夜の天気雨 51 本気を出させる女 - sazanamiの物語
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    夜の天気雨 51 本気を出させる女

    朝、出社して先ず、社長室で静かに書類に目を通す。


    時々眠くなるが、そうすると秘書の堀越さんがさっき運んで来てくれたコーヒーをちびちび飲んで再び書類をパラパラと捲って・・・


    コンコン。


    「どうぞ。」


    はぁー・・・と今の内に深く息を吐いておく。


    内線連絡で誰が入ってくるのかは解っていた。


    「おはようございます。」


    その声を聞いた途端、吐かないつもりだった溜め息が、はぁっと漏れた。


    「おはよう。」


    椅子から立ち上がった俺は松田に

    「この前の夜の件はどうなった?」と訊いた。


    「ええ、あの件は調査して、結果をこちらに纏めました。」


    松田は肩から提げた鞄からファイリングされた書類を出して俺に歩み寄ると、両手に持って掲げるように差し出した。


    「仰々しいな。わざわざこんなの作らなくても、口で言えばいいのに。」


    「誰に聞かれているか分かりませんから。」


    俺は、松田から受け取ったファイルを開きながら

    「盗聴?まさか。」と苦笑すると、

    「徹底したい主義ですから。自分が犯したミスから敵が得するのは嫌なもので。」真顔で答える松田。


    ほー、そうかよ。敵じゃなくて味方なら歓迎だな。


    「そっちも今、決算期で忙しい時期なのに大丈夫かよ。」


    「有給休暇を消化しなくてはならなかったので丁度良いです。ただ、内藤さんも同じく退職前の休暇の消化に入ってしまったので、風見さん達新人は大変ですけれど。」


    「新人って、お前もそうだろ?内藤さんもいよいよノブと結婚か。お祝いしないとな。」


    「はー・・・皆さんおめでたくて、いいですねぇ。」


    「お前だって見合いでもすればいいだろーが。」


    「見合い、今時見合い結婚ですか?」


    「俺を馬鹿にしてんのか?今は見合いの方が結婚率高いって聞いたぞ?」


    「誰から聞いたのですか?」


    「親戚のオバちゃん達が結婚式で言ってた。」


    「酷いですよね。僕の気持ち知っててそんな事言う大和さんって。」


    「お前の為に言ってんだろ?」


    「あなたのいけずな所も好きですけど。」くすっと笑う松田の顔を見てしまい、ゾッとした。


    「わーかった、悪かった。もう言わないよ。」コイツは苛め様がないな。やり返される。


    「どうします?A案とB案、どちらにしますか?」


    A案は、徹底的に潰し、どちらの会社にも居られなくする。


    B案は、そこそこ潰して、社内に公表してから放り出す。


    Aは完全な水面下で行い、Bはある程度裏で動いた後、表で直接対決になる。


    「他の案はないの?」


    「お気に召しませんでしたか?お勧めはAです。時間と労力はかかりますが、大和さんが直接手を下さず安全なので。」


    「人の事、悪の大王みたいにしたい訳?」


    「そうですよね。中途半端に潰して逆恨みされたら怖いですから、大和さんを守る為にもA案で行きましょう。完全に潰しておきますから。そうそう、これは僕の仕事ですから大和さんは何も手を出さないで下さいね。」


    にっこり笑って恐ろしい事を淡々と言う松田。


    俺の為なら何でもするのか。たんぽぽもそうだな。


    たんぽぽがぷるぷる震える子犬なら、コイツは俺の指示どおり動く忠犬だな。


    ソファーに腰掛けている松田に近付き、顔を上げた松田を見下ろした後、俺はすっと顔を近付けた。


    「俺の事、好き?」


    「えっ?え・・・どうしたんですか急に。好き、ですけど・・・」


    自信満々で敵を潰しましょうと、いともあっさり言ってのけた人間と同じだと思えない顔になる。


    「そう。じゃあ、頑張り過ぎるなよ?」からかう為に近付いた俺は、仕上げにキスする振りして思いっ切り鼻でも抓んでやろうと思っていた、のに。


    ガシャッ、ガチャン、カシャーン。


    え?


    目を瞑っていた松田もその音に驚いて、カッと見開いた。


    「失礼いたしました。申し訳ございません。」


    いつの間に入って来たのか、隣の秘書室からコーヒーを運んで来たと思われる堀越さんが床の絨毯に膝をつき、落としたコーヒーカップとソーサーを拾い集め、トレーに載せていた。


    ちら、松田を振り返るとすごい形相で堀越さんを睨み付けていた。


    あらら・・・俺にキスされると期待した松田は、堀越さんに邪魔されたと恨んじゃってる訳ね、と想像ついた。


    しまった、余計な事したなと反省しても遅かった。


    「お返事が聞こえたと勘違いしてお部屋に入ってしまって申し訳ございませんでした。今後この様な事のないようにいたします。」


    あーあ、堀越さん、タイトスカートにコーヒー掛かっちゃったのか。


    ペコペコと謝る堀越さんにハンカチを差し出して

    「大丈夫?火傷してない?ごめんね、驚かせて。彼をからかおうとした僕がいけなかったんだ。公私共に色々して貰っているので。」

    言った後、ん?と思った。これってフォローになってないような。


    「いえっ・・・大変失礼しました。決して他言いたしません。」ハンカチをぎゅっと握り締める堀越さん。


    "他言しない"って・・・ははは、完全に誤解されてしまった。


    「いや、あの、そうじゃなくて、僕には奥さんも居るし、そういう事はないから。」


    「はい。承知しました。では失礼いたします。」深々と頭を下げて退室する堀越さん。


    堀越さんが出て行き、再び二人だけにされた部屋で、嫌な静けさを壊したのは松田だった。


    「完全に誤解されましたよ?大和さんのおかげで。」


    「松田。」確かに俺のせいでドツボに嵌った。どーしようか。


    「まあ、他言しないと言ってましたし、僕と大和さんは100%関係がなかった訳でもないですからいいのではないですか?これで彼女が大和さんの愛人になったりは出来ないでしょうから、僕はたんぽぽさんに感謝されますね。」


    「愛人に同性愛疑惑?俺の方が先に失脚しそう。」


    「その時は彼女も無傷ではいられませんから、心配には及びません。」


    ひぇー・・・俺が犠牲者を増やすの?


    二度と余計な事をしないようにしよう、うん。


    「ところで松田、今の会話って盗聴されてたりしないよな?」


    「さぁ?」








    「ただいま・・・」疲れ過ぎた。けど、またたんぽぽに心配掛けたくないから、こっちは本気で手を出す。


    「おかえりなさい。おつかれさまでした。大丈夫でしたか?」


    「駄目・・・ここで寝ていい?」靴を脱いで上がった場所に寝転がる。


    「ええっ?ご飯食べないんですか?お風呂は・・・」


    「沸いてるの?」


    「はい。すぐに入れます。」


    「たんぽぽもすぐに入れるの?」


    「えっ?私ですか?」


    「俺の背中洗って・・・手が届かないー。」


    「もうっ!ふざけないで下さい。」


    立ち上がり、俺を放置したまま台所へ向かうたんぽぽ。


    俺は立ち上がった。


    「よしっ!亭主命令。一緒に風呂に入るぞ!」


    たんぽぽには、本気でかからないとな。









    俺の心配をする隙を与えないようにする。


    疲れ果て眠りに落ちたたんぽぽの髪を撫でると、安らぎを覚えた。


    俺を想う二人。たんぽぽと松田との違いは何だろうな。


    たんぽぽは、女だっていう事。


    それから、守ってやりたくなる事、かな。


    たんぽぽも、何でも一人で片付けられるけど、

    松田と違うのは、

    俺に、傍に居て欲しいと素直に甘えられるようになった所だ。


    でもそれも、来週には直接聞けなくなる。


    俺を求めてくれるたんぽぽの声。


    それが寂しい、堪らなく。


    俺が寂しいって事は、たんぽぽも寂しいって事だよな。


    それも心配だな。たんぽぽは絶対泣くだろうから。


    ・・・あーあ、また嫌な夢を見そうだ。









    翌朝。


    「たんぽぽ、パスポートは用意した?」


    「はい。取っておきました。」


    「長旅だから、しっかり用意して。」


    「忙しい時期なのに、よくそんなに長くお休みを頂けましたね。」


    「はっはっは。なんたって社長だよ?俺は。これ位、余裕だって。」


    「そうでしょうか?」


    「なーんてな。ホントの所は、社員達が優秀だから、仕事の出来ない社長は居なくてもいいらしい。」


    ずずっ、味噌汁を飲み干して、お椀と箸を置くと

    「ごちそうさま。じゃ、旅行の準備しておいて。俺の分も適当に。」と立ち上がった俺は、部屋の隅に二つ並ぶスーツケースに目を向けた。


    スーツケースは、鈴花が用意してくれた。


    「本当に海外旅行に行くんですか?」


    「たんぽぽは、英語大丈夫だって聞いたけど。」


    「英会話教室に通わされていましたから、少しなら。」


    「じゃあ、大丈夫だろ?あんまり心配するとハゲるよ?いってきます。」


    「はい、いってらっしゃい。」









    出勤する大和を見送った後、玄関の掃除を終えたたんぽぽは居間に戻り、ちゃぶ台の上の食器を片付けながら、真新しいスーツケースを見た。


    大和との新婚旅行まであと4日。


    海外なんて緊張するわ。


    でも大和と一緒だから、大丈夫よね。


    二人だけで遠くの国に行って、お泊まりするのって、考えただけでドキドキする。


    嬉しい。大和と二人でのんびり旅行だなんて。


    うふふ・・・早くお掃除終わらせて、スーツケースに荷物を詰めなくちゃ。


    夜の天気雨51
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    ※2017.5.12 改稿





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      No title

      大和さん、人材に恵まれていて良いですね~
      そして誤解されちゃう墓穴っぷりが可愛くて、つい笑ってしまいましたv

      くるみさん、ご訪問&コメントありがとうございますm*^▽^*m

      ここのところ、不規則に忙しくて時間が取れず(予想外)、

      時間が取れたら話が書けず(想定内^^;)、



      sさん「あ゛~\T0T/もー無理だー・・・書けないぃぃぃ!!!」

      iさん「(ちっ、またかよ!)ギリギリまで頑張れ~!待つよ*^-^*(書けないんだったら早くブログ閉鎖しろよ!)」

      sさん「うう・・・ありがとう*T0T*頑張ります!」

      iさん「うん(あーあ、頑張んなくていいのにさ)」


      今日もこんな感じです。



      また脱線してスミマセン。

      夜天 補足;恋願 の悪人ver.の時でも、大和は根っこはイイ人(小心者?)と思って書いていたのです。

      にほんブログ村恋愛小説(純愛)注目記事ランキング一位ありがとうございます。

      夜の天気雨最終話を書きました。

      でも、その前の話が書けていない…(T▽T)


      どうしよう。

      どうすんだよ・・・(;´Д`)
      プロフィール

      碧井 漪

      Author:碧井 漪
      絵師 西洋蔦(ib)さんと共に更新中


      作品の著作権は
      sazanami&ibにあります。
      無断転載は禁止しています。



      ☆総合目次☆

      *乙女ですって 相関図*

      *近男 登場人物紹介*

      *SとS 家系図*

      *恋愛小説 官能小説 作品一覧
      +覚書 2017.2*

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      2014.10.16設置



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