風邪みたいに移して 45 - sazanamiの物語
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    風邪みたいに移して 45


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    泣いたから、頬が熱い。


    多分、物凄く酷い顔だって判ってたから、このまま家に帰れなかった。


    メイク出来たらいいけど、それは無理そう。せめて、どこかで洗って・・・


    仕事着のまま、コートも着ていない。さすがにエプロンは外して手に持ったけど。


    今、近所の路上を当てもなく歩いている。


    持っているのはスマホだけ。


    寒いから走ろう。


    最近運動不足だったしね。丁度いいわ。

    タッタッタッ・・・


    あ、あれ、店の車が前方から走って来る。


    ブオオォ・・・一瞬で擦れ違った。


    吉夜、ちゃんと車取って来てくれたんだ。良かった。


    私がここに居る事に気付かれたかな?ううん、暗いから気付かれなかったよね?


    ど・こ・へ・い・こ・う・か・な?


    人も車も通らない住宅地の路側帯の白線の上を、大きく開いた片足で交互にジャンプしてみたりする。


    チャリン、チャリン。


    あれっ?小銭の音がする。


    そうだ!と思い出した公子は、畳んで紐をグルグル巻いたエプロンを開いて、ポケットから一円玉と五円玉を取り出した。


    今日、お店の掃除をしてて、カウンターの下の隙間と植え込みの土の中から見つけたんだ。


    うーん、これの使い道ってやっぱり・・・


    神社よね。


    公子は、お正月には毎年初詣に行く近所の神社に来た。


    夜の神社。灯かりは一か所、木の柱で出来ている外灯が立っていて、境内をぼんやり照らしていた。


    大晦日の夜は、ここにキャンプファイヤーみたいに火を焚いたりして明るいしあったかかったけど・・・今夜は誰も居ないし、寒い。


    今はその方がいいけど。


    誰にもこんな顔、見られたくない。


    初恋に破れ、仕事を失い、家だって出ないと気まずい25歳の女の顔。


    出来る事なら、20年前に戻りたい。てっちゃんと出逢う前。


    そうしたら、てっちゃんの事を絶対、好きにならないようにするんだ。


    その恋は報われないよ、だから好きになっちゃダメな人だよって、ブレーキを掛けておく。


    ドキドキもメソメソもない人生。


    恋をしなくても、それなりに生きて、今日という日を迎えて・・・たら、どうなっていたんだろう。


    私の世界に”恋”という文字はなく、”好きな人”も存在しない。


    苦しかったり、悲しかったり、切なかったり、とにかくそういう風にはならない人生だっただろう。


    ドキドキしたり、きゅんとしたり、しあわせだと思ったりもしなかっただろう。


    “恋”って、辛いばっかりじゃなかった。


    失恋して辛いと思うのは、失恋するまでしあわせ過ぎたからだろう。


    何だってそう。


    一目惚れして手に入れたマグカップを、うっかり壊して、捨てるしかなくなって、


    ああ、もうこのカップであたたかいカフェオレを飲めないんだなって・・・


    でも、しばらくしたら、新しいカップに惚れ込んで、壊れたカップの事なんて思い出さない。


    恋とカップは違うけど、きっとそんな感じだよ。大差ない。


    今日は辛いけど、明日もきっと辛いけど、明後日も、その次も・・・だろうけど、


    いつか、いつの日か、忘れるんだよ。てっちゃんの事。


    こんなに好きだったけど、もう思い出せないって位に、いつかなっちゃうんだから。


    手と顔を洗って、と・・・ひーっ、冷たい水。目が覚める!ううう、ザバザバザバッ。ふぅ、スッキリ。


    さあて、お参りしよう。


    お願い事はいっぱいある。


    仕事が見つかりますように、住む所が見つかりますように、てっちゃんの事を忘れられますように、

    それから、それから、一番の願い事は・・・


    公子は参道脇のベンチに腰を下ろすと、靴を脱ぎ、靴下を脱いだ。


    土の地面に足の裏を着けると、ひやりと固い。


    ゴーン!


    ひゃっ!


    突然、後ろの木立の中にある鐘衝き堂から音が響いて来た。


    誰か居たんだ、びっくりした。もう、こんな時間に鐘を撞かないでよね!


    公子が、ふーっと息を吐いた時、今度はピリリリリ!電話の着信音が響いた。


    ズボンの尻ポケットからスマートフォンを取り出した公子は、画面表示を見て固まった。


    【着信 てっちゃん】


    着信音が止むと、公子はベンチの上の畳んだエプロンの中に、スマートフォンを挿し込もうとした。


    すると再び電話がかかって来た。今度は吉夜から。


    ゴーン!ゴオオオン!


    人が静かにお参りしようとしているのに、電話も、鐘も、うるさいって言うの!


    よく考えたら、てっちゃんから電話がかかって来る訳がない。


    てっちゃんの電話からかけたのは、てっちゃんのコートを着てった吉夜だと思う。


    もう、何なのよ!


    公子は【着信 吉夜】の電話も無視した。


    着信音が鳴りやむと、

    うるさいから音切っておこう、

    と、公子が操作中に今度はメールが届いた。

    吉夜からだった。


    【告白するって言ってたくせに、怖気づいて逃げたか】


    はぁーっ?!私が告白してないって?


    したわよ、それで見事に砕け散ったわよ!


    溪ちゃんに告白しなかったアンタよりマシなんだから!


    結果は無残だけど。



    【てっちゃんに振られた。これで文句ないでしょ!】



    ふーっ、これでよし。


    今度こそ・・・


    スマホをエプロンの間に挟もうとした時、

    ゴーン!

    再び鐘が鳴り響いた。


    ひゃっ!もう、心臓に悪い!


    そうこうしている内に、

    ブーッブーッブーッ、

    吉夜からメールが届いた。


    またメール?何なの!


    【今すぐ電話かけて来ないと、お前が腐女子だって事、哲にバラしてやる】


    うええーっ?!


    とんでもない事を!




    『公子のヤツ、俺達でBL妄想してたらしいぜ。腐ってるよなぁ』


    『へー、そうだったんだ。きみちゃんが僕と吉夜の事をそんな風に見てたなんて全然知らなかった』




    嫌よ、そんなの。このまま静かに去りたいのに、てっちゃんに余計な事言ったら承知しないから!


    公子は慌てて吉夜に電話をかけた。


    「吉夜!あんた余計な事言ったら許さないから!」


    『公子、今どこに居る?』


    ゴゴーン!


    人の声を聴くと、寂しい今はホッとして、吉夜であろうと涙・・・そして鼻水が出て来た。


    「どこだっていいでしょ!ぐすっ!じゃあね!」


    プツッ。


    はあ、はあ、はあ・・・もう最低!


    こうなったら早くお参りして、気持ちを静めよう。


    えーと、こういうのって百回すれば叶うとかって聞いた事があるわね。


    百回かぁ・・・その頃には体もあったかくなってるかな?


    ううう、寒い。集中しよう。止まると、つま先が凍り付いて動かなくなりそう。ブルブル


    パンパン、神様どうか・・・・・・


    公子が裸足でお参りを始めて三十回を超えた頃、

    「きみちゃん!」哲の声が、誰も居ない境内に響き渡った。


    幻聴かと思いながらも、振り向いた公子は、「・・・!」近付いて来る哲に気が付いた。


    ど、どうして てっちゃんがここに?


    眼鏡を外しているその顔は、昔と同じ・・・緊張して、話なんて出来ないよ。


    よし、気付かない振りしてお参りしよう。


    公子は何事もなかったかのように、哲を無視してお参りを続けた。


    哲は公子に近付き、腕を掴んで、向き合わせた。


    そして、「さっきはごめんなさい。」と哲が頭を下げて謝った。


    どきどきどき・・・


    『ごめんなさい』かぁ。


    “同情”のキスして、ごめんなさいって、謝りにわざわざここまで来なくてもいいのに。


    もういいよ。やさしくしないで。悲しくなるから。


    早く百回祈って帰ろう、と公子は中断したお参りを再開した。


    賽銭箱の前でくるりと向きを変えた時、公子の前に哲が立ちはだかった。


    「こんな夜に何のお願い事?」と訊かれた。


    言ったら帰ってくれる?それなら言うよ。てっちゃん、私の願いにドン引きして帰って。


    てっちゃんの顔を見られないまま、私は

    「てっちゃんが毎日、笑って過ごせますように・・・って。」言った。


    私が居なくなったら、

    今まで私が毎日見ていたてっちゃんの笑顔は、別の誰かに向けられて、

    別の誰かはしあわせな気持ちを味わうんだろう。


    それでいい。


    てっちゃんが笑って居てくれたら、

    てっちゃんも、別の誰かもしあわせになれるから。


    私はてっちゃんが笑っていてくれるなら、世界のどこで暮らしてもしあわせだろうって気付いたから。


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    碧井 漪

    Author:碧井 漪
    絵師 西洋蔦(ib)さんと共に更新中


    作品の著作権は
    sazanami&ibにあります。
    無断転載は禁止しています。



    ☆総合目次☆

    *乙女ですって 相関図*

    *近男 登場人物紹介*

    *SとS 家系図*

    *恋愛小説 官能小説 作品一覧
    +覚書 2017.2*

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    2014.10.16設置



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