それから、ずっと、愛してる 78 ☆☆
快楽の後の倦怠に身を委ねて、
狭いベッドの中で身を寄せたまま、
いつのまにか落ちていた眠りから醒める。
お布団の中の素足が触れ合って、
少しくすぐったい。
眠ってしまえば感じられなくなる、肌と肌の表面が触れ合う感覚は、
私のもどかしい気持ちを膨らませていく。
動けない。
お布団から覗いたあなたの肩も、
うっすらと開いた唇も、
時々動く喉仏も、
本当はね、こっそり触れてみたいの。
他の男の人には触られるだけで嫌だったのに、
あなたには、
触れられたいし、触れたい。
あなたに嫌われたら、
また、どんな男の人も怖くなってしまう気がするの。
行方不明だと聞かされた時は、信じられなくて、ううん、信じたくなかった。
私は女で良かったと思う。
あなたという男の人に愛される事の出来る女に生まれて、
良かった。
眠るあなたの顔を見ていたら、「好き。」と零していた。
そうしたら、
「ん・・・?」と薄目を開けたあなたに気付かれた。
「陽芽野、起きたの?」とあなたは左手で髪を撫でた。
もっと呼んで、私の名前を。
「瑞樹さん、もう一回、私の名前を呼んでくれませんか?」
いつも「君」と呼ばれる事に不満はないけれど、
名前で呼ばれると、どきっとして、そのあと嬉しくなる。
「陽芽野・・・どうしたの?急に。」
「ここも、触りたいです。」
「ここ?・・・どうぞ。」
陽芽野は瑞樹の喉の出っ張った部分、喉仏を両手の指で包むようにして触れると、
「くすぐったいよ。どうしてこんな所を触りたいの?」と瑞樹が不思議そうに訊いた。
「えっと、だって・・・お話ししている時とか、お食事の時とか、
よく動くので、どうなっているのかなって、気になっていて、それから・・・」
「それから、何?」
「ここが、ワイシャツの襟のすぐ上に見えると、とても触りたくなります。」
「・・・?」
「変ですよね。でも、そうなんです。触りたい・・・」
「僕以外の男にも、そう思ってる?」
「いいえっ、瑞樹さんにしか触れません。」
「その答え方は、触れるのなら他の男の喉にも触りたいと思っているように聞こえるけれど?」
「ちが・・・います。」
「お兄さんとか、セイさんとか?」
お兄ちゃんとセイさんには触れるけれど・・・そうではなくて。
「瑞樹さんのイジワル。」
くるりと私は背を向けた。
確かに、お兄ちゃんとセイさんなら触れる。
・・・そうなのかしら、瑞樹さんじゃなくても、触れたら満足する・・・?
ぐるぐると思い出して考えていたら、
後ろから瑞樹さんの腕に抱きしめられて、
「陽芽野、ごめん。」と囁かれた私の左耳が、
カプリと、彼の唇、そして歯で、軽く食まれた。
耳殻をなぞった温い舌で、耳孔の中を濡らされて行く感覚に、
ぶるりと体が震えて、
次に耳朶を強く唇で吸われたら、
「ん、あぁ・・・っ!」
ぞくぞくとして、声が漏れてしまった。
「陽芽野が他の男の体に触ったら、嫌だよ・・・」
掠れた声がとても切なく聞こえて、
「触らない・・・です。」
「本当に?」いつの間にか瑞樹さんの指先は、
胸の先の痺れている部分を、くりくりと捏ね始めていて、
うなじにかかっている彼の熱い吐息に、
疼き出した私の体も熱く昂ぶらされて行く。
「やっ・・・ダメです。もう、もう・・・」
口ではそう言ってみても、はぁはぁと息が荒くなってしまう。
またあの真っ白になって、
何も考えられない感覚へ向かう期待が、
心の隅に現れて来た。
「うん・・・」と言いながら、
瑞樹さんは私の髪をよけて露にしたうなじを、つうっとやわらかな舌で辿って、
全身に鳥肌を立たせてしまう。
その内に私は、とぷん、と体のオクから溢れて来る液体を感じていた。
あ・・・もう、ずるい・・・また、胸の奥も頭の中もあなたの事で、いっぱいになって、
もっと、もっとホシクなってもいいんですか・・・?
「もう一度、しますか?」と訊いてみる。
「いや、さすがに僕は・・・陽芽野だけ、しようか?」
私だけ、って・・・?
「えっ?・・・あっ、そんな、あ・・・
瑞樹さ・・・ん・・・だ、め、指、挿れ・・・ちゃぁ・・・んっ・・・」
卑猥に聞こえていたカラダを弄って立てられる音が、ハッキリと耳に届いても、
今は不思議と、そう感じない。
瑞樹の愛撫によって、再び高められ、のぼせる程熱い渦の中へ巻き込まれてしまう陽芽野だった。
翌朝、顔を洗って鏡を覗き込んだ陽芽野は、
ゆうべ乱れ過ぎてしまった自分の姿を想像する度に恥ずかしくなって、
首を何度も横に振っていた。
「陽芽野、どうしたの?」
洗面台に向かっていた陽芽野の背後からかけられた瑞樹の声に、
陽芽野はどきりと、胸が痛くなる程驚いた。
「い、いえ・・・何でもありません。すぐ、朝ご飯を・・・」
くるりと振り返った陽芽野は顔を伏せ、頭を低くして瑞樹の顔を見ずに、横をすり抜けた。
何だろう・・・
具合が悪いのかな?
それとも、ゆうべしつこくし過ぎてしまったから、
僕の事が嫌になった、
もしくは、
今日は生理的に触られたくない日とか・・・なのかな?と瑞樹は思った。
あまり目を合わせたくないようだったから、
君を見ないようにして、
会社も遠くなった事だし、なるべく早く家を出よう。
瑞樹は朝食前に着替え、
今朝はトーストとベーコンエッグ、
サラダをささっと平らげて、コーヒーを飲みながら新聞を捲ると、
じいっ・・・
君の視線に気が付いた。
僕は、君を見ないようにして、
「何か付いてる?」と訊いてみた。
「い、いいえっ。」
君にしては慌てた様子で椅子から立ち上がり、
シンクに向かった。
君が背中を向けたので、僕は新聞を畳み、
その背中を10秒程見てから、
椅子から立ち上がった。
歯を磨いて、洗面所から戻ると、まだ洗い物をしている君の背中に向かって、
「いってきます。」と残して、
僕は通勤用の鞄を持ち、玄関へ向かった。
パタパタパタ・・・と急いで追いかけて来る足音が聞こえたけれど、
僕は振り向かずに靴べらを取り、革靴を履いた。
「あのっ・・・怒ってますか?」
急に君がそんな事を言い出した。
「どうしたの?急に。怒ってないけど・・・」
おそるおそる振り向き、君の顔を見ると・・・
「ネクタイ・・・直してもいいですか?」と、
君は伸ばしかけた腕を宙に浮かせたまま、僕の返事を待っていた。
「うん、お願いします。」
君はホッと表情を緩めて、
「ゆうべは、ごめんなさい。」と言い出した。
だから僕は、「安心して。今日はもう・・・しないから。」と返した。
連日、君の体を求め過ぎてしまったから、
さすがにうんざりしたのだろう。
「嫌になりましたよね・・・ごめんなさい。」
頭を下げる君に、
あれ?その台詞は僕が言う方なのに、と思った。
「嫌って、それは君の方でしょう?僕は、嫌にはならないよ。」
女性と違って、触られるのが嫌な日っていう感覚は、
疲労困憊な状態を除いたらないから。
「瑞樹さん、無理していませんか?
私が何度も、その・・・おかしくなってしまったから、嫌になりましたよね・・・」
おかしく?何度もイッたという意味かな?
「おかしくって、イッた事?」
「・・・・・・」
カアッと君の顔がみるみる赤くなった。
「寧ろ逆だよ、と言ったら怒る?
もっとおかしくさせたいと思う・・・好きだから、君のイッた姿。」
こんな事、朝っぱらから玄関で言う事ではないな、と心の中で自嘲した。
「本当・・・ですか?」
「うん。」
「触っても、いいですか?キスしても、いいですか?」
「どうぞ。」
昨夜、僕が贈ったエンゲージリングが、
君の左手の薬指に嵌められたままキラキラと輝いている。
その細く長い指を使って、一生懸命僕のネクタイを直した後、
恥ずかしそうに、おずおずと僕の愛おしむ唇を近付けてくれる。
僕の奥さんになってくれる予定の君は、
とても可愛過ぎて、
心配になる。
君が二十歳になるまで待てそうにないよ。
万が一にでも、誰かに攫われたら嫌だから、
一日も早く君と結婚してしまいたいと考えてしまう僕は、卑怯者かな?
君のくれる甘いキスは、
僕がとてもしあわせな人間であるという事を、
いつも教えてくれる。
ありがとう。
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