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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

風邪みたいに移して 【「乙女ですって」派生編プロローグ】

Posted by 碧井 漪 on   0 

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    高校時代、友達に

    初恋はいつか?と訊かれた時、答えられなかった

    初恋ってどんなもの?


    キスってした事ある?って訊かれて、

    あれもキスになるのかな?って

    今更考えたら、

    初恋に結びつくかもしれない淡く抱いたままの気持ちに気が付いた



    初恋という感情に気付けなかったのは、

    今もその初恋の中にいるからだという事が判ってしまった



    てっちゃんは

    いつも一緒に居るだけで気分が良くなって

    毎日

    そのやさしく見守ってくれているような笑顔を見ていたい人



    さくらんぼの味のキャンディーを、

    どうしてもいつも最後に残った一個を食べてしまったてっちゃんが、

    えーんと泣いて悔しがる私に気付いて

    「これ、あげるよ」と

    てっちゃんは口に入れてぬるくなったキャンディーを

    私の口に移してくれた



    初めて貰ったのは確か幼稚園に入ったばかりの年中の夏頃、

    小学校に入る前の春頃にはされなくなったキャンディーのやり取り

    今はされない事が寂しいというより悔しいに近い

    風邪みたいに

    てっちゃんの熱を口から移して欲しくなる



    積み重なって解けるとき 1 【100話からの恋物語 「乙女ですって(R-18)」溪編】

    Posted by 碧井 漪 on   2 

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      溪ちゃんの部屋でミルクココアを飲み終えた俺は、22時過ぎ、

      「良かったら俺、このまま泊まって行こうか?」

      と言った後で、快くない空気が、一瞬で煙みたいにモクモクと立ち込めた・・・ように感じた。


      見開いた目を俺に向けた彼女の表情が険しかったから、そう感じられた。


      チクタクチクタク、時計の秒針の音がまるで俺を刺して来るかのように責めて来る。


      ああ、俺、やっちゃった。彼女に「不審」がられているかも、いや、「不信」を買っている・・・。


      風邪みたいに移して 1 【「乙女ですって(R-18)」 派生・公子編】

      Posted by 碧井 漪 on   0 

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        空気と同じ。


        あなたが居ても居なくても。


        でもね、空気と同じだったら、

        あなたが居なくなったら死んじゃうの。


        息が苦しくて、欲しくなって、

        恋とか愛とかそれと同じか知らないけれど、

        私にはあなたが必要だって、それだけは解るの。


        私はあなたに必要とされる人間になりたい。


        毎日毎日、精一杯頑張るから、

        要らないって言わないで。



        風邪みたいに移して 2

        Posted by 碧井 漪 on   0 

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          クビ・・・って、本当に私がこのお店を辞めさせられちゃうの?


          私はてっちゃんの顔を見た。


          「吉夜、それは困る。きみちゃんが居なかったら昼間の接客が」「今は殆んど常連しか来ないから、哲が表に顔出しても平気だよ。俺だって夜だけだけど、手伝える日は手伝ってるだろ?」


          そう、私が雇われている唯一で最大の理由。


          それはてっちゃんの見た目が、若い女性客に気持ち悪がられた事があったから。


          てっちゃんは常連以外のお客さんが来ると、裏に引っ込んだまま出て来ない。


          その間の接客やレジは全部私が引き受けている。


          てっちゃんの良さも解らない人なんて、てっちゃんの淹れたコーヒーを飲む資格はないから帰れ!って言いたくなるけど、そんな事したら本当にクビになってしまう。


          風邪みたいに移して 3 (「乙女ですって」123話の後)

          Posted by 碧井 漪 on   2 

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            てっちゃんがダイエットを始めて、明日で20日になるという1月29日木曜日の夜21時半過ぎ。


            自宅二階の自室の窓から、お店の前の道路を眺めていた。


            21時に吉夜と町内を一周、お店の前から走りに行くてっちゃんは、最初の頃は一時間かかっていたけれど、今は40分前後で戻って来る。


            50日で25キロ減量するというのは無謀な挑戦だと思っていた。


            だって、10日で5キロ、1日0.5キロのお肉を確実に落として行かなくちゃならないって、結構キツいと思うのよ。


            私だってダイエット経験あるから解るけど、最初の頃は週2~3キロは簡単に落ちる、けど、油断したら簡単に戻る。


            食事制限に加えて、運動。それも仕事の後。


            朝に走りたいと思うけど、お店があるからと、夜にジョギングする事にしたてっちゃん。


            戻って来てお風呂に入ったらすぐに眠ってしまえる程だと話していた。


            私に手伝える事は・・・


            積み重なって解けるとき 2 (R-18)

            Posted by 碧井 漪 on   0 

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              23の頃から五年以上片想いしていた人と恋人同士になれて嬉しかった。


              でも・・・交際を始めて一か月が経過した今は、どうしてよいのか解らなくなっている。


              彼に会えない時は会いたいと思っているのに、いざ会うと怖くなってしまう。それも、昼間はいいけれど、夜。


              怖い理由を考えてみると、

              嫌われたくない、

              触られたくない、でも離れたくはない・・・

              自分でもよくわからない、複雑過ぎる心を持て余している。



              積み重なって解けるとき 3

              Posted by 碧井 漪 on   0 

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                加集は引き攣った。


                溪にアダルトなDVDを観ていた事をうっかり知られて、別れを切り出されてしまったからだ。


                どうしよう、どうしよう、俺、やっちゃった。


                まさかデッキの下にあのDVDが入り込んでいたなんて気付かなかった。


                あああ・・・誘惑に負けて先輩のコレクションを観てしまったからバチが当たったんだ。


                彼女がいるのに、他の女のビデオで抜くなんて、許せないに決まってる。


                俺が女だったら、平手打ちして、アレを蹴って痛めつけてやりたくはないが、やってしまうかもしれない。


                それで許してくれるなら、お安い御用。悶絶する痛みに耐えるから、どうか別れるなんて言わないで!



                積み重なって解けるとき 4

                Posted by 碧井 漪 on   0 

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                  二月最初の日は日曜日だった。


                  昨夜、土曜日の夜、加集さんからの電話に気付いたのは23時になる前。


                  その時考えたのは、翌日は日曜日だから会社はお休みだし、加集さんはまだ起きているかもしれない・・・と思った。


                  けれども、昨夜は電話出来なかった。


                  もしも私からの電話を待っているとしたら・・・嬉しいけれど、でも、それはいけない事だと思った。


                  今まで、彼に期待させていた私がいけない・・・


                  積み重なって解けるとき 5

                  Posted by 碧井 漪 on   0 

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                    「・・・頂こう?」


                    加集がそうっと、という感じで言った。


                    「・・・・・・」溪は口を閉ざしたまま。


                    「いただきます。」


                    カシャン、加集がデザート皿にスプーンを当てた後、メレンゲ部分とソースを一緒に一匙掬った。


                    溪は加集がお菓子を食べる様子を黙って見ていた。


                    「うん、甘過ぎなくて美味しいね。丁度いい感じ。」


                    “丁度いい”と加集の口から聞いた溪は何だか嬉しくなって、重かった気持ちがすっと軽くなって行った。


                    私も・・・と溪も、飴の糸冠の下の白いメレンゲとクリーム色のソースを一匙掬って口に運んだ。


                    積み重なって解けるとき 6

                    Posted by 碧井 漪 on   0 

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                      溪が加集に別れを告げた翌日の月曜日、正午過ぎ。


                      由佳は溪の姿を探しながら、日替わり定食のトレーを持って、一人で食堂内を歩いていた。


                      いつも菜津子が座っていた隅のテーブルに、加集の姿を見つけた由佳は、そちらに向かって通路を歩いた。


                      「お疲れさまです、加集さん。溪は?」


                      「・・・さぁ?」由佳に聞かれた加集は、今日はたった一人だけで座り、箸を進めながら素っ気ない返事を返した。


                      由佳が定食のトレーを同じテーブルに下ろした。


                      積み重なって解けるとき 7

                      Posted by 碧井 漪 on   0 

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                        寺沢が交換したという新たな鍵を貰った日の夜、溪は五日ぶりにアパートの自分の部屋へ戻った。


                        新しい鍵を挿し、回すと、カチャンと軽い音がした。


                        中に入って部屋の灯かりを点けると、暖房は点けずに窓を開けて換気をする。


                        冷蔵庫の中身は、普段から傷むような食品が入っていない為、全く問題なかった。


                        溪の部屋は、以前よりもすっきりしていた。


                        そして溪は、部屋の隅に置いてある紙袋の前に正座した。


                        それは以前、加集が溪の部屋を片付けた時に、数ある紙袋を詰め込んでいっぱいになっている紙袋だった。


                        積み重なって解けるとき 8

                        Posted by 碧井 漪 on   0 

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                          お昼の時刻になる一時間ほど前、一階の受付に由佳が走って訪ねて来た。


                          「はあっ、はあっ、溪・・・あんた、今日のお昼、空け、といて・・・外で、食べるわよ、いい?りいなちゃん、ごめんね、お先に溪、お昼行ってもオッケー?」


                          息を切らしながらでも有無を言わせぬ由佳の様子に、私は何の話か予想が付いた。


                          「はい、私は構いませんけれど・・・」りいなが溪を気にしながら、由佳に返事をした。


                          「溪、いい?」


                          「由佳・・・うん、いいわ。」


                          「じゃ、じゃあ、急いで戻るわ。トイレ長いと思われちゃう。」


                          エレベーターへ向かって走りながら、由佳は頭上でヒラヒラと手を振った。


                          積み重なって解けるとき 9

                          Posted by 碧井 漪 on   0 

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                            総務部内で、加集と溪は特に接近する事なく、週が明けた。


                            二月九日月曜日。


                            加集が同じ広報部に異動して来た時に、周囲に色々な事を訊かれるかもしれないと恐れていた溪だったが、誰にも何にも訊ねられずに済み、それを不思議に感じながらも、騒がれないに越した事はないと、業務中は普段通り過ごしていた。


                            溪は知らなかったが、周囲が静かに思えたのには訳があった。


                            それは由佳が、加集と溪が破局したという噂を喧嘩中だという事に、すぐすり替えていたからだった。


                            加集はそれを塩谷から聞かされて異動初日に知っていたが、溪は全く知らずに過ごしていた。


                            月曜日の終業間際、溪が加集とは喧嘩中だという話の真相を、受付にいた溪は、りいなの目の前で塩谷に訊ねられた。



                            積み重なって解けるとき 10

                            Posted by 碧井 漪 on   2 

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                              加集と別れる事になった経緯を、溪は全て菜津子に打ち明けた。


                              そして浮気しているとされる寺沢との関係も、訊かれてはいなかったが、菜津子には知っていて欲しくなって、溪はそれも話した。


                              何を言うでもなく、落ち着いた様子で聞いていた菜津子に視線を向けると、目が合った。


                              居た堪れなさを感じた溪は「会社を辞めた方がいいでしょうか?」と菜津子に投げかけてしまった。


                              「加集さん以外のご事情がおありでしたら、辞められてもよろしいかと思います。」


                              「それは、どうしてですか?」



                              積み重なって解けるとき 11

                              Posted by 碧井 漪 on   0 

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                                塩谷に訊かれた溪は、首を横に振っていた。


                                「そうですか。では私が・・・」


                                「・・・申し訳ありません。」


                                気を利かせてくれたと判る塩谷の申し出を断る事しか出来なかった溪は、会社を後にした。


                                迷いながらも、菜津子に約束した”別れの理由を加集に告げる”為に、加集の部屋へと向かった。


                                当然ながら、加集はまだ会社に居て、部屋へ戻って来るのは何時になるのか溪にもわからない。


                                塩谷さんに言われた荷物を届ける事も出来なかった私が、加集さんと顔を合わせて、別れを申し出た本当の理由を告げられるの?と、溪の気持ちはグラグラ揺れて、少しも落ち着かなかった。


                                震えの止まらない足と言い様のない不安が溪の頭の中を悪い想像で埋め尽くし、溪を追い詰めて行く。


                                積み重なって解けるとき 12

                                Posted by 碧井 漪 on   0 

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                                  シャワーを浴び、寝る支度を整えた溪は、パジャマの上に毛糸のカーディガンを羽織り、ルームシューズを履いた足で哲の部屋のドアの前に立った。


                                  コンコン。


                                  溪がノックすると、部屋の内側に向かって扉が開いた。


                                  「どうぞ。」


                                  「お邪魔します。」


                                  哲の部屋に入ると、天井のシーリングライトは消されていて薄暗く、代わりに灯されたいくつものキャンドルが、暖かそうに見える光を放っていた。


                                  私の好きなフリージアに似た甘い香りが漂っている。


                                  円いクッションがラグの上に敷かれ、ローテーブル中央には大きなガラスボールが置いてあった。


                                  ガラスボールの中には水が張られ、ブルーと透明なビー玉がいくつも沈められている。


                                  水面には小さな炎を灯(とも)したフローティングキャンドルがゆらゆらと二つ、付かず離れず浮かんでいた。


                                  甘い香りはどこから?と、ぼんやりした明るさの哲の部屋の中を見回してみたが、フリージアの花はどこにもなかった。


                                  もしかすると、花のような香りがするのはキャンドルからかもしれない、と溪は哲が机の上にあるコップ状の透明なキャンドルスタンド三つを、窓辺やラックの上に移動した事からそう考えた。





                                  積み重なって解けるとき 13

                                  Posted by 碧井 漪 on   0 

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                                    翌朝、両親と溪を会社へと送り出した哲は、朝の家事の傍ら、保険証券のしまってある一階リビングの戸棚を開いた。


                                    哲は整頓された中から、保険会社のロゴの入った黒いファイルを引っ張り出した。


                                    生命保険の保険証券は家族全員分入っている、だけどこのファイルに哲の目的の物は入れられていなかった。


                                    こっちかな?


                                    もう一冊、隣にあったタイトルのない市販のブルーファイルを取り出して開いてみると、透明なビニールポケットに、保険金請求の手順と書かれた用紙、そして複写紙のお客様控えと病院の領収書と診断書のコピーが収まっていた。


                                    「これだ・・・!」


                                    溪が大学在学時に入院した時の領収証と診断書。


                                    母が生命保険の入院給付金を請求していた事を思い出した哲は、何か書類が残っていないかと思い、探したらこんなにも簡単に見つかった事に自分でも驚いてしまった。


                                    「綿雪溪さま入院治療計画書、診断書に領収証・・・そうか、それでゆうべあんな事を言って・・・」


                                    溪が入院したのは婦人科だったので、哲は病室までお見舞いに行ったのは、一回か二回だったと記憶していた。


                                    積み重なって解けるとき 14

                                    Posted by 碧井 漪 on   2 

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                                      加集を忘れると決意した溪は、23時過ぎ、ベッドに潜ると灯かりを消した。


                                      眠れない・・・


                                      溪はベッドから起き出してカーディガンを羽織った。


                                      裸足にルームシューズを履き、通勤バッグを開けると、中から手帳とお守り代わりにしている加集に貰ったハンカチを取り出した。


                                      それを持った溪は二階から一階に下りた。


                                      手帳もハンカチも、溪の決意が翻らないよう、今すぐに庭で燃やしてしまいたい気分だったが、夜中、昼間に関わらず、住宅密集地に建つ家の狭い庭で、実際に何かを燃やすなど簡単に出来るものではないと溪も分かっている。


                                      両親も哲も寝静まって静かだったリビングで、溪は灯かりを点けずに、テレビを点けた。


                                      ソファーに座ってしばらく見ていたニュースも終わり、深夜のバラエティー番組になると、それを流しながら、溪はキッチンで何かを探していた。


                                      「ないなぁ・・・」


                                      「何を探してるの?」



                                      雨のち晴れた日に 1 新しいうたを (「乙女ですって」真琴編)

                                      Posted by 碧井 漪 on   0 

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                                        五感で好きなのは"聞く"こと。


                                        生きる上で何が必要かって?


                                        俺にとっては生まれついた時から、音楽だった気がしている。


                                        目を閉じて心を澄ますと、自然にメロディーが溢れるように湧いて来て、ワクワクする時間が始まった。


                                        けれど今は音楽をやめて、そんな時間があった事さえ思い出さないようにしていた。


                                        なのに・・・胸の芯に火が点いてじんわりとした熱の心地良さを思い出させられたら、耳を塞いで、とうに失くしたと思ったメロディーが鮮やかに蘇り、体の中を血と共に駆け巡る。


                                        そして、俺の体の中から溢れ出しそうなこの音を、発生源のお前に聞かせてやりたくなる。


                                        こんな俺を「好き」だと言う、ちょっとおかしなお前に。


                                        聞かせたら、歌って欲しくなるかもしれない。


                                        お前の明るい声を、ずっと聞かせてくれるなら、弾くのをやめたギターを弾いてみてもいいなんて、バカな考えが止められない。


                                        思い浮かべた旋律を、心の中に響いてる声は今一番そばにいて貰いたい人のもの。


                                        寂しいと素直に口に出来なかった俺のそばに居てよ。


                                        新たに生まれたメロディーを歌い続けて欲しい、いつまでもお前に、俺の隣で、ずっとずっと、ずーっと・・・・・・







                                        2月14日、土曜の朝。


                                        変な夢を見てしまって起きる。


                                        煎餅布団から立ち上がると、真っ先にカーテンを開けた。


                                        そして現れた薄いレースのカーテンの向こうの窓には、結露防止と断熱効果を期待した、通称プチプチと呼ばれるエアパッキンが貼られ、外の景色は窓を開けないと見えなかった。


                                        ぶるるっ、日が昇ってても寒い。


                                        ハックション!とくしゃみをした真琴は、アラーム音が鳴る1分前の目覚まし時計を手に取ると、ボタンを押した。


                                        7時か、そろそろ母ちゃん出掛ける時間だ。


                                        真琴はクラブの仕事から帰宅すると大体2時半頃に就寝して、6時半~7時頃、母親がパートに出かける頃に起きる。


                                        クラブの仕事のない週一日だけは、母親に代わって父の隣で眠ったりもするが、普段は母親が夜中の介助をする。


                                        最近は、父親の足腰が弱って来ているので、以前のように頻繁に起き出して台所を掻き回したりとかそういった事も無くなって、多少楽にはなっていた。


                                        性能の良い紙おむつにしてから、夜中の交換も減ったし、以前よりはいいと母ちゃんも言ってた。


                                        ふー・・・、さてと。


                                        着替えよっと。


                                        っていっても、この黒い安っぽっちいジャージ上下を着るだけだけどな。


                                        綿のジジシャツに保温効果のあるポリエステルシャツ、保温ステテコにジャージズボンを穿いて寝ていたその上から、揃いの黒ジャージ上を羽織って袖を通し、ジッパーを鎖骨まで上げた。


                                        寒いから本当なら首まで包んでしまいたいところだが、親父がその着方を嫌うし、首を動かす度、プラスチックファスナーの端が顎に擦れるのも煩わしいので、学生みたいで若干嫌だが、襟を折っている。


                                        靴下は、寝る時は履くなと言われるが、あまりの寒さに履いて寝ている。


                                        靴下は、まぁどっちでもいい。


                                        夜中に何か非常事態が起きても外に出られる恰好がとにかく基本だから。


                                        地震、雷、火事、親父・・・って、そんな感じ。


                                        真琴は押入れを開け、畳んだ布団を上段のスペースに押し込んだ。








                                        一階でベッドでおとなしくしている父親を見ながら、真琴は掃除機をかけ終えて、

                                        陽が照って来たので、洗濯機の前にあった満杯の洗濯籠を持つと、狭苦しくて庭とは大声で呼びにくいスペースに出た。


                                        物干し台の前で、洗濯物の皺を伸ばして竿に干し、洗濯ばさみで留めて行く。


                                        冬は陽の光が弱々しいけれど、乾燥しているから乾きは悪くない。


                                        今日は少し風があるから、乾いたらすぐ取り込もう。


                                        今は日なたでも正午過ぎには日陰になる狭い場所。


                                        でもここは、明日になったら、また日なたになる。


                                        俺みたいに、日陰に入ったまま、二度と燻りもせず消えていく煙草の燃えかすみたいよりまだいいな。


                                        こんな俺みたいな、日陰者が生きて行くのに必要なのは、体力と金だ。


                                        しかし体力は年々衰える。どんなに自信があっても、年齢には逆らえない。


                                        働けるうちに働いて、金を貯められる内に貯めておかないと、

                                        誰かからあてにされるようになる日が来るかもしれないが、

                                        俺自身は誰もあてに出来ない。


                                        そんな時に俺の力になってくれるのは金のみだとわかっている。


                                        家族だって先に死んで・・・

                                        逆に俺より両親が後に死ぬというのなら、なおさら金は要る。



                                        金をくれる人は金をくれない人よりいい人。


                                        ご祝儀だって一万と三万じゃ気持ちまで違う感じがしてしまうだろう?


                                        実際は心の底からおめでとうと祝ってくれていたとしても金額に反映されない、それは金がないから。


                                        或いは大して思ってない、軽く見てるかもしれないと邪推する。


                                        だけど沢山包まれていたら、貰った側は目を眩ませて相手の真意なんて考えずにただ喜ぶ。


                                        金にものをいわせる。


                                        金の力は怖い。


                                        体力の衰えた人間に必要になる武器のような金。


                                        何もないからせめて金を持っていようと考えて毎日あくせく働いても、そうそう金は貯まらない。


                                        雨のように空から降って来い。



                                        そんな想像をして上を向く夢も希望も無くなった俺の前に、

                                        前ばかり向いて、そのまま真っ直ぐ直進で、

                                        俺に向かって突き進んで体当たりして来た女が、

                                        今日もまたやって来て、目の前に立っている――――





                                        積み重なって解けるとき 15

                                        Posted by 碧井 漪 on   2 

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                                          溪は会社最寄り駅に着いた。


                                          改札口を通り抜けると、会社に向かうのとは反対の商店街の方へ向かって歩き出す。


                                          一歩一歩踏みしめるようにし、震える膝を見ないように顔をずっと上げていた。


                                          時刻は10時を過ぎ、土曜午前の商店街、殆どの店は開いていた。


                                          この商店街に洋菓子店がある事を知っていた溪は、駅デパートの地下に寄らず、加集の好きな商店街でチョコレートを買おうと決めていた。


                                          アイビー洋菓子店、まだチョコレートは売り切れていないかしら?


                                          溪が昨年まで用意していたチョコレートは、日本に出店した海外のショコラ専門店のものだった。


                                          積み重なって解けるとき 16

                                          Posted by 碧井 漪 on   0 

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                                            溪は、菜津子と病院から戻った13時半過ぎから3時間近く加集の部屋の前にしゃがみ込んで待ち続けていた。


                                            16時半頃、溪の電話が着信を知らせた。


                                            相手は『美樹』、同い年の女性で、大学時代は親しくした事もあったが、溪の病気と前後して疎遠になった人だった。


                                            大学を卒業してから、一度も電話のかかって来なかった、まだ友人と呼べるのか疑問符の付く人。


                                            名字は確か『林』さん・・・電話を受けた場合、「林さん」と呼んだ方がいいのかしら?


                                            電話に出るか迷った溪だったが、疎遠になってまで電話をかけて来るのは、余程の用事か、或いは、毎回欠席している同窓会の件か、もしくは間違って発信してしまったという事もある。


                                            その内のどれかだろうと予想して、液晶画面に表示された応答の文字をタップした。


                                            「は、い・・・」おそるおそる返事をすると、


                                            積み重なって解けるとき 17

                                            Posted by 碧井 漪 on   0 

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                                              加集さんはゆうべ僕にかけて来た電話で、今日の午後、コーヒーを飲みに店に来ると言っていた。


                                              その前に姉ちゃんに電話を代わってと言われたけれど、その時姉ちゃんは部屋に籠って電話を代われそうな状態じゃなさそうだったから、代われず・・・つまり、加集さんはコーヒーを飲みたいんじゃなく、姉ちゃんに会いに来たいんだと分かった。


                                              引越しの手伝いの為に店を臨時休業しようかと考えてもいたから、店を開けていなければならない状態で、引越しの話をしたら吉夜が車を借りて来てくれるといい、父も休みだからと手伝いに行ってくれる事になった。


                                              それを知ったきみちゃんも、店番をきみちゃんのお母さんと一緒に引き受けてくれて、僕も引越しを手伝い、急いで終わらせて、あとは店で姉ちゃんを加集さんと引き合わせるだけだと思っていたのに、


                                              それを戻る前に姉ちゃんに知られてしまうとは・・・


                                              風邪みたいに移して 4 (微BL)

                                              Posted by 碧井 漪 on   2 

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                                                片想い中の乙女にとって、年に一度の大切なイベント、バレンタインデーがやって来る。


                                                付き合っている恋人同士なら、お互いの誕生日やクリスマスに想いを確かめ合うのだろうが、


                                                片想い中の私にとって今重要なのは、明日、2月14日のバレンタインデーだった。


                                                2月13日金曜日、公子の自宅のキッチンの灯かりが消えたの深夜25時頃、つまり、バレンタインデー当日2月14日土曜日の午前1時を迎えてしまった。


                                                ギリギリになってしまったのには訳があった。


                                                風邪みたいに移して 5

                                                Posted by 碧井 漪 on   0 

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                                                  ダイエット中のてっちゃんが、カゼキチにお菓子を作るのを禁じられて一か月。


                                                  公子が哲の為に手作りするのは毎年バレンタインデー。それ以外、クリスマスのお菓子はお店で一緒に作り、ホワイトデーのお菓子は哲一人で作る。


                                                  クッキー、キャラメル、マシュマロ、ホワイトチョコ・・・毎年、前年と違うものをくれる。


                                                  今年はどうするのかな・・・作っちゃだめって、言われてるから。


                                                  私の為ならと作ってはくれそうだけど、それをてっちゃんの前で一人で食べるのは嫌。


                                                  毎年一緒に食べてくれる時間が楽しいのに。


                                                  風邪みたいに移して 6

                                                  Posted by 碧井 漪 on   0 

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                                                    「な、何でもないっ!」と公子が厨房調理台下の冷蔵庫の前にしゃがみ込んで、背中で隠すようにしたのが逆効果だった。


                                                    「今、何隠した。出せ。」


                                                    調理台を回って来たカゼキチは、冷蔵庫扉の前にしゃがみ込んだ私の右腕を掴んだ。


                                                    「やっ!いたっ、やめて・・・っ!」抵抗したけど、無駄だった。


                                                    私をなんなくどかしたカゼキチに、見つかってしまった、冷蔵庫の中に隠した箱が。


                                                    かくして、てっちゃんの為のガトーショコラは、顔を顰めたカゼキチの前に晒された。


                                                    「このケーキって、もしかして・・・」


                                                    風邪みたいに移して 7

                                                    Posted by 碧井 漪 on   0 

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                                                      コツン、私の鼻の頭に何か触れた。


                                                      ハッとして、瞑っていた目を開いたら、てっちゃんの両手が私の体から離れ、

                                                      「これ僕に作ってくれたの?ありがとう。毎年すごいね、きみちゃんは器用だよね。」と調理台の上の艶々ガトーショコラを、てっちゃんは体を屈め、顔を近付けてじーっと見始めた。


                                                      「やだ、そんな恥ずかしい、てっちゃんの方が器用だし、お菓子作るのも上手よ。」


                                                      「そんな事ないよ。きみちゃんのお菓子の方が美味しいよ。後で、一緒に食べよう?」


                                                      私を振り向いたてっちゃんの丸眼鏡の奥の目が細くなる。私の一番好きな顔。


                                                      「うん!」


                                                      大好き、てっちゃん。


                                                      今日も面と向かって言えないけれど、心の中では毎日叫んでいるからね。



                                                      風邪みたいに移して 8

                                                      Posted by 碧井 漪 on   0 

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                                                        14日の夜、いつもの時刻より遅れて、てっちゃんと吉夜は日課のジョギングに出発した。


                                                        いつも時間通りなのに、何かあったのかな?


                                                        一か月経過して、てっちゃんの体重は現在18キロ減、すごいでしょ、すごいよね?


                                                        これからあと一か月足らずでマイナス7キロって、無理・・・じゃなーい!


                                                        無理って思っちゃうと無理になる、絶対にいける、やれる、てっちゃんなら達成出来る!


                                                        ゼイゼイ、ハアハア、走ってもないのに興奮して息切れしちゃったわ。


                                                        私に出来る事は、こうして毎晩、二階の窓から見守る事くらいで・・・って、これは何もしてないのと同じよね。


                                                        うーん、しかも今日はチョコ渡して、困らせちゃった?し。


                                                        てっちゃんがダイエット成功したら、たとえテレビの企画で優勝出来なかったとしても、何かてっちゃんの欲しい物をプレゼントしよう。


                                                        何がいいかな?


                                                        うーん、その時訊いてみよう、てっちゃんの欲しい物。


                                                        風邪みたいに移して 9

                                                        Posted by 碧井 漪 on   0 

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                                                          「何それ、どういう意味?お母さん。」


                                                          「いつまでここにいるつもりかって訊いてるの。」


                                                          「・・・家を出ろって事?」


                                                          「そうは言ってないわよ。あなたもいい年なんだからそろそろお嫁に行くとか、他の勤め口に行くとか」「行かない。」


                                                          「行かないって、お母さんがあなたの年にはもう結婚」「だから?」


                                                          いつもそう。


                                                          お母さんは23歳で結婚して、25歳でお姉ちゃんを産んで私を30歳で産んだ、その話ばかり。


                                                          だから何?


                                                          私はお母さんと同じ年で子どもを産まなくちゃならない理由って何?って言いたくなるのを毎回我慢してる。


                                                          親と同じように生きられたらしあわせとでも思っているのかな?



                                                          風邪みたいに移して 10

                                                          Posted by 碧井 漪 on   4 

                                                          にほんブログ村 トラコミュ リアル・恋愛小説へ
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                                                            それから少しして、お店の厨房に戻って来たお母さんと交替でお昼を済ませた。

                                                            お天気は悪くないのに、今日は本当にお客さんの来ない日曜日の午後。

                                                            普段だったら、パラパラ来るのに、お客さんは、由木さんご夫妻だけだった。


                                                            カウンター内側の引き出し内を整頓しているお母さんに「こんなにお客さん来ないお店で潰れないの?」とか言われちゃったらおしまいのような気がして来て、目も合わせられないし、声も掛けずにいた。


                                                            それこそ「他にお勤めしなさい」と、バックにカゼキチをつけて説得されたら、言い返せなくなりそう。


                                                            この店の経営が苦しい事は知っているようで知らない。


                                                            てっちゃんは収支の帳簿を私には見せてくれない。


                                                            こっそり知りたくても無理だった。


                                                            それら全ては、てっちゃんのお部屋のデスクトップPCで管理しているって話だから。


                                                            私は大学を出て、このお店に勤めさせて貰って以来、てっちゃんのお部屋に入った事がない。


                                                            大学在学中は勉強を教えて貰ったりしてお邪魔したけれど、それでもお店の中で教えて貰う比率が高かった。




                                                            積み重なって解けるとき 19

                                                            Posted by 碧井 漪 on   0 

                                                            にほんブログ村 トラコミュ 長編小説、ノベルシリーズへ
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                                                              二月中旬の夜道の寒さは、素肌に突き刺さるように厳しく、溪の予想以上のものだった。


                                                              しかし、その寒気の刺激は走る内にだんだん感じなくなり、熱った体と苦しさを増す息の下で、溪は思い出したくなかった昔の記憶を蘇らせていた。





                                                              積み重なって解けるとき 20

                                                              Posted by 碧井 漪 on   0 

                                                              にほんブログ村 トラコミュ 恋愛小説(オリジナル)へ
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                                                                「はっ、はっ、哲、眼鏡無くても一人で店まで戻れるか・・・?」吉夜も哲と同じく、今走って来た道を振り向いた。


                                                                「行けるけど・・・吉夜?」哲は、どうするの?と訊ねる視線を吉夜の横顔に向けた時、


                                                                「哲はコース通り走って先にゴールしてて。俺が溪さんのとこ、戻る。」と吉夜は後ろに向かってゆっくり走り出した。


                                                                後方から、こちらに向かって走って来る小さな人影が、外灯の下を通る時だけ見える。


                                                                「僕が戻るよ。」哲はそう言ってみたが、吉夜の方が先にコースを戻って行っている。


                                                                「俺が行く。哲、眼鏡ないし、戻らないでこのまま行って。」吉夜は遠ざかりながら振り向き、同時に挙げた手で哲に向かって合図しながらそう叫んだ。



                                                                風邪みたいに移して 11 (続・微BL 「TとK」?)

                                                                Posted by 碧井 漪 on   0 

                                                                にほんブログ村 トラコミュ オリジナル小説発表へ
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                                                                  お風呂上がりのホカホカほわほわした体の私は、心地良い疲労感をお共に、ベッドの上にゴロンと転がった。


                                                                  軽くてあったかいフリース生地の真新しいパジャマは、少し早いけど、と中学時代からの友人が誕生日プレゼントに宅配便で送ってくれた物。


                                                                  ケーキとティーカップのプリントされたパジャマで、私がてっちゃんLOVEな事も知ってる友人は「仕事も恋もガンバレ!」とメッセージも付けてくれていた。


                                                                  「恋も、かぁ・・・」ふぅ、と溜め息を吐いた。


                                                                  今日、加集さんとお話していたら、てっちゃんと違うなって思った。


                                                                  私やお母さんの話した昔の溪ちゃんの事を聞いていた時の加集さんは真剣で、お母さんが「結婚」の話を振ると、照れ笑いしながらそうなったらいいなと話してくれて、溪ちゃんはいいなって羨ましく思えた。


                                                                  大好きな人に想って貰えて、結婚も・・・きっと真面目な加集さんとなら、溪ちゃんはしあわせな家庭を築ける、うんうん。


                                                                  風邪みたいに移して 12

                                                                  Posted by 碧井 漪 on   0 

                                                                  にほんブログ村 トラコミュ TL好き、ティーンズラブ好きvへ
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                                                                    公子は、洗面台の鏡の前で大きな溜め息を吐いた。


                                                                    それから出勤時刻ギリギリまで泣き腫らしてしまった目を何とかしようと、蒸しタオルで温めたり、氷水に浸けたタオルで冷やしたりを交互に繰り返した。


                                                                    多少、よくなったけど・・・メイクしてもあまり誤魔化せない。


                                                                    寝不足って嘘ついて、時間と共に腫れが引くのを気長に待つしかない。


                                                                    てっちゃん、気にするかな?


                                                                    ううん、しないで欲しい・・・だから私はお客さんが来るまでなるべく店の外にいよう。


                                                                    外では掃除以外する事ないけどね。どうしようかな。


                                                                    仕事休む、とか?・・・でもそれは今まで考えた事がなかった。


                                                                    私が店内で接客しなければ、てっちゃんはお店を閉めるというかもしれない。


                                                                    雨のち晴れた日に 2 奏でられない

                                                                    Posted by 碧井 漪 on   0 

                                                                    にほんブログ村 トラコミュ 創作倶楽部へ
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                                                                      「あ、真琴さん、誰か来たみたい。」


                                                                      「え・・・?」


                                                                      一体、誰だ?首を傾げながら玄関へ向かうと、外から、

                                                                      「原元さーん、おはよーございまーす。」聞き慣れた通所介護施設の20代後半男性スタッフの声が聞こえて来た。


                                                                      デイサービス?今日はない筈じゃあ・・・と思いながら出ると、「お父さん、お迎えに来ました。もう出られますでしょうか?」

                                                                      「え、あ、はい・・・だけど、今日・・・?」土曜日だよな?と真琴は下駄箱の上の壁に貼られたカレンダーを振り返った。


                                                                      「今週は水曜が祝日だったんで、定員の都合上、土曜日に振り替えさせて貰ったんですけど、あれ?この前お話しして、なかったでしょうか?」


                                                                      「あー、そっか、そう言えば忘れてました。すみません、すぐ、支度して出ます。」


                                                                      いつも通りの行動が染みついていて、たった一つの変更にも対応出来なくなっていた事を反省した。


                                                                      「ゆっくりでいいですよ。慌てないで。」


                                                                      「すみません。」


                                                                      俺より年下だが、落ち着いた雰囲気の彼を見ると、俺の方が子どものような気さえして来る。


                                                                      仕事とはいえ、どんな時でもニコニコした顔を崩さない点は、尊敬に値する。


                                                                      親父の支度をして送り出すと、計(はか)らずも、この家の中に由佳と二人きりになってしまった。


                                                                      これを『絶好の機会』というのかもしれないが、心の半分に、過去を曝け出す事を望んでない俺がいる。


                                                                      『絶好』と言いたくない状況。いや、でもさっき、今日こそ話すと決めたじゃないか。だから『絶好の機会』でいいんだ。両親の居ない今だからこそ、ゆっくり話せる。


                                                                      由佳と分担して家事を片付けると、当然だがいつもの半分の時間で終わり、まだ昼まで二時間以上あった。


                                                                      早く話せ、いやもう少し後で・・・いや、今だ・・・そんな事を考えていると口を開けず、黙ったままでは間が持たないので、「茶でも煎れるか」とだけ言えた俺を抑え、「私にやらせて」と由佳が台所に立った。


                                                                      俺が仕事に行った後の時間、会社帰りの由佳はここに寄っていたらしい。


                                                                      だから、やかんも急須も湯呑みも茶筒のある位置も全て把握していて、この古びた台所に母が居なくても一人で慣れた様子でサッサッと茶を煎れる由佳を、目の当たりにした俺は複雑な気持ちになり、また口を開き損ねた。


                                                                      台所の椅子に座ると、テーブルの上に由佳が持って来た、窓付きの四角いデコレーションケーキ箱があった。


                                                                      こんな洒落たものは、何年も見てないな。


                                                                      子どもの頃、誕生日になると親父が会社帰りにケーキを買って来たのを思い出した。


                                                                      「あんまり上手に出来なかったんだけど、良かったら食べて・・・」と、振り向いた由佳は、照れた視線をケーキの箱に落としながら、箱を開けて中身を取り出した。


                                                                      「ぷっ・・・!」俺は思わず噴き出した。


                                                                      それは、ぺちゃんこの真っ黒な丸い・・・「鍋敷きか?」


                                                                      「し、失礼ね!ガトーショコラよっ!チョコケーキ。」


                                                                      真っ赤な頬をぷうっと膨らませて、ジロリと俺を睨む由佳、ますますイジメたくなる面白い顔だ。


                                                                      「ただの真っ黒焦げに見えるけど?」


                                                                      「焦げてないのっ!ビターチョコの色!」


                                                                      「はいはい、そういう事にしておくよ。」


                                                                      「もー、白い粉砂糖でお化粧したのに、全部溶けちゃったみたい・・・」


                                                                      「白い粉、ねぇ・・・」シロイコナ・・・・・・


                                                                      「食べる?」由佳は、唇を右手で包み、ぼんやりした視線をケーキに向けたままの真琴に訊ねた。


                                                                      「うん・・・」微かに返事と取れる音を、真琴は、隠している唇の奥から漏らした。


                                                                      真琴さんは訊いているのかいないのか判らないけど・・・その為に持って来たんだから、と由佳はケーキを八等分に切り分けたのち、皿に載せると、緑茶を注いだ湯呑みと共に真琴の前に置いた。


                                                                      湯呑みから上がる白い湯気が、考え事をして固まる真琴の顔をぼかした。


                                                                      由佳は自分がここにいてもいいのか訊けずに、ただ真琴から発される言葉を待っていた。


                                                                      拒絶されたら終わり、なんだけど・・・もし別れる事になったら、それでも仕方ない、またクラブの客の一人として、真琴に会いに行こうと由佳は考えてもいた。








                                                                      雨のち晴れた日に 3 はじめから

                                                                      Posted by 碧井 漪 on   0 

                                                                      にほんブログ村 トラコミュ オリジナル小説発表へ
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                                                                        「別に・・・」ピアノが弾きたいとは言えなかった。女みたいだと、絶対に馬鹿にされると思った。


                                                                        俺をジロジロ見ていた虎太郎が俺のワイシャツの襟首を掴んで顔を近付けた。


                                                                        「なぁ、お前さあ、今ヒマ?」


                                                                        「え?」


                                                                        「ヒマなら来いよ。」


                                                                        俺はそのまま虎太郎にいつ鍵を開けたのか気付かなかった音楽室に連れ込まれた。


                                                                        「じゃ、お前これな?」と音楽準備室に置かれたスタンドから虎太郎が持ち上げて、いきなり俺に手渡したのは、スカイブルーの「これ何?」「エレキだよ。」「エレキ?」

                                                                        真琴が訊き返すと、一瞬呆れたような顔をして舌打ちした虎太郎は、

                                                                        「・・・ぎたあ。もしかして初めてか?」と真琴に訊きながら、ギターから手を離した。


                                                                        スチールの弦が六本張られたそれは、薄いボディーの見た目に反して重く、ずっしりしていて、真琴は落とさない様に両手で持った。




                                                                        雨のち晴れた日に 4 おわりまで 

                                                                        Posted by 碧井 漪 on   0 

                                                                        にほんブログ村 トラコミュ オリジナル小説発表へ
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                                                                          居間の隅に置かれた、どこにでもある茶色の古びたダンボール箱、横面の製品名が黒ペンで消されている理由は何だろう?


                                                                          ま、これからする俺の過去話には関係ないが。


                                                                          埃とカビ臭さに塗(まみ)れた箱の角は風化して、ボロボロになっていた。


                                                                          よっこらせ、と部屋の隅に鎮座していたそれを、二十年近い眠りから醒まそうと、俺は抱え上げ・・・られなかった。


                                                                          古くて厚みのないダンボール箱は案外ずっしりと重く、無理して持ち上げたら、頼りない底はたちまち抜けるんじゃないかと思えたからだ。


                                                                          畳の上を引き摺って、正座する由佳の前に持ってくのも、どこかカッコ付かなく思えたので、まずは俺が中を改めようと、テープを使わずに組まれていた箱の蓋を、一枚ずつ解(ほど)いた。


                                                                          中はスクラップブックや週刊誌がギッシリと詰められていた。


                                                                          それらを退(ど)かすと現れたのは、プラスチックのケースに入ったCD一枚と、シングルと呼ばれる短冊形の紙に覆われたケースに入っている8センチCD四枚だった。


                                                                          母ちゃん、取っといたのか・・・これ。





                                                                          雨のち晴れた日に 5 もういちど

                                                                          Posted by 碧井 漪 on   0 

                                                                          にほんブログ村 小説ブログへ
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                                                                            由佳は立ち上がると、俺の膝の上を跨いで腰を下ろした。


                                                                            そして、首の後ろに両手を回し、顔を近付け、キスでもしそうな距離で止めた。


                                                                            「好き。キスして。」


                                                                            「ば、馬鹿か?」年甲斐もなく、心拍数が跳ね上がる。


                                                                            「もー、さっきから、ばかばか言わないでよね。ムカッとする。」


                                                                            キスしろだって?こんな話を聞かされた後で、何故キスをねだる。


                                                                            由佳の唇に向けた俺の視線の先が肌色にぼやけた瞬間、唇にやわらかい感触を覚えた。


                                                                            俺の方からしてとねだっておきながら、結局、由佳の方からキスして来てる。


                                                                            こいつ・・・


                                                                            俺を昂ぶらせておいて、キス一つで宥められるとか、舐めてんのか?


                                                                            雨のち晴れた日に 6 いっしょに作ろう

                                                                            Posted by 碧井 漪 on   4 

                                                                            にほんブログ村 トラコミュ 恋愛小説(オリジナル)へ
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                                                                              三人じゃバランスが悪かったというか、これから一人減り二人減りと、

                                                                              誰もいなくなるまでのカウントダウンを、俺が独りでする将来の想像に飽きた、というより恐れたのかもしれない。



                                                                              寂しい侘しい虚しい、

                                                                              口を開けばそんな言葉しか出て来ない人生を、哀しいものだと思う齢になってしまった。


                                                                              あと少し齢を重ねれば、孤独にも慣れて、

                                                                              愁う時間を無駄なものと排除出来るまでになったかもしれない。


                                                                              でも俺は、今ここで求めていたものに出逢い、欲してしまった。


                                                                              誰かに愛して貰いたい、日陰に転がっていて自ら燻れもしない俺の身に熱を点(とも)してくれる存在。


                                                                              それは愛の炎だ、なんて恥ずかしい歌を作れそうな程の怖いもの知らずになってでも、今の俺が手に入れたい人。







                                                                              風邪みたいに移して 13

                                                                              Posted by 碧井 漪 on   0 

                                                                              にほんブログ村 トラコミュ リアル・恋愛小説へ
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                                                                                てっちゃんが早起きして折角作ってくれたこのお菓子をこのまま持って帰ったら、てっちゃんをがっかりさせてしまう。


                                                                                公子は中学校の外周道路に面したフェンス土台の塀に腰掛け、風呂敷包みを開いた。


                                                                                保冷材のすぐ下の容器にアングレーズソース、そして真ん中の深い容器に固めたメレンゲが二つ、一番下の容器に糸冠が入れられていた。


                                                                                スプーンも箸もない。


                                                                                両手をパンパンと叩き、黒パンツの腰ポケット辺りに両手のひらを数度擦った。


                                                                                そして公子は、卵より大きな卵型の白いメレンゲ菓子、ウ・ア・ラ・ネージュを素手で掴んで、クリーム色のソースの入っている容器の中へ浸け、口に運んだ。




                                                                                積み重なって解けるとき 21

                                                                                Posted by 碧井 漪 on   4 

                                                                                にほんブログ村 トラコミュ 恋愛小説(オリジナル)へ
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                                                                                  「哲、きみちゃんは?」


                                                                                  開店時刻直前、鍵を開けたばかりの表のドアから入って来た溪は、コーヒー豆を挽いていた哲に、カウンター越しに訊いた。


                                                                                  「きみちゃんなら、お得意さんの家へ配達に出掛けたよ。」


                                                                                  「何の配達?どうしてきみちゃんに行かせたの?」


                                                                                  「昨日、きみちゃんがお店番している時に来てくれた由木(ゆうき)さんご夫妻に、ウ・ア・ラ・ネージュを作って欲しいって、ゆうべきみちゃんに頼まれたんだ。僕が配達に行くつもりだったんだけど、きみちゃんが行くって。」


                                                                                  「ゆうべの事、ちゃんと謝ったの?」


                                                                                  「ゆうべって?」



                                                                                  風邪みたいに移して 14

                                                                                  Posted by 碧井 漪 on   0 

                                                                                  にほんブログ村 トラコミュ 恋愛小説(オリジナル)へ
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                                                                                    国内屈指の製菓会社の新製品発表会場に出入りする大勢の人々。


                                                                                    どこかの偉い社長のように見える年配の人から、サラリーマン風の男性、モデルみたいに若くて綺麗な女性、主婦、おじいちゃんおばあちゃん・・・


                                                                                    吉夜情報によると、皆さん関係者だそうで、取引先、株主、マスコミに親戚も、とにかく私が体験した事のない、何かのパーティーみたいな雰囲気だった。


                                                                                    そして、緊張続きときつく締められた帯によって、圧迫された胃はだんだん痛くなっていた。


                                                                                    逃げ出したいけど、こんな恰好、借り物の振袖でどこへ逃げる気?と頭の中の自問を自答しながら、とりあえず与えられた来賓受付の仕事を引き攣ってるかもしれない笑顔で頑張ってみた。


                                                                                    ほんと・・・苦しい、帯が。


                                                                                    喉がカラカラだけど、何か飲んだらトイレに行きたくなっちゃいそうだから我慢。


                                                                                    積み重なって解けるとき 22

                                                                                    Posted by 碧井 漪 on   0 

                                                                                    にほんブログ村 トラコミュ リアル・恋愛小説へ
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                                                                                      あと一時間で閉店時刻を迎える17時30分。僕は厨房の壁に付いた時計を見た。


                                                                                      きみちゃんは閉店までに帰って来て、店に顔を出してくれるのではないかと期待して待っていた。


                                                                                      裏の厨房で作った夕飯を姉ちゃんに家に届けてと頼んだ時、店の電話が鳴った。


                                                                                      「もしもし哲?今夜のメシ、俺の分も作っちゃった?」


                                                                                      吉夜からだった。





                                                                                      風邪みたいに移して 15

                                                                                      Posted by 碧井 漪 on   0 

                                                                                      翌朝、ベッドの上で目を醒ますと、下着姿の自分の隣に・・・は、天井から下りて来た蜘蛛がいた。


                                                                                      「ぎ、きゃ・・・っ・・・!」


                                                                                      鼻先を掠めた小さな黒い生物出現に驚いて、キャーッと上げた筈の私の声は嗄れて濁っていた。


                                                                                      けほ、くほっ・・・


                                                                                      朝だから、だけじゃない。喉の奥が腫れて詰まった感じがする。


                                                                                      それに下着姿なのに寒いどころか熱いし―――熱を出したんだ。



                                                                                      積み重なって解けるとき 23

                                                                                      Posted by 碧井 漪 on   2 

                                                                                      にほんブログ村 トラコミュ 恋愛小説(オリジナル)へ
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                                                                                        「それじゃ、僕はこれで失礼します。もし、病院へ行く事になりましたら声を掛けて下さい。」
                                                                                        お辞儀をすると部屋を出た。


                                                                                        店の厨房に戻ると、二階から下りて来ていた吉夜に、

                                                                                        「どこ行ってたんだよ。いくら金目のものがないからって、裏開けっ放しで出て行くなよ。まったく、公子も哲も不用心なんだから。」と、腕組みしながら叱られた。


                                                                                        「ごめん・・・」


                                                                                        「公子は?」


                                                                                        風邪みたいに移して 16

                                                                                        Posted by 碧井 漪 on   0 

                                                                                        にほんブログ村 トラコミュ 恋愛小説(オリジナル)へ
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                                                                                          鐘が鳴っている。


                                                                                          白色じゃない鳩が数多飛び立って、鳴っている鐘は教会の鐘ではなく近所の神社にある鐘。


                                                                                          ウエディングドレスではなく振袖姿の私は、何故か鐘の中に立って、上半身をすっぽり覆われていた。


                                                                                          そこへ現れたのは白い足袋に草履を履いた灰色袴の男。足しか見えない。


                                                                                          「なんだ?その鐘の衝き方。なってないよ。もっとこう強く・・・」


                                                                                          せーの、と聞こえた声は吉夜のものだった。


                                                                                          ハッ!と気付いた時には、もう遅かった。


                                                                                          風邪みたいに移して 17

                                                                                          Posted by 碧井 漪 on   0 


                                                                                          にほんブログ村 恋愛小説(純愛)





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                                                                                            あまりの事に、公子は声が出せなくなっていた。


                                                                                            そして、わなわなと震えてしまうのは熱のせいだけではないかもしれないと考えていた時に、

                                                                                            「あ、着替え中だったのか、わりぃわりぃ。じゃ、俺はこれで・・・そうそう、これ見舞いのプリンだ。ここに置いとくな。」吉夜がわざとらしく明るくした声で言った。


                                                                                            そして「じゃーな!」とニヤけた吉夜は、部屋の入口にプリン専門店のロゴの入った紙袋を置いて後ずさり、お大事にではなく、「ごゆっくり」と意味の解らない事を呟きながらドアを閉めた。


                                                                                            風邪みたいに移して 18

                                                                                            Posted by 碧井 漪 on   2 

                                                                                            にほんブログ村 トラコミュ 恋愛小説(オリジナル)へ
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                                                                                              「おっ、おかえりー哲!どうだった?」と裏用のスツールに腰掛けた吉夜が、顔だけを振り向かせて訊いた。


                                                                                              「どうだった?って、何が・・・」


                                                                                              「えー?”きみちゃん”と仲良し出来た?」


                                                                                              「仲良しって、仲直りって事?」


                                                                                              「違う違う、な・か・よ・し。あいつ結構色気のあるカラダしてたなって、俺も驚くくらい」


                                                                                              積み重なって解けるとき 24

                                                                                              Posted by 碧井 漪 on   0 


                                                                                              にほんブログ村 BL・GL・TLブログ





                                                                                                2月17日火曜日の夕暮れ。


                                                                                                今日も寒かった。


                                                                                                閑散とした店内の様子はいつも通りだけれど、今日はきみちゃんがいないから寂しい。


                                                                                                昨日もきみちゃんがいなかったけれど、姉ちゃんがいた分、別の意味で賑やかだった。


                                                                                                僕はきみちゃんに依存しているのかもしれない。


                                                                                                積み重なって解けるとき 25

                                                                                                Posted by 碧井 漪 on   0 






                                                                                                  ドキドキドキ・・・どうしよう。


                                                                                                  そうだ、きみちゃんのブラジャーの色は、やっぱり見てないと答えよう。


                                                                                                  「今日、若い女性のお客さんって来た?」


                                                                                                  えっ?お客さん?


                                                                                                  「若い女性のお客さん?・・・ううん、来てないけど。・・・急に、どうしてそんな事 訊くの?」


                                                                                                  「へ、変な夢を見ちゃって・・・」


                                                                                                  「変な夢って、どんな夢?」


                                                                                                  「えっとね、コホ、ゴホゴホッ、ゴホッ・・・!」


                                                                                                  きみちゃんが激しく咳き込んだ時、僕は思わずきみちゃんを振り返ってしまった。


                                                                                                  このカテゴリーに該当する記事はありません。