夜の天気雨 30 - sazanamiの物語
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    夜の天気雨 30

    日曜の朝。


    挨拶って、どんな事を言えば?


    少し照れくさい。


    「はーい。あら、たんぽぽちゃん?どうしたの?」


    ボロ屋の隣、家主だったいうおばあさんの家に挨拶に来た。


    昨日用意したという菓子折りを持ってたんぽぽと。


    年始の挨拶もしていなかった上に結婚の報告をしたいと言うので、俺も一緒に出向く事になった。

    「おはようございます。おばあちゃん。お正月のご挨拶にお伺い出来なくてごめんなさい。突然なのですが、私、先週結婚しました。」


    「結婚?たんぽぽちゃんが?あらあら、まぁ・・・もしかして、そちらがお相手の方かしら?」白髪を後ろでだんごに纏めて、丸めがねをかけた小さなおばあさん。


    「初めまして。高橋大和と申します。いつもたんぽぽがお世話になっています。今後ともよろしくお願いいたします。」う・・・ちょっとカタイか?


    苦手なんだよ、こういうの。




    しかし・・・

    「お茶をどうぞ。お菓子も召し上がって。」「ありがとうございます。」


    すぐ帰れるかと思っていたのに、まさか家の中に上がらされ、お茶まで出されるなんて考えてなかった。


    「おばあちゃん、これおばあちゃんの好きなどら焼きです。」


    「まぁ、ありがとう。後でいただきますね。それで、結婚して、これからは二人であの家に住むのかしら?」


    「あ、はい・・・それは」ちらと俺を見るたんぽぽ。


    「・・・・・・」うーん、何て答えたら。


    「まだ、決めていなくて。」


    「そう。」


    トントントン、と階段を下りて来る誰かの足音が聞こえた。


    「おばあちゃん。」襖の向こうから聞こえる声。


    「はい。」とおばあさんが返事をすると、すらっと襖が開かれた。


    「あ、ごめん。お客さん?」


    「敏男、たんぽぽちゃん、結婚したんだって。」


    「え?」


    一度襖を閉めようと視線を落としていた"トシオ"と呼ばれた男。


    多分おばあさんの孫で、この前たんぽぽの家で会った男が、たんぽぽと俺の方に視線を向けた。


    「この間は、すみませんでした。」とお辞儀をしながら言うたんぽぽ。


    ケーキの事を言っているのか?


    「いえ、こちらこそ。ご結婚おめでとうございます。」トシオは、動揺しているようにも見える。


    俺がじっと見据えていると、おどおどとしたような態度で軽く頭を下げ、「じゃあ・・・おばあちゃん。」と言うと、襖を閉めて再び二階に上がってしまったようだ。遠ざかる足音が聞こえた。


    「あの子もね、あと数年で40になるって言うのに、まだお嫁さんを貰えなくてね。私の生きている内にはひ孫は望めないかもねぇ。たんぽぽちゃんのようなお嫁さんが来てくれたらいいのにねって、家族で話してたのよ?」


    何?


    という事は、あの男はたんぽぽの事をそういう目で見ていたのか?


    冗談じゃない。帰るぞ。


    「たんぽぽ、そろそろ。」と俺が促すと「はい。それでは、おばあちゃん。私達は失礼します。」たんぽぽは俺と一緒に立ち上がり、お辞儀した。


    「そう?急いでいるのね。もう少しお話聞きたかったわ。」


    「はい。では、また今度ゆっくり。お邪魔しました。」


    「また来てね。おしあわせに。」


    俺はたんぽぽの手を引き、急いで戻る。


    玄関の引き戸を閉めると、鍵を掛けた。


    「どうしたんですか?」


    「どうしたもこうしたも、お前、嫁候補になってたの知らなかっただろ?」


    「嫁候補?」


    「さっきの、あの家のだよ。」


    「ええっ?」


    「お前、あのトシオとかいう男に狙われていたって事だよ。」


    「そんな、まさか。」


    「そんな事にも気付かないで、この前なんか簡単に家に上げたりして。本当に危機感のない・・・」


    「だって、そんな風には見えませんでしたし。」


    「やっぱ、この家に住むのは危険かもしれない。」


    「何を言っているんですか。私はもう結婚したんですから、安全です。」


    「はぁ・・・お前のそういう所が心配。」


    「大和、もしかして、やきもちですか?」


    「ばーか。」


    「あ、そうですよね。違いますよね。失礼しました。」


    「そうだよ。とにかく男は絶対家に入れるなよ?」


    私の肩を掴んで引き寄せる大和の唇が「はい」と返事をしようとしていた私の口を上から塞ぐ。


    あ・・・キス。目を閉じた。


    少し乱暴に動かされる大和の舌が、私の舌とぶつかり合う。


    怒っているの?そっと目を開いてみると、笑ってる大和の顔。もう!からかってるの?


    「大和。」


    「分かったか、俺以外の男と二人きりになるのも禁止。」


    「・・・はい。」くす、と笑ってしまうと

    「それって悲しいの?」きょとんとした顔の大和に訊かれた。


    「いえ、大和が面白いなって。」


    「面白いだとう?この、こうしてやる。」


    「きゃあ!や・・・やめて下さい、くすぐったいです。やま、大和!あ、あはっ!」


    「俺は嫉妬深いからな。覚えとけ。」


    「はい。」ぎゅうと、私はまるでお人形さんになってしまったかのように抱きしめられた。


    大和って、実はこんな人だったの?私は大和の事を、初めてかわいいと思ってしまった。










    助手席に座ったたんぽぽは、緊張した面持ちで、

    「私、変ではないでしょうか?」と何度も俺に訊く。


    「そんなに緊張しなくても。」


    「でも、嫁としてちゃんと・・・」


    『嫁』


    その言葉に、俺も、多分言った当のたんぽぽも照れた。


    「大丈夫。ウチの親はいいけどさ、問題はたんぽぽの・・・」


    右折待ちで、つい余計な事を口走った。


    「私の方は大丈夫です。自分から勝手に家を出たのですから。」少し早口で、その話には触れたくないといった感じを窺わせるたんぽぽ。


    「そうは行かない。ま、その話はまた・・・」


    「はい。」


    無表情になって黙り込むたんぽぽ。


    青信号、グッとアクセルを踏み込む。


    「あ・・・」


    「何?」


    「お菓子とか、何も用意してません。」


    「別に土産なんて要らないよ。」


    「でも・・・」


    「結婚したって話をしたら、土産どころじゃなくなるさ。」


    案の定、「俺、たんぽぽと結婚した。先週、役所に婚姻届出したから。」

    事後報告を受けた俺の両親は、リビングで立ったまま、ぽっかりと口を開けて絶句していた。


    「俺に見合いさせたんだから、結婚したって文句ないだろ?」


    「え、ええ、それは、そうだけれど。」


    「だけど、それは先方が許したらって話で。」確かにな。


    「申し訳ありません、私のせいで、大和さんとお義父さん、お義母さんにもご迷惑をお掛けする事になってしまいました。」


    いきなり床の上に土下座したたんぽぽ。


    「たんぽぽ、何してる。」俺は慌ててたんぽぽを立たせた。


    「たんぽぽさんのせいでは・・・私達は二人で決めた事なら反対はしませんが、ただ、春野さんはお許しになっていないのでは?」


    「・・・・・・」


    「俺が悪いんだ。その話はいずれ。たんぽぽ、隣に行こう。」


    「あ、大和・・・」と言う父を振り返り「俺だけ戻るから。」と告げて、隣の姉の家にたんぽぽを連れて行った。


    「姉さん、お邪魔。」


    「大和。あ・・・あなたは、確か、春野さん?」少し眠そうな顔。寝てたのかもしれない。


    「初めまして、春、ではなく高橋たんぽぽです。」


    「え・・・?高橋って・・・」


    「あ・・・」しまったと手で口を押さえたたんぽぽは俺の顔を見た。


    「俺達、先週、籍入れたんだ。」


    「ええっ?」皐月はリビングのドアを開けたまま、振り返って驚いた顔を見せた。


    「すみません。」姉の驚いた声に縮こまるたんぽぽ。


    「みんなに黙って届け出したから、姉さんだけじゃなく、お父さん達にもさっき知らせたばかりだよ。義兄さんは知ってたけど、俺が黙っててと頼んだから責めないでくれよ?」


    「みんなにって、まさか、たんぽぽさんのご両親にもご挨拶にお伺いして、ない、とか?」


    「うん。」ま、普通、結納とかするからな。会社に乗り込んで来た事は、たんぽぽの前では話せない。


    「結婚式は?」


    「してない。」


    「しないの?」


    「うーん・・・考えてなかったからな。」とたんぽぽと顔を見合わせる。


    「たんぽぽさん、そうまでして、この弟のどこが良いのかしら?」


    「姉さん、言い過ぎ。」


    「そうだけど、式も挙げられないなんて、大和、酷いわよ!」


    「あの、お姉さん・・・私は、大和さんと結婚させていただけただけでしあわせです。本当に。」


    照れるんですけど。


    そんな自信持って『しあわせです』なんて言われると、確かに、式も挙げてやれずに申し訳なくなる。


    「良かったわね、大和。たんぽぽさん、駄目な弟ですけれど、どうかよろしくお願いします。」お腹が少し目立ってきた姉は、絨毯の上に正座して、手をついて深くないお辞儀をした。


    「こちらこそ、未熟者ですが、よろしくお願いいたします。」たんぽぽも正座して手をついて深々と頭を下げた。


    たんぽぽは姉さんと、俺より上手くやって行けそうだと、少しホッとした。


    夜の天気雨30

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    ※2017.3.4 改稿




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      No title

      初々しくて可愛いですv
      そうですよね、結婚した後に、ご挨拶周りもあるんですよね。
      結婚前後って、やらないといけないことがいっぱいで、
      想像するだけで目が回っちゃいそうです!

      あと、気が付くとお嫁さん候補にされていることって、
      よくありますよね~!
      くるみはお年寄り好きなので、おばあちゃんの登場にほっこりなごんでしまいましたv

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      くるみさん、ご訪問&コメントありがとうございましたm*^▽^*m

      お返事が遅くなりました。ごめんなさい。

      おばあちゃんが出てくる作品は「もっと、すきに、させて」で要さんというおばあちゃんが出てきます。

      こんなかっこいいおばあちゃんがいたらいいなぁと思って書きました。

      今度はダンディーなおじいちゃん、チョイ悪なおじいちゃんも書いてみたいなと思いました。

      くるみさんは実際にご準備されるそうなので、大変そうですが、将来、それも良い思い出になると思いますよ~*^▽^*

      コメントありがとうございますm*^▽^*m

      ハッピーに(今のところ^^;)進んでいますね。


      結ばれる、のかな?どうかな?と、この後、ご期待に副えるかわかりませんが、甘目で行ってみてもよろしければ、引き続き応援して下さると、張り切り過ぎて甘くなってしまうと思います[^▽^;]


      いつもコメントありがとうございます。
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      碧井 漪

      Author:碧井 漪
      絵師 西洋蔦(ib)さんと共に更新中


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      sazanami&ibにあります。
      無断転載は禁止しています。



      ☆総合目次☆

      *乙女ですって 相関図*

      *近男 登場人物紹介*

      *SとS 家系図*

      *恋愛小説 官能小説 作品一覧
      +覚書 2017.2*

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      2014.10.16設置



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