そうそうない 243 2016年4月2日のこと(2) - sazanamiの物語
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    そうそうない 243 2016年4月2日のこと(2)

    「元、あの、もういいから、そろそろ寝よう?」

    その言葉、そういう意味ではない事は分かって居るけれど、履き違えられるものなら履き違えてしまってもいいなんて思う。

    もぞもぞ、僕の腕の中で暴れる美和に、

    「美和のせいで眠れない。責任取って僕が眠るまで傍に居てよ。」なんて、情けない言葉で甘えると、美和はぴたりとおとなしくなって僕を見上げた。

    「うん、いいよ。」と、それはもうすっかり先生の顔で僕に笑い掛けた。

    あれ?僕は言い方を間違えたかな。わーさんの時のようには行かないなと思った。

    だけど────「早く寝よう。」と、美和は僕を布団へ促した。

    バサッ、僕らは一枚の布団に一緒に潜り込んだ・・・がしかし、美和は僕の背中をトントンと、まるで母親の如く、僕を寝かし付ける体勢のまま─────僕は、いつキスすれば良いのか分からなくなってしまった。

    トン、トン、トン・・・全身が温まり、ゆっくり刻まれるリズムにふわぁと欠伸が出てしまう。

    いつも一人で寒々感じて居た布団が、今夜は温かく、とても贅沢な気がした。

    明日帰ってしまう美和。もう一泊するのだろうけれど、明日もこんな風に眠れるとは限らない。

    寂しいな・・・実はこんなにも寂しがりだったんだって事、思い出してしまったよ。

    美和は知らないでしょう?一人だと諦めるしかない寂しさも、二人だと諦められなくなってしまうんだって事。

    片想いと両想いの違いかな。だったら、僕は美和に片想いして居ると思えば、これ以上美和を求めて負担を掛ける事が無くなるかな。

    ふわぁ・・・こっそり欠伸をした僕の瞼は、どんどん重くなって行った。

    『元、大好きだよ』

    そう言って、僕の頬にくちづける美和の夢を見たような見ないような─────

    気付くと朝だった。温かい布団の中には僕一人。

    美和は?

    まさか帰ったとか────

    隣の部屋を覗くと、布団が畳まれていた。美和の荷物らしいものは無い。

    まだ午前六時前。急いで階段を下りた。

    ドダダダダ・・・っと、危ない。最後、踏み外して滑り落ちそうになった。

    ふう、と息を吐いてキッチンの戸を開けると────「あら、早いじゃない。」エプロン姿の母が朝食の支度をして居た。

    美和は・・・居ない。

    まさかと思う事が現実になるというのは、今まで何度も経験して来た。

    僕に黙ってやって来て、僕に黙って帰ってしまったんだな。がくりと肩を落とす。

    美和は僕を『好き』だと言ったけれど、この程度だったの?

    これじゃあ、僕ばかり『好き』で不公平だ。

    だけど"恋愛"に"公平"と"不公平"を絡めたら、たちまち壊れてしまうという事を僕は知って居る筈だろう?

    胸の奥がスッと冷たくなって、美和と僕の気持ちの間に温度差を感じた。

    僕が美和を想うより、美和は僕を想って居ない。僕が一人で勝手に舞い上がって居ただけなんだ。

    そうだよな、20歳も齢が違うんだから、そもそも同じ気持ちで"恋愛"出来る訳が無かったんだ。

    ああ、心が冷たくなる。ひやりと手も冷たく・・・えっ?

    びっくりして振り向く。そこには美和が立って居た。

    「えへへ、冷たい?おはよ、元。」

    「え?何で、美和・・・」帰ったんじゃなかったの?

    「新聞取って来たよ。読む?」

    「えっと、新聞?」僕がまごついて居ると、

    「元啓、着替えて来なさい。」母にピシャリと言われ、

    「そうだね。着替えて来て。」と美和も僕と一緒に肩を竦めてくれた。

    ああ、もう!

    一度可愛いと思ったら何度でも可愛く思えてしまう。これは完全に病気だな。恋の病。

    「着替えて来る。」

    「うん。」

    階段を上りながら、ホッとして居る自分に気付いた。

    美和は僕が考えるより僕を想って居てくれて居るかもしれない・・・良かった。

    甘くて苦くて酸っぱくて、時々しょっぱくて、忘れた頃にまた甘さがやって来て、病みつきになってしまう恋の味。

    甘いだけじゃないそれを繰り返し求めてしまうのは、人の本能なのか何なのか。

    これ以上、恋の深みに僕だけが嵌ってしまうのが怖い。

    美和と一緒に落ちて行くなら構わない。だけどそんなの分からない。僕だけ周りが見えなくなってしまって居るのかもしれない。

    これが一人の恋なのか二人の恋なのか、明確に出来る術を知らなくて、相談出来る相手も─────あっ!志歩理ならどうだろう?

    僕に、美和を"好き"だという事を自覚させたのは、志歩理が『美和ちゃんの事、好きでしょう?』と訊いたからだ。

    その時僕が『好きだよ』と答えた事を思い出して、急に恥ずかしくなった。

    だけど今、この気持ちを打ち明けて相談出来る相手は志歩理以外に居ない。

    この齢になって親友に恋愛相談というのもおかしな話だが、だけど、ゲイだった僕が女性を好きになるのは初めての事で、これをどうしたらいいのか訊くのは、同じ女性である志歩理が適任のような気もして来た。

    後でこっそり、電話してみようかな。

    着替えた僕はダイニングへ向かった。



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    Author:碧井 漪
    絵師 西洋蔦(ib)さんと共に更新中


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    ☆総合目次☆

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    *近男 登場人物紹介*

    *SとS 家系図*

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