井 漪 on  


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        「今まで死にたいと思って居た人が、そんな急に生きたいと思えるようになるんでしょうか?」


        「人は単純にも出来ています。心から楽しいと思える事に出逢った時、生きたい、生きていて良かったと思うでしょう?この先の未来で、また同じ気持ちを味わいたい、そう思う事が生きる欲になるのです。」


        「生きる欲?」






        自殺相談所 23 自力

        Posted by 碧井 漪 on  

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        この相談所を訪れて、”自殺”や”死”より大変な事は、”生きる”事だと、ちょっと変わった相談員や相談者達を見ていて感じた。


        大変な事を、毎日続けて居る。それはしんどい事。だから時には逃げたくなってもいい。


        死にたくなる気持ちを否定しない。誰しも経験があり、通る道だと客観的に、穏やかに見つめている。


        少し休んで、急がず焦らずゆっくりのんびり、人生の道のりはまだ長い。たった一瞬で結論を出そうなんて考えたらいけなかったんだ。


        死への道は一本しかないけれど、生きる道は何本にも分かれている。


        まだ選べないだけ。ゆっくりじっくり、生きている内に選べばいい。


        間違っても失敗しても、もう一度、歩いて行けばいい。


        どの道も、ゴールはみんな、”死”なんだから。


        急がない。時の流れるままに生きて、自分の納得出来る答えを探し続ければいい。


        自殺相談所 24 自意識

        Posted by 碧井 漪 on  

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        今夜、母さんと話していて感じたのは、子どもの頃の母さんと今の母さんでは別人のようだという事だ。


        勿論、それは俺の錯覚であって、母さんはずっと母さんのままだったのだと思う。


        俺が大人になっただけと言えばそうなのかもしれない。


        しかし対する母さんは、俺を大人と思って居るのか子どもと思って居るのか、さっき話した程度では深くは知れない。俺の事は、まだまだ子どもだと思って居るかもしれない。


        母さんもコズエさんのように、俺の事で「死」が過(よぎ)る程、悩んだ事はあるのだろうか。


        自殺相談所 25 他人の家

        Posted by 碧井 漪 on  


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        渡辺によって自殺を止められた古沢梢は、長男・柊を連れ、自殺相談所を出た後、渡辺の自宅へ招かれた。

        その途中、夕飯の買い物をする為、スーパーに寄ろうと言う渡辺に、寄りたくないと言えない梢は俯いたまま「はい」と従うしかなかった。

        柊を連れての買い物はいつも楽ではなかった。

        スーパーの入口で固まったように動かなくなったり、ショッピングカートに乗せようとしても嫌がったり、擦れ違う中年男性に怯えたり、お菓子を持たせてそちらに意識を向けさせようと試みても、そのお菓子が選べなかったり、また別の日には、突然、梢の手を振り切って走り出してしまう事もあった為、梢は日々の買い物を宅配サービスに頼り、スーパーにはしばらく足を踏み入れていなかった。

        柊は、渡辺と手を繋いでおとなしく歩いている。

        でもきっと、スーパーに入ったらいつもの通り・・・

        自殺相談所 26 他人の子

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        バスッ、バスン!


        夜、21時過ぎ。渡辺の家の二階の部屋は、いつもより騒がしかった。


        二組の客用の布団の上を走ったり転がったり、枕を襖に投げつけたりする柊のせいだった。


        「柊、やめなさい!落ち着いて。」


        普段と違う環境に戸惑っているのだろう。大きな声で叱っても柊が聞き入れない事を知っている梢は、オロオロしながら、何とか落ち着いて、早く眠ってと心の中で唱えていた。


        その時、騒ぎを聞きつけた渡辺が「どうした?入ってもいいか?」と襖の向こうにやって来た。


        「はい、どうぞ。すみません。」


        梢はそう言って、立ち上がった。


        自殺相談所 27 他の世界

        Posted by 碧井 漪 on  

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        「可哀相だねって人に言われて、お母さん自身もこの子の事を可哀相と思ってない?違うよ。この子には社会より大事なこの子独自の世界があって、それを大切に生きているだけなんだよ。協調性がないからって個人を責める社会の方がいけない。自閉症と診断されなくたって周りが見えてない、分かってない人は、案外沢山いるだろ?それと変わらない。診断されたからって肩身狭くして生きなくちゃならないんだったら、病院なんか行かない方がいい。病名なんて何の意味がある。全身全部健康な人なんていないよ。みんなどこか悪い所があるだろう?あんたはここが悪い、それを責める人なんて相手にしなけりゃいい。子どもは騒ぐもの、静かな方が異常だと俺は思う。それなのに公園やスーパーでちょっと騒いだだけで、親の躾がなってないとか人の迷惑考えろとか言って来る了見の狭い大人のせいで、おとなしく出来ない子は叱られてさ。大人だって騒ぐだろ。飲み屋や祭りやアイドルのコンサートなんかでさ。自分らは騒ぐだけ騒いで、子ども達には駄目って、そりゃ酷だわな。まず自分達が自制出来るようになってから言ってくれって話だ。」


        「そうは言っても・・・」

        自殺相談所 28 他人との繋がり

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        「何か可笑しかったか?」


        きょとんとする渡辺を見た梢は、涙を更に零して笑い続けた。


        こんなに笑ったのはいつ振りだろう。


        誰の目も気にせず、安心して、お腹の底からただ、可笑しいという感情が素直に出せる。


        梢は久し振りに、幼い頃に戻ったかのように、何のしがらみにも囚われず笑う事が出来た。


        柊の事で悩んでいた、確かにそうだった。


        でも・・・と梢は渡辺に指摘されて気付いた。


        それに加えて、自分と夫についての悩みもあったのだと。それを柊一人のせいにして死んでしまう所だったと。


        自殺相談所 29 他者

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        夫は多分、私が死のうとしてた事なんて知らない。言わなければ気付かない。


        家出した今も、実家か友人の所か、なんて焦ってもいなくて、ただ家事を放棄しただけと怒っているかもしれない。


        私達が家に戻った後、夫は柊を連れて家を空けた私を責めるだろう。


        もしも夫が私だったら、この状況からとっくに逃げ出していたかもしれない・・・と考えると、私はよく我慢した方ではないかと思えて来た。だって、夫より私の方が辛抱強いから。


        渡辺さんの言う通りに、夫には連絡せず、少し心配させてやろうかなとも思ったけれど、柊も一緒だったから、万が一、夫が警察だなんだと騒ぎだしたら厄介だと考え、【柊と二人、しばらくお友達の家でお世話になる事にしました。心配しないで下さい】とメールだけ送っておいた。


        電話をかけて来るかもしれないと少し期待して、携帯電話の電源を切らずにいたら、


        【俺の飯は?】と夫から返信された。ガッカリ。

        自殺相談所 30 他見

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        翌朝七時過ぎ、渡辺の家の二階で目覚めた梢は、起きてすぐ、隣の布団の中に柊が居ない事に気付き、慌てて一階のダイニングへ駆け込んだ。


        ベンチチェアに座り、ダイニングテーブルの上に新聞を広げていた渡辺が顔を上げ「おはようさん。」とまだパジャマ姿の梢に声を掛けると、どうしようという表情を浮かべた梢が、


        「おはようございます。あの、柊が居ないんです。」と渡辺に訴えた。


        「柊くん?」


        そう言いながら、渡辺は、眼鏡の奥の目をちらとキッチンの方へ向けた。


        梢もキッチンを見ると、カウンター越しに、柊が渡辺の妻と並んで立って居るのが見えた。


        柊は、梢の見憶えのない服を着ていた。そして、何か台のような物に乗っかっているのか、渡辺の妻の肩辺りに柊の顔はあった。

        自殺相談所 31 他所とうち

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        午前九時過ぎ、遅めの朝食を終えると、渡辺が柊を連れて近所の公園へ行って来ると言った。


        掃除、洗濯を手伝いたいと思いつつも、渡辺一人に柊を任せる訳には行かないと、梢は「それじゃあ、私も一緒に・・・」と言うと、


        「この人に任せておいていいわよ。それより梢さん、お布団干すの手伝って。」と渡辺の妻に頼まれた。


        梢は本当に渡辺一人に柊を任せて大丈夫かと不安だったが、手伝いを断る訳にも行かないと、


        「分かりました。」と、柊と渡辺の二人を送り出した。


        洗い物を済ませ、布団を干すのに続けて、洗濯物を干していると、昨日着せた柊の服もあった。


        自殺相談所 32 他心

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        「ははは、仲がいいって?そんな事ないよなぁ。」


        「そうよー、ないわよ。いつもこんな感じ。喧嘩したら悲惨よ。二人しか居ないんだから。だから喧嘩にならないように、小さい事はなるべく気にしないようにしてるの。」


        「もうさ、家族減らしようがないからさ、いつも仕方ないなって諦めてる感じだよ。」


        「あら随分ね。私が我慢してないとでも?」


        「俺だって我慢してらぁ。」


        「あ、あのー・・・」


        「ふふっ、こんな調子になるまではほんと、色々あったわよー。あり過ぎて、一々憶えてない位。」


        「そうなんですか。」


        「おお、そうだ、いつものあれ、聞かせてくれよ。」


        「あれって何だっけ?」

        自殺相談所 33 相談とは

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        【そう-だん 相談】とは、

        どうするかを決めるために話し合うこと。また、意見を述べてもらうこと。




        俺が毎日なんとなく自殺相談所に通うようになってから十日あまり。


        バーコードはげづらに鼻髭眼鏡を掛けた所長の後ろで、今日も黒子姿の俺は、残暑に耐えていた。


        一時、扮装をひょっとこ面に変えて貰ったが、やって来た相談者がチラチラ見ては、気まずそうに視線を逸らすので、やはり黒子に戻そうと、結局こうなって今に至る。


        暑さ以外は快適だ。俺の中の黒子のイメージは、喋らないというものだったので、自然と聞き役に徹せるこの扮装は、相談員初心者の俺に合っていると言えば合っている。


        自殺相談所 34 相生

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        「違いますよ。自分の悩みじゃなくて───ワタナベさんとフルサワさん親子はどうなったのかなってちょっと気になってて。」


        「渡辺さんならきっと大丈夫ですよ。」所長が言うと、お師匠様も頷いた。


        俺は「はい。」と返事をした。気になってはいるものの、俺が深く追求すべき事ではないと言われるのが嫌だったからだ。


        この話はこれで終わりだと思った時、

        「その後の事が気になるのですか?」所長が俺に訊ねた。


        「まあ・・・そうです。」


        「相談者のその後は、私達には分かりませんからねぇ。でも、気になるのはいい事ですよ。誰か一人でも多く、ここを訪れた人を案じるのは悪い事ではありません。」

        自殺相談所 35 相手の気持ち

        Posted by 碧井 漪 on  

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        モグモグモグ、出汁の味とほのかな甘さに塩味。お師匠様の出汁巻き玉子は絶品だ。料亭で出せる、なんて、料亭に行った事はないけれど、そんな風に思った。


        その時、ガチャッ、後ろでドアの開く音がした。


        振り向いて見ると、ネコがドアを閉めている所だった。


        今日、来ているのは、俺と所長とお師匠様の他、ネコとウサギとイヌ。


        レスラーは来ていない。

        自殺相談所 36 相談者

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        九月半ば、まだ暑い昼下がり。


        冷房は効いていて、快適である筈なのに、体の内側に籠った熱は逃げず、食べる度上がるような気もした。


        モグモグモグ、

        一人分の量は十分食べた頃、お師匠様に改めて注がれた冷たいお茶をぐいと飲んで、そろそろだと立ち上がろうとした時、俺より少し前に箸を置いたネコが先に立ち上がった。


        椅子に腰を下ろしている所長とお師匠様が、立ち上がったネコの顔を揃って見上げた。



        「まだもう少し良いのでは?」と所長が言うと、

        「ウサギちゃんと交替して来ます。」ネコは答えて、使っていない机の上に置いた頭を両手で持った。


        ウサギって、あの受付というか案内役の?そう言えば来てない。

        自殺相談所  38 要らない人

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        「しばらくここで待機しましょう。私はトイレに行って来ます。冷蔵庫に麦茶がありますから、ご自由にどうぞ。」と所長は、裏の扉を開けて事務所から出て行ってしまった。


        窓の外から、小さくジーと蝉の声も聞こえるだけの、静かな午後の雑居ビルの一室。


        ここに居たいと言ったけれど、一人になった途端、何だか急に、どうしたら良いものか分からなくなってしまう。


        俺はここに居てもいいと所長に許可を貰ったけれど、それはここに俺が必要と言う訳だからではなく、どちらでもいい、或いは居なくてもいいと言う事。

        ここの仕事には給料は発生しない。ボランティアだからここにずっと居なくてはならないという義務もない。

        自殺相談所。

        ここの事を調べて、記事にしようなんて考えて居たけれど、それはもういい──幾人かの人生を見て、様々な生き方がある事を学んだ今、もう一度、自分の命を生き方を考えてみたくなった。



        自殺相談所 39 要請

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        その日は、日が暮れるまで居ても結局、その後は相談者は現れず、居る意味があったんだろうかと肩を落としてしまうと、

        「お疲れ様でした。帰って、ゆっくり休んで下さいね。」と所長がやさしい言葉で労(ねぎら)ってくれた。

        大した事はしていない俺は、何だか恥ずかしくなって「いいえ、疲れてません。お役に立てなくて───」と言った所で、事務所の扉がバーンと開いた。

        「ねーねー、田中っち、新しい子入ったんだって?どの子?」

        入って来たのは、三、四十代位の男性。短く刈った清潔感のある髪に、白いTシャツ、下は黒いパンツに濃紺の丈の長い前掛けを着け、形の悪くない額には、細く畳んだバンダナを巻いて居る。

        自殺相談所 40 要領

        Posted by 碧井 漪 on  

        開店前の居酒屋の厨房に初めて入った俺に向かって、ウチマキダはこれはこっちでそれはそっち、あれはああだけど、まだ分かんないだろうからいいやと説明を始めた。

        俺は一応頷きながら、だけど半分も理解出来ていないと自分でも思っていた。

        何事も半端な俺に務まる訳がない。迷惑掛ける前に断って帰ろう─────と口を開き掛けた時・・・

        「基本、単純作業だから簡単だろ?ま、やってみて分からない事あったらジャンジャン訊いて。それじゃあここ、頼むな?リョータ!」

        そう言い放ったウチマキダに、背中をバーンと叩かれた俺は、その後、ぽつんと一人、厨房に残された。

        どうするんだ?俺・・・とにかく、とウチマキダに言われた事を指差し確認。

        「ええっと、ここはこうであそこは・・・うーん、大丈夫かな、俺。」

        何があるって?不安しかない。

        自殺相談所 41 要点

        Posted by 碧井 漪 on  

        「何でしょうか?」

        厨房奥の扉の先、居酒屋の事務所らしき所へ連れて来られた俺は、机の上の手提げ金庫に向かってゴソゴソしているウチマキダに訊いた。

        ─────まさか、売上金が合わないからと、俺が疑われている?でも、俺はずっと裏で洗い物やごみの片付けをしていたから、店のレジには近付いていない。

        不安になりながらも、ウチマキダがすでに前掛けを外している事に気付いたので、俺もと前掛けの紐に手を掛けたその時、

        「はい、これ。今夜の分。お疲れ様でした。」振り向いたウチマキダは満面の笑みで俺に向かって茶封筒を差し出した。

        「えっ?」

        「えっ?て何。給料。要らないの?」

        「いえ、あの、てっきり・・・」

        自殺相談所 42 要務

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        初給料は母親に渡そうとした。

        しかし断られ、父親には自殺相談所へ毎日通っている事も、アルバイトの事も、何一つ話せずにいた。

        父親も俺に何も言って来ない。

        関心が無くなったのだろうと思う。

        突然病気になって大学を中退し、定職に就けず、親のすねをかじったままの息子には。



        自殺相談所 43 要所

        Posted by 碧井 漪 on  

        「今日も遅くなるの?」と訊く母親に

        「今日は早いと思う。」と答えた。

        家族がみんな出掛け、家に一人になった後、戸締まりをして出掛ける。

        今まではほぼ家に居て一日を終えて居たから、外に出るというのは、自分にとっても、これまでの俺の暮らしを見守って居てくれた母にとっても、大きな一歩になった。

        当たり前が当たり前に出来なくなった事を思い知らされた瞬間の衝撃は、未だに心の隅に残って居る。

        忘れたくない訳ではない。忘れてはいけない事だと思う。

        自殺相談所 44 休暇

        Posted by 碧井 漪 on  

        エレベーターの階数がこのままという事は、彼は自殺相談所に行くつもりなのか。

        俺と同い年位の、一見何の悩みもなさそうな青年・・・って、何の悩みもない人間など居ないか。

        ここへ来る前の俺は、自分ばっかり悩んで、自分ばっかり苦しくてという考えがどこかにあった。

        けれど今の俺は、どんな人にも悩みはあり、それと上手く付きあって行けるか行けないかの差で、自殺を考えたり考えなかったりなのだと分かっていた。

        彼もまた、何かしらの悩みを抱え、この自殺相談所へ来た一人。

        何が苦しいのだろう。もしそれを打ち明けて、彼の心が軽くなるなら、そうして欲しいと強く願った。

        自殺相談所 45 休養

        Posted by 碧井 漪 on  

        所長が休んだ翌日、俺は休んだ理由を訊いてみると、

        「歯医者です。急に痛み出してしまいましてね、ご心配をお掛けしました。」と朗らかに言われ、

        それが嘘であるかもしれないとも思いながら、「お大事に。」としか言えなかった。

        それから数日経ったある日、俺も休みを貰う事になった。

        希望してはいない、所長命令での休養だった。

        自殺相談所 46 休日

        Posted by 碧井 漪 on  

        ニュースになっている人身事故の人は、俺の知り合った彼ではない。

        そう思おうとした。

        けれど何故か、そうかもしれないという思いは消えず、胸の中に靄(もや)が広がる。

        死んだら終わりなのに。

        それは思う。いい意味でも悪い意味でも。

        自殺相談所 47 休職中

        Posted by 碧井 漪 on  

        「あのー・・・」彼と俺は同時に切り出した。

        「あ、どうぞどうぞ。」俺が言うと、

        「あ、いえいえ、どうぞ。」と彼も言った。

        いい人そうと判断するのは早いと思うけれど、それでも感じた。

        彼は"いい人"だろうと。

        話したらきっと、俺と似て居る所を一つ二つ見つけられるかもしれない。

        「良かったら、少し話しませんか?」他人に対してこんな風に話し掛けたのは初めての事だった。

        「あ・・・えっと、どこで?」彼は戸惑って居たが、嫌そうには見えず、少しホッとしながら、俺はどこか話せそうな場所を探した。

        自殺相談所 48 失言

        Posted by 碧井 漪 on  

        俺はタケノウチくんの顔を見た。彼もそれに気付いた時、俺は黙って頷いた。

        彼は再び口を開いた。

        「辛いから行かないのって逃げてるだけで何も進まないってのは分かってるいるんだけど、どうしても足が動かなくて。」

        そういう時は誰にでもある。俺は歩道橋の手摺りをぼんやり見ながら首を縦に二度動かした。

        その後、彼は黙った。俺がもう一度彼を見ると、

        『どうしたらいいんだろう』と訊きたそうな顔に見えた。

        迂闊な事は言えないと思いつつも俺は、

        「行かなくていいと思う。行きたくなったら行けばいい。」

        無責任とも取られそうな言葉を吐いてしまった。

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