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sazanamiの物語

恋愛小説を書いています。 創作表現上の理由から、18才未満の方は読まないで下さい。 恋愛小説R-18

それから、ずっと、愛してる 100

Posted by 碧井 漪 on   0 

どきどきどき・・・右折はやっぱり緊張するわ。


大きな交差点の信号待ちで、少し前に乗り出すようにして運転席に座っている陽芽野が、


両手の指先に力を込めると、掴んでいたハンドルの皮がキシキシと音を立てた。



その日、陽芽野は午前の講義が終わると、昼食も取らずに姫麗の大学に向かい、兄・梧朗名義の車の鍵を受け取った。


自動車保険に入っている事は先週の時点で確認済みだった。


セイから自由に車を使っていいと許可を貰っていた陽芽野は、久しぶりに自分でも運転してみたいと少し前から考えていた。


ただ、瑞樹が心配する為、内緒で近所を練習がてら乗るつもりで初心者マークも用意していた。


「高速道路・・・うん、多分大丈夫。頑張る。」


向かう先は、


「瑞樹さんのお母さんのおうち・・・」


陽芽野は一人で運転しながら確認するように呟いていた。


ハンドルを握ると、時々方向感覚がなくなる陽芽野は、あらかじめ設定しておいたカーナビゲーションの音声案内を頼りに運転し
ている。


「瑞樹さん、お母さんは瑞樹さんの事を忘れてません・・・私が、確かめて来ます。」


あの日からもうすぐ一か月。


母親の事を知った翌日、瑞樹は複雑そうな表情を見せ、元気がないように陽芽野には感じられた。


おじいちゃんの好きなイチゴも、瑞樹さんだって好きなのに、あれからずっと口にしていない。


貰ったイチゴは翌日の朝、


一つだけやっと食べてくれただけで、


それも、私に気を遣っての事だと思うと、


イチゴを食卓に並べるのは迷って、でもあえてした事だったから、


だけど瑞樹さんの心を傷つけたのだったらすべきではなかったとも反省したりもしていて・・・


残りのイチゴは事務所の人に配ったり、ジャムにしたりした。


瑞樹さんと、お母さんの話は今も出来ない。


もやもやしてる。


私の心というよりも、


瑞樹さんとお母さんの方がもっとだと考えられるから。


あの日、瑞樹さんのお母さんと一緒にお料理をしていた時・・・








「ねぇねぇ、お兄さんの恋人ってどんな人?美人?」


と火にかけたお鍋の前に立ってお出汁(だし)を取る郁さんに訊かれた。


「はい。とってもやさしくてかわいい人です。」私は大根の皮を剥きながら言った。


洗ったお客様用のお椀を布巾で拭いていた郁さんのお母さんに剥き終わった大根を見せると、


半分をいちょう切りにしてと頼まれた。


「芸能人の仕事って忙しい?休みないの?」


「その時によります。兄は今は忙しいみたいで、丸々一日お休みは取れないみたいです。」


「そうなんだー。うちと一緒だね。毎日苗の様子を見に行ったりとかさ、みんな忙しいんだね。」


「うちと一緒にしたら失礼でしょ?あら、陽芽野さんお上手。お料理はよくするの?」


「はい。おばあちゃんに教えて貰ったお料理ばかりですので、和食が多いですけれど。」


「そうなのね。・・・彼、婚約者の方は好き嫌いはないの?」


「はい。瑞樹さんは何でも食べてくれます。苦手なものも、料理すると少し無理してでも食べてくれます。」


「やさしい人ねー。うちのお父さんは嫌いなものは絶対口にしないわよね。」


「そうね。」


「ねぇねぇ、陽芽野さんはどうして11も離れた彼と結婚する気になったの?確か11歳差ってテレビで見たけど・・・」


「そうですね・・・たまたまです。」


歳が近かったら良かったのに、と何度も思っていた陽芽野だったが、


一緒に暮らすようになってからの生活の上で、瑞樹との歳の差というのはあまり気にならなくなっていた。


「これ、郁。もうやめなさい。失礼でしょう?」


「うちのお父さんとお母さんも歳の差婚だよね。12.5歳差だっけ?」


「郁!」


「やぁー、お母さんってば照れちゃってる。」


「からかわないの。」


お母さん・・・


台所に並んで立つ二人の背中を見て、いいなと陽芽野は思っていた。


私も、お母さんと並んでお料理したかった。


居間ではお兄ちゃんとお父さんがテレビを見ながら、ごはんはまだかって待ってるの。


それで私とお母さんは大急ぎで作ったごはんを居間のテーブルに運んで・・・


そんな事を考えてしまった陽芽野の瞳から、ぽろっ、ぽろりと涙が零れた。


陽芽野はそれを慌てて拭った。


「あれ?羽月?」ふっと振り返った郁が台所の入り口へ向かった。


陽芽野の耳にも「ママー」という羽月くんの声と廊下を走る足音が聞こえて来た。


郁さんが台所から出ると、お母さんが私の隣に立って、


「陽芽野さん、どうかしたの?彼と何かあったりしたの?」と訊いた。


「いえ、彼とは何もありません。


実は私、子どもの頃に離れ離れになった母が亡くなっていた事を今日知って、


郁さんとお母さんが一緒にお料理をしているのを見ていたら、羨ましくなってしまって・・・」


「そう、お母様が・・・」


「でも、大丈夫です。彼が傍に居てくれるので。」


「そうなのね。彼はやさしい?どんなところが好きなの?」


「とてもやさしいです。


好きなところはいっぱいあって、どこと一つだけ言えませんけれど、大好きです。


彼も小さい頃にお母さんと離れ離れになって、でも、お母さんが見つかったんです。


だから今度、彼のお母さんに逢いに行く約束なんです。」


ガシャッ・・・


郁の母は持っていた大根とおろし金を器の中に落とした。


「あら、手が滑って・・・それで、お母さんに逢いに、どこまで行かれるの?」


「彼のお母さんの住んでいるところは今日帰ってから分るんです。」


「どうして?見つかったのでしょう?」


「まだその書類を確認していないんです。だからどきどきしています。


生きていらっしゃるとは思いますけれど、もしも何かあったらと思うと・・・だから、お元気でいらしたらいいなと思っています。」


「そ、そう・・・彼はお母さんに逢いたいのかしら?」


「わかりません。でも、お母さんに逢って、私と結婚する事を報告すると言ってくれました。」


「・・・・・」


「お母さん、お父さん帰って来た。先に羽月とお風呂に入るって。」


「わかったわ。ごはんの支度、急がないとね。」








お母さんの様子を思い出すと、


お母さんは瑞樹さんが息子だと分かっていたのではないかと思えた。


婚約発表時の報道映像も、お兄ちゃんは確かに映っていたけれど、


もしもお兄ちゃんのファンでお兄ちゃんの映像を見たいのならば、


報道番組の録画よりも、


ドラマや、映画、バラエティー番組の方がメインで映っていると思う。


それなのに、羽月くんと郁さんのお話では報道番組の方を繰り返し見ていたと・・・


それは瑞樹さんが映っているから。


お母さんは、お兄ちゃんでも私でもなく、瑞樹さんを見たかったとしか私には思えなかった。


瑞樹さんは郁さんに遠慮しているのかもしれない。


でも、きっと瑞樹さんのお母さんは、郁さんと変わらずに、


瑞樹さんの事を想っていると思うの。


だから、私がお母さんに会って訊いて来る。


夕飯までには戻るつもりで、


陽芽野は一人で瑞樹の母・高津霞美世子(こうづかみよこ)に会う為、


郁の実家へ向かっていた。






のどかな景色の中、淡い色が重なって出来た綺麗な空に目を奪われる。


夕方になる前、何とか無事に高津霞家へ辿り着いた陽芽野が、広い敷地の玄関前に車を停めて降りた。


そして緊張気味にこぶしを握って玄関に向かって歩く間、玄関の引き戸が開き、美世子が慌てた様子で飛び出して来て鍵を閉めた。


「あのっ・・・お母さん!」陽芽野が、離れの方へ向かおうとしていた美世子を呼び止めた。


「えっ?」と振り返った美世子は、陽芽野の姿を見て、スッと青ざめた。


そして陽芽野の後ろに停められた車を見て、先日の瑞樹の乗っていた車とは違う事と、運転席に誰も居ないのを確認したのち、


一度二度、辺りを確認してから、


「こんにちは。どうしたの?一人でいらしたの?何か御用かしら?」と美世子は強張っていた表情を和らげて、陽芽野に訊ねた。


「お話があって来ました。松田瑞樹さんの事で・・・」


そう陽芽野が切り出すと、再び美世子の表情が険しくなった。


それから、ずっと、愛してる100


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申し訳ございません。とうとう100話を突破してしまいました。

まさかここまで引っ張って、そして引っ張られてしまうとは、予想していませんでした。

お正月から時々別のシリーズに飛んでの更新で半年。

まだ続きそうです。でも、あと10話はかからないと思いますm(_ _)mササエテクダサルミナサマ、アリガトウゴザイマス。

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