夜の天気雨 53 - sazanamiの物語
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    夜の天気雨 53

    寂しくなったら月を見上げる。


    窓の外、夜の空のてっぺんまで昇って行ってしまいそうな、眩しく輝く月で視界をいっぱいにしたら、ひゅっと冷たくなる、痛いような感覚が心臓の辺りを襲う。


    きゅっと締め付けられて、どきどきと速くなる鼓動が連れて来るものが「何か」という事を俺は知っている。


    どくんと鳴る度に俺の中に広がって行く、不安を連れて来る。


    離れている時に、たんぽぽの身に何かが起こったら?


    毎晩のように寂しがって泣いていたら?


    向こうの生活が楽しくなって、俺の事なんて忘れてしまったら?


    キリがなくて性質(たち)が悪い。俺を支配してしまう暗い感情。


    いやだな。


    笑顔で送り出してやりたいのに、実はその笑顔は、棘だらけの心の中を隠すのに必死で作った笑顔だったなんて。


    はぁっ・・・いくら深く息を吐いても、この胸は苦しいままだ。


    「どうしたんですか?ご飯出来ましたよ?」


    「うん・・・月見てた。」


    「お月様、綺麗ですね。」


    「一緒に見ようよ。ちょっとだけ、ここ座ってさ。」縁側に座る大和は、たんぽぽに隣に座らないかと誘った。


    大和がそんな事を言うなんて珍しい、と驚いたが、たんぽぽは嬉しかった。


    たんぽぽが昔家族で住んでいた庭にも縁台があって、皆でお月見をしたおぼろげな記憶があり、いつかまた・・・と憧れていた。


    「こういうの、好きです。」


    「こういうのって?」


    たんぽぽの方を見ずに、月を見上げている大和の横顔に向かって、

    「大和と二人で同じ物を見て、気持ちが近付ける事です。家族だなぁって感じます。」たんぽぽは微笑みながら言った。


    「・・・・・・」


    大和は、月を見上げていた視線を、膝の上に落とした。


    「・・・大和。」


    「何?」


    大和はゆっくりと視線を、たんぽぽの膝の上に移動した。


    目を合わせない大和の、どこか愁いを帯びた瞳を見て、私が何とかしたいと思ってしまうのは、烏滸(おこ)がましい?


    「何でも、ありません。」


    "大和、好きです。ずっとこうしていたいです"


    その言葉を、この静かな春の夜の雰囲気を壊したくなかったたんぽぽは呑み込んで、大和の左腕に両手でぎゅっとしがみついた。


    「もしもさ、俺以外の人間を好きになったら、その人に好きだって言う前に教えてね。俺と別れてからにして欲しいから。」


    「そんな事絶対にありませんから。」


    「ヨシさんの話じゃないけど、何かヤだからさ。」


    他のヤツにたんぽぽの心を持ってかれたら嫌だ。我慢出来ない。


    たんぽぽの心変わりに目を瞑ってまで、一緒に居られない。


    こんなに愛してる、だから愛されたいって願ってる。


    浮気されても好きでいるなんて言えないよ。


    悲しいだろ?報われないのは片想いと同じだ。両想いを壊した片想い。


    「私は大和しか好きになれません。元々男の人は苦手ですから。」


    じゃあ、俺のライバルは女?


    「わかんないよ?苦手な男の俺だって好きになれたんでしょ?俺よりやさしい男なんて世の中にいっぱい居るからさ。」


    「嫌です。大和が良いです。大和の方が心配です。会社には沢山女性が居ますし、あ、女性だけじゃなくて・・・」


    「ははっ、男でも女でも見境ないって言われてショックー。」


    「そんなつもりじゃ・・・」


    「じゃあ、俺が浮気しないように、たんぽぽ一人で満足させてよ。」


    「満足ってどうしたら良いですか?」


    「んー、俺にもわかんないけど、たんぽぽはそのままでいいんじゃない?」


    「何もしなくても良いって事ですか?」


    「色々し過ぎる位だからな、たんぽぽは。」


    「そんな事ありません。まだ二階の襖を張り替えてませんし、お庭のお花の植え替えも途中ですし、それから・・・」


    そんな事じゃないよ。ほんと、面白いな。


    「たんぽぽが毎日楽しかったら、しあわせだったらいいよ。それで俺は満足。」


    「私がしあわせだったら、大和は浮気しないのですか?」


    「そうそう。」


    「変ですよ?大和がしあわせだったら浮気しないって事ではないのですか?」


    「じゃあさ、考えてみてよ。たんぽぽが俺になって会社に行って帰って来た時に、んーと、たんぽぽ役の俺がぶすーっとして口も利かなかったらどうする?毎日無視してたらどう?」


    「嫌です。きっと帰って来たくなくなります。」


    「だろ?だからたんぽぽが毎日楽しくてしあわせな事が第一。やりたい事をやりたいようにしているお前が好きだ。」


    「今の、もう一回言って下さい。」


    「やりたい事をやりたいようにしろよ。」


    「違います、お前が・・・の後です。」


    「お前が、の後?何だっけ?」


    「ええー?もう一回聞きたいです。」


    「い・や・だ。もう言わない。腹減ったし、メシ!」


    縁側から部屋の中に入った大和はたんぽぽを外に残したまま、窓を閉め、鍵を掛けた。


    大和はたんぽぽに向かってべーっと舌を出した。まるでいたずらっ子のように。


    「大和!開けて下さい。」


    たんぽぽがトントンと軽くガラスを叩いても、大和は台所の方へ行ってしまった。


    「もうー・・・イジワル。」


    私を閉め出すなんてひどいなぁ。プンプン!


    お庭にサンダルを置いておくと、雨が降って泥だらけになってしまうという理由から玄関に入れてしまった為、ここには履き物がなかった。


    仕方がない。足は後で洗えばいいわ。


    裸足で庭に下りようと、たんぽぽが靴下に手を掛けた時、

    「たんぽぽ。」

    玄関から庭に出て来た大和が、たんぽぽに向かって歩いてくるのが、月明かりに照らされて見えた。


    「いじ・・・」イジワルという言葉を言えなくなったのは、大和が両手を開いて近付いて来たから。


    まるでお父さんみたい。


    子どもを抱きかかえるようにして私を両手に包んで持ち上げた大和は、

    「ちょっと待った。やっぱ後ろ、おんぶにして。」と情けない声を出した。


    くすっ、と大和に気付かれないように笑った私は、屈んだ大和の背中にしがみつく。


    いじわるされた時の顔を思い出すと怒りたくなるけれど、あったかい背中に免じて許してあげる。


    いたずらのお返しに大和の襟足をくすぐろうと指を伸ばした時、

    「このまま散歩する?」と訊かれた。


    「いいですけど、大和お腹空いたってさっき・・・くしゅん。」


    「春とは言え、まだ夜は寒いか・・・足も冷えてるし、中入るか。」


    大和におんぶされる時間が短くなった事は少し残念。


    ところが、玄関に向かう大和は何を思ったのか、私をおんぶしたままその場で時計回りに回転し出した。


    何回位回ったか数えてなかったけれど・・・


    「うわっ、目が回った。」と、しばらくしてふらつきながら玄関に向かう大和。


    今夜は随分はしゃいでいるわ。


    明日からの旅行が楽しみなのね。大和はきっと遠足前の子どもみたいな気分なんでしょう。










    明日から、もしも寂しくなったら月を見上げろよ。


    たんぽぽに、そうと言えなかった。


    寂しくなるな、月を見上げるな、恋しがって泣くのは俺一人でいい。


    忘れて欲しくないけれど、苦しくなるならしばらくは・・・俺の事忘れていいから、


    たんぽぽがしあわせを感じられる事に出逢った時に、その時に笑いながら、俺を思い出してくれればいい。




    夜の天気雨53
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    ※2017.5.10 改稿





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      愛欲ランキング1位をいただきましたので、

      これは・・・続きの54話をR-18にして公開しても良いという事なのでしょうか?


      50話のおまけページの続き(R-18)を通常公開しました。


      今夜の更新はどうしようか悩んでいます。
      プロフィール

      碧井 漪

      Author:碧井 漪
      絵師 西洋蔦(ib)さんと共に更新中


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      sazanami&ibにあります。
      無断転載は禁止しています。



      ☆総合目次☆

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      *近男 登場人物紹介*

      *SとS 家系図*

      *恋愛小説 官能小説 作品一覧
      +覚書 2017.2*

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      2014.10.16設置



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