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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

夜の天気雨 3

Posted by 碧井 漪 on   0 

「腹減ったな。昼、どうする?」


「お昼ですか。そうですね、何か作りたいのですが、今日は材料がなくて。」


ちら、と台所の方を見るたんぽぽに俺は、「どこかに食べに行くか。ラーメンは?」と訊いた。


「ラーメンですか?」金持ちの女が好むもんじゃないだろうけど、さっきのレストランみたいなのは時間かかるし、金もかかる。


夜の天気雨 4

Posted by 碧井 漪 on   2 

乾燥した大気の中で美しく瞬く星空を眺めながら歩く道。


川風が吹き、肌に感じる冷たさは突き刺さるという程でもなかったが、繰り返し吐く息は特に白く感じる夜。


黙ったまま、俺の半歩後ろをついて来る、とても金持ちの令嬢には見えない地味な格好の、赤縁メガネの女。


夜の天気雨 5

Posted by 碧井 漪 on   2 

悲しい時笑うのは、

悲しい時に泣いた事を、周囲に理解されなかったからだろうと考えていた。


或いは無視されたか、禁じられたか、とにかく、悲しい時に泣く事が出来なくなった人間。


だから笑うようになってしまった。

夜の天気雨 6

Posted by 碧井 漪 on   0 

バタン、・・・パタン、・・・バタン。


何やってんだ、俺は。


大和は、プラスチック容器で中身を埋められた冷蔵庫の扉を開けては閉め、また開けて閉めるを繰り返していた。


シンク下の半透明な収納ボックスには、米。


食器棚には御飯茶碗と汁用の椀が。


今日は空っぽの炊飯器。


静かな部屋の中でため息を吐く俺。


望んでいた平穏が戻って来たのに、空しい気がするのは何でだろう?



夜の天気雨 7

Posted by 碧井 漪 on   0 

次の日、仕事が終わると、携帯電話が鳴った。


『たんぽぽ』


液晶画面に表示された文字。



丁度一階に下りて来た所だ。


会社の正面玄関を見ると居ないから、今日は来ないという連絡なのだと判り、通話ボタンを押した。

夜の天気雨 8

Posted by 碧井 漪 on   2 

ごほ・・・ごほごほっ。


また咳が出て来た。


枕元に置いた携帯電話。


ポチ、とボタンを押すと、暗い部屋の中、ブルーライトが眩しい。


ピッピッピッ・・・電話帳ページの中、目的の名前まで送っていく。


『大和』


ヤマト・・・

夜の天気雨 9

Posted by 碧井 漪 on   0 

「もう嫌です。今日は絶対に帰ります。」


「いいのかよ。残業。」


「もう限界です。毎日毎日遅くまで。今日は代わって貰いました。」


「あっそ。」


「飲みに行きますか?」


「やだよ、何でお前と・・・」


総務の松田瑞樹、俺を好きだという男。


年末で忙しい総務課は残業続きで、今月に入ってからは俺の方が先に帰っていたから、会うのは朝と昼位。


それでも十分多いけどな。

夜の天気雨 10

Posted by 碧井 漪 on   0 

「明日にすれば?」


「いえ、今夜はどうしても。」


ボロ家に連れて行けというたんぽぽ。


明日、朝から行けばいいのに。


結局、夜に来たけど、この家、寒いから嫌い。


この北風の冷たい季節に、エアコンもストーブもない部屋。


しかも隙間風が入って来るし。

夜の天気雨 13

Posted by 碧井 漪 on   1 

ピッ、指紋認証。


俺が連れて来られたのは、たんぽぽのタワーマンション。


ドレスを買いに行く物だとばかり思っていたのに、何故?


たんぽぽは何か考えているみたいだが、その計画が駄目だと判ったら、さっきの店に逆戻りだな。


「ただいま。」


玄関で発するたんぽぽの声に、それが癖だという事を忘れていた俺は、この家に誰か居るのかとぎくりとして、下を見て靴を探した。


もしや、あの女が帰って居るのか?


出来る事なら、顔を合わせたくない。疚(やま)しさはないが、厄介だから。


「従姉妹はいないって言ったっけ。」


「はい、すずちゃんは多分まだ帰っていないと思います。」


ホッとした。

夜の天気雨 17

Posted by 碧井 漪 on   0 

俺がパーティー会場の外のトイレから出ると、たんぽぽがこちらを向いて通路に立っているのに気が付いた。


「たんぽぽ。」と笑顔のたんぽぽに声を掛けてやると

「大和、帰るなら私も連れて行って下さい。」慣れないヒールで駆け寄って来て、ヨロけて俺の前で転びそうになったので、腕を掴んで支えた。


「ありがとう。」と言ったたんぽぽの笑った顔は、とても疲れているように見えた。

夜の天気雨 18

Posted by 碧井 漪 on   1 

今年は、なんか、地味。


急に30年位年取ったような大晦日だな。


色々あった一年も今日で終わりか。


毎年何か有意義な事をしようと思うのに、結局何も出来ずに終わる。


今年は後一時間も無い。そして来年になっても変わり映えしないんだろうな。


昨年の大晦日は、うーん、クラブで明かしたんだっけ?


毎年似たようなもんだったから、あまりハッキリ憶えてない。


夜の天気雨 19

Posted by 碧井 漪 on   4 

たんぽぽ実家の居間というか応接間に通されて、うやうやしく出された茶を飲み、待つ事15分以上。


体が深く沈むソファーに、正した姿勢のまま座っていた俺のケツが疲れ始めた時、

「ようこそ。お待たせしました。」とやっとたんぽぽ両親登場。


「こんにちは。お邪魔しています。」立ち上がり、お辞儀する俺。

"明けましておめでとうございます"というのとどちらにしようか迷ったが、いきなり言うのも躊躇(ためら)われて、普通の挨拶になった。


夜の天気雨 20

Posted by 碧井 漪 on   6 

『無人島に何か一つ持って行くなら?』だと?


くだらねぇ、深夜番組。


水、食料、ナイフ、ライター、ま、この辺は解るが、枕ってふざけてんのか?


それと同じ質問を、新年会の二次会で酔いが回った頃にされてもな。

夜の天気雨 23

Posted by 碧井 漪 on   0 

役所の呼出番号一番。


「はい。結構です。おめでとうございます。」


朝、婚姻届を提出して、俺とたんぽぽは夫婦になった。


紙切れ一枚と言うが、まさにそう。あっけないもんだ。


見た目も何も変わらない俺達。


夜の天気雨 24

Posted by 碧井 漪 on   2 

たんぽぽが正月にしていた願い事って、何だろう?


ふと気になった。


たんぽぽの望む事。


別に、結婚したからって訳じゃない。


しあわせにしてやろうとか、そんなんじゃ、ないけど。


俺が叶えられる事なら、聞いてやろうと思っただけだ。


夜の天気雨 25 あったかい人

Posted by 碧井 漪 on   2 

「スッキリした。もういいよ、十分。」


「はい。耳かきはどこにしまっておきますか?」


「耳かきか。まだ使う。今度はお前の番。」


「私は、大丈夫です。」


「駄目。お前も気持ち良くさせる。ハンカチ二枚くれ。」


「ハンカチですか?」


たんぽぽは、アイロンのかかったハンカチを二枚、引き出しから取り出して大和に手渡した。

夜の天気雨 26

Posted by 碧井 漪 on   2 

「高橋さん、内線5番です。」


「ありがとう。」


内線に出ると義兄だった。すぐに社長室に来て欲しいと言う。


課長にそれを告げてから、一人社長室に向かった。


何だろうな。用事があるならメールでもしてくれればいいのに。


緊急か?


夜の天気雨 27 抱きしめられない女

Posted by 碧井 漪 on   0 

「いってきます。」


「あっ、大和、待ってお弁当・・・」


「いらない。」


バタン。


大和は玄関の外へと出て行った。


ゆうべ、お夕飯を食べなかった大和。


今朝もご飯も食べず、着替えるとすぐに会社へ行ってしまった。


私は、両手の中に残るお弁当を見つめた。


昨日のお弁当、美味しくなかったのかな。

夜の天気雨 28

Posted by 碧井 漪 on   3 

俺は誰かを愛したかったんじゃなくて、誰かに愛されたいと願っていたんだと気がついた。


望んだ分、くれてやるだなんて、おこがましい。


俺は空っぽで何も持ってないのに。


愛も持ってない。手に入れたとしても、その愛の使い方を知らないで、誰かを愛するなんて出来る訳がない。


夜の天気雨 29

Posted by 碧井 漪 on   3 

ようやく落ち着いて話が出来るようになった大和から聞かされた話は、たんぽぽには衝撃的だった。


過去にして来たという様々な出来事を、大和は全部、たんぽぽに話して聞かせた。


途中、たんぽぽは信じられず、耳を塞ぎそうになったが、それでも真剣に話す大和の姿に、たんぽぽは一言一句聞き逃さないように努めた。


聞き終わった時、たんぽぽの体はガクガクと震え、その頬には涙が伝っていた。


夜の天気雨 30

Posted by 碧井 漪 on   4 

日曜の朝。


挨拶って、どんな事を言えば?


少し照れくさい。


「はーい。あら、たんぽぽちゃん?どうしたの?」


ボロ屋の隣、家主だったいうおばあさんの家に挨拶に来た。


昨日用意したという菓子折りを持ってたんぽぽと。


年始の挨拶もしていなかった上に結婚の報告をしたいと言うので、俺も一緒に出向く事になった。

夜の天気雨 31

Posted by 碧井 漪 on   0 

たんぽぽを姉の家に残し、俺は一人で隣の実家に戻った。


リビングのソファに向かい合って座る父と、俺の前にコーヒーを淹れて運んできた母の表情は共に複雑そうだった。


「ごめん。」と俺は二人に一言謝ってから、コーヒーを一口飲んだ。


あちぃ・・・


夜の天気雨 32

Posted by 碧井 漪 on   6 

週末以外は、通勤の事を考慮して、寮のマンション、1DKの部屋で暮らす俺とたんぽぽ。


本来なら独身寮だから引っ越さなくてはならないが、義兄に頼んでしばらくは住まわせて貰う事にした。


幸いな事に、今は空室があるので、次の入居希望が殺到しない限りは何とかなる状況だった。


夜の天気雨 33

Posted by 碧井 漪 on   4 

慣れないコンタクトをして、ブランドの服を着た。


姿見を見てチェック。これで、良いかしら?


何とか、どこかの企業のOLさんぽく見えると良いけれど。


普段より濃いメイクをして、濃紺のスーツの上にコートを纏ったたんぽぽは、夕方遅くに出掛けた。


夜の天気雨 34 R-18

Posted by 碧井 漪 on   3 

今まで何故結ぶ、結ばれるというのか解っていなかった。


今は何となくだけど感じている。


縁を結んで、繋がるカンカク。


二つの別々だったものが一つに結ばれて、永く果てない未来へ繋がる希望のように見える。


一人ではないという安心感。怖れずに、このままどこまでも行けそうだ。


一緒に連れて行く、いや、連れて行かれる・・・そこがどこでもいい。


お前が行くなら俺も行く。


離れない、離さない、いや、離れたくない。

夜の天気雨 35 R-18

Posted by 碧井 漪 on   2 

穏やかな一日だった、そう言いたくなる日にしたいと思った。


止まってしまっても良いと感じる程、静かで居心地の良い時間の流れの中で、このままで居たいと願う程、あとどれくらいかと残された時を考えた胸の奥がきゅっと痛む。


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