縺曖 684
Posted by 碧井 漪 on
そんな皇の姿を見せられて、伸長の中に湧き上がったのは、胸の奥を甘く締め付けられるような、暖かく、やわらかく、心地よくて、もっと欲しいと中毒になりそうな危うさも秘めた蜜を味わった時のような、一言では表せない感覚。
でも、心の中では、彼を想う度、”しあわせ”だと思う。
この世界では、”正しくない恋”だけど、僕にとって”大切な気持ち”である事は変わらない。
いつか、生まれ変わった先で、彼に出逢って、彼を好きだと言える日を迎えられたらなんて考えたりもしたけれど、でも、生まれ変わったら僕は僕でなくなって、彼も彼でなくなる。
そんな”恋”に興味はない。僕が”好き”なのは”彼”だから。
他の何者でもない。どちらかが異性だったら”楽”だったろう。
でも、”楽”だから”好き”になった訳では無い。
もしそうなら、僕は青維ちゃんに恋しただろう。異性で、僕を「好き」だと言ってくれる彼女に。
伸長は夕空を見上げた。
深呼吸しても、まだ胸は苦しい。切ない。
────彼を好きだから、切なくなる。だとしたら、このままでいい。手離したくはない。
伸長が思った時、あっ、と気付いた。朝臣もそうなのだろうと。
事情があって、賢一と別れたが、遣り切れないから苦しい。
でもその苦しさは、手離すべきではないものだと、伸長は朝臣に伝えたくなった。
- 関連記事